【レポート】デジタルマーケターズサミット2025 Winter

「目的は何だっけ?」を防ぐ! キヤノンMJ担当者が語る「Webサイトリニューアルの心得」

多くの企業サイトのリニューアルに携わってきたキヤノンマーケティングジャパンの西田氏が企業サイトの重要性や求められる役割の変化、Webサイトのリニューアル時の心得・進め方、パートナー企業の見極め方を紹介した。

年々、企業のWebサイトは重要性を増している。サイトリニューアルプロジェクトが立ち上がったが、知らないうちにベンダー・導入するCMSが決まっている。プロジェクトが進むにつれて「やりたいことが実現できない」「運用フローが回らない」という問題が発生し、「何のためのリニューアルだったのか?」となるケースは少なくない。

多くの企業サイトのリニューアルに携わってきた、キヤノンマーケティングジャパンの西田氏は、「Webサイトのリニューアルは目的を決めることが最も重要」と語る。「デジタルマーケターズサミット 2025 Winter」で、企業サイトの重要性や求められる役割の変化、Webサイトのリニューアル時の心得・進め方や、リニューアル時のパートナー企業の見極め方などを紹介した。

キヤノンマーケティングジャパン株式会社 ブランドコミュニケーション本部 デジタルコミュニケーション企画部 部長 西田 健 氏

BtoBでサービス購入時に参考にする情報源は「企業のWebサイト」がトップ

企業活動に欠かせない存在となったWebサイト。では、「企業サイトの目的とは何か」。会社の知名度向上、事業認知、IR(株式・決算報告)情報やニュースリリースの発信、製品・サービス紹介、販売(EC)、人材採用など多岐にわたる。西田氏が特に重視しているのは、「名刺効果・拠点表示」の役割だ。

自社のWebサイトは、社員が持つ名刺と同じです。「なぜ企業サイトが必要なのか。KPIは何か。効果はあるのか」と言われることもあるが、いまどき企業サイトがなければ社員も入社しない。KPIを語る以前に、企業サイトは作らないといけないものだと言えます(西田氏)

特に、BtoB企業のWebサイトの重要性は非常に高い。トライベック・ブランド戦略研究所が行った「BtoBサイト調査 2024」によると、製品・サービスの購入のために参考にする情報源は「企業のWebサイト」が56.8%と最も高い。

企業サイトの重要性

昔であれば、カタログを見たり、営業の担当者に聞いたりすることが多かっただろう。現在は、製品やサービスに関心を持った際、まずネットで検索し、企業サイトを見ることが一般的だ。

そこでサイトがなかったり、サイトがあっても内容が不十分だったりすると、この会社から購入しても大丈夫か? と思われてしまう(西田氏)

特にBtoBでは、組織として製品やサービスの比較検討を行い、合理的な判断のもと購入に至る。企業サイトの品質や情報の充実度は、その企業や製品の信頼性を判断する材料となる。情報が不十分なサイトは、企業の信頼性に悪影響を与える可能性がある。

BtoBとBtoCのサイト特性の違い

さまざまなプラットフォームに情報を分散させる「コンテンツ分散」から、自社サイトに情報集約へ回帰

そうしたBtoB企業のWebサイトについて、近年、SNSや各種メディアなどさまざまな接点から自社企業サイトへ、人を集める傾向が強まっているという。以前は、企業サイトにコンテンツがあるだけでは見てもらえないため、さまざまなプラットフォームに情報を分散させる「コンテンツ分散」が行われていた。昨今は企業サイトに情報を集約し、自社サイトで情報を見てもらう傾向に回帰しているという。

コンテンツ分散からの回帰、再び集約へ

企業サイトは国境を越えて他のメディアと連携するハブです。最近の企業サイトは、一方的な情報発信から、コミュニケーションを意識した設計に変化しつつあります。企業サイト上では双方向にコミュニケーションはできませんが、SNSなどを通じて交流やファン化が行えるメディアとして、企業サイトは有効に使われています(西田氏)

企業サイトはハブの役割

企業サイトに求められる役割は徐々に拡大。企業の姿勢や考えを示す公式の場に

企業サイトの役割は時代によってトレンドがあり、求められる役割は徐々に拡大している。はじめは製品・サービス情報の掲載が主な目的だったが、IRやリクルート情報も掲載されるようになった。さらに、パーパス、SDGs、環境への取り組みなどの情報の発信も企業サイトで行われている。特に、パーパスやブランドが重視される現在では、企業サイトは企業の姿勢や考えを示す公式の場として重要なプラットフォームとなっている

