成功と失敗を分けるSEMの見極め力

第3回 キーワード広告に割くべき予算は?

SEMの見極め力タイトル

第3回 キーワード広告に割くべき予算は?

小林 範子(株式会社セプテーニ)

多くの企業が取り組み出したSEM(検索エンジンマーケティング)は、発展途上の分野でもあるため、確固としたセオリーが存在しない。SEMを行う上で担当者が直面するさまざまな判断・選択について、その見極めのポイントを専門家がアドバイスしていく。

適正予算の算出が難しいキーワード広告

キーワード広告に割くべき予算はどれぐらいか。この質問はよくもらうのだが、画一化した回答が非常に難しい。主要なキーワード広告はオークション方式であるため、出稿コストが同業他社の動向に大きく影響を受ける。その一方で、キーワードによっては月々数万円からでも始めることができるので、大胆な予算取りができない企業にとっても取り組みやすい。

したがって、外的な要因にとらわれず、自社サイトで取り扱っている商材や、売上の規模、事業計画など、各ウェブサイトの事情に合わせてROI(費用対効果)の観点から予算を設定することが、もっとも堅実なやり方だといえよう。

目標CPAと目標成果数から予算を導き出す

予算設定の目安として、「CPA」(コストパーアクション。または、Cost Per Acquisition:新規顧客獲得単価)を基準にするという方法がある。

多くのウェブサイトは、ただアクセス数を増やすことが目的ではなく、その先にある「成果」を求めている。この成果点は、商品の購入、ユーザー登録、資料請求、問い合わせなど、扱っているサービスによって異なるが、この成果を1件獲得するためにかかるコストがCPAである。このCPAの目標値を設定し、獲得したい件数を掛け合わせることで、月間予算を算出することになる。このやり方なら、消費した金額に応じた成果が獲得できるので、ROIを大きく落とすことがない。

オーバーチュアやグーグルアドワーズ広告では、指定された成果件数を計測するためのHTMLタグをウェブサイトの成果点となるページ(サンキューページ)に挿入しておくだけで、キーワード単位で成果数や実際のCPAを確認することができる。効果検証のために、この導入は必須としたい(図1)。

オーバーチュア スポンサードサーチの管理画面(画像をクリックで拡大)
グーグルアドワーズ広告の管理画面(画像をクリックで拡大)
図1 オーバーチュアでは「1コンバージョンあたりのコスト」(図上)、グーグルアドワーズ広告では「利用額/コンバージョン数」(図下)という項目で、実際のCPAを知ることができる。この値が、目標CPAの値よりも下回るようにすることで、ROIが高まることになる。数字は変動していくものなので、常にチェックして目標数値になるように調整することが必要になる(※上記画像はいずれもサンプル用の画面です)。

目標CPAの設定方法としては、たとえば商品の購入が成果点となる場合、商品単価だけではなく、獲得した顧客情報の活用による二次的効果や、リピート率なども考慮することになる。サービスの資料請求や問い合わせを成果点とする場合、その後の成約率も過去の実績からシュミレーションしたうえで設定する。

目標CPAの設定というのは、実はものすごく高度なことだ。関連するコストを厳密に出すのは簡単ではない。しかし、会社として着実に利益を出していくためには、この点については考えるのは必須である(図2)。ウェブ担当者(広告、マーケティングの担当者)としては、関連部署や担当者にも協力してもらって、ぜひとも明確にしておきたい。

目標CPAが決まったら、次に1か月間で獲得したい目標成果数を決める。

仮に目標CPAが5,000円で、100件の成果を獲得したいのであれば、月間予算は50万円となる。

テレビの売値10万円-卸値7万円-発送手間賃その他もろもろ1万円=2万円

1万5千円の粗利は欲しいので、2万円-1万5千円=5千円

1台売るための広告予算すなわち目標CPA=5千円

1か月に10台売りたいので、目標CPA 5千円×10台=5万円

1月あたりのキーワード広告総予算は5万円以内

※コンバージョンレートが1パーセントだとすると、CPC(クリック単価)は5千円×1%=50円を目標に設定していくことになる。

図2 目標CPAとキーワード広告予算の算出例。10万円のテレビを販売するケースを例に単純化したもの。実際に目標CPAを決める際はもっと複雑で、さまざまなことをコストとして考慮する必要がある。キーワード広告では実際のCPAが明確に示される。目標CPAのほうも正確であれば、より確実にROIを測定できる。

トライ&エラーの繰り返しで最適な値を見極める

しかし実際は、競合他社の入札状況によりCPAは大きく変動するため、始めから思い通りには行かないことも多い。1つだけ断言できるのは、「キーワード広告の予算は、トライ&エラーの繰り返しにより見極めていく必要がある」ということだ。キーワード広告で成功するかどうかは、日々の運用にかかっている。キーワード単位での効果を分析し、入札するキーワードの精査や掲載順位の微調整、広告文章の見直しなどを繰り返してCPAを最適化していく。

1~2か月ではなく、半年くらいかけてじっくりと取り組んでいけば、キーワード広告のメリットを最大限に活かした最適な予算を見極められるようになるだろう。もちろん、その後も継続的に効果検証を行い、時流にあわせた調整は必要だ。

キーワード選定が落ち着いたらLPOにも予算を

CPAの最適化では、まずはキーワードの精査や広告文章を工夫するなどの施策を行うが、ここでもう1つ重要なことがある。キーワード広告をクリックしてウェブサイトを訪れたユーザーを、いかに効率よく成果点まで誘導するかという点だ。

最近では、検索されたキーワードごとに異なるランディングページ(それぞれのユーザーにとって、そのサイトへの入り口となるページ)を提供する「LPO」(ランディングページ最適化)が浸透しつつある。キーワード広告運用の第2フェーズとして予算を投下したいのが、このLPOなのだ。

適切にLPOを実施できればコンバージョン率は確実に向上する。その結果CPAは下がり、予算の削減やさらなる予算の投下が可能となる。

トレンドに合わせた柔軟な予算取りを

さらに、季節要因やテレビなどのマスメディアの影響も考慮したい。よく「キーワードは生もの」と言われるが、話題が集中した言葉は、ほぼリアルタイムで検索数が跳ね上がることも少なくない。いち早くそのトレンドに対応した入札ができれば、思いがけない効果を得られることもある。このようなケースも考慮すると、月々の予算は固定化せずに、ある程度柔軟に調整できるようにしておいたほうが良い。

専門代理店への委託も検討の余地あり

失敗のリスクを減らすには、SEMを専門に取り扱っている代理店に相談するという選択肢もある。オーバーチュアの推奨認定代理店に指定されているような規模の代理店であれば、豊富な業界別データを元に、的確な予算取りのアドバイスをしてくれる。また、CPAを最適化させるためのノウハウも知り尽くしている。効率性を考えると、自分でやるより手数料を払っても代理店に委託したほうが、結果的に有益となる場合もある。

見極めのポイント

  1. 目標CPAの算出には、関連要因とその価値も考慮に入れる。。
  2. 競合の動きでも変わるので、常にトライ&エラーで取り組むことを心がける。
  3. 効率性や確実性を優先するならノウハウを持っている専門業者への委託も検討すべき。

※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウ vol.3』 掲載の記事です。

用語集
CPA / CPC / HTML / SEM / アドワーズ / オーバーチュア / キーワード広告 / コンバージョン / コンバージョン率 / スポンサードサーチ / マスメディア / 予算 / 検索エンジン / 顧客獲得単価
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