クリエイティブコモンズ
発信されたコンテンツの広がりと活性化を促す、
著作権コントロールの新しいルール。
ネット業界で毎日のように登場する新語には、重要なトレンドを生み出すものや、単なるから騒ぎで消えていくものがある。
ここでは、一歩先行くWeb担当者ならぜひとも覚えておきたい注目のキーワードを紹介しよう。
中川 譲
本文中にもあるように、厳密には団体名のことを指すが、一般的にはライセンス自体のこととして使う場合が多い。コンテンツには著作権がからむが、それを踏まえつつも積極的な再配布や再利用を促すことで、よりよいコンテンツを生み出しやすくするためのライセンス。特にネットのようにコピーや流通が容易な環境で活かされる考え方だといえる。
クリエイティブコモンズ(以下CC)は、2001年に設立された非営利法人の名称だ。米国の憲法学者ローレンス・レッシグを中心に、著作物の積極的な流通を目指し現在は世界約40か国でその活動を展開している。この団体が提示するクリエイティブコモンズライセンス(以下CCL)とはどういうものなのだろうか。
CCが目指すのは著作物がより活用され流通しやすい仕組み
CCの考えを理解するには、大まかに著作権法とそれを取り巻く現状を知る必要がある。現在、日本や米国、欧州各国のみならず、世界150か国以上の国々は、ベルヌ条約という著作権に関する国際的な基本条約に加盟している。この加盟国内では、作られたすべての著作物が、政府機関への申請などの必要もなく、表現物を創作した瞬間に自動的に著作権が発生し、その権利が保護されることになっている。これを、無方式主義という。著作権が保護されている場合、当然その著作物を勝手に見たり聞いたりコピーしたりすることはできない。この無方式主義に著作権が発生するという制度は、著作権者にとって有利である反面、ちょっと困った問題もはらんでいる。
無方式主義の下では、たとえば、ある大作家が10年の年月をかけて執筆した長編大河小説も、そこらの駆け出しウェブデザイナーがPhotoShopを使って10分ほどで作りあげたアイコンも、同じように自動的に著作物として権利が保護される。日本では原則として、著作者の死後50年間は権利が続く。しかし、10分で作られたアイコン画像を、作者の死後50年間も保護しておく必要はあるだろうか。
さらにややこしいのは、クリエイター自身が「そんなに長期間保護してくれなくてもいいや」と思っていても、その意思をはっきり示すのが難しいという点だ。例えば、今度の会議の配布資料に貼り付けたくなるような写真が、どっかのウェブサイト上に転がっていたとする。そしてそのウェブサイトの作者は、自分の著作物を50年も保護してほしいとは微塵も考えていなかったとする。それどころか、自分の写真を広めてくれるならお金なんかいらないとまで考えていたとしよう。しかしながら、すべての著作物について自動的に権利が発生してしまうため、別に長期間の保護などいらないとクリエイターが考えていたとしても、利用したい側が簡単にそれを知る手段がないのだ。利用したい側は、まずクリエイターに連絡し、利用していいかどうか交渉する必要がある。これは面倒だ。
現在は情報通信技術が発達したおかげで、多量の著作物を日々生み出せるようになった。コンピュータのおかげで、字を書くのも絵を描くのも音楽を作るのも、昔よりずっとずっと簡単になった。また、ウェブやメール、あるいはブログなどといった、ネットワーク上で莫大な情報を簡単にやり取りできる仕組みも広がった。しかしながら、ベルヌ条約や日本の著作権法は、基本的に書籍という古いメディアを前提に作られているため、現在のさまざまなコンテンツへ一律に適用してしまうのはちょっと硬直的だし、またコンテンツが制作されるスピードが、交渉などの事務手続きに追いつかない可能性も考えられる。CCは、こうした問題を解決しようとしているのだ。
クリエイターの人生やコンテンツパブリッシャーの社運をかけた超大作というのならともかく、今後あまり利益を産みそうにないコンテンツについては「他人も自由に使えるようにしておいたほうが、いろいろとお得なんじゃないだろうか」というのがCCの発想だ。独占的に著作物をコントロールできる著作権法の仕組みを利用して、「他の人が自分の著作物を利用してもいいよ」と決めてしまうわけだ。
