進化するファミマの舞台裏、「清掃ロボ」で売上1.5倍!? AIで変わる店舗の姿

人手不足や物価高に直面する中、ファミリーマートがAIアシスタントや多機能型ロボットなどのDX施策を導入。店舗運営やスタッフ業務にどんな変化をもたらしたのか、現場の声と成果に迫る。
(左から)ファミリーマートの店舗運営におけるDXを担当する白川加奈子氏と本村亮二氏

ファミリーマート(以下、ファミマ)が店舗運営におけるDXを加速させている。人手不足や物価高騰により店舗を取り巻く環境が激変するなか、AIやロボットなどテクノロジーの必要性が高まっている。本記事では、一部のファミマで導入している最新のDX事例「人型AIアシスタント」と「多機能型ロボット」を取材した。現場では、どんな変化が起きているのか。

ここ数年で「自動化」や「メディア化」が進んでいる

人口減やライフスタイルの多様化など激変する時代において、ファミマでは「次世代のコンビニエンスストアモデル」の実現に向け、さまざまな施策を導入している。

2,400万ダウンロードを突破しているファミマの決済アプリ「ファミペイ」(ファミリーマート提供)

DXの文脈では、次のような進化を遂げている。

  • 2019年: 独自の決済アプリ「ファミペイ」を導入
  • 2020年:「デジタルサイネージ(FamilyMartVision)」の設置を開始
  • 2021年:「無人決済コンビニ」をオープン(2025年2月時点で46店舗を展開)
  • 2022年:「飲料補充AIロボット」を導入
2025年4月時点で約1万店舗に設置済の薄型デジタルサイネージ。販売促進や収益の多角化をねらう(ファミリーマート提供)

たとえば、デジタルサイネージのAIカメラによる視認率は64%となり、今では顧客の受容性も非常に高いメディアに成長している。映像コンテンツの大半はファミマで制作しているが、人気YouTuberやアーティストとのコラボコンテンツもあり、そうした配信を見るために来店する人も多いという。

飲料補充AIロボットが飲料を補充する様子(ファミリーマート提供)

また、効率化を目的に一部店舗に導入されている飲料補充AIロボットは、AIカメラで冷蔵庫の空き状況を把握し、アームで飲料をつかみ補充する。売上データと連携し、売れ筋から優先的に陳列を行う。1日1000本以上の陳列が可能で、ロボットの導入により店員は接客など他の業務にあたることができる。

「人型AIアシスタント」で、店長やSVの業務効率化が実現

2023年には、店長やスーパーバイザー(以下、SV)の業務効率化を目的とした「人型AIアシスタント」(名称:レイチェル/アキラ、以下レイチェルで統一)を本格導入。2025年5月時点で、関東、東北、北海道の約7,000店舗に導入している。

取材に対応した、オペレーション本部 営業推進部 SV業務改革グループ マネジャーの白川加奈子氏

同システムは自然言語やゲームAI技術に強みを持つクーガー社(渋谷区)が開発した。導入から約2年でさまざまなアップデートが実施され、利便性が向上。業務効率化が実現しているという。

日次・週次の業務に必要なデータやリストのほか、販売ランキングや業務マニュアルまで網羅する。写真は人型AIアシスタントの「レイチェル」

レイチェルには、カテゴリー別の売り上げやランキング、売上上位アイテムの時間ごとの欠品情報、週次キャンペーンなど店舗運営に必要な情報がまとまっています。音声で検索すると、該当情報に迅速にアクセスできます(白川氏)

「前週のレビュー」では、週ごとの「売上」「客数」「客単価」「前年比伸長率」などが閲覧できる
「販売ランキング」は、営業所の店舗内における商品ごとの順位を示している

ファミマはほぼフランチャイズで運営されており、レイチェルの導入以前はSVが資料を作成し、担当店舗に訪問して店長に資料を手渡して口頭説明、あるいは電話連絡で必要な情報を共有していた。この業務の一部をレイチェルが担うことで、SV業務が効率化したという。

レイチェルの導入によりSVの作業は1週間で約5時間が削減され、空いた時間を各店舗のコンサルティングに当てられるようになりました。また、現場の店長からは「SVからの連絡を待たずに必要な情報を入手できるようになり、待ち時間に関するストレスが軽減した」という声が多く聞かれています(白川氏)

