パナソニック、ほぼゼロから3カ月でBtoBマーケ体制を構築――「Vieureka」チームのMAツール活用法
エッジコンピューティングのプラットフォームサービス「Vieureka(ビューレカ)」が、パナソニックの新規事業プロジェクトとして立ち上がってから4年目──Vieureka営業チームは、顧客リストを各営業担当がエクセルで管理し、サービスやセミナーの案内メールは手作業で送付するという昔ながらの属人的な営業方法に限界を感じていた。
そこで、体系化・可視化されたリード獲得や顧客情報管理、Webを活用して自分たちのやりたいことを直接顧客に伝えたいという思いから、MAツール「SATORI」を導入、そこからわずか3カ月でデジタルマーケティング基盤の構築・活用にこぎつけた。
「SATORI」導入の経緯や具体的な活用法を、同社の運用担当者に詳しく聞いてみた。
2017年にスタートしたパナソニックの新規事業
――まずは、「Vieureka(ビューレカ)」についてお聞かせください。
久保田 航平氏(以下、久保田) Vieureka(ビューレカ)は、IoTやAI、エッジコンピューティング(※)技術を活用し、「画像解析」「分散処理」「個別管理」を実現するためのプラットフォームです。
具体的には、当社が「Vieurekaカメラ」というIoTハードウェアと、クラウド側でのカメラ制御および取得画像データの管理を提供し、SIerなどのパートナー企業が画像認識解析を行って、各種アプリサービスのアウトプットとして顧客に提供するという流れになっています。
これまでで、約5000台の「Vieurekaカメラ」を出荷し、それぞれに応じたサービスを提供してきました。近年は介護施設や野外イベントの見守り、工場のライン監視など活用目的が多様化しつつあります。
(※)エッジコンピューティング:ユーザーや端末側で発生する膨大なデータを、一度中央のサーバーやクラウドに集約してデータ処理するのではなく、ユーザーや端末のすぐ近くに設置されたサーバーでデータ分析・処理を行う分散コンピューティング手法。
長野 友哉氏(以下、長野) Vieurekaは基本的にパートナーを通じての提供・販売をするサービスです。ただ、エンドユーザーの声を直接得ることを目的に、スーパーやドラッグストアなどの小売店舗向けのサービスのみ、「Vieureka来客分析サービス」として当社から直接提供しています。
「Vieureka来客分析サービス」は、来店客の人数や性別、年齢、滞留時間といった属性情報、そして商品棚の陳列状況の変化をグラフィカルに確認できるソリューションです。
POSデータだけでは把握できなかった、来店客の行動や購買に至るまでの動線、商品棚の変化などを定量化し、ダッシュボードでヒートマップやモニタリング映像として可視化することで、来店者に合わせた店作りとして、店舗内の動線調整や商品の陳列方法の工夫などに活かすことができます。
従来、こうした画像分析サービスは、ネットワークカメラとともに処理用のPCやLANケーブルなど大掛かりな設備が必要でした。しかし、「Vieureka来客分析サービス」は、エッジコンピューティングによりカメラ側で処理したデータをクラウドに飛ばす形ですので、Vieurekaカメラの設置場所と電源・ネットワークさえあればすぐに設置できます。手軽にサービスが導入でき、コストも大幅に圧縮できます。
――パナソニックの新規事業なのですね。
久保田 はい、パナソニックのコーポレート戦略・技術部門 事業開発室は、5つの新規事業プロジェクトを推進しており、Vieurekaはその1つとして2017年から展開しています。1つのプロジェクトに様々な職能を持つメンバーが集結して、研究・サービス開発、運用保守、営業などに取り組んできましたが、実はマーケティング部分についてはほとんど手つかずの状態でした。
サービスの優位性や価値を顧客に伝えるチャネルや施策を展開
――「SATORI」導入前はどのような営業活動およびマーケティングをされていたのでしょうか。
藤田 隆久氏(以下、藤田)プロジェクトがスタートして3年間は、パナソニック内のtoB向けの販売会社から上がってくる案件に対応することがほとんどでした。当初はそれでよかったのですが、そこから事業を拡大していくには自分たちで新規顧客を開拓する必要があると考えました。自分たちのサービスの優位性や価値を、直接顧客に伝えるチャネルや施策を展開するべきだと思ったのです。
