生田昌弘の「Web担当者に喝!」

やりたいことが明確でないのに、いきなりトップページのデザインを求めるWeb担当者に喝!

やることがあいまいな状態で、いきなりグラフィックデザインやUIデザインができるはずもない。まずはやりたいことを明確にすべし

サイト構築をデザイン案からスタートさせる担当者に喝!

何を成すのが目的なのかわからない段階では、まっとうなデザイン案などできるわけない!

「詳しいRFPなんて書けない」と悩むWeb担当者のあなた。制作会社にデザイン案を出してもらうまでに発注側が伝えておくと、より良い提案を引き出せる、3つのポイントがある。

「デザイン案をお願いします」とWeb担当者は言うけれど

Webサイトが、単なる告知や広告ではなく、お客さまへのサービスであり、ソリューション対応であるという認識が広まっている時代に、いきなり「デザインをお願いします」というWeb担当者がいること自体、おどろきだ。

しかし現実には、問い合わせの中に含まれていることが多い。

もちろん予算が明確に決まっていて、やることや求める成果、目標などが明確に設定されているなら、話は別だ。

昔のWeb担当者に比べると、いまのWeb担当者は、数ある業務の1つとしてWebにかかわっている。

10年前は、Webのことが好きな人が担当者に任命される場合が多かったように思う。

趣味が長じて仕事になってしまったという担当者の中には、ハイレベルでマニアックな人が多かったはずだ。

しかし、Webサイトが企業の業務の1つとして、明確に位置づけられ始めたいまは、営業をやっていた社員が、部署移動でいきなりWeb担当者になることも珍しくはない。

もしかしたら、そのせいでわかりやすいところ、つまり絵(グラフィックデザイン)から始めようとするのかもしれない。

ただし、まっとうなWeb制作会社なら、この問いかけに「はい」とは答えないだろう。

代わりに、いま何が必要かをWeb担当者であるあなたに教えくれるはずだ。

トップページのイメージを3案出してください!
Web担当者A
UIがわかるデザイン案をお願いします。
Web担当者B
詳細ページのイメージ、リストページのイメージ、トップページのイメージをお願いします。
Web担当者C

デザインはもちろん、きれいに越したことはない。

しかし、その制作会社のデザインセンスが知りたいのなら、過去の実績を確認して、このサイトをデザインしたデザイナーに依頼したいとオーダーすれば済むことだ。

ページごとに御社の要望を細かく承ります!
まったく方向性の違う案をお持ちしますので、選択してください。
制作会社A
具体的なデザイン案をいくつかお出ししますね。
制作会社B
実際に、御社の製品データでプロトタイプを作ります!
アプリケーションベンダー

確かに親切だが、どうやって作るのか?

その会社のことをどの程度知っているのだろうか?

とりあえず出すデザイン案は、本当にクライアントが達成するべきことを実現するものになるのか?

問い合わせごとに、そんな労力を使うのだろうか?

こんな発注や対応では、ろくなものは出てこないし、お互いに消耗するだけだと理解してほしい。

制作会社を有効に使うには発注前から準備

デザインだけでなく、見積もりについても考えてみてほしい。

何が目的で、その成果をどのように測るのかなどを決めずに見積もりをとっても、各社の提案の比較はできないはずだ。

また、いろいろなデザイン案を見ても、目的・成果・目標などが明確でなければ、どれがいいか決めようがないはずだ。

それとも、社長の好みで決めるのか?(まぁ、それもありですが、その場合は事前にお知らせください。しかるべき対応をいたします。by制作者)

デザインも見積もりも同じことだ。

発注側のWeb担当者さんにお願いしたいことがある。制作会社に問い合わせるときには、「何を」「いくらで」「いつまでに」達成したいのかを決めておいてほしい(難しくても、できるだけイメージしておこう)。

それを受けてどう対応するかが、制作会社の個性であり、評価基準や選定理由になる。

  • たとえば、御社の問いかけに、即答で意見をくれる制作会社
  • 「こうすれば、もっといいですよ」「こう進めたらいいですよ」とアドバイスをくれる制作会社
  • 「それはなかなか難しい。コストや納期、内容を再検討すべき」と厳しい意見をくれる制作会社

そのアドバイスを聞いて、あなたが一番合いそうな制作会社を選ぶ。

制作会社を有効に使うにはどうするかを、発注前から考えなければならない。しかも、プロジェクトが始まってから後悔しないように、このタイミングで根掘り葉掘り聞きたいことを聞いてみてほしい。

対応する人のレベルも含めて、その制作会社のことがよくわかるはずだ。

人の話や噂ではなく、自分自身で選択するべきなのだ。

それこそが、Webプロジェクトの最初のあなたの仕事である。

より良い提案をもらうには、まず「ギブ&テイク」の「ギブ」が基本

以前この連載で、「やりたいことや予算が決まっていないのに見積もりを求めるWeb担当者に喝!」というテーマで、RFPの書き方を説明した。

すごく簡単に書いたつもりだったが、「あんなに書けない」という意見を多数いただいた。

ここでは、デザイン案を出してもらうまでに必要な「ギブ」を明確にしておく。

まず必須なのは次の3つだ。

  1. 成し得たいこと

    要は、「こんなデザイン」「こんなコンテンツ」ではなく、ビジネスにつながる目的だ。

  2. 具体的な要望(社内や偉い人から、ばらばらと脈絡もなく言われているようなこと)

