行動ターゲティング広告
鶴田 淳
ネット業界で毎日のように登場する新語には、重要なトレンドを生み出すものや、単なるから騒ぎで消えていくものがある。
ここでは、一歩先行くウェブ担当者ならぜひとも覚えておきたい注目のキーワードを紹介しよう。
BTA(Behavioral Targeting AD)ともいう。ウェブサイト上での行動履歴をもとにユーザーをセグメント化し、そのセグメントに対して広告を配信するモデル。ウェブサイトやページではなくユーザー(正確にはウェブブラウザ)を特定する点が特徴。iMedia Connection社によると、米国では、2006年のネット広告費全体の20.8%を占めると予想されている(2005年は12.6%)。日本でもimpAct™ネットワーク、Yahoo! JAPAN、日経ネットなどで商品化されている。
コンテンツ(枠)ではなく
ユーザーを起点としたターゲティング
行動ターゲティング広告の仕組みについて簡単に説明しよう。基本的には、次のような流れが、行動ターゲティング広告の手法となる(図1)。
特定の専門分野(たとえばコスメなど)のコンテンツを閲覧する、または特定のキーワードで検索する、特定の広告をクリックする、などの行動履歴情報を蓄積する。
蓄積された情報を分析することでそのユーザーはどの特定分野に興味・関心があるかを推測する。
次にそのユーザーが別のサイト(またはページ)を閲覧したときにその特定分野の広告を掲載する。
その推測の精度が高ければ高いほど自分の欲しい商品の広告が掲載されることになるので、ユーザーにとってもメリットのある広告手法だといえる。
また、米国Jumpstart Automotive Media社によると、平均ユーザーの自動車の購入検討期間(約8週間から12週間)中の全インターネット閲覧時間のうち、自動車関係のサイトに滞在した時間は約3%しかなく、残りの97%は自動車関係以外のサイトを閲覧していたとの結果がある。コンテンツに合わせて広告を配信する既存の仕組みでは、この3%に焦点を合わせなければ、広告の効果が期待できないというわけだ。そこで、コンテンツではなくユーザーをターゲティングすることが重要になってくる(図2)。
またこのことは、広告主が行動ターゲティング広告を実施する動機の一部を示唆している。1つは「専門サイトへの出稿を補足する役割として、行動ターゲティング広告を実施する」というものだ。ユーザーの視聴態度を勘案すれば、やはり関連分野の情報を閲覧しているときのほうが、そうでないときに比べ広告への注目率も高いはずだ。そのため、その商品に関連したコンテンツを有するウェブサイトへの直接出稿は効果が高いと考えられる。しかし、全閲覧時間のうち専門サイト閲覧時間の占める割合が低いときは、その他のサイト閲覧時にも、同じユーザーに対して訴求できる行動ターゲティング広告で補う必要がある、という考え方だ。
もう1つは、「専門サイトの代替枠として行動ターゲティング広告を実施する」というものである。人気専門サイトの広告枠はプレミアム性が高く、ともすれば満稿になりがちで、実施したいタイミングで出稿できないというケースも多い。その場合、ターゲットに対して確実にリーチできるメニューとして、その専門サイトを閲覧したユーザーを起点とした行動ターゲティング広告を実施するのである。
ちなみに、検索連動型広告も、ユーザーが検索した結果のページに広告を配信するため、ユーザーの行動に基づいて広告を掲載しているといえる。ただし、興味分野に該当するコンテンツ(検索結果)上に広告を表示する点では既存の広告モデルと同じだ。大きな違いは、検索連動型広告がプル型であるのに対して、行動ターゲティング広告はプッシュ型であるという点である。検索結果ページ以外のページ閲覧時に、広告をプッシュできる意義は非常に大きい。
より立体的なメディアプランニングが可能に
行動ターゲティング広告においては、ユーザーの行動履歴を取得する側のサイトのことを「プロバイダ」という。このプロバイダの種類によっても行動ターゲティング広告は細分化される。一般的なプロバイダとしては、検索量の多いポータルや専門性の高いページのある媒体社ということになるが、最近ではそれに加えて広告主のサイト自身がプロバイダになり、その行動履歴情報をもとに最適配信を行う新しいサービス(再訪問促進型モデル)も登場している。
図3は、行動ターゲティング広告商品を絡めた広告展開の考え方の一例である。ユーザーを顧客としてとらえた場合、広告主の商品に対して「低関心層」「潜在層」「顕在層」「既存層」の4つの層に分けることができるだろう。商品(サービス)を訴求する場合、この各々の層に対して適切なクリエイティブと広告メニューを組み合わせることで、ターゲットに対して効率的に訴求できるのだ。
つまり行動ターゲティングのテクノロジーを活用することで、ターゲットの購買心理形成プロセスに合わせた立体的なメディアプランを作成することが可能になる。
期待される効果と今後の課題
日本での行動ターゲティング広告は、広告主や媒体社にようやく認知されて注目が集まり出したところだ。今後媒体社とサービス開発事業者によるチューンナップが進められることで、既存のメディアビジネスの範疇を超える可能性を秘めた手法であることは間違いない。期待される効果と今後の課題について、以下にまとめておこう。
期待される効果
ユーザビリティ向上によるコンバージョン率のアップ
前述のとおり、もともと興味・関心の高いであろうユーザーをターゲティングする手法なので、ユーザーにとってみても良い効果を発揮する確率が高く、結果的にコンバージョン率の向上が見込まれる。よく似た効果としてはAmazonのレコメンド機能がある。
フリークエンシー効果による認知、理解促進
同じ理由から、ターゲティングされていない通常メニューに比べると、1人のユーザーに対して配信される広告量が格段に多くなる可能性が高い。したがって刷り込み効果ともいえる認知効果やブランド理解促進効果が見込まれる。
再訪問促進型モデルの発展形における満足度向上
再訪問促進型モデルの発展形として、どのページを閲覧したかによって広告主ウェブサイト内のコンテンツを最適化して配信できる。ユーザーとの接点として、ウェブサイト内の満足度をアップさせるツールとしても機能させることができる。
クリエイティブの重要性
以前から頻繁にいわれていることであるが、インターネット広告におけるクリエイティブの精度は、残念ながらまだまだ成熟していない。行動ターゲティングに限らず、ユーザーをターゲティングするということは、より細分化するということに他ならないので、訴求する内容や表現手法にもきめ細やかな配慮と工夫が必要なのだ。先に述べた「ユーザーの購買心理形成プロセスに合わせたクリエイティブ訴求を行う」ことで、行動ターゲティング広告の本当の効果が発揮されるといっても過言ではない。
今後の課題
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウVol.5』 掲載の記事です。
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