大阪ガス/ソニー/サントリーの担当者が明かすサイト制作・リニューアルの裏側
企業のWeb担当者が互いのサイトを評価する「第3回Webグランプリ」の受賞者らがサイト制作・リニューアルの裏側を解説。後編では、大阪ガス、ソニー、サントリーがサイト制作の目的や舞台裏を明かした。
- エイチ・アイ・エス
- 日本ハム
- 岩崎電気
シンプルに当たり前のことをお客様に提供する
大阪ガス「マイ大阪ガス」
大阪ガスが2009年7月に開設した「マイ大阪ガス」は、毎月のガス/電気代金の確認や、ポイントを貯めることでプレゼントをもらえる、一般家庭向け会員サイトだ。2015年にWebコミュニケーションの強化に向けた全面リニューアルを実施したが、その背景にはガス販売事業の現状と、エネルギー自由化があると八木氏は説明する。
ガスによる発電や空調管理など、用途の拡大によって工業用ガスの販売が拡大しているなか、家庭用ガスの販売は横ばいであるため、2017年のガス自由化に向けて、近畿圏のエネルギー事業強化とエリア拡大、次の事業の柱の確立などに迫られているというのだ。
また、電力自由化前と、電力およびガス自由化後では、マーケットも大きく変わっていく。そのため、大阪ガスでは顧客接点を見直し、Webコミュニケーションのあり方を考え直した。
そして2015年1月、マイ大阪ガスは、前述のようなマーケット変化による顧客接点の強化を目的に全面リニューアルを実施し、会員獲得プロモーションを強化した。
たとえば、個人情報入力による会員登録のハードルを下げるため、メールだけで登録できる「ライト会員」を導入して、徐々に関係を深めるようにしたと八木氏は説明する。
また、サイトを利用するモチベーションを高めるためにポイントシステムを導入。アカウントサービスを充実させるために、消費者のニーズが高いエネルギーやガス機器関連の情報を充実させたほか、一目で必要な情報がわかるように大きな文字でシンプルなデザインにしたという。
「できて当たり前のことをきちんとやることを意識して、機能やサービスを作っていった」と話す八木氏は、ゲームやコラムなどのコンテンツについて説明を続ける。
リニューアル前は、健康や不動産などの多彩なコンテンツが用意されていたが、「やはりガス会社に求められているのはガス周りのコンテンツ」であると再定義し、前述のようにテーマをエネルギーやガス機器の情報に絞っていった。
ゲームやクイズなどのコンテンツを利用することで、プレゼントに応募できる「さすガっス!ポイント」の仕組みも追加した。ポイントは懸賞だけでなく、関西の社会課題に取り組むNPOへの寄付としても利用できる。熊本地震の被災者支援企画では、すぐに応募上限へ達したという。
KPIとともに社内プレゼンスが向上
会員獲得プロモーションは、テレビCM、Web広告、新聞、店頭、DM、チラシなどで行った。その結果、Web広告とDMが最も効果があったため、現在はこれらを中心にプロモーションを続けているという。
リニューアルとプロモーションによって、「会員数」「回遊率」「利便性向上」「見積もり数」など、各KPIとともに社内でのプレゼンスも向上した。現在は、さらなる顧客提供価値の向上を期待されており、さまざまなプロジェクトを進行させていると八木氏は説明する。
今後のビジョンとして、八木氏は「できて当たり前のことをやること。公益事業者の会員サイトということを念頭に、サービスの拡充と品質の向上を行っていきたい」と語る。課題としては、紙や電話、現場などで構成されている既存の業務フローと、Webという新しいチャネルを融合させるための社内調整を、これまで以上にうまく進めていくことが挙げられた。
また、顧客接点の1つであるコールセンターや代理店との情報共有も重要だと、八木氏は語った。
Webグランプリを受賞したことによって、パートナーに喜んでもらえ、社内での評価も上がった。審査員の方のフィードバックをもらえ、シンプルであることが評価されたことがよかった(八木氏)
ストーリーのある動画でユーザーを惹きつける
ソニー「Action Cam公式YouTubeチャンネル」
