「ソーシャルメディアマーケティング」読了 | イケダノリユキのCommunitainment Blog

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話題の本、読了しました。


●オガワカズヒロ著「ソーシャルメディアマーケティング」SoftBankCreative


Socialmediamarketing


目次はこんな感じです(アマゾンより)


はじめに
序章 顧客と直接対話を実現するソーシャルメディアマーケティング
第一章 新しい戦場――ソーシャルメディアを理解する
第二章 ソーシャルメディアマーケティングの戦略と戦術
第三章 防衛戦――市場リーダーの場合
第四章 直接対決戦――二番手三番手企業の場合
第五章 ゲリラ戦――中小企業の場合
第六章 革命戦――新規事業の場合
第七章 ソーシャルメディアマーケティングのROI
第八章 次世代のソーシャルメディアマーケティング
補章 ソーシャルメディアマーケティング実践プランニング
おわりに


一冊を通じて、「マーケティングは戦争である」という論調で、ソーシャルメディアマーケティングも「いかに企業間戦争に勝利するか」という流れでまとめられています。テクノロジー側に寄った話かと思いきや、孫子の兵法やランチェスター戦略の視点から、企業規模(経営資源の量)や市場ポジション(シェアの順位)別のソーシャルメディアマーケティング戦略の類型がまとめられています


それが、防衛戦、直接対決戦、ゲリラ戦、革命戦というもの。著者には一度もお会いしたことはありませんが、この視点は面白いですね。


<思ったこと>


●マーケティングは戦争。これには同意。マーケティングは競争の学問だから、自社がどこまで頑張ったかというのはある種において関係がない。高度成熟社会においては競争に勝たなければ意味がないので。ただし、戦争とマーケティングの違いは、戦争が「国対国」もしくは「連合対連合」の戦いであるのに対して、マーケティングは「企業対企業」が直接戦うわけじゃないところに注意しなきゃならない。つまり、消費者不在になっちゃダメってことです。もちろん著者はあえて話をわかりやすく展開するために「戦争」という概念をモチーフにして話を展開しているに過ぎないとは思うんだけど、読者が「そうか!戦争か!」と偏って理解しないで欲しいなぁ・・・とちょっと心配になった。


●戦争についてもうひとつ。「ソーシャルメディアマーケティングは企業間競争に勝利する戦争だ」という論調と、ソーシャルメディアマーケティングの本質である「消費者との中長期的なキズナづくり」というSMMの一つのゴールの間には、コンテクストギャップがあるように思えてしまう。マーケティングは確かに戦争だけど、これからのソーシャルメディアマーケティングを語る場合、「戦争」という表現を使うと「力ずく、戦略的にキズナを奪取する」というパワーと知略による「キズナの奪取」というイメージで話が進められてしまう懸念がある。キズナづくりは心と心を紡ぐ血の通った活動だから、そこでも「戦争」という言葉はあまり合わない(著者の真意が誤解されちゃうともったいない)気がした。


●企業規模(経営資源)や市場ポジションによる戦略類型について。これは、通常のマーケティングやマーケティングコミュニケーション戦略の中では当然考えるべきことだから賛成。50億には50億のコミュニケーションプランがあるし、10億には10億、1億には1億のプランがある。1億しか予算(著者の言葉で言えば軍事予算や武器)しかないのに、50億のプランをやっても成功するはずはない。ただし、ソーシャルメディアマーケティングというのは、マスを使ったパワーマーケティングではない。50億かけてソーシャルメディアマーケティングを実施するということはないだろう。ソーシャルメディアマーケティングは、通常のマーケティング活動の全てに関連してくる活動だから、果たしてソーシャルメディアマーケティングだけの競争戦略類型がピタリとハマルのかについては、正直、やや疑問が残る。企業規模や市場ポジション別、というよりも、解決すべき課題や目的別の類型の方がはまりやすいのかなぁ・・・とも感じた。


●twitter活用について。著者は、早くから企業のtwitter活用を支援して来た方々なので、後半はtwitterの具体的活用法を指南している。でも、それはまだちょっと早いとも感じた。この本は、大企業から中堅企業、中小企業から商店街の商店主までいろいろな人が読むだろうけど、それぞれのリテラシーを考えると、「twitterで集客できる、twitterで商品が売れる」とも読み取る人も多いんじゃないかと思った。今回、先週金曜日に旗の台飲み会をやって、早速旗の台の小さな飲食店からフォローされて、「おっ、旗の台の料理屋もtwitter頑張ってる!」というお店も実在したけど、それで本書の補章にもあった「実践プランニング」がどれだけハマるのかについてはそう簡単でもないと思う。twitter活用の論調は、ただでさえその効果への期待が過大評価されてしまうきらいがあるので、もうちょっと抑えても良かったかも、とは思った(まあ著者もビジネスだからそこは飲み込めますけどね)