ちょうどその頃から、コロナ禍の影響でリアルの営業活動がしづらくなったこともあり、2020年4月頃からWebサイトに導入事例などのコンテンツを増やしたり、リアルセミナーの代わりにウェビナーを行ったり、プレスリリースや広告を配信するなど、少しずつオンラインでのマーケティング施策を充実させるようになっていきました。
それらの施策によりWebサイトのアクセスが増え、専任のメンバーが必要になりました。そこで2020年11月に、長野がマーケティング責任者に着任することになったのです。
属人的な営業手法に限界が来ていた
長野 私が着任したのは、Webサイトのアクセス数が増えはじめ、問い合わせやウェビナーなどにより獲得したリードが溜まりつつあったタイミングでした。しかし、リードへのアプローチやナーチャリング、クロージングなど、営業担当個人の力に依存しておりました。事業が成長していくなかで、そうした営業手法に限界が来ており、なんとかしなければならないという危機感もありました。
藤田 たとえば、メルマガの送信ひとつとっても、メールを送る人が、顧客リストから今回の送付リストをExcelで作成して、メールを送っていました。手間がかかる上に、ミスや誤配信の恐れもあり、どうしても送信をためらう気持ちが生まれていました。
藤田 以前はそういった手作業もリード数が少ないからできていたんです。リードが増えたことで、マーケティングの業務も煩雑化していましたし、そのためのインフラが必要なのは明白でした。もちろん、効率化に向けてMAツールを導入しようという声もあり、検討も進められていたのですが、小規模な組織で使用するには、高額で複雑なものが多く、なかなか要件に合う物が見つからずにいたのです。
- 新規リードの獲得
- ナーチャリング
- 顧客リストの属人管理の解消
匿名ナーチャリング機能が導入の決め手に
――そんな時に「SATORI」に出会ったわけですね。選定にあたり一番の決め手はどこだったのですか。
長野 ツール選定にあたって、まずは価格や導入のしやすさを考慮し、いくつかの国産MAツールに絞り込みました。そこから最終的に「SATORI」に決めたのは、匿名の来訪者を顕在化してナーチャリングできる「匿名ナーチャリング」の機能を持っていたことです。すでに情報を得ている実名顧客のナーチャリングだけでなく、新規リード獲得が目的のひとつだったため、Webを訪れただけの匿名顧客の段階からコミュニケーションを取り、ナーチャリングできる機能は、検討していた他の国産ツールにはない大きな魅力でした。
また、我々が必要と考える機能を網羅していながら、MAツールとしてシンプルな作りで、インターフェースが複雑すぎない。効率的にマーケティングが行えるとイメージできたことが大きな選定ポイントとなりました。2021年2月に導入を決定し、5月には申請を完了、6月に導入に取りかかり、8月には顧客データを投入して運用をはじめています。
MAツールの具体的な活用シーン3つ
――具体的にどのように「SATORI」を活用しているのか教えてください。
① 顧客情報のデータベース化
藤田 大きく分けて3つの活用シーンがあります。まずは、顧客情報のデータベース化です。属人管理からの脱却のため、さまざまな導線から獲得した顧客情報をすべて「SATORI」のカスタマーデータベースに自動連携されるようにしました。
- お問い合わせフォーム
- セミナー申し込みフォーム
- 資料ダウンロードフォーム
たとえば、サービスサイトのお問い合わせフォームに、「問い合わせ」のタグ(※1)を入れることで、自動でデータベースに情報が蓄積されるようになりました。セミナー申し込みならセミナー参加タグがつきますし、資料ダウンロードなら資料ダウンロードタグがつきます。あわせて、Webサイト上のどんなコンテンツを閲覧したのかも自動的にデータベースに蓄積されていきます。
(※1)タグ:資料ダウンロードやセミナー参加などの行動を行ったという目印のようなもの