「Action Cam公式YouTubeチャンネル」は、ソニーのデジタルビデオカメラ「Action Cam」で得られるさまざまな体験を動画で紹介するブランドサイトだ。2013年4月の開設から現在まで、約450本の動画を公開し、約4,400万の視聴数を獲得している。
このようなブランドチャンネルを立ち上げた目的は、ターゲットカスタマーに対して、Action Camで撮影された映像を独特の世界観で見せるためだと山口氏は説明する。
独自の世界観を表現するため、公式チャンネルのデザインは独自に制作した。Action Camの動画は、スポーツや今まで見たこともない映像や独特な視点の映像を中心に、商品の使い方映像まで多岐に渡るコンテンツを世界中に向けて発信している。
YouTubeへの流入経路は非常に多いと説明する山口氏は、どの経路から来ても競合と勘違いされず、Action Camの映像だとわかるようにチャンネル設計に気を配ったと話す。そのため、現状のチャンネル内の動画の状態を把握し、チェックリストを作り、しっかりとブランディングされているかを確認していったという。
自社のチャンネルの分析だけでなく、競合他社も徹底的にベンチマークしていると山口氏は説明する。ここで重要なのは、いいね!など、ユーザーの自主的な行動の数と、動画のビュー数を比較したエンゲージメント率を上げることだという。そのためには、定期的に動画を配信し、登録者数や視聴数を効果的に上げていく必要がある。
ユーザーが求める3種類の動画
次に山口氏は、映像制作について説明する。Action Cam公式チャンネルも、面白くて刺激的で、共感が持てて楽しくなければならないと述べ、そのうえで、ユーザーが求める3種類のビデオには「3H」があると説明する。
- Hero
インパクトがありビックリする。笑えたり感動したりするコンテンツ
- Hub
またチャンネルに来て続きが見たくなるコンテンツ
- Hygiene
ユーザーが意識して探し、有用な情報が載っているコンテンツ
これはグーグルが勧める「3H(スリーエイチ)コンテンツストラテジー」であり、サイト立ち上げ当初よりGoogle Japanと議論して採用してきたフォーマットである。
これら3種類の動画を効果的に提供することで、ユーザーの自主的な行動を得られ、ブランド認知度の向上につながる。
また、オーディエンスを惹きつけるためには、脳に働きかける必要があると山口氏は話す。データやスペックや数字の話をすると、「好きか」「嫌いか」の反応にしかならない。しかし、ストーリーを伝えると脳の感情的な部分が刺激され、オーディエンスを惹きつけ、より記憶に残すことができるというのだ。
グローバル企業であるソニーでは、ブランディングやメッセージングは世界中のどこから見ても統一する必要があり、高品質のコンテンツを発信する必要があると山口氏は説明を続ける。
最後に山口氏は、審査員のコメントを紹介。そのいくつかに回答する形で、「各国の店舗でも映像をディスプレイで流して活用していること」や「IPアドレスでその国のネットストアにリダイレクトするリンクを付けていること」のほか、「ワールドワイドで発信するため英語のみで提供していること」「約450本の動画があるのでプレイリストでジャンル別に分類して検索できるようにしていること」などを明かした。
まじめで堅い話をわかりやすく伝える
サントリー「サントリー天然水の森 人類以外採用」
「サントリー天然水の森 人類以外採用」は、2003年からサントリーが取り組んでいる天然水を継続的に生み出す森を育む活動「サントリー天然水の森」の活動をアピールするために作られた企業広告サイトだ。
以前から、サントリーの環境活動については、テレビCMなどでも紹介されていたが、同サイトは特にテレビCMの届きにくい若者にアピールするためにオープンした。
同サイトの大きな特徴は、天然水の森に住む動植物を社員に見立ててキャラクター設定しているところだ。採用サイトでよく見かける「先輩社員の1日」や「採用情報」などを動植物に置き換えて作りこんでいる。当初からSNSの拡散を見込んでおり、シェア用に10種類のユニークなバナーを作成した。