店長がレイチェルを操作する様子、音声検索ですばやくほしい情報にたどりつける

レイチェルの活用で、売り上げを伸ばした事例もある。ある店舗の店長は、近隣地域のなかで自店舗のデザートの販売数が高いことに着目し、「デザートの売り場を広げたい」とSVに逆提案。その意見を採用して売り場を広げたところ、さらに販売数が伸びたという。

そうした成功事例が出ている一方で、導入後にあまり有効活用できていない店舗もあります。成功事例を水平展開していき、さらなる業務効率化や売上増につなげていきたいと考えています。機能の拡充も想定しており、いずれはレイチェルとのコミュニケーションを通じて、ほしい情報にいつでもアクセスできる世界観を目指しています(白川氏)

「多機能型ロボット」は“販促”への期待も高い

2023年12月に本格導入を開始した「多機能型ロボット」(名称:ポム)も、店舗運営の効率化や販促に一役買っている。アイウイズロボティクス社(品川区)とファミマが共同開発した同ロボットは、室内業務用小型清掃ロボットに、販促用の「陳列棚」と「タブレット」を拡張した、コンビニ向けのオリジナルモデルだ。

清掃機能に陳列棚とモニターが付いた多機能型ロボットの「ポム」(ファミリーマート提供)
取材に対応した、オペレーション本部 営業推進部 次世代オペレーション推進グループ マネジャーの本村亮二氏

以前から店舗スタッフからのアンケートで、「清掃業務の負担が大きい」という声が多数聞かれており、省力化のために多機能型ロボットを開発しました。各店舗の費用負担での導入としており、2025年6月末を目処に約1,100台を導入予定です(本村氏)

通常、コンビニでは1日にモップがけ1回、掃き清掃2回を行っており、約1時間の労働が発生していた。ポムは、メンテナンスを除きモップがけも掃き清掃も全自動で行えるため、毎日約1時間の時間創出につながっている

メンテナンスを除き、充電と清掃は全自動で行える(ファミリーマート提供)

普段はドッグで充電して待機していて、指定時間になると自動で店内の清掃を開始、終了すると再びドッグに戻ります。人を検知して自動で避けるほか、音声でも「作業中です。ご注意ください」とアナウンスしているため、安全に運行できています。店舗スタッフの負担軽減や時間創出のほか、人が清掃するよりも店内がキレイに保てると好評です(本村氏)

また、ポムの上に取り付けた陳列棚とタブレットは、販促に効果を発揮している。たとえば、店舗のデジタルサイネージと連携した商品訴求をポムのモニターで行う実証実験では、ポムの導入店舗の販売数が非導入店舗と比較して約1.5倍にアップした。実験は、2024年10月から26都府県の約60店舗で行い、対象商品は「味仙本店監修台湾ラーメン」だった。

デジタルサイネージでは、インパクトのある動画を配信 ※現在配信は終了(ファミリーマート提供)
モニターでは動画や静止画を配信。デジタルサイネージと連携した商品訴求により、非導入店舗に比べて販売数が約1.5倍に(ファミリーマート提供)

実証実験では、デジタルサイネージとまったく同じ動画ではなく、商品の静止画をモニターで流していたのですが、該当商品を手に取る方が増えました。今後も、新たなお客様への告知や販促につなげられると考えています。現在では、デジタルサイネージで放映されている動画の一部をポムのモニターでも流しており、新たな価値の提供につながっていると考えています(本村氏)

いずれはモニターの裏側にAIカメラの装着も想定しており、実証実験を進めているところだという。「主に売り場のチェックに活用したい」と本村氏は展望を話した。

スタッフはレジなどの業務に追われることが多いので、売り場の乱れや在庫切れをポムが感知してスタッフに通知を飛ばすことができれば、効率的に売り場をメンテナンスできるだろうと考えます(本村氏)

多機能ゆえ、操作を容易にしていく必要もあるという

ただ、現状はAIカメラの装着よりも、導入店舗のサポートや非導入店舗への導入促進のほうが優先度が高いそうだ。

店舗経営者の高齢化が進んでいることもあり、ポムの操作への問い合わせは現状多くあります。清掃機能は自動化しているもののメンテナンスが必要であり、操作を容易にしていく必要があると感じます。また、導入店舗での成功事例を非導入店舗に共有していくことで、導入促進も図っていきます(本村氏)

ファミマでは、多方面のDXにより狙った効果が出始めている。さらなる進化にも要注目だ。

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