企業サイトに求められる役割の変化

Webサイトのリニューアル失敗を引き起こす「手段と目的」の取り違え

このように、企業サイトは企業の顔であり、なくてはならない重要な存在だ。「企業サイトは重要だから、リニューアルしよう!」となると、プロジェクトを進める中でさまざまな課題に突き当たる。続いて、西田氏はWebサイトリニューアルの心得・進め方を解説していった。

西田氏はこれまでの経験を振り返り、「Webサイトリニューアルの失敗パターンで最も典型的なのは、目的と手段の順序を間違えるケースだ」と語る。具体的には、「ベンダーやCMSが先に決まっている」「議論の前にワイヤーフレームがすでに用意されている」「CMS機能表で◯が多いものを選ぶ」のように技術的な要素、つまり実現する手段を先行して決めてしまうことが挙げられる。さらに、コンテンツはどうするのか、運用体制はどうするのか、予算はどうするのか、検討が不十分なまま進めてしまい、最後になって「リニューアルの目的は何だったのか」という根本的な問題に直面するケースも多い。

このように目的と手段を取り違えることによって、「システムの制約で実現したいことができない」「使いたい機能が使えない」といった問題が発生し、結果としてリニューアルの目的を達成できない事態になる。リニューアル成功のためには、「まず目的を明確にし、その目的の実現の手段としてITやシステムを位置づけること」が重要だ

まずやるべきは、どういうサイトにしたいのかを議論すること

Webサイトをリニューアルする理由はさまざまだ。「デザインを一新したい」「前回のリニューアルから時間が経過した」「サイトの増改築によりシステムが複雑化した」「会社の合併や経営体制の変化」「ベンダーとの契約の問題」などのほか、「ユーザビリティやアクセシビリティの向上」「スマホ対応」といった技術面の対応もある。

どんな理由であれ、リニューアルが決まったら、まず「どんなサイトにしたいのか」を関係者全員で議論することが大切だという。たとえば、その会社の企業ブランドを訴求したいのか、製品紹介などカタログ的な使い方が中心なのかなど、目的を明確にしよう。

次に、実現したいサイトのイメージを描いてみる。ラフな「ポンチ絵」でも構わない。絵やイメージの上手、ヘタは関係ない。また、自社の業界に限らず参考になりそうな他社サイトをいろいろ見て、「このサイト、いいよね」と共有するのも効果的だ。こうした検討を通じて、チーム全体で目指す方向性を一致させることが重要となる。

最後に、全体のスケジュールを立ててみる。来年なのか、3年後なのか、5年後なのか、最終イメージのゴールから逆算して必要なステップを書き出すことだ。

リニューアルが決まったらまず考えるべきこと

このときに注意すべきポイントとして、西田氏は「決してITの視点で考えない、ユーザー(お客様)の視点で考えること」を挙げる。あくまでWebサイトの主役はコンテンツであり、ITはそれを支える基盤・手段に過ぎない。これを逆にして、最初に手段(=IT)を考えると失敗してしまう

Webの主役はコンテンツ。ITはそれを支える基盤

「何のためのリニューアルだったっけ?」にならないように

サイトの目指すべき方向性とスケジュールの大枠を決めたら、次に考えるべきことは、以下の3つだ。

  1. コンテンツ・サイト構造
    何を発信し、どのようなサイト構造にするか、大項目・中項目・小項目の整理やデザインの方向性を検討する。

  2. 運用・体制
    誰が、どの部署が、どのような体制で、何人で、コンテンツを制作・更新するのかを明確にする。自社で対応できるのか、パートナー会社に外注するのか、常駐者を置いて依頼するのか、なども検討が必要だ。

  3. 維持管理
    予算・費用の確保、品質マネジメント(ガイドライン策定)、KPIの設定と効果検証などを考える必要がある。

次に考えるべき3つのこと

西田氏は、「これらの検討が終わってから、はじめてITシステムのRFP(提案依頼書)作成に進むべき」と語る。ITはあくまでも目的を実現するための手段であり、目的と手段の順序を間違えないことが重要だ。

そして、「Webサイトのリニューアルは関係者が多い。予算も高額で長期間に及ぶ大きなプロジェクトになるため、関係者全員で目的を確認すること。そしてITは目的を実現するための手段ということを認識してほしい」と強調した。

目的と手段を逆にしない

目的と手段が逆転してしまうケースはよくある。たとえば、なぜか最初にベンダーやCMSが決まっていて、すでにベンダーからワイヤーフレームまで提示されている。

そのうえで、「CMSの機能比較表で◯が一番多かったから、まあこのCMSで大丈夫だろう」とプロジェクトが進みはじめ、途中になって、やりたかったことができないと気づき、「そもそも、何のためのリニューアルだったっけ?」と目的を確認する羽目になる──というパターン。

こうした場合、ITという“手段”が先に走ってしまい、結果的に「システムの制約でやりたかったことが実現できない」「欲しい機能が使えない」「運用がうまく回らない」といった問題に直面する。そして最後には、「リニューアルって、結局なんのためだったの?」という振り出しに戻ってしまうのだ。

Webサイトリニューアルのパートナー、7タイプの特徴とは?

