企業のSNS倫理を問う「情プラ法」が4月からスタート、注意すべきポイントをすべて解説!
2025年4月1日に「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)が施行されました。これは旧「プロバイダ責任制限法」(プロ責法)が改正された法律で、SNSやインターネット上での誹謗中傷などの違法・有害情報の拡散を防止し、被害者の救済を迅速かつ効果的に行うことを目的としています。
本稿では、情プラ法の概要と、SNSやインターネットの利用者である一般企業が知っておくべきポイントを解説します。
「プロ責法から情プラ法へ」なぜ改正されたのか・どう改正されたのか
そもそも「プロバイダ責任制限法」(プロ責法)は、インターネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害といった人権侵害への対応を目的として制定されました。しかし近年は、以下のような状況が拡大し、「投稿削除要請への対応の遅れ」が課題となってきました。
- SNSでの誹謗中傷など、他人の権利を侵害する情報の流通・拡散による被害の深刻化
- 情報発信のための公共インフラとして、SNSの重要性の高まり
こうした背景をふまえ、違法・有害情報による被害者に対する迅速な救済と、被害の減少、安心・安全なインターネット利用環境の整備を目指して、「プロバイダ責任制限法」は「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」へと改正されました。
「大規模特定電気通信役務提供者」とは
情プラ法では、「大規模特定電気通信役務提供者」に対し「削除などの対応の迅速化」と「運用状況の透明化」を目的とする新たな措置が義務付けられています。
「大規模特定電気通信役務提供者」とは、「おおよそ月間アクティブユーザー数(MAU)1,000万人以上」または「投稿数200万件以上」などの指定条件を満たし、総務省が指定した大規模プラットフォーマー事業者を指します。
2025年4月30日、総務省は該当する「大規模特定電気通信役務提供者」および「サービス名」を発表しました(今後、指定提供者やサービス名は追加される可能性もあります)。
大規模特定電気通信役務提供者 | 提供しているサービス名 |
Google LLC | YouTube |
LINEヤフー株式会社 | Yahoo!知恵袋、Yahoo!ファイナンス、 LINEオープンチャット、LINE VOOM |
Meta Platforms, Inc. | Facebook、Instagram、Threads |
TikTok Pte. Ltd. | TikTok、TikTok Lite |
X Corp. | X |
参考総務省|情報流通プラットフォーム対処法第20条第1項に基づく大規模特定電気通信役務提供者の指定
「大規模特定電気通信役務提供者」に課される義務
情プラ法は、大規模特定電気通信役務提供者による削除対応の迅速化や運用状況の透明化を目指しており、「(1)削除などの対応の迅速化」「(2)運用状況の透明化」などの措置を義務付けています。具体的な措置は以下の通りです。
- 削除申出窓口・手続の整備・公表(オンラインフォームを通して、被害者が簡単に申出できるようにする等)
- 削除申出への対応体制の整備(法律や社会問題に詳しい専門家など十分な知識経験を有する者の専任等)
- 削除申出に対する判断・通知(原則7日以内・削除しなかった場合にはその旨と理由も)
- 削除基準の策定・公表(削除等の措置を実施する2週間前までに公表・できる限り具体的に)※運用状況も年1回公表
- 削除した場合は発信者へ通知(削除理由も)
参考総務省|令和6年 プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律(概要)(PDFファイル)
SNSを使っている一般企業への、影響と対応策
情プラ法の施行によって大きな影響を受けるのは、上述した大規模プラットフォーマー事業者ですが、一般企業にも影響があります。SNSを活用している企業には、次のような対応が想定されます。
(1)各プラットフォーマー事業者が策定・公開する「削除基準」に沿った投稿の徹底
大規模プラットフォーマー事業者は「削除基準」を策定・公表することになっていますが、2025年5月11日現在は当該各社未公開の状況です。各社の「削除基準」が公開されるまでは、総務省の「違法情報ガイドライン」に目を通しておきましょう。
参考「違法情報ガイドライン(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第26条に関するガイドライン)」(2025年3月11日制定)(PDFファイル)
このガイドラインは、「どのような情報を流通させることが権利侵害や法令違反に該当するのかを明確化し、また、大規模プラットフォーム事業者が『送信防止措置の実施に関する基準』を策定する際に盛り込むべき違法情報を例示するものです」と記載されています。そのため大規模プラットフォーム事業者は、この「違法情報ガイドライン」に含まれる違法事例を「削除基準」に盛り込むことが求められていることになります。一般企業のみなさんも一読をお勧めします。
違法情報(投稿)の具体例としては「名誉権、プライバシー、肖像権、パブリシティ権、著作権、商標権、人格権を侵害する情報」や「わいせつ関係、薬物関係、振り込め詐欺関係、犯罪実行者の募集関係の情報」などが挙げられています。

大規模プラットフォーマー各社がすでに公開している利用規約
情プラ法の施行前から、大規模プラットフォーマー事業者各社は、自社SNSで禁止しているコンテンツや行動を「利用規約」などで公開しています。今後策定・公表される「削除基準」と内容が大きく乖離する可能性は低いと思いますので、これらも一読をお勧めします。
企業の公式アカウントや従業員の個人アカウントから違法・有害な情報を発信することのないよう、必要に応じて「ソーシャルメディアポリシー」や「SNSアカウント運用マニュアル」の改訂も行うとよいでしょう。
また、今後総務省から発表される関連情報や、大規模プラットフォーマー各社の「削除基準」の更新情報など、最新情報を定期的に確認することも大切です。
(2)従業員への注意喚起と行動指針の明確化
一般企業が注意しておきたいのは、情プラ法の施行前と変わらず「従業員が誹謗中傷の加害者になったり炎上原因になったりするリスクは引き続き存在する」という点です。
たとえ従業員のプライベートアカウントや匿名アカウント、鍵付きアカウントであっても、以下のような投稿は避けるべきです。
- 顧客情報、未公開の製品情報を含む投稿
- 許可を得ることなく他人の画像や動画を含めた投稿
- 著作権や商標権を侵害する投稿
- 他者への誹謗中傷、差別的・政治的・宗教的発言など、炎上のリスクがある投稿
企業としては、公式SNSアカウント担当者だけでなく全従業員に対して研修等を実施し、情プラ法の概要やSNSからの情報発信のリスクについて周知すべきです。
情プラ法の施行によって、「一般企業によるSNS発信」に対して、社会的責任の重みが増しています。さらに公式アカウントだけでなく、従業員個人のアカウントから違法・有害情報を発信することでも企業の信頼が損なわれるケースにも留意すべきでしょう。
全社員が、情プラ法の内容および大規模プラットフォーマー各社の削除基準を理解し、違法・有害情報を発信することのないよう、継続的な教育と監督体制を整えるといったコンプライアンス強化が望ましいと考えられます。
ソーシャルもやってます!