競合分析は“シーン”で使い分ける 6パターン別・分析手法と仮説の立て方
自社の商品やサービスを選んでもらうためには「競合分析」が重要だ。自社の強みや弱みは競合との関係のなかで相対的に決まるが、どのようなフレームワークを使って競合の何を明らかにすべきなのかはあまり整理されておらず、目的を達成できないケースも多い。
「デジタルマーケターズサミット 2025 Winter」に登壇したヴァリューズの近藤佳大氏は、競合分析で何を明らかにすべきなのかを6つのシチュエーションに分類し、Web行動ログデータを活用した競合分析手法を事例とともに解説した。

顧客行動と市場の変化で「競合分析」の注目度がアップ
「高品質な商品を作っても売れない」と悩む企業は多いが、状況を打開するため顧客理解を深めつつ、競合分析に活路を見出す企業が増えている。注目が集まる背景には、顧客行動・市場環境の根本的な変化があるという。近藤氏が指摘したのが「パルス型消費」の増加と「タコツボ化」だ。
パルス型消費とは、2019年にGoogleが提唱した消費行動のこと。スマホやSNSで、瞬間的に欲求が湧き、すぐに購入する行動を指す。一方、従来の消費行動モデルであるAIDMAでは、購買に至るまでの一連のプロセスの中で比較的時間をかけているが、現代では、AIDMAのような意思決定を踏まないケースが増えている。
タコツボ化は、日々の情報収集にあたって特定のSNSだけを見たり、接触するメディアが少数に固定化されたりする傾向を指す。
こうした顧客と市場の変化によって、競合他社の施策も多様化しています。それに対して自社はどうキャッチアップしていくのか、何が差別化になるのか。この観点を持つことが重要です(近藤氏)
6つのシチュエーションで考える「競合分析」の目的と手法
競合分析、つまり同業界・同市場で競う他社の動向を分析するという手法は、目新しいものではない。とはいえ、担当者レベルでは「具体的にどんなデータを分析すればいいのかわからない」「競合のデータが少なくて分析が充実しない」などの悩みが尽きない。
そこで近藤氏は、競合分析を6つのシチュエーションに分類し、事例を交えて解説した。
- 商品企画
- SEO
- 広告運用
- UI/UX改善、サイトリニューアル
- EC
- マーケティング戦略
競合分析① 商品企画
「商品企画」における競合分析は、市場トレンドを把握し、新たな製品アイデアを生み出すとともに、自社製品の市場参入の可能性を探るためにも重要だ。
ある大豆ミート関連製品開発企業のデータ分析支援事例では、製品の認知は高まっているものの、実際に食べた消費者が少ない現状に対して、どうアプローチすべきかを分析した。
大豆ミートを検索するユーザー属性を分析した結果、男性若年層に特徴的な傾向が見られた。
これまで大豆ミートや代替肉は、女性を主要ターゲットにしていましたが、新たな可能性を検索分析から発見できました(近藤氏)
さらに男性の検索行動を深掘りしていくと、焼肉や餃子などスタミナ系料理に関連したワードが浮かび上がってきた。これは、カロリーを気にする女性像とは異なる消費者像。
この分析から「トレーニングで筋力アップにいそしみつつもサラダチキンやプロテインに飽きた若年層男性に対し、大豆ミートでたんぱく質を摂るという、新しい選択肢になるのではないか」という仮説が立案されるに至った。
競合分析② SEO
SEOで検索流入を増やすには、競合分析がここでも役立つ。自社に近いキーワードで上位表示されている競合サイトやPV数、ユーザー数、流入キーワードなどが具体的に把握できれば、施策の精度が向上する。
同様に、流入増の目的で用意したコンテンツのコンバージョン(CV)数やCVに寄与したコンテンツ内容・構成も競合分析によって明らかにできる。
たとえば、「保険市場」と「価格ドットコム」を比較すると、検索キーワードの「保険」では価格ドットコムが有利、「保険 おすすめ」なら保険ドットコムが強い、といった優劣を調べられる。これにより、次に狙うべきキーワードや用意すべきコンテンツ、優先的にリライトすべき記事を、勘に頼ることなく判断できる。
弊社のツールでは、競合他社のWebサイトでCVに至ったユーザーの流入キーワードを判別できます。自社のCV状況だけでなく、他社のCV状況も参照して、より効果的なコンテンツ作成方針が立てられるようになります(近藤氏)
競合分析③ 広告運用
