カスタマーエクスペリエンスで道は開ける~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論

ユーザビリティ改善の費用対効果を測る6つのステップ(後編)

カスタマーエクスペリエンスへの投資を正当化するためには、費用対効果の予測が必要。
ジョナサン・ブラウン

[コラム]カスタマーエクスペリエンスで
道は開ける
~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論
by ジョナサン・ブラウン

フォレスター・リサーチのシニア・アナリストであるジョナサン・ブラウン氏によるウェブコラム。

主にカスタマーエクスペリエンスとマーケティングの側面から企業のビジネスをサポートしているジョナサン氏が、企業サイトにおけるユーザー志向の考え方や方法論をさまざまな切り口で解説します。

前回のコラムでは、カスタマーエクスペリエンスへの投資を正当化するための6つのステップのうち、最初の3つをご紹介しました。

  1. プロジェクトを企画する(サイトのどこを変える必要があるかを明確にする)
  2. プロジェクトによってどういう効果が得られるかを定義する
  3. 現状を把握し、記録する

今回のコラムでは残りの3つのステップを解説します。

  1. サイトの改善により得られる効果の度合いを予測する
  2. プロジェクトにかかる費用を算出する
  3. 費用対効果モデルだけではなく、ビジネスケースを作る

4. サイトの改善により得られる効果の度合いを予測する

最も良い方法は、会社で以前行った同様のプロジェクトで、どれだけサイトのパフォーマンスを上げることができたかというデータを使うことです。過去のROIデータが利用できない場合は、ターゲット顧客に対してA/Bテストを行い、参考のデータを取得するといいでしょう。それもできない場合は、保守的なデータを使うことをお薦めします。

たとえば、他社の成功事例を使ってROIを予測することが可能です。フォレスターでは過去80サイトのリニューアルに携わったWeb担当者に対して調査を行い、以下のとおり改善の度合いを表1にまとめました。

80サイトのリニューアルの結果より得られた改善の度合い
表1 リニューアルによる改善の度合い
Source: Forrester Research - October 2008, “How Much Will Your Web Site Metrics Improve?” by Megan Burns

たとえば、この表の一番上の行「サイト訪問数に対する購入」を見ると、最も改善の度合いが低かったプロジェクトでも3%の改善、最も良かったプロジェクトでは200%改善し、平均でも35%改善したことがわかります。このような実際の企業のプロジェクト結果から取った代表的な改善値を使って、ROIモデルを作ることができます。

ROIモデル事例(製造業の場合)

たとえば、ある製造業のサイトのROIモデルを作ってみましょう。このサイトには、現時点で年間3,000万人が訪問しているとします。サイト改善の提案は2つあり、1つは低コスト(5,000万円)で行うもの、もう1つは大きな予算(5億円)をかけて大幅に改善するプランだとします。

1つ目の改善提案では、訪問者は増えないが見込み客になる人の割合(コンバージョン率)が20%改善できると想定します。もう1つの大規模なほうの改善提案では、訪問者は15%増え、コンバージョン率が50%伸びると想定しましょう(表2の①)。

表2 ROIモデル事例(製造業の場合)
Source: Forrester Research - March 2006, “The ROI Of Web Redesigns Made Simple” by Harley Manning

訪問者が増えない場合でも、サイトの改善によりコンバージョン率が20%増えれば、見込み客1人あたりの価値の単価を1,500円として計算すると、合計1億3,500万円も売上を増やせます(表2の②)。

サイトの改善による効果としては、売上の向上だけではなく、サービスコストなどの削減も見込まれます。よくある事例は、コールセンターのサービスコストの削減。Webサイトでのセルフサービスを使いやすくすることにより、今までコールセンターに問い合わせをしていたお客様の一部がオンラインで問題などを解決できるようになります。

たとえば、問い合わせ電話がこれまで年間に320万件あったのが、サイト改善によりそれが10%減って288万件になったとします。コールセンター対応の費用が1件あたり550円だとすると、まず1億7,600万円コストが減ります。削減された32万件はWebサイトで自分で解決してもらったことになるので、Web処理1件あたり必要なコストを10円と計算して、増えた費用が320万円。差し引き1億7,280万円のコスト削減ができます(表2の③)。

