「売上20~30%はマシンラーニングで改善できる」DMM.com CTOの松本勇気が描く“事業戦略”と“未来”
2018年、日本のテクノロジー業界でもっとも話題となった出来事の1つ、元グノシー最高技術責任者(CTO) 松本勇気氏のDMM.com CTOへの就任。DMMは松本氏就任後、プログラミングスクール「WEBCAMP」を運営するインフラトップを買収するなど、早くも大きな動きを見せています。
AIがバズワードのように使われる中、40以上の事業を持ち、膨大なデータを保有し、2,000億円以上の売上を出すDMM.com。同社はCTO 松本氏を新たに迎え、どのような事業戦略を策定し、どのようなビジョンを目指すのか。
その全貌を、松本氏に聞きました。
マシンラーニングを前提に、DMM.comをアップデートする
――起業を含め多くの選択肢があった中で、なぜDMM.com CTOのポジションを選択したのでしょうか?
「もともとFintechやファンド、VR周りなどいくつかの領域で起業を検討していたんですが、その際に資本の調達コストというのを考えていました。起業にあたりどれくらい資本が必要か、資本を引っ張るための思考コストや行動コストなども含めた総合的な調達コストはどのくらいか、などです。
ちょうどその頃に、DMM.com前CTOの城倉 和孝さん(現CIO)と仲良くなり、CTOのポジションをやらないかとお誘いをいただき、興味を持ったのがきっかけです」
「それからよく飲みに行き、事業の状態や売上の規模、経営陣の悩みなどを毎月ヒアリングしながら分析させてもらい、これはテクノロジーで改善を加えれば、売上・利益ともに圧倒的に成長させられると確信しました。
DMM.comはテックカンパニーとしてはまだまだ未熟だとしても、膨大なデータとマシンラーニングを掛け合わせることだけでも、売上において20%以上は改善の余地があるのではないかと予想しました。他にも豊富な人的リソースなど、あらゆる点を考慮し、DMM.com CTO就任を決めました。起業するよりもおもしろいことが色々できそうだなと」
DMM.comには、
- 資金
- 人的リソース
- スピーディーな意思決定
など、さまざまなことにチャレンジできる環境が揃っている。
自身で起業となると、資金調達コストや時間などの制約があり、比較的短期でのリターンが求められます。少ないリソースでは、長期的に取り組んだり、市場を取り切りたいと思った時にも動けなかったりしますが、あらゆる側面を考慮した結果、DMM.com CTOがベストの選択肢だったといいます。
――最終的にDMM.comのCTOへ就任されましたが、起業を考えていた際にもマシンラーニングの活用は視野にあったのでしょうか?
「活用というより、マシンラーニングは事業の前提だと思っています。
世間ではAIという言葉が頻繁に使われていますが、AIといってもディープラーニングか、それとも古典的なマシンラーニングなのか、手法はさまざまです。AIは1つのファジーな表現に過ぎないにも関わらず、それを目的に事業を作るのはずれていると思います」
情報キュレーションサービス「グノシー」が掲げるミッションは「情報を世界中の人に最適に届ける」と、もとよりグノシー時代から常にマシンラーニングベースで事業を作ってきた松本氏。
では具体的に、マシンラーニングベースでDMM.comはどのような戦略を、どのような指針の元に目論んでいるのでしょうか。
圧倒的なデータとリソースを武器に、マシンラーニングでチーム・事業を強化
――マシンラーニングを前提とした時、どのようなビジョン、事業戦略を考えているのでしょうか?
「『あたりまえを作り続けられるチームを目指す』という、開発チームとしてどこに向かうのかを示すテックビジョンは掲げています。世界中のベストプラクティスを取り入れて、それを実践できるチームになろうと。
そして、新しいツールや手法が出た時に『あたりまえはこうなんだよ』と我々が提案できる側になるのがビジョンです」
テックビジョンの中で、設けている4つの指針が以下。
仕事を効率化し、多くの挑戦と失敗を繰り返してそのベストプラクティスを広く共有する
サイエンティフィック
数字を共通言語としてエンジニアもビジネスサイドも会話し、科学的に事業を改善していく
アトラクティブ
外からみても中からみても魅力的な企業であり続ける
モチベーティブ
透明性高く、誰もが能力を発揮できる場を作っていく
「4つの指針とともに、
- 技術戦略
- データ戦略
- 広報・人事戦略
- コミュニティ戦略
4つの戦略軸を用意しています」
AIという分脈で注目したいのが、データ戦略です。
――具体的に、データ戦略とは?
「DMM.comは40以上の事業を持っています。そしてすべてのサービスは1つのユーザーIDで統一されています。言うまでもなく豊富な行動データを持っているわけです。
例えば、DMM.comが持つメディアコンテンツはパーソナライズと相性が良く、行動データを使うことで、より効率的に最適なコンテンツ、価値をユーザーに届けることができます」
「マシンラーニングを前提としてユーザーに価値を届けるには、そもそもチームメンバーが事業の数字について正しい見解を持てるのかが重要なので、データを活用するチームを強化することが必要です。
新しい事業を作るのではなく、チームを強化して、既存事業をマシンラーニングでどこまで改善できるかが、僕の最初のCTOとしての挑戦だと思っています」
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