ペルソナデザイン
商品やサービス開発に使える新たなユーザー設定の方法。ユーザー像が具体的になり、ターゲットを絞り込むことができる。
中村順子(株式会社大伸社)
実際の調査から得られた明確かつ具体的なデータをもとに、物語調で象徴的なユーザーモデル(架空の人物=ペルソナ)を作成すること。ペルソナは、ユーザーが本当に望んでいる製品の開発をサポートするマーケティングのためだけでなく、ソフトウェア開発やウェブ構築、デザインを真にユーザー志向にするために有効な手法だと言われている。現在では、マイクロソフトやアマゾンはもちろん、米国の大手ウェブデザイン会社の多くでペルソナが使われているといわれ、近年、日本でもペルソナを利用する企業が増えてきている。
ユーザビリティ、対象ユーザー、ユーザー志向デザイン
ペルソナ——より厳密な「ユーザー視点」
ウェブ制作では常に重要だとされる「ユーザビリティ」だが、多くの場合、ウェブサイトの使い勝手のよさやわかりやすさを示すあいまいな概念として使われてきた。しかし近年になって「ユーザーにとっての効果・効率・満足度の向上(ISO9241-11)」や「開発プロセスに顧客志向の考え方を取り込んでいくという人間中心設計(ISO13407)」といった厳密な方法に注目する企業が増えてきている。ウェブサイトの品質管理において、ユーザーの視点を正しく取り入れることがますます重要になってきているのである。これは、ウェブサイトの役割が情報発信的なものから、よりインタラクティブなものに変化してきていること、また、企業とユーザーとのかかわりがより多面的になってきているからだろう。
「定量調査」とは、アンケートなどでデータを集めて数値を分析する方法。
「定性調査」とは、インタビューなどで意見を集めて言葉を分析する方法。
そのような中で注目を浴びているのが、人間中心設計プロセスの1つの手法である「ペルソナデザイン」だ。「ペルソナ」とは、定量調査と定性調査から得た情報をもとに、ユーザー像を物語調で具体的に記述したプロフィールのことである。顔の見えにくい漠然とした「ユーザー」ではなく、あたかも実在する人物のように記述されているので、ユーザーが何を求め、どのようにウェブや製品を選んでいるかなどを、具体的かつ体系的に深く理解できる。
関係者のバラバラな「ユーザー像」からの決別
ユーザー志向の開発というのは、口で言うほど簡単には実行できない。人は本来自分本位で、自分の欲求に基づいて製品開発してしまう傾向を持つからだ。ユーザーの多様な要望や好みを把握して記憶するのは簡単ではなく、作り手は往々にして自分が推測した機能、すなわち「自分志向」の機能を開発してしまいがちである。
また、多くの組織では明確なユーザー定義はなく、各人のポジションや経験によって定義も認識もバラバラだ。それぞれの作り手は自分の考えるユーザー像こそが正しいと思い込んでいる。仮に、作り手が「正しく」ユーザーのことを把握できていても、意思決定者である部長や役員に「我々のユーザーはこうだ。長年ユーザーを見てきて一番よく知っている!」と押し切られることも多い。
さらに、正しいユーザー情報を得られても、きちんと全体に伝えるのは難しい。メンバーが異なった解釈をすることもあるし、工程を進むうちに、部門やメンバーの都合のいいものに変化したり忘れられたりすることもある。
どこの会社やプロジェクトでも起こりうるこうした課題を解決するために、ペルソナは有効なのである。
ペルソナデザインがもたらす5つの効果
ペルソナデザインを用いることで期待できる効果は以下のとおりである。
ユーザー像を絞り込める
万人のニーズを満たそうとすると、選択肢が多く決断しにくくなる。その点、ペルソナは、あらかじめ意味のある属性のみを組み込んで記述されたものなので、「だれのために何を作るのか」を明確に定義できる。感情移入しやすい
ペルソナは物語調で書かれ、具体的な氏名やその人物の写真も準備されている。あたかもその人物が実在の人物であるように感じられることから、箇条書きや数字の分析資料よりも感情移入しやすく、ニーズを感じ取りやすい。共有しやすい
ペルソナは調査から得られた情報を記載したものであり、読みやすい形にまとめられているので、メンバーの納得を得やすく、共有しやすい。効率的になる
設計の初期でペルソナを利用すれば、早い段階でさまざまな決断がサポートされ、時間やコストの無駄が削減できる。よい決断を導く
詳細な調査もとに作成されたペルソナは、勘や憶測を排除した適切な決断を導く。
本格的なペルソナ作りは手間がかかる
では、実際にペルソナを取り入れる場合のオーソドックスな流れを紹介しよう。
まずは、保有している顧客情報や定量情報(アンケートなどの数値データ)を分析し、ターゲットユーザーをセグメントに分割する。
重要なセグメントから代表的なユーザーを選んでデプスインタビュー(深く質問を投げかけていく手法)を実施し、ユーザー自身でさえ自覚していないニーズ・深層心理を引き出していく。
①②による定量調査の情報とインタビューから得た情報をキーワードのような要素に分解し、カテゴリごとに分類・分析する(ファクトイドの分析・統合)。
それぞれのカテゴリごとに特徴を書き出していき、まだ物語調で記述されていない、要素の羅列を作成する(これをスケルトンとよぶ)。
でき上がったスケルトンに合う名前・年齢・職業・などを設定し、この人物が取り組むテーマ(たとえばウェブで買い物をするなど)に対して持っているゴールや目標を設定、物語調に書き上げる。
こうしたペルソナ作成を外部に委託して行う場合は、図3のような費用が発生する。
- 調査費用——アンケートやインタビューを行う場合には、実施する件数、内容、難易度などに応じた費用が発生する。インタビュー相手への謝礼なども考慮しておく必要がある。
- データを整理する費用——データのテキスト化や、分類・分析には労力がかかるので、これを外部に委託すればそれなりの費用が発生する。
- ペルソナを書き上げる部分も専門家に委託すれば費用が発生することになる。
簡易ペルソナでもいいが必ずインタビューを
予算や時間が足りない場合は、詳細な定量調査は省いてもいいが、必ずインタビューを行った上でペルソナを作り、それを「簡易ペルソナ」として使うようにしよう。
間違っても、メンバーでブレストだけでユーザー像を作り上げるべきではない。結果的に物語調で表現されたとしても、実際のデータに基づいていないペルソナは十分に役割を果たせない。
また、ペルソナを利用する場面では、「何を構築するか」「サイト内でどう動かすか」「何を伝えるか」「どんなイメージにするか」についてのすべてをペルソナのために考えるようにすること。「高野さんだったらそんな情報に興味ない」「高野さんはこっちの機能のほうがうれしい」のように。そうすれば、サイト内だけの最適化でなく、どのようにサイトに訪れ、サイトを出た後、どのようなことが必要になるかなど、その前後の体験をも設計する必要性をおのずと感じるようになるはずである。
御社のウェブサイトのユーザビリティを向上させたり、マーケティングへの活用を促進したりできればとお考えの場合は、ペルソナデザインの導入を検討してみてはいかがだろうか。
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