Google・サムスン・ナイキ・資生堂……ブランド構築のためのエクスペリエンスデザインをR/GAが紐解く
企業が伝えたいメッセージが1つだとしても、メディアや読者にあわせた情報発信をすべきである。第1部講演の「メディア・フォロワーモデル」の紹介を受けて、第2部では、R/GAの鈴木洋介氏が「生活意識や心理とコミュニケーションの挑戦」として、Google、サムスン、ナイキ、資生堂など、同社の事例を踏まえて解説した。
マーケティングからブランドエクスペリエンスへ
R/GAは、ニューヨークに本社を構えるグローバルなクリエイティブエージェンシー。日本をはじめ、米国、英国、東南アジアなどで活躍してきた鈴木氏は、広告が溢れてスキップされやすい現代、ブランドロイヤルティの構築は難しくなっており、マーケティングを再定義する必要があると話す。
「マーケティングは、生活者から売るためのものと捉えられている。その皮肉に打ち勝ち、人の気持を寛容にし、キャンペーンに参加したくなるものである必要がある。マーケティングをマーケティングだと感じさせてはいけない」(鈴木氏)
テクノロジーの進化により、ビジネス、コンテンツ、デザイン、キャンペーンなど、デジタルはあらゆる要素のコアであり、すべてになったとR/GAは考えているという。
世界中で、新興勢力のスタートアップが登場し、レガシー企業のブランドがディスラプション(混乱)を起こし、消費者の選択肢は無限になっている。こうした時代において、ブランドロイヤルティを高めるには、ブランドのポジティブな体験、ブランドエクスペリエンスを通してブランドを認知させることが重要になる。
「これからは、価格よりもブランドエクスペリエンスでモノを買う時代であり、マーケティングからブランドエクスペリエンスという考え方に変わるべきだ」(鈴木氏)
価値の高いビジネスができるのは、コネクテッドブランド
ブランドエクスペリエンス時代では、より一層顧客中心主義になって、エコシステムを作るべきだという。R/GAでは顧客起点でエクスペリエンスマップを構築し、いろいろなモーメント、チャンネルをタッチポイントとして、メディア、サービス、プロダクトがどんなコミュニケーションをするのか、細かく設計したうえで、ブランドエクスペリエンスを考える。これは広告においてもデザイン思考を取り入れていくことにほかならない。
R/GAでは、ユーザーにブランドのメンバーになってもらうことを目指すという。ビジネスにおけるメンバーシップでは、企業と個人がそれぞれメリットを交換できなければならない。デジタルを例にすると、顧客がメンバーとしてデータを提供するなら、企業はパーソナライズという形で価値を返すといった関係だ。
デジタルは、顧客とすべてのタッチポイントでエンゲージメントするための武器になると鈴木氏は語る。
「デジタルの時代では、企業のストーリーを伝えるだけでなく、同時に何をやるか、有言実行できるかをセットで考えなければならない。ブランドのビジョンをもとにどういうエコシステム作るかを考え、ストーリーとシステムを組み合わせてマーケティング活動をしていかないといけない。ブランドエクスペリエンスが重視されるなかで、メディアはブランドエクスペリエンスを設計するパートナーになる」(鈴木氏)
ストーリーとシステムを組み合わせて、優れたブランドエクスペリエンスを構築できるブランドは、「コネクテッドブランド」になる。
企業価値のランキング上位をテクノロジーから生まれた企業が占める一方で、古くからの企業も並ぶ。そうした企業の多くは、テクノロジーを取り入れ、コネクテッドブランドに変わってきたと鈴木氏は話す。顧客中心に、サービス、アプリ、イベントなどのブランド体験を設計していくのが正しいやり方だ。
メディア・フォロワーモデル4つの事例
次に鈴木氏は、メディア・フォロワーモデル(第1部参照)に合わせたコネクテッドブランドの4つの事例を紹介した。
(1)社会志向型メディア:Google「Searching for Syria」
社会志向型メディアに当てはまるのは、Googleのキャンペーン動画「Searching for Syria」だ。米国内のシリアに関する検索動向を調べてみると「シリアは何」「シリアはどこ」といった初歩的な質問が多い。そこで、Googleの検索を通してシリアという国を知ってもらうためのスペシャルサイトを作成した。
シリアについて知りたい人々のために、紛争前のシリアがどんな国だったのか、紛争後はどんな状況にあるのか、さまざまなデータや動画などを通じて伝えている。
(2)個人志向型メディア:ナイキ「A/R Jordan」
ナイキ「A/R Jordan」は、人気のバスケットボールシューズAir Jordanシリーズのキャンペーン。マイケルジョーダンが1998年のNBAスラムダンクコンテストで見せた伝説のフリースローダンクから30年。ジョーダンを知らない今の若者たちに、当時のシーンを体験してもらおうと、ダンクシュートをARで再現。アプリ内から、ジョーダンが履いているスニーカーを買えるようにした。
キャンペーンは、コミュニケーションに参加した人がどういう体験をして、何をすれば購入に至るかを突き詰めて設計され、以下の4軸から構成された。
- AR
SNSのSnapChatを通してARを体験できるようにした。 - 3Dモデル
AR上でリアルな3Dモデルのジョーダンを再現した。 - モバイルコマース
ECプラットフォームのShopifyを通してスニーカーをスムーズに購入できるようにした。 - 配送体験
即配サービスのDarkStoreと連携し、注文が完了すると即座に配達される。外で注文して家に帰ったら、すでに商品が配送されていたという声もあった。
(3)能動型メディア:資生堂「資生堂プロフェッショナル」
能動型メディアでは、資生堂プロフェッショナルのアジア事業のビジョンフィルムが紹介された。
資生堂プロフェッショナルは、美容室などのプロフェッショナル向けのサービスだが、製品を購入するだけでなく、スタイリストとして成長するためのコンサルやeラーニングなどのスキルアップ、有名スタイリストとの接点を作れることなど、ビジョンを打ち出す動画を用意し、なぜ美容室が資生堂プロフェッショナルを利用するべきなのかを伝えた。
(4)受動型メディア:サムスン「Galaxy S8」
サムソンは、2017年に発表したスマートフォン「Galaxy S8」の特徴の1つであるエッジがないデザインをアピールするため、ニューヨークのタイムズスクエアにある複数の画面を1つのキャンバスとして、海とクジラをモチーフにした動画を映し出した(Times Square Takeover)。
これは1つの例でWebサイト、モバイルなど、それぞれのメディアによって適した表現、フォーマットを展開した。
人の行動にフォーカスしたデザインアプローチ
鈴木氏は最後に総括として、エクスペリエンスデザインとは、人の行動にフォーカスしたデザインアプローチであり、顧客のニーズや行動を中心に、メディア、チャンネル、コンテキストでブランド体験を作っていくことだと説明した。
同時に、製品の使いやすさ、ブランドの望ましさ、実行可能性などを計算しながらメッセージを伝え、成長戦略を考えていくことが重要だと述べ、次のように締めくくった。
「インサイトをもとに、顧客がどんな環境にあるのか、それに合わせてどんな行動をするのかを踏まえ、いろいろな接点でブランド体験を作ることで、コネクテッドブランドを作れる。メディアに合わせて、異なるアプローチでブランド体験を設計して作っていきましょう」(鈴木氏)
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