これにより、これまではすべて手作業で行っていた顧客管理が格段に楽になりました。たとえば、これまでセミナーの開催時には「誰に案内を送るか、誰を除くか」というリストづくりに手間がかかっていましたが、「SATORI」なら「まだこの内容のセミナーに出席したことのない人」などをクリックで簡単に識別でき、案内メールの送信まで「SATORI」上で行えます。
② ポップアップによる誘導
藤田 2つ目がポップアップによる誘導です。導入事例などを閲覧しているユーザーにポップアップが出て、資料ダウンロードやセミナー開催などを案内するという流れです。
ページごとにポップアップの出し分けも行っています。たとえば、「Vieurekaプラットフォーム」のページはSIerやインテグレーターの方々が閲覧しているという仮説から、Vieurekaカメラのスターターキットの紹介ページへの案内を出しますし、「Vieureka来客分析サービス」のページであれば、小売店が閲覧していると考えてサービスの資料ダウンロードページを案内します。
③ メルマガによるナーチャリング
長野 集めた顧客データは、メールマガジンによってナーチャリングしています。送信内容は、Webサイトのコンテンツ更新やウェビナー開催のお知らせなどです。「SATORI」を利用したメルマガ配信は2021月9月からはじめたばかりなので、まだ多くは配信していないのですが、時間帯や内容ごとの開封率などを分析し、A/Bテストを実施してチューニングも行っています。
1回目のメルマガの開封率は20%程度だったのですが、2回目で個人に向けた私信のような文面に変えてみたら開封率が30%まで改善されました。“読まれるための工夫”は地道にやるしかないと聞いていたのですが、改善直後から反応があり、3回目も同じ形式で30%台をキープすることができました。
ポップアップで資料ダウンロードが4倍に
――導入からまだ3カ月も経っていませんが、マーケティングにおいて何か目に見える成果はありましたか。
長野 想像以上にすぐに効果が現れたのは、ポップアップによる資料のダウンロードでした。以前は月5件ほどだったのが、ポップアップで資料ダウンロードを促すようになってからはほぼ毎日ダウンロードがあり、月20件程度はダウンロードされるようになっています。
また、自社開催のウェビナーの告知について、最初はメルマガとWebサイトのバナーで集客をしていましたが、それに加えてポップアップでの集客も行ったところ、顧客リストになかった新規リードの申し込みが増えた結果、参加者の申し込みも1.5倍に増えました。さらに、ウェビナーからの商談化数も前回1件だったものが5件まで増えました。通常、ウェビナーでの商談化は難しいので、かなり驚きましたね。直接的な商談につながったものもあり、手応えを感じています。
藤田 ポップアップ画像は当チームの社員の写真を使ったのですが、「有名な人でないと効果がないよ」と社内からは不評でした。でも、想像以上の効果があり、「やってみる」ことの重要さを感じました。そうしたことも、手軽に試せる「SATORI」を導入したメリットだと思います。
プロジェクトメンバーもスムーズに受け入れた
――皆さんは積極的にMAの活用に取り組まれていますが、他のプロジェクトメンバーの反応はどうだったのでしょう。
久保田 ここで「当初は反発があった……」というとドラマチックかもしれませんが、実際は、誰もが納得して使っていると感じています。というのも、実は導入前に書籍の『The Model(ザ・モデル)』(※2)をメンバー全員が読むという取り組みを実施していたのです。それで、マーケティングがどのような意味を持つのか、そのために営業部門はどうふるまうべきなのかを理解していたのだと思います。
藤田 多少の温度差はあるかもしれませんが、頻度はまちまちでもほぼ全員が活用していますし、特に大きなトラブルもありません。「SATORI」のインターフェースがシンプルで使いやすく、わかりやすいおかげでもあると思います。
(※1)The Model(ザ・モデル):営業プロセスを「マーケティング」「インサイドセールス」「営業」「カスタマーサクセス」の4段階に分ける考え方を書いた書籍。
顧客の興味をあらかじめ知って商談に臨むことができる
――営業部門から見た成果は?
