SIerの雄がネットマーケティングサービスに本格進出/NTTコミュニケーションズ
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
ネットマーケティングの核になる顧客データ分析と連携
アクセス解析を中心とした新たなサービスを作り出していく
取材・文:野本 幹彦
写真:渡 徳博
2009年3月25日、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ(NTTコミュニケーションズ)が、アクセス解析などのサービスを提供するデジタルフォレストの株式を100%取得し、業務・資本提携を行うことを発表した。また、同時に企業向けマーケティングソリューション分野に本格的に参入することも発表している。通信事業者であり、SIerとしても高い技術力を持つNTTコミュニケーションズと、Web担当者Forumの読者にも馴染みが深いアクセス解析ツール「Visionalist」を提供しているデジタルフォレストがパートナーになることで、どのような企業向けマーケティングソリューションが生まれてくるのだろうか。経営企画部のサービス戦略担当である塚本良江氏に、NTTコミュニケーションズのマーケティングソリューