マーケターが知っておきたい生成AI

画像生成AIを業務にどう活かす? ゼビオグループが取り組むクリエイティブ制作の効率化

画像生成AI「AdCreative.ai」を活用したゼビオコミュニケーションネットワークスは、ECサイトの商品画像の改善や広告バナー制作の効率化などに成功。活用例を紹介する。

「生成AIをビジネスに取り入れたいけど、具体的にどう活用すればいいのかわからない」――そんな悩みを抱える企業も少なくないだろう。新しいテクノロジーが次々と登場する中で、自社のビジネスにどう適用すれば、具体的な成果に結びつくのか、そのイメージが湧きにくいのは当然だ。

しかし、いま実践的なAI活用を進めている企業がある。それが、ゼビオコミュニケーションネットワークスだ。同社は、Appier(エイピア)が提供する画像生成AIツール「AdCreative.ai, an Appier Group Company(以下、AdCreative.ai)」 を活用し、生成AIでクリエイティブ制作の業務効率化を進めている。特に、次の3つの領域で成果を上げているという:

  • ECサイトの商品画像改善
  • 広告バナー制作の効率化
  • ブランドイメージに合致するAI着用モデルの活用

本記事では、同社の画像生成AIの活用事例を紹介する。

(左から)Appier Group株式会社 シニアCSM 丹羽浩司氏、
ゼビオコミュニケーションネットワークス株式会社
スポーツポイント運営部 次長 坂紀子(ばん のりこ)氏

画像生成AIで解決したい3つの課題

ゼビオコミュニケーションネットワークス(以下、XNOS)は、ゼビオグループの中でEC事業と新規事業に特化しており、グループの会員基盤運営とマーケティングを担っている。2024年3月には、会員ポイント基盤である「スポーツポイント」を一新。顧客データを統合管理し、データ活用やAI活用を模索している。

画像生成AIに興味を持った背景として、坂氏は、ゼビオが抱える商品画像や広告クリエイティブにおける3つの課題を挙げた。

  1. サイトの軽量化と画像品質のバランス
    商品をより魅力的に見せるためにクリエイティブの品質に力を入れたい一方で、ECサイトは表示速度がCVR(コンバージョン率)に直結するため、画像を軽量化しなければならなかった。

  2. バナーデザインの効率化
     昨今、デザイナーを採用するのがむずかしい状況となっている。デザインチームのリソース不足から、キャンペーンや新商品のたびに発生する大量のバナー制作を効率化したいと考えていた。特に、ドラフトを作る際のリソースを効率化することを目指した。

  3. 着用モデルの画像
    ブランドコンセプトと着用モデルのイメージが合わない問題が度々起きていた。特に、専門性の高いスポーツ用品や特定のターゲット層に向けた商品の場合、理想のモデルが見つからなかったり、アサイン費用や撮影までの時間がかかったりすることが課題となっていた。

これらの課題は、多くの担当者にとって共通の悩みではないだろうか。画像生成AIで、どのようにして課題を解決していったのか。具体的に見ていこう。

画像生成AI「AdCreative.ai」の活用事例と成果

XNOSが活用したのは、画像生成AIツール「AdCreative.ai」だ。これは、AI×マーケティング事業をグローバルに展開するAppierが提供するツールで、広告の効果を最大化することに特化している。

これまでに制作された膨大な広告クリエイティブのデータと、それぞれの広告がどれだけ効果があったかという「パフォーマンス指標」をAIに学習させています。これにより「ユーザーの心に響き、最終的に商品購入やサービス利用につながる広告クリエイティブ」を自動生成できます(Appier 丹羽氏)

活用事例1商品画像の改善

XNOSではサイト軽量化のため、商品画像を白背景で統一している。しかし、この統一された白背景が、ときに商品の見栄えを質素にしてしまう懸念があった。

XNOSはナショナルブランドの商品を中心に扱う。高品質でありながら良心的な価格設定であるため、店舗に足を運ばなくてもオンライン上で商品の魅力を詳細に伝えなくてはならない。白い背景画像のまま、いかに商品自体の見栄えを良くするかを追求する必要があった。

そこで「AdCreative.ai」を活用。白い背景の中に商品に陰影を付け、見栄えが良くなるようプロンプトで指示し、商品の形に合わせて影を追加した画像を生成した。複雑なレタッチ作業をAIが自動で行うことで、修正にかける手間を大幅に削減できたのだ。

イメージ画(AdCreative.aiで生成)

既存の画像に陰影を加えるという少しの変化でも、商品一覧に出た際にクリックされやすくなります。広告で競合他社と並んだときも差が出て、クリックレートがよくなります(XNOS 坂氏)

活用事例2広告クリエイティブの効率化

次に、バナーデザインの効率化についてだ。たとえばXNOSが作成したバナー画像をプロンプト化(言語化)し、「AdCreative.ai」に読み込ませるだけで、類似のバナーを大量生成できる。

元となるオリジナルバナーをプロンプト化

実際に入力したプロンプトは、次の通りだ。

夏のゴルフ対策をテーマにした広告バナー。背景には青空の下でゴルフをしている男女の写真。中央に大きく「夏ゴルフ 暑さ対策特集」という文字があり、黄色と黒のハイライトで「熱中症を防いで快適・安全プレー!」と書かれている。商品としてサングラス、冷感シャツ、帽子、水筒、UVスプレーなどが並び、それぞれに「冷感」「UV」「水分補給」のラベルが付いている。全体は涼しげな青系の配色で、スポーティで清涼感のあるデザイン。

大量生成された類似のバナー

さらに「カスタムテンプレート機能」を使えば、企業のデザインガイドラインに沿ったパターンや過去に効果のあったバナーレイアウトをテンプレート化してくれる。テキスト部分もAI提案による書き換えができ、商品画像の差し替えも可能だ。もちろん生成されたバナーは商用利用できる。

バナーの構成案は目的・用途・商材などによって、基本的にはベストプラクティスをテンプレ化しています。しかし新しい企画の際には、草案が必要だったりするので、それをAIが構成案を出してくれると、アイデアの幅も広がって助かります。

また今後リテールメディアを拡大していくなかで、広告バナーの制作を我々が請け負ってAIで作ることも想定しています(XNOS 坂氏)

活用事例3AI着用モデルの活用

最後に、着用モデルの画像に関する課題が取り上げられた。

たとえば、アメカジやアメリカの学生ユニフォームを取り扱うアメフト発祥のブランドのモデルを探そうとする。ラガーマンのような背の高い20代の男性モデルが、ブランドイメージと合致するが、こうした細かいイメージに合うモデルを探し、実際に手配するまでには、多くの時間とコストがかかる。実際に撮影したものの、ブランドイメージと手配したモデルとではズレが生じてしまっていた。

そこで「AdCreative.ai」を活用し、要望に沿うAIモデルを生成。プロンプトには「20代。ガッチリめのアメカジが似合うさわやか日本人青年」と入力した。すると数分で、AIモデルが複数生成される。

プロンプトにより大量生成されたAIモデル

この中から理想とするモデルを選び、さらに商品画像のアイテムをAIモデルに着用させるといった微調整やブラッシュアップを加えると、30分~1時間程度で完成したという。

「AdCreative.ai」には、一度入力したプロンプトを改善する機能もついています。プロンプトにより、僧帽筋のラインや胸筋からのしわの出方など、細部にわたる調整が可能です。

ただ、まだ今は「AIによるイメージモデルです」のような注意書きを入れておいたほうがいいかもしれません(Appier 丹羽氏)

(左)Before:モデル着用の画像。ブランドイメージとズレが生じていた。
(右)After:AIモデルの画像。理想とするモデルで、ブランドイメージとマッチする。

AIによって、イメージ通りの着用画像になりました。ただAIモデルの利用は、メーカー様次第で難しいこともありますので、プライベートブランドなど、比較的取り組みやすい商材からスタートすると良いと思います(XNOS 坂氏)

便利に生成できるとはいえ、AIモデルの倫理的な側面や、ブランドイメージとの整合性など、考慮すべき点はまだ存在するようだ。

今後のAIクリエイティブの活用について

AIによる効率化は、膨大な数の商品を取り扱う事業者にとっては、計り知れないスケールメリットを生み出す。特に、大量のクリエイティブが必要とされるECサイト運営において、AIは強力なパートナーとなり得るだろう。

弊社は10万点以上在庫をかかえています。なかなか地味で手が届きにくい、時間がかかるクリエイティブ業務をAIにサポートしてもらうことで、ECサイトのみならず、グループ全体の購買体験の品質が向上すると思っています(XNOS 坂氏)

画像生成AIの進化は目覚ましく、今後さらに多様な活用方法が生まれてくるに違いない。これらの最新技術を積極的に取り入れ、日々の業務を効率化し、より魅力的なコンテンツをユーザーに提供していきたい。

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