●テクノロジーへの考察について。ここは著者とのスタンスの違いによるものだけど、ボクはソーシャルメディアマーケティングはテクノロジー論よりもむしろアナログ(人の心や感情、人と人がつながっていく、つながって行きたいと思う心理や本質)に軸足を置いているので、少しテクノロジー先行な気はした。補章の実践プランニングでもあったけど、小さなレストランがtwitterやmixiを活用して情報を発信し、ランチやディナー時間の少し前にTwipicやUstreamでピザの釜や焼き上がりを配信して果たしてどのくらいの人が見てくれるのか?というところにはやや疑問が残った次第。


読了の感想は以上です。


誤解して欲しくないのは、ボクはこの本を批判するつもりはありません。それは、本一冊を書くということがどれだけ大変かを(むかし若気の至りで一冊本を書いたことがあるので)わかっているつもりですし、このスピードでソーシャルメディアマーケティングの本をまとめ、出版したというスピードには同業者として敬意を表するからです。


また、マーケティングやソーシャルメディアマーケティングは捉え方やプレーヤーが多様なので、そりゃ論調や考え方も違ってしかり、というところもあります。いろんな考え方があって、その手法や概念は実践の中で昇華されていくものだと思います。マーケティングは思想や哲学じゃありませんから、実践して成果を出してナンボです(もちろん、その実践や成果には思想や哲学が必要なんですが)。そういった意味では、非常に示唆に富む内容だと思ったし、こういった本をキッカケに共に業界を育てていく感じになれたら良いとも思います。ただし、読み手にそれなりのリテラシーを持った方に読んで欲しいなぁ・・・というのがボク個人の感想(じゃないと結構あっちこっちに引っ張られちゃいそうなので)。


あと、この本やソーシャルメディアマーケティングは、やっぱりある程度まとまった「議論」が必要なのかな、というのも読了した後の感想。いまはtwitterというすばらしいツールがあるわけですが、本格的な議論をするためには、やっぱり140文字というのはキツイ気がします。僕はこう思う、私はこう思う、という骨太なやり取りには、140文字の掛け合いやハッシュタグの流れを追っていくだけでは結構キツイのかなぁという感想(それがいまのソーシャルだ、という考え方も十分ありますが)。


せっかく良い議論ができる先陣をきってくれた題材があるのであれば、やっぱりその議論をさらに熱く昇華されるプラットフォームがあるとよりよいソーシャルによる化学反応が起きる気がしました。これはいつか自分が著者側の立場になることがあったらチャレンジしてみたいと思いました。


<最後に>


ソーシャルメディアマーケティングだけで全ては解決しない。ソーシャルメディアマーケティングは、通常のマスマーケティングコミュニケーションと組み合わせて実施しないとダメよ、その組み合わせ方が変わってきたのよ、という主張はすごく同感です。


でも、いかんせん「ソーシャルメディアマーケティング」に焦点を当てた本だから、ソーシャルメディアの特性や、ソーシャルメディアマーケティングの進め方に話の中心が行ってしまう。一冊の本でそこまで全部網羅するのってやっぱりすごくムズカシイなぁ・・・という思いをより一層強く持ちました。


ただ、これはソーシャル、ソーシャルメディア、ソーシャルメディアマーケティングに対しての認識や理解が、広告・広報・販促・IR・営業、代理店全てに属する方々の中で依然バラバラだから、いまはまだ仕方ないのかな、とも思います。


あと1~2年くらい経って、ソーシャル、ソーシャルメディア、ソーシャルメディアマーケティングに対する認識や理解がある程度均一化された時点で、もっとコミュニケーション戦略全体を俯瞰して、それぞれの特性価値を最大化させるような骨太本が出てくることも期待したい(当然、自分がその中の一部を書けることを今から狙っていきますw)


ということで、まだの方、とにかく一度本書をしっかり読んで、その感想を「好きだ」「嫌いだ」「いいね!」「なんだアレ」という感想だけじゃなく、「オレはこう思う」「私はこう思う」という議論をスタートさせましょう。それが本を書いてくれた著者への敬意ですし、ソーシャルメディアマーケティングうんぬんの前にソーシャル化の本質かと思います。


<追記>


3月1日に、スケダチのタカヒロさんと、オガワカズヒロさんの対談が催されるようです。こちらも注目ですね。

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