長野 営業の場面でメリットを感じたのは、商談の前にお客様がどんな事例や機能に興味があるかをあらかじめ知ることができることでしょうか。「SATORI」によって、お客様がどのようなページを閲覧したかを調べられるので、資料やセールストークの内容などを意識して準備できるようになりました。
また一度失注したお客様は、その後なかなかアプローチしにくくなりますが、間が空いても、再度Webサイトを訪問されたり、資料をダウンロードされたりしたタイミングがわかるので、もう一度連絡を取りやすくなりますね。それで実際に復活した商談も複数あります。
チームで「カスタマージャーニーマップ」を作成し意識共有
――「SATORI」の使い勝手やインターフェース、サポートはどうですか。
藤田 使いはじめの頃に受けたセミナーがとてもわかりやすかったのが印象的でした。使い勝手のいいツールでも、最初にどこから使っていいかの情報があることでさらに始めやすくなりますよね。
国産ツールだからでしょうか、用語もわかりやすく、直感的に使いやすいので、その後はほとんどサポートを頼らずに済んでしまいました。それでも数回は質問をしましたが、お返事もすぐにいただいたのでスムーズに導入を進めることができました。
久保田 私が良かったと思うのは、導入後に「カスタマージャーニーマップ」を書くレクチャーを受けたことです。「SATORI」というツールを導入するだけでなく、どのようにマーケティング戦略を策定し、そこにツールをどう活用するべきか、マーケティングの全体像を考えるきっかけになりました。たとえば、ウェビナーを行う際に、「誰向けで、どういうコンテンツにすべきなのか」など、当たり前のことながら、それまで案外できていなかったことを改めて、意識するようになりました。
長野 あれはよかったですよね。カスタマージャーニーマップはリーダーだけでなく、営業メンバーやキーパーソン全員が集まって悩みつつ書いたのですが、お互いの考えやアイデアも共有でき、その後の施策を考える上でも一体感が生まれました。そして、「ツールを入れただけではダメ」と言われた気がして背筋が伸びる心地がしました。
すでに「SATORI」はなくてはならない存在
――「SATORI」の評価はいかがですか。
長野 マーケティングの基盤をゼロから作れたというだけでも、「SATORI」の導入効果は高いと思っています。これまでは顧客リストも管理できていなかったし、メールマガジンの効果測定もできていなかった。Webからの新規リード獲得も難しかった。それがすべてできるようになったわけですから。
藤田 私もこれから「SATORI」の価値は高まるばかりだと思います。新しい取り組みでリードは明らかに増えています。300人ならギリギリ手作業で管理できても、1000人、2000人になると不可能ですから。その意味で、すでに「なくてはならない存在」になっていますね。
久保田 当初主要メンバーのみ「SATORI」の管理画面を見られるようにしていました。ですが、実際には営業担当者だけではなく、研究・開発担当者はWebサイトの記事を書いており、それぞれの個別施策の効果や反応を実感してもらいたいと考え、10月にはチームのほぼ全員が見られるようにしました。今後はさらにチーム全体で「SATORI」を使いこなして、積極的に様々な施策をまわせるようにしていきたいですね。
――今後チャレンジしていきたい施策について教えてください。
長野 現在はまだメールマガジンの出し分けができていないので、顧客のステータスと目的に合わせた内容を出し分けて、配信できるようにしていきたいです。セグメント機能とシナリオ機能を活用して、1to1に近いところまで実現できれば理想的ですね。
あとは、目標と期間を設定して達成状況を管理する「キャンペーン機能」も活用してみたいです。
いろいろチャレンジしたいことがあるので、SATORIさんにアドバイスをもらえるとうれしいですね。また、似た事業規模のユーザー会などがあれば、ぜひ参加して情報交換がしたいと思います。
ツールを導入したというだけでなく、営業プロセス自体を改善できた
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
長野 私が「SATORI」を特におすすめしたいのは、私たちと同じような――つまり、大企業の中の小規模な組織で、新規事業に取り組んでいるような方々です。ただでさえ大企業は導入に時間がかかるので、いいなと思ったらスピーディーに行動に移してみることをおすすめします。
久保田 「SATORI」導入は、単にツールを導入したというだけの効果にとどまらず、自分たちの営業プロセス自体を改善することができました。導入してよかったと強く感じています。
藤田 Webサイトの制作やメールによる情報発信は誰でも考えることです。ですがその対象ユーザーが増え、数百を超えてくると急に運用が難しくなってくる。そのタイミングでMAツールを導入すれば、業務効率化だけでなく、Webサイトにタグを埋めてよりアクティブに顧客の動向を探るなど施策のブラッシュアップもかなうでしょう。「SATORI」を導入したことは良い選択肢だと思います。「ぜひ機会を逃さずに!」とお伝えしたいですね。
――ありがとうございました。
「SATORI」は、実名顧客はもちろん、サイトを訪れただけの匿名顧客に対してもアプローチが可能なMAツールだ。国産のためUIや操作感もわかりやすく、導入しやすい価格や手厚いサポートも強みである。
- Webサイトからの獲得リードを増やしたい
- リードとコミュニケーションをして商談を創出したい
- 顧客データベースを効率的に管理したい
こんな方は、MAツール「SATORI」を検討してみてはいかがだろうか。
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