サイト公開後には、Facebookで2万以上のいいね!、Twitterで7,000ツイート以上を獲得し、SNSを中心に320万人以上にリーチしている。「サントリー天然水の森」のページアクセス数も、「人類以外採用」の公開前月と比較して180%まで伸びたという。
サントリー天然水の森はボランティア活動ではなく、サントリーグループの事業活動の生命線である「水の持続可能性(サステナビリティ)」を支える基幹事業だと小笠原氏は述べる。
これらの活動は一見まじめで堅く、伝え方を誤れば自慢話の企業広告になってしまうが、「まじめで難しいことを、押しつけがましくなく、わかりやすく伝えたかった」と小笠原氏は話し、先行して公開されたテレビCM「宇宙人ジョーンズ」シリーズとデジタル施策(人類以外採用)の企画の位置づけを次のように説明する。
「サントリー天然水の森 人類以外採用」と「宇宙人ジョーンズ」CM以外のキュレーションメディアの活動では、NAVARまとめで180万以上のViewを記録し、いいね!も9,900獲得している。また、NAVARまとめへの投稿は、デジタルを押しつけがましくなく活用するヒントを得ることにつながり、新たなデジタル施策について社内を説得する材料になったという。
ユーモアとリアルのバランスにこだわる
「サントリー天然水の森 人類以外採用」を制作したのは、面白法人で知られるカヤックだ。今回、カヤックをパートナーに選んだ理由について、「別の企画で参加していたカヤックさんと話すうちに、クリエイティブにユニークさと強さがあり、どの企画にも一貫して温かみがあると感じた」と小笠原氏は話す。
当時のオリエンテーションを振り返ったカヤックの兼康氏は、「サントリーの森への取り組みと、ユーザーの興味をつなげることが非常に難しいと感じた」と話す。10案ほどの企画を出したが、「ここまでやったら怒られるかも、といった企画に対しても笑ってくれたので安心できた」という。
一方で小笠原氏は、マス広告の代理店とは違うカヤックのプレゼンが新鮮だったと振り返る。
最終的に選ばれたのは、実現が難しいと思っていた企画だったが、兼康氏は会議に出ていたサントリーの部長が発した「サントリーは“やってみなはれ”の精神でこういった企画を選んでいかなければならない」という言葉に奮起したという。
制作面では、大枠だけで細部まで決まってないことがやりやすかったと話す兼康氏は、社員となる動植物のキャラクター設定など細部までこだわったことを明かす。
また小笠原氏は、ちょっとくだらない感じに見せてはいるが、内容は各動植物の生態を忠実に再現するようにしており、ユーモアとリアルのバランスに苦労したことを話した。
SNSでは大きな反響があり、有名人や著名人もコメントしてくれたことがバズにつながった。細部までこだわったことが共感を得たと小笠原氏は話す。
また、人事部と連携して、リアルな採用にも活用している。「人類の採用はこちら」というリンクを張ったり、カヤックの提案で、会社説明会などで使う就活エールポスターやクリアファイルを作成した。「OB訪問を受けたときに、学生がこのクリアファイルを持っていて、いい会社だと思ったと言われて感動した」と小笠原氏は語った。
講演の最後は、今回のプロジェクトを振り返り、それぞれ次のように話した。
初めての取り組みだったが、サントリーとは相性がよく、信頼してくれて進め方なども提案できて、1つのチームとして進められたことがよかった(兼康氏)
テレビCMとWebサイトでは、作るモノや形が違うが、“誰に、何を、どう伝えたいか”が大切なのは同じ。そして、どのようなクリエイターをスタッフィングするかのうえで、一度組んだ人たちを絶対的に信頼して、1つの仕事を作り上げることが大切だと改めて学ばせてもらった(小笠原氏)
Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:Webグランプリ受賞6サイトの担当者が教えるサイト制作・リニューアルの裏側 ―― 「第3回Webグランプリフォーラム」2016年4月27日開催 Webグランプリフォーラムレポート(2)(2016/07/22)
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