Web広告研究会セミナーレポート

「DMPでセグメント分けしてターゲティングの効率アップ」の誤解、広告主とベンダーがホンネ討論

トランスコスモス、花王、リクルートホールディングス、ソニーネットワークコミュニケーションズ、ヤフーが語るDMP活用
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

DMPを活用してターゲティング配信やリタゲの精度を高めて広告効果を上げましょう

こんな売り文句を聞いたことはないだろうか。DMPはデータを扱うための「箱」であり、それをどう活かすかは利用者次第ということは他のツールと変わらない。Web広告研究会の2017年11月月例セミナーの第2部は、トランスコスモス、花王、リクルートホールディングス、ソニーネットワークコミュニケーションズ、ヤフーが登壇。それぞれの立場から、DMPデータ活用をホンネで討論した。

DMPはなぜ誤解されて理解が一致しないのか

トークセッション1つ目のテーマは「誤解」。

モデレーター
トランスコスモス株式会社
亀井 昭宏 氏
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
各務 浩平 氏
株式会社リクルートホールディングス
石井 智之 氏
ヤフー株式会社
鍵山 仁 氏
花王株式会社
佐藤 満紀 氏

DMPの理解は立場によって異なり、これまでは提供者側がDMPに対する曲がった理解を与えすぎていたため、「DMP=広告配信ツールの延長」という狭い範囲でとらえられてきた。DMPの役割についての認識が標準化されていないなかで、広告代理店とクライアント企業間や、企業内でDMPの認識の齟齬が発生している。

各務:データの質を気にしているなかで、DMPが登場してきたときにはすごいと感じていた。しかし、あいまいなデータを使っていては、しっかりとしたターゲティングができるはずがない。そのため、社内では広告担当者にDMPを触らせないようにして自分でハンドリングしていた。

最近の課題は、データのことを、広告担当者だけでなくサイト制作者や商品企画にも理解してもらうこと。効率でいえば、自社CRMの商品販売データに基づいてアップセルをかけていく方がいいので、制作とセットでターゲティングしていった方がいい。

石井:各務氏と一緒で、DMPはCDM(Customer Data Management)的な使い方が効果的だと思う。広告側のラストクリックの効率を上げるという思想でDMPを使っても、うまくいかない

亀井:誤解を生む結果となった原因は?

鍵山:本とか書いている人じゃないでしょうか(笑)

石井:本を書く人はベンダー側の人が多いので、データの構造などに嘘を書いているわけではない。しかし、「データやDMPのプライシングを考えると割に合うはずがない」ことが語られていない。

佐藤:花王は、2004年から「マーケティングでデータ分析をやるべき」だと話してきた。当時はクラウドがない時代なので、他のデータと連携せずにオンプレミスのデータベースに社内のデータをかき集めて活用していた。

世の中にDMPやビッグデータという言葉が出てくる前から、必要に応じてデータ活用をしてきたが、本などが出てきたころから、「DMPというすばらしいものが出てきた」という誤解が生まれてきたと思う。しかし、現在も社内でDMPを知っている人は少なく、何をするモノかもわかっていない人が多い。

亀井:誤解を解決するためにやっていることは?

佐藤:DMP自体を知ってもらうことには意味はないため、していない。データを活用することで、お客様に良いアプローチができて、売上が上がるということが重要

各務:DMPの担当者は自分1人なので、小さく実践し、効果を見せて共有していくしかない。

佐藤:「DMPの出口がデジタル広告だけ」になってしまっている印象がある。我々の商品は日用品で、さまざまなタッチポイントがあり、知ってもらう接点はデジタルだけではない。オフラインも非常に重要にしており、その点でもDMPが重要であればいいと思う。

亀井:提供側にも間違った認識の人はいるのか。

鍵山:社内での啓発活動はしているが、ヤフーの社内にも間違った認識の人はいる。DMPを扱う担当者がお客さんのところに行くときには、「DMP」という言葉を使わずに、「データ活用をしましょう」と言ってもらうようにしている。DMPを使わなくてもできることがあるからだ。

マーケター自身がデータに触れる意識を持つべき

亀井:第1部で、DMPの使い方が変わってきていると話していた。実際にどんな使い方をしているのか。

鍵山:DMPから出してきたセグメントを配信ツールに投げるだけでは効果が少ない。配信した結果を取り込んで、仮説を検証するために使うことが多くなってきている。

各務:自分からデータを見に行く癖が広告主にないことも、1つの問題だと思う。自分でデータを見て検証しようという気持ちがないといけない。

佐藤:データを見るぐらいの基本的なエンジニアスキルがないマーケティング担当者が多いと感じている。DWH(データウェアハウス)を使うとかいう話ではない。DMPを入れているならGUIでデータは見られるはずだ。それなのに「代理店に任せていてわからない」という状態は怠慢だと思う。我々も数年前までそのような状態だったが、今はだいぶ変わってきている。