これらをまとめると、CCが解決しようとしている課題は以下の3つとなる。
- 著作権者がその利用方法などを著作権法に則った形で簡単に明示できるようにする。
- 利用者の、著作物利用のための交渉などの手間を減らす。
- ネットワークでの流通に向いた形で著作権法を利用する。
CCの使い方とビジネスで得られるメリット
では、CCの具体的な取り組みであるCCLはどう利用すればいいのだろうか。CCLの適用は簡単だ。CCの目指す世界では、それほど強い保護を求めなくてもいい著作物をその著作権者が発表する時、図1に示す4つの条件/アイコンを組み合わせて自分の著作物の利用方法についてあらかじめ決定しておくこと、つまり“自らの著作物にCCLを適用すること”を勧めている。この4つの条件の11通りの組み合わせが、CCLとして著作物と共に示されるものだ。
こうしたライセンスが適用されていることを示すアイコンや、HTMLに埋め込むためのメタデータの生成ツールなどは、すべてCCのウェブサイトから簡単にたどり着けるようになっている。また、すでにCCLが適用されているネットワーク上のコンテンツを利用したいときは、GoogleやYahoo!といった検索エンジンを利用して検索することができる。CCのウェブサイト(図2)にも検索フォーム(図3)が用意されており、ウェブ上に散らばっている写真、絵画、音楽、映像、文章などさまざまなCCLのコンテンツを検索することができる。
ではこうしたCCの目指すところによって、一般企業が享受しうるメリットとは何か。真っ先に、コンテンツの利用についてのコスト削減が考えられる。例えば、企業のウェブや企画書などで利用できるクリップアートや写真などを集めた市販の画像ファイル集は比較的高価だが、商業利用の可能なCCのコンテンツならば、無料で合法的に利用できる。また、店内放送のBGMをCCLの音楽にすれば、音楽著作権利用料の支払いを抑えることもできるだろう。
さらに、企業が自らの著作物にCCLを適用することにも、メリットは期待できる。もちろん、クリエイターの人生やコンテンツメーカーの社運のかかった力作・超大作にCCLを適用し、大勢の人に無料で再利用してもらう必要はないだろう。しかしながら、もし直接的な利益を見込めない文章や、すでに減価償却の済んでいるコンテンツなどを、著作権者の表示を求めるCCLを適用して公開したとすると、他者がそのコンテンツを利用されるたびに社名が表示されることを意味する。これは自社のプレゼンス向上につながりうるだろうし、広告費の抑制を視野に入れた、コンテンツ配布形態も考えられるかもしれない。
情報の流通性と利便性を高めることがCCLの本質
以上から想定される疑問点としては、大してお金にならないコンテンツばかりがCCLで流通しているのじゃないか、それは本当に自分の役に立つのだろうか、といったものがあるだろう。反論を恐れずに大胆にCCの理想像をまとめると、お金を出すほどではないがこの世のどこかの誰かには有益かもしれないというレベルの著作物でも、充分な数が存在していれば、めぐりめぐって自分にとって有益な情報も増えるに違いない、ということが想像される。CCLのコンテンツは、大作映画のように100万人に受け入れられることは求めてはいない。そのコンテンツを喜んでくれる人は多くないかもしれないが、逆に制作コストも圧倒的に少なくて済む。そうしたコンテンツを効率よく流通させるための仕組みがCCLだ。今まで見てきたように、CCLは共産主義でも無政府主義でもなく、資本主義のセオリーと共存していくものだ。今後の情報時代には、著作物のすべての権利を独占しないことが、情報流通の利便性を高め企業の利益を増すという可能性も、考慮してみる必要があるだろう。
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウ vol.2』 掲載の記事です。
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