競合が展開する広告の全体像を把握することも競合分析の一環だ。ディスプレイ広告やリスティング広告、アフィリエイト広告などで、ターゲットや媒体、出稿量、広告経由の流入量を掛け合わせて分析することも可能だ。
AGA(男性型脱毛症)関連サービスの事例では、月額600万円の広告予算に対し、運用が不透明で成果改善に課題があった。そこで、独自の競合分析を実施した結果、金曜~月曜の20~24時を広告強化の時間帯とする方針を打ち出すことができた。
競合分析④ UI/UX改善、サイトリニューアル
Webサイトの改善にも競合分析は有用だ。競合サイトの主要ファネルを把握し、自社と比較して優劣、サイトの構造・デザインの違い、機能のCV貢献度などを比較調査できる。
たとえば、あるECサイトでは、サイト訪問から商品ページ閲覧まではスムーズなものの、カート投入率が低いとの結果が出た。この結果を踏まえて、競合サイトト比較することで、その値が業界水準なのか、自社サイトのユーザビリティの問題なのか、を判断でき、対策の幅が広がる。
一例として提示されたのが下図だ。
生命保険3社のオウンドメディア訪問者の、公式サイトおよび保険加入検討者向けサイトへの訪問率を集計した図である。この調査では、オウンドメディア閲覧だけで終わらず、関連サイトへ訪問するユーザーの割合が多い第一生命のオウンドメディアが優れていることが判明した。
競合分析⑤ EC
EC領域での競合分析では、カテゴリー全体でのEC普及率、利用者が急増しているサイトの発見などが可能だ。さらに、競合ECサイトのマーケティング施策や売上の中心となる製品やターゲット層の調査もできる。
紹介された事例では、CV獲得に貢献した検索キーワードを自社サイト・競合サイトの両方で調査し、関連するキーワードでグルーピングし、それぞれでランディングページを作成。ページ内で何を訴求するのか、分析結果から厳密に選定した。
その結果、子供用健康食品の定期通販サイトでは、対策開始から10日間でCPA(顧客獲得単価)半減、CV率1.6倍という成功例が生まれた。
自社だけでなく競合のデータも含めたうえで、全体的に施策を見直すことが、広告の効果アップはもちろん、ECの売り上げにもつながります(近藤氏)
競合分析⑥ マーケティング
ここまでは商品開発や広告といった個別分野を見てきたが、より総合的な意味でのマーケティングにおいても競合分析の意義は大きい。競合企業のターゲット層や構築しているブランドイメージなどを分析によって解明できれば、戦略はより充実したものになる。
紹介されたのは、あるリフォーム会社の事例だ。リフォーム検討層に加え、賃貸・中古物件を探す層との接点を拡大したいと考えた。
ヴァリューズの調査では、不動産投資セミナーにメールマガジン経由で申し込んだユーザーが、資産価値を高める意味でリフォームにも興味を持っていることが判明。これに合わせたバナー広告を作成するなどの取り組みを行った。
「Dockpit」で競合分析の第一歩を踏み出す
競合分析は、自社データの分析だけで施策を練るのとは、別次元の視点をもたらしてくれる。ただ近藤氏は競合分析の先にあるものこそが重要だと言う。
競合分析はあくまで手段の1つ。それ自体は目的ではなく、アイデア出し、施策、戦略、意思決定などに活用するためのものです(近藤氏)
ヴァリューズはおもに経営コンサルティングや各種分析サービスを手がけているが、その土台となっているのが自社製のデータプラットフォームだ。明確な許可を得たうえで生活者250万人分の行動データを保有。一人ひとりが、どんなWebサイトを、どんな流入経路で、いつ、どのぐらい見たか把握できる体制を構築している。
こうしたバックボーンのもと、マーケター向けには3C(自社・競合・市場)分析のためのリサーチエンジンサービス「Dockpit」を展開している。
競合分析をより身近に感じてもらおうと、「Dockpit」の無料版も公開している。企業ドメインのメールアドレスを登録すれば、即日利用することができる。また、データマーケティングに関するオウンドメディア「マナミナ」も展開中だ。
業界・市場によって、競合関係や勢力図は大きく異なる。そうした事情を踏まえた分析力が効果を左右する。ぜひ気軽に資料請求や問い合わせをしてほしいと近藤氏は呼びかけた。
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