オープンソースCMSを賢く使う勘所と選び方
このコーナーでは、ネットビジネスを強力に支援する製品について、それを支える技術や市場動向を説明し、さらに各社から提供されている製品を紹介する。競合がひしめく市場で、他社に差を付けるための武器として、ぜひ導入を検討してみてほしい。
今回はオープンソースCMSを紹介する。「オープンソースCMSとは何か?」「導入のメリット・デメリット」「ライセンス」「コスト」など、オープンソースCMSの導入検討に必須の情報をお届けすると共に、代表的な12種のオープンソースCMSを、主要な仕様も併せて紹介する。
そもそも「オープンソース」とは何か?
利用にあたってはライセンス条項に注意
オープンソースCMSについて説明する前に、まず「オープンソース」がどういうものかを説明したい。
オープンソースとは、ソフトウェアの著作者の権利を守りながらソースコードを公開することを可能にするライセンス(ソフトウェアの使用許諾条件)のことだ。一般的には、図1に示したような「配布と入手に関する条件」「中立性保持に関する条件」「同一性保持に関する条件」の3つを満たすものをオープンソースソフトウェアと呼ぶ。
配布と入手に 関する条件 |
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中立性保持に 関する条件 |
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同一性保持に 関する条件 |
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これらの要件を満たした場合でも、オープンソースにはさらに「ライセンス」が存在している。日本においてはソースコードが無償で公開されていることを基本としたさまざまなライセンスに「オープンソース」という表現が使われている。その結果、「ソフトウェアの著作者の権利を守りながらソースコードを公開することを可能にするライセンス」という本来の意味が「無償で利用できるライセンス」と誤解されているのではなかろうか? まずはオープンソースの「ライセンス」が意味するところを正しく理解することが重要である。具体的には、次のようなものだ。
- 無保証である
オープンソースの性質上、ソフトウェアやその派生物は最初に作成した著作者でも把握できない形で流通するため、著作者が流通の結果としての利益すべてを得ることは現実的ではない。保証は利益と対であるべきものであり、オープンソース製品は「有用であるが無保証である」と謳っているケースがほとんどである。著作者は、予期した動作をする(しない)ことは保証しないし、その動作の結果、何らかの損害をもたらしたとしてもそれを補償しないものと定めている。
- 著作権表示を保持する
オープンソースは一定の条件内で自由な利用を認めるものであって、著作権を放棄するものではない。「一定の条件」を守らせるための法的根拠は、原著作者の著作権のみに求められる。結果として、多くのライセンスは適切な形で著作権表示を保持することで、派生物を作った者が独力のみで作ったと偽らないようにしているわけだ。ソースコードを付属させずバイナリ形式のみでの配布を認めているライセンスの場合は、付属文書に著作権表示を明記するように定めているものもある。
また、以下の内容を含むライセンスも存在する。
- 同一ライセンスの適用
GPL(General Public License、ジーピーエル)のように、複製や改変物を頒布する際に必ず同じライセンスとするように定めているものがある。GPLのソースコードを利用した場合は、複数のライセンスのソースコードと組み合わせて新しいソースコードを作ったとしても、GPLの規定により、このソースコードを頒布する際にも、GPLに基づく利用を認めなければならない。
- 原著作者の特別な権利
この条件は、現在ソースコードを独占的に所有している企業が、それをオープンソース化するにあたって主張されるものである。たとえばウェブブラウザのためのライセンスとして作成されたMPL(Mozilla Public License)では、「派生物を頒布する際にはソースコードを必ず公開しなくてはならない」としている。しかし、もともとの著作権を有していた企業だけは、特別に、派生物のソースコードを公開しなくてもよい権利を持っている。
今回紹介する「オープンソースCMS」は、ここで紹介したような条件で提供されているCMSのことだ。つまり、「無償で入手可能」「入手後、独自の機能追加と拡張と改良が可能」「他者への再配布が可能」「カスタマイズや環境構築の対価を商業的に求めることを妨げない」といった、オープンソースならでは条件を踏まえたうえで「CMSとしての機能が過不足なく実装されている」ものとなるのだ。