亀井:データを「見る人」や「見る範囲」といった管理の問題もあるのではないか。

佐藤:花王ではデータの分析環境を管理する別組織を作って対応している。

各務:DMPの担当は自分だけだが、Webの分析は部署ごとにやっていて、自分の部署にもビッグデータ分析の得意な人がいる。我々の場合は、クラスター分析した結果を見せて啓発していくことで、興味を持ってくれる人は増えてきている。しかし、「DMPを自分で使う」というハードルは、まだ越えられていない。

亀井:各務さんは1人でDMPをやられているが、同志や仲間がいたほうが進めやすいのではないか。

各務:お願いしたらいろいろ協力してくれる、他部署の同僚やマネジメント層は作るようにしている。

佐藤:データサイエンス室に分析メンバーがいるが、我々の閉じた世界だけでデータを見るのではなく、ブランド担当者や販売メンバーと一緒にデータを見ていくことで、我々だけでは見つけられないインサイトがわかり、成功に結び付きやすい。

研究開発でもデータをさまざまな角度で見ていくことで、アンケートでは出てこなかったことが見えるようになっている。みんなの集合知がないと、なかなかヒントが見つからないことを感じている。

鍵山:データ活用の体制(部署・チーム)にジョインした人は、給料が上がるようにしてほしい(笑)。データ分析は苦手でも、アクションに落とし込むことが得意な人もいる。今はデータが好きな人の集まりだが、きちんと評価されるようになれば、データ分析の人材が増えるのではないか。

その目的はDMPがないと達成できないことなのか

2つ目のテーマは、「使い方・提案」。

1つは「CRM観点でターゲティングのためにDMPを使い、自社メディアで顧客とのつながりを強める」こと。もう1つは、「人や時間などのリソースの削減」という点だ。ここでは、内部チャネルデータの有効活用はどうするか、業務の効率化を運用していくのは誰かといったことが議論された。

石井:実は、最近はDMPをほとんど使っていない。CRM観点では、DMPよりもデータウェアハウスの概念に近いものを使っている。データウェアハウスとDMPの違いは、セグメンテーションの作業効率の向上や配信チャネルとの接続のしやすさだと思っている。しかし、自分はそのためにDMPを使う必要はないと思っている。技術的なリソースが足らなければ、DMPが必要だと思うかもしれない。

亀井:今後も使わない考えなのか。

石井:広告配信のラストクリックのために使うのであれば、自社の行動データを使った方が効率的。DMPのプライシングの構造が変わり、ラストクリックの文化がなくなったら、導入を検討すると思う。

各務:考え方としては同意できるが、我々は技術的なリソースが足りないのでDMPを使っている。技術の部分はDMPで解決できるが、プランニングに時間がかり、PDCAを回し切れていないというのが現状。仮説と制作のリソースに課題があると思う。

石井:リソースが足りないのであれば、ツールに頼らざるを得ない。データ分析のスキルと、マーケティングのインサイトを持った人材がいなければ、ツールを入れるしかない。そうした状況があって、DMPなどのツールが登場してきたのではないかと思う。

各務:プランニングやデータ分析に関しても、広告担当者は代理店の力を借りたいと思っている。しかし、代理店がやってくれるのは出稿プランニングだけ。DMPをクリエイティブやプランニングに活用するところまで踏み込んでこない。その結果、単純に広告配信のためだけにDMPを使っている点も問題だと思う。

亀井:結果的にインハウスでできることが理想だが、DMP導入にアウトソースを使うことについてアドバイスはないか。

石井:DMPはアウトソースではなく、社内でやるべきものだと思う。

各務:自分もそう思う。

石井:社内のデータを社外の人に渡して見てもらうやりかた自体に疑問がある。会社の基幹としてマーケティングがどれくらいの位置にあるのかによるが、自分は、マーケティングが会社にとって非常に重要だと考えているため、社内でやる必要があることを伝え、人も予算も取るようにしてきた。

佐藤:我々はパブリックDMPを導入して、協力・支援してもらっているが、プライベートDMPには力を入れていなかった。データの収集、蓄積、集計の効率化という面では便利になってきているので、DMPというよりは、データウェアハウスを効率的に使うという方がしっくりくる。その出口が配信になることもあるだろうが、そこがDMPの魅力なのではない。

亀井:ヤフー自身の施策のために、Yahoo! DMPを使うことはあるのか。

鍵山:自社のマーケティングには使わず、広告主のデータ活用のために使っている。我々が自社のマーケティングするときは、DMPよりCRMを使う。Yahoo! DMPというプロダクトは、広告主に提供するためのデータを集めたツールになっており、社内のマーケティングに必要なデータはほかの場所にある。

これからのDMPに求める新しい価値

3つ目のテーマは「新たな価値と課題」。

CRM観点では、DMPの活用が進んでいないという議論が続いた。講演でパネリストたちはDMPの未来について、目的達成のために地道な活動が続くという「維持」、オウンドメディアのドライブ要因としての「進化」、概念としては残るがツールとしては「消滅」の3つの意見を示している。