とはいえ、Webサイトのリニューアルを社内だけで進めるのはなかなか難しい。良いパートナー会社がいることで、スムーズかつ的確にプロジェクトを進めることができる。では、どのようにして自社に合うパートナー企業を見極めればよいのか。西田氏が自身の経験値からWeb制作のパートナー会社を7つに分類し、その特性・ポイントを次のように紹介した。

  1. Web制作の専業会社
    企画から運用まで総合的に対応可能。大手から中小まで規模はさまざま。Web制作に関して何でも相談でき、安心して任せられるが、大手ではそれなりに費用がかかる。自社に合うクオリティの高い会社に運用まで継続してお願いするのがよいが、良い会社・担当者に巡りあえるかどうかがポイント。

  2. ITベンダー
    システム開発に強い。一方、ツールやシステムありきの提案にならないように注意。運用を考えたWebのノウハウがなく苦戦することも。ITだけでなく、Webのこともわかるかどうかの見極めが必要。

  3. 各工程専業会社(デザインハウスなど)
    戦略策定だけ、デザイン・コーディングだけなど、得意な工程のみに特化した会社。得意な工程に関しては高品質だが、工程ごとに異なるパートナー会社と取引が必要となるため、自分で工程管理をする必要があり担当者の負担が大きい。Webの上級経験者ならトライしてもよい。

  4. 広告代理店・印刷会社
    営業窓口としてフロントに立ち、実際のWeb制作は下請けのWeb専業会社が担っていることが多い。広告キャンペーンやイベントと連動したサイトでは有効なケースも。コーポレートサイトのパートナーとしての実績は、多くない可能性があるので見極めが必要。

  5. コンサルティング会社
    経営戦略など上流のコンサルの一環として、Webサイトのリニューアルを提案されることがある。経営視点からの提案は得意だが、バラ色の理想論を提示されてWebの現場部隊が困惑するケースも多い。資料の多さと美しさで判断せず、提案資料をしっかり読み込み、中身がよいと思うのであれば依頼するのもよい。

  6. デジタルマーケティング会社
    SEOやWeb広告などのKPI達成に固執しがち。目利きができる上級者でないと、リスクが大きい。

  7. 個人事業主
    個人または2、3人のデザイナー、コーダー、ディレクターが仕事を受けるケース。価格面で魅力的だが、その人の能力に大きく左右されるためリスクが大きい。

Web人材は翻訳者。ITやWebの言葉を、相手に伝わるよう適切に変換して話そう

最後に西田氏は「うまく進めるためのヒント」を3つ紹介した。

誰に、どのレベルの何の承認をとるのか、重要度段階ごとにあらかじめ決めておく
  1. 社内合意をうまく取ること
    企業の考えや姿勢を示す最重要の場であるWebサイト。サイトのリニューアルには、多くの関係者が関与する。合意を得ずに進めると、横やりが入って手戻りが発生し、追加費用が必要になったり、最悪の場合プロジェクトが中止になったりすることも。要所でトップや関係者の合意を得ることが重要だ。

  2. 承認のレベルと粒度を見極めること
    特に、全体のデザインテイストやサイト構成など重要度の高い事項は、経営層にも説明し、承認をとっておくべき。とはいえ、あまり細かく承認を求めると時間や手間がかかるため、細かいパーツや文言は現場に任せるなど、重要度に応じて、「誰に、どのレベルの何の承認をとるのか」をあらかじめ決めておくことが大切だ。

  3. Web人材に求められるスキルを磨くこと
    Web人材、Web担当者は、IT部門やベンダーが使う専門用語を、経営層や社内関係者が理解できる言葉に「翻訳」して伝えることが重要だ。そのために、比喩を使ったり、重要な部分を伝えるためには思い切って削除・省略したり、工夫をするとよいだろう。

Web人材=翻訳者

最後に西田氏は、「Web人材は、あらゆるステークホルダーに対する翻訳者であり、調整者。プロジェクトのスムーズな進行をコントロールする重要な役割を担う人材として、頑張っていただきたい」とエールを送り、セッションのまとめの言葉とした。

用語集
CMS / EC / KPI / RFP / SDGs / SEO / SNS / アクセシビリティ / キャンペーン / ステークホルダー / セッション / ユーザビリティ / ワイヤーフレーム / 広告代理店
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