「欲しい機能」を追加できるのがオープンソースCMSの強み
ではCMS(コンテンツ管理システム)とは、そもそもどういったものなのか? CMSは、ウェブサイトを構築し、管理し、コンテンツをウェブページとして生成するうえで以下の要件を満たしているソフトウェアパッケージのことだ。
- 記事や発信情報などのコンテンツとデザインやインターフェイスなどのビューが完全に分離されている。
- ウェブサイト運用の知識をとくに必要とせず、現場の担当者がコンテンツを更新できる。
- コンテンツを登録し、管理し、出力するための一連の流れを満たす仕組みを備えている。
といった機能がCMSの要件となる(図2)。
さらに、企業用CMSならば、次のような機能が備わっていることも求められるだろう。
- ページごとの公開期間の厳密な時間管理
- 作成から公開にいたるワークフローに沿った承認機能
- サイト内リンク切れの防止
- デザインの統一
- バージョン管理
CMS導入にあたっては、このような汎用的な機能を持つものから、特定の機能に特化したものまで、さまざまなCMSが存在していることを念頭に置いておく必要がある。ターゲットを見誤った製品の導入はなんとしても避けたいところだろう。
また担当者のスキルが要求されるなど、メリットだけでなく必ずデメリットも発生することにも留意してほしい。CMSは、品質を維持しつつ多人数での共同作業を効率よく行うために導入するものだ。導入することだけで満足してしまっては、当然メリットを生かすことはできないのだ。
次に、導入にあたってのメリットやデメリットを、「CMSそのもの」と「オープンソースCMSに特徴的なもの」に分けて挙げていこう。
CMS導入のメリット
- HTMLのスキルがない人でも更新/編集できる
コンテンツ作成者はどう表示されるかを意識する必要はなく、入力画面の項目を埋めるだけでページコンテンツを作成することが可能である。これにより、わざわざHTMLをコーディングする作り方よりも更新頻度を高めることも可能となる。
- リニューアルが簡単になる
デザインされたテンプレートを入れ替えることで、現在のコンテンツを生かしたままウェブサイトリニューアルが簡単に行える。
- 更新のための専用ソフトウェアが不要
ブラウザから操作できるため、CMSが組み込まれたサーバーにインターネット経由で接続できれば、自宅や社外からも更新作業を行うことができる。
- 共同作業による更新を可能にする
コンテンツ作成者は複数の人間に設定できるため、部署単位や目的別に担当を決定できる。
- コンテンツ品質の維持を可能にする
ビューとコンテンツが完全に分離されているため、コンテンツ作成はビューにおけるアクセシビリティ、ユーザビリティ、デザインの品質維持に影響を及ぼさない。
CMS導入のデメリット
- CMSの機能を、担当者が自分で学習する必要がある
大企業のように、専任部門や専門的知識を身に付けた担当者を置ける場合には大きな問題とはならないが、どの企業でもウェブサイトを維持し続けるためだけに人員を割けるとは限らない。そのような場合、担当者には大きな負荷がかかることとなる。
- 体制作りと運用ルール決定が必須である
コンテンツの投稿・編集・公開までのワークフローがきちんとルール化され遵守されていなければ、「意図していない内容が公開される」などのトラブルが起きかねない。またCMSが管理するコンテンツのデータは、ほとんどがデータベースによって管理される。よって投稿・編集・公開承認の各権限の他に、データのバックアップや破損発見時のロールバック(差し戻し)などの体制作りとルール化が重要となってくる。
- 規定外の事項に対する自由度が低い
多くのCMS導入では、事前にウェブサイトの構成をかなり細かく定義することを求められる。単にページを作ってどこかにリンクをすればよいというわけではない。「自由にコンテンツを増やせる」ということは、ウェブサイトの構造が複雑化して統制の取れないものになる可能性をも意味する。
また、あらかじめテンプレートをデザインしておくことが前提であるため、実際の運用開始後にデザインを大幅に変更するのは、専門知識を要求されることになる。用意されていなかったデザインを運用開始後に導入する難易度は、決して低くはないだろう。
オープンソースCMSのメリット
- 機能拡張が簡単であり、カスタマイズの自由度が高い
オープンソース導入で最もメリットとなりうるのが、自社用オリジナル機能を追加し、機能拡張を行えることだ。もちろんシステムの知識や業務の知識双方は必要だが、「欲しい機能」を「欲しいだけ」追加拡張することをライセンスが禁じていないのは、大きなメリットである。
- バージョンアップが頻繁に行われる
世界中のさまざまな地域で、さまざまな人々が利用しているため、あらたなアイデアによる機能追加やメインテナンスが行われている。バージョンアップサイクルも商用製品と比べて短く、かかるコストを軽減できる可能性を持っている。
オープンソースCMSのデメリット
- CMS自体に不具合などがあっても、自己責任となる
不具合の発生や動作結果による損失は、すべて採用者、採用企業の自己責任に帰結する。オープンソースとは有用であるが、無保証であることも当たり前である。採用と導入を決定した責任を、製品製作者や構築企業に求めることは筋違いとなるのだ。
- 日本語ドキュメントが少ない場合がある
また商用パッケージ製品と違って、ドキュメントが充実していないものも多く、海外で生まれた製品にいたっては日本語の情報リソースがないものがあるなど、使いこなすうえでの障害も存在する。
オープンソースCMSでもかかる
「初期構築費」と「運用環境費」
オープンソースCMSを使えば、無料でCMSを導入できるわけではない。オープンソースで無料になるのは、CMS製品を入手するためのライセンス費用だけだ。CMS導入においてライセンス費用以外に必要になる、構築や運用のためのコストは、商用CMSでもオープンソースCMSでも同様にかかることに注意してほしい。
オープンソースCMSの導入時にかかるコストで、最も大きなものは「初期構築費」だろう。オープンソースCMS自体は無償であるため、製品購入代金は必要ない。しかし、それ以外の費用、つまり構築にあたっての表示デザイン、サイト構成の設計、ウェブサーバーへの実装など一連の構築作業は必要になるのだ。
また、CMS導入が完了しても、その後の運用フェーズにも「運用環境費」としてコストがかかる。サーバーなどのハードウェアや回線などのインフラ維持のコストは当然として、オープンソースCMSは基本的に無保証であるため、保守を外部委託する場合には、その費用にも留意する必要がある。
これらコストに関して、確実にいえるのは「構築と運用にかかる主たる外部委託費用は人件費であり、商用CMSを採用してもオープンソースCMSを採用しても大差ない」という点である。
プロジェクトとしてみた場合に求められるコストは、ほとんどが人件費であり、プロジェクトに費やされる人件費は、ある程度の規模以上になれば、商用製品を選択してもオープンソース製品を選択してもなんら変わりのない金額が必要となるのだ。
考え方としては、オープンソースで浮いたライセンス費用を、デザインやコンテンツの高品質化に回して、より良いサイトにするのが良いだろう。
オープンソースCMSで注意すべき導入の流れとチェックポイント
オープンソースCMS導入にあたって、手順としての時間軸は以下のようになる。条件設定
仕様策定
製品選定
運用準備期間
- サイトの目的に沿った構成を再現できる機能は備わっているか?
- 旧来の既存コンテンツ資産がある場合、それ取り込んで管理する機能は備わっているか?
- 運用にあたる担当者のスキルによる利用難易度は大丈夫か?
- 汎用的な機能や時系列情報発信機能、コミュニティ機能など、どのような付加機能を持っているのか?
多くのオープンソースCMSは「あれもできます。これもできます」といった謳い文句でコンサルティングが行われがちだが、それぞれの製品に得意不得意が必ず存在している。できるだけ多くの情報を入手し、さらに採用前に社内テスト的に導入し、実際の操作感などを含めて比較検討を行うことこそが重要だろう。無料で入手できるのだから、比較を怠るべきではない。
さて、前半はここまでだ。後半の記事では、オープンソースCMSを代表する12製品を紹介する。「商用CMSに負けない高機能かつ多機能な製品」「情報発信型ポータル向け製品」「情報発信・情報共有向け製品」「今後が期待される注目の製品」の4タイプとなるが、それぞれの機能や説明を比較検討して、ぜひ自社での導入に役立ててほしい(図3)。
商用CMSに負けない 高機能かつ多機能な製品 | 情報発信・情報共有向け製品 |
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eZ Publish OpenCms TYPO3 | Drupal Geeklog Joomla Xaraya |
情報発信型ポータル向け製品 | 今後が期待される注目の製品 |
Plone 島根県CMS | Magic3 MODx SOY CMS |
今回編集部で選んだ12種類のオープンソースCMSの情報は、後半の記事で紹介している。→後半の記事「企業で使えるオープンソースCMS一挙12種類解説(機能やインストール/管理の難易度評価付き)」を読む
コメント
解り易く的を得た無
解り易く的を得た無いようでした。