ここでは、ターゲティングの精度向上と導入済みツールとの連携、ファーストパーティデータやサードパーティデータの活用について議論した。

各務:ファーストパーティやサードパーティのデータだけでなく、セカンドパーティデータの連携が進み、業務提携した企業との協業が進むと考えている。IoTなどの世界を考えると、すべてをすぐにそろえるのは無理だが、フル活用するには集約したデータをどう組み合わせて、どのようなアウトプットを出すかが重要になる。これからは、データや商品企画をつなぎ合わせて付加価値を作っていかなければ、競争力がなくなると思う。DMPというツールはなくなっても、概念としては残るのではないか。

亀井:他のツールとの連携や精度向上についてはどうだろうか。

各務:これまでの数年間は、さまざまなソリューションを連携させてやってきた。異なる会社間のソリューションインテグレーションには不具合がつきものなので、難しさがある。1社で進むのであれば、ありがたい。

鍵山:セカンドパーティデータについては、これから事業を立ち上げていきたい。自分たちのデータが豊富にあるとは言っても、すべての接点のデータを持っているわけではない。オフラインのデータや、モノから(IoT)のデータも含めて組み合わせて、何が生み出せていけるかを考えてサービスを作っていきたいと考えている。広告にとらわれない形で、需要予測やリサーチなど、必要なコンポーネントに対して面白いアウトプットが出るようにしていきたい。

亀井:DMPが消滅するという意見に対してどう思うか。

鍵山:「DMP」という名前が、きちんとツールを説明できていないことも誤解につながっているのではないか。ツールとしては残るだろうが、Yahoo! DMPという名前は消えてしまっても構わない。

石井:持っているデータをつなぎ合わせるという、もともとの概念は残ると思う。それがこれまで出てきたDMPというツールかと聞かれれば、違うと思っている。

佐藤:私は、「維持」だと思っている。データウェアハウスでデータを自分たちの武器にするとか、データドリブンといった言葉がよく使われるが、そこから価値を生み出すのは目的達成の手段でしかない。達成のためには、泥臭くてコツコツした作業が続くことになり、そのために維持されるのではないか。

我々はBtoBtoCで、ECチャネルが増えるなかで、競合よりも一歩進んだ提案ができるようなデータ分析やインサイトの発見、トレンド予測のためにコツコツとした作業を続ける必要がある。

鍵山:やめるという選択肢もあると思っているが、それはないのか。

佐藤:データ分析をやめると、妄想マーケッターが増えてしまうと思う。「良いモノを作れば売れる」という時代は直感でいけたが、消費材のマーケティングは直感では難しい時代になっている。データを活用してコツコツやっていく必要がある。

各務:やっていかないと、大企業がスタートアップの会社にどんどん食われていくのではないか。

佐藤:現状でも、ECに強い商品にお客さんを持っていかれている。そうならないように、手を打っていく必要がある。その意味では、やらないという選択肢はない。

各務:小さい会社にとってもデータ分析は重要。データを活用して、より付加価値を出していかなければ大企業に負けてしまうと思う。

DMPの未来はどうなる

亀井:事前に「DMPとは○○だ」という質問をしていた。それぞれの回答をもらっていたが、これについて最後に一言ずつ聞きたい。

DMPとは何か?
  • 「DMPとは地図だ」(ヤフー 鍵山氏)
  • 「DMPとは玉手箱だ」(花王 佐藤氏)
  • 「DMPとは脳みそだ」(ソニーネットワークコミュニケーションズ 各務氏)
  • 「DMPとは作業リソースだ」(リクルートホールディングス 石井氏)

鍵山:「地図」は、私自身というよりも、会社として考えるとぴったりくる。どこに行けばいいか、どこに何があるか、どこにいるのかがわかるツールにしなければならない。広告主が今いる場所と、向かう場所がわかって事業をするために必要なツールは地図だと考えた。

佐藤:「玉手箱」は、何が入っているかわからなくて怖いというイメージもあるが、比喩的に使われる場合は、「すばらしいものや珍しいもの」「宝物が入っている」というイメージがあり、どのようなとらえ方もできる。開けたら爆発したということにならないように、内部に管理者を置いて、コツコツとデータを蓄えていく必要があると思う。

各務:DMPはアウトプットのための中間処理装置であって、施策に結び付けるための指令を出すものなので「脳みそ」とした。脳みそは、インプットが悪ければアウトプットも悪くなるので、インプットの部分もきちんと考えなければならない。

石井:データウェアハウスとDMPは別物だと考えていて、DMPは作業の代替えをしてくれているツールだと理解しているので、「作業リソース」とした。広告側では、このままの構造だと居場所がなくなると思う。CRMでは使い道があると思うが、会社のケイパビリティ自体はDMPがあってもなくてもどうにかなるが、あると便利なので作業リソースと書いた。

Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:『「DMPでセグメント分けしてターゲティングの効率アップ」の誤解、広告主とベンダーがホンネ討論』2017年11月28日開催 月例セミナーレポート(2)(2018/01/17)

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