    もちろん上記の成し得たいことと真っ向から矛盾するものもあるかもしれないが、それも含めて。たとえば、「スマートフォン対応せよ」とか「多言語対応せよ」とか「SNSに力を入れよ」とか……。

  3. 予算と納期

    決まっていない場合も、確かに多いと思う。その場合は、予算はいくら位なら社内稟議がとおりそうかという、あなたの予想を。

そのほか、もし現状サイトの情報があれば、あたりはつけやすいはずだ。

サイト構成、コンテンツボリューム(ページ数)、利用しているアプリケーションやASPとその範囲、現状の訪問者数、他アクセス状況、サーバー構成、インフラ環境、現状の運用体制……などなど。

この程度の「ギブ」があれば、制作会社からより良い提案を「テイク」できるだろう。

これをもとに、いろいろな制作会社に問い合わせて、フィードバックをもらう。可能であれば、フィードバックを活かしたRFPを制作してコンペなどを行えばデザイン案を出してもらうことも不毛な行為ではなくなるかと思う。

ただし、事前の問い合わせ対応で、2~3社に絞るのが良いだろう。これも制作会社を有効に利用する手法の1つだ。

前回の繰り返しになり恐縮ですが……。

Web担当者の皆さまへ

お互い楽になる方法を模索しませんか?

皆さまからの明確な情報提供があればあるほど、制作側は頑張れます。

漠然とした、雲をつかむような話をされても、混乱して時間とコストを無駄に費やすことになるだけです。

ましてやいきなりデザインとかね。

だから、コンペに10社も集めるのは不毛です(お互いに)。

2~3社くらいまで絞り込んだうえで選定すると、お互いにハッピーだと思います。

(制作会社の心の叫び)

制作会社に求めるべきこと、制作会社が考えなければならないこと

Web制作のメインターゲットであるデバイスが、スマートフォンにシフトしている。

これにより、これまでPCで有効だったチャート図や構成要素の静止画でのプレゼンが、Web担当者の理解を得るための絶対的な要素ではなくなりつつある。

必要ないというのではない。それに追加でプロトタイプなど、アクションやリンクではない上下関係などが理解できる資料が必要になるのだ。

しかも、制作会社そのものに、そもそもスマートフォンのWebサイト構築のノウハウが存在しないのではないだろうか?

なぜなら、スマートフォンのWebサイトはまだまだ発展途上だからだ。

PCのWebサイトで考えるならば、1998年当時と状況は似ているかもしれない。

スマートフォンファーストの掛け声は聞こえるが、それをどのように実現するのがベストなのか。その答えが明確になるのは、もう少し時間がかかるはずだ。

つまり、制作会社自身も、早い段階でプロトタイプを制作して、検証することが絶対条件といえる。

トップページ
リストページ
詳細ページ
プロトタイプのサンプル
※作れる範囲で完成形に近いものを(リンク、動きも)

2014年にGoogleが発表した「マテルアルデザイン」。これに求められるのは、意味のあるアニメーション・インタラクションである。

  • Googleが発表したマテリアルデザインのガイドライン「Material motion」(Google)

さらに、重なりのあるデザイン。これは静止画では確認できないし、実際に表示されたプロトタイプが必要になる。

インターフェイス層
ナビゲーション層(リスト層)
コンテンツ層
重なりのあるデザインの例(レイヤー構造=サイト構造)

だから、Web担当者は、早い段階でスマートフォンサイトに限定してでも、プロトタイプの提出を求めるべきだし、制作会社もこれに応えるべきだ。

何も決まっていないのにトップページのデザインができないように、プロトタイプを作ることはもっと無理だということは、言うまでもない。

つまり、Web担当者は、これまでのように要望を書いた、もしくはRFPのみを制作会社に配布してコンペを行うのでは最適な制作会社を探せなくなるということだ。

最低限度の要望を明確にしたら、制作会社に問い合わせをしよう。

そして、以下の項目について確認したうえで、2~3社に絞り込んでコンペを行う。そんなやり方に変えてみたらどうだろうか。

  1. 問い合わせた段階で、明確なアドバイスをもらえるか?
  2. 即答で、コストや納期の問題を指摘してもらえるか?
  3. 自社でできる作業範囲を明確に提案してもらえるか?
    (内容を理解すれば、アプリの開発やCMSの構築が必要な場合、どこまで自社で可能かなど)
  4. クライアントのリテラシーに応じたプロトタイプや説明資料の作成、レクチャーなどのサポートが可能か?
  5. 特にCMSなどのツール導入を行う場合は、そのツールの実績はあるか?

特に5つ目の点だが、どのツールを入れるかの選定は、できるだけたくさんのツールを経験している実績が重要だ。実際に構築する場合は、そのツールの構築実績など、ステージによって確認する実績も違ってくる(弊社は、CMS構築を10年以上行っているが、それでも、得意なのは2~3種のCMSに限られる。それ以外のCMSでの構築は、基本的にお断りしている。そのくらい経験は重要だし、皆さんから確認できるのは実績ということになる)。

これこそが、Web担当者も、制作会社も疲労しない唯一の方法だと思う。

本日のまとめ

制作会社は、あなたの頼りになるパートナーだ。

消耗させるのではなく、有効に機能させなくては、お互いにとって不幸。

制作会社のスキルを、Webサイトの成果のために有効活用しよう。

すべては、お客さまの問題解決のために!

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