※ここでは保守的な数字を使っています。コールセンターを持っている企業であれば、1件あたりの電話問い合わせやWeb処理にかかるコストは簡単に調べられるはずですので、それを利用するといいでしょう。

リニューアルによって生まれた総利益は、上記の売上の増加額1億3,500万円とサービスコストの削減額1億7,280万円を足して、3億780万円となります(表2の④)。

ここでは、効果を見るために、売上げ向上とコスト削減の2つを使いましたが、このように1つの効果ではなく、複数の効果を取り上げるのが一般的です。

さて、次に計算しなければいけないのは、改善プロジェクトにかかるコストです。

5. プロジェクトにかかるコストを算出する

当たり前のことですが、2~3社に相見積もりをとって、プロジェクトにかかるコストを算出するといいでしょう(表2の⑤)。

コストがわかれば、「(総利益 - コスト)÷コスト」という計算式でROIを算出できます。

先の事例では、小さな投資をした場合と、大きな投資をした場合の2つがあります。

サイトリニューアルにかかったコストが5,000万円の場合、リニューアルの純利益は単純に引き算して、2億5,780万円となり、ROIはそれをコストで割って算出できるので、516%となります(表2の⑥)。

右側のより大きな投資をした場合、リニューアルの純利益は、3億4,560万円で、ROIは67%です(表2の⑦)。安い投資よりも費用対効果は低いかもしれませんが、全体の金額を見ると、高い投資の方がずっと大きなリターンをくれるのです。

ステップ4に戻り、効果を予測することが非常に難しい場合、逆にコストを先に計算してみるといいです。いわゆる逆計算の方法です。どういう方法かというと、予定しているプロジェクトのコストを先に計算し、そのコストをペイバックするのに、どのメトリックがどのくらい向上しなければいけないかを計算する方法です。見積もりや過去の経験などでリニューアルにかかるコストを予測することは比較的簡単にできるでしょう。たとえば、100万円かかるという見積もりが出たとします。その100万円をカバーするためには、クリック率をどれだけ上げなければいけないのかなどを算出し、それが実現可能な数字であるかどうかを判断するといいでしょう。

ところで、お気づきかと思いますが、ビジネスの規模が大きければ大きいほど、サイト改善の投資により費用対効果を見せることがらくです。たとえば、1日のサイト訪問者がものすごく多いアマゾンやeBayのような会社ですと、サイト訪問者の0.1%の人たちの行動が変化しただけで、ものすごく大きなビジネスバリューをもたらします。一方、中小企業のサイトや、あるいはサイト訪問者の数が少ないサイトでは、費用対効果を見せるのは大手サイトと比較して難しいと言えるでしょう。

6. 費用対効果モデルだけではなく、ビジネスケースを作る

ROIを算出することはもちろん大切です。実現したいプロジェクトから費用対効果が生まれるかわからずに、それを予算の決定権者に提案することはできまい。しかし、ただROIを見せるだけでは、経営陣を納得させることはできません。経営陣は、常に各部署からROIモデルが含まれた提案書を見せられており、その中からどれを実行するかを決めなければいけないので、ROIモデルは実は最低限やらなければならないことにすぎません。成功するビジネスケースを作るには、「権限」「論理」「感情」の三本柱が必要です。

  • 権限――つまり、経営陣に言っていることを信じてもらうために、評判を作ること。過去に成功したプロジェクトの事例をたくさん作り、次のプロジェクトへの予算を安心して渡してもらえるようにする。社内に成功事例が足りない場合は、第三者の信用できるデータを利用し、説得材料に使う。

  • 論理――ROIモデル、ケーススタディを作成する。そのため、事実に基づいた分析を行うことが重要。

  • 感情――誰でも簡単に理解できるようなストーリーの形で現在の問題と改善の必要性を説明する。たとえば、Webサイトの改善の必要性を説くためには、現在のサイトのスクリーンショットを使いながら、サイトがお客様にどのような苦労をさせているのかを実際に見せると良い。特に、社内政治が激しい会社では、この「感情」は重要である。

用語集
カスタマーエクスペリエンス / クリック率 / コンバージョン率 / デザイン / フォレスター・リサーチ / ユーザビリティ / ユーザビリティテスト / 訪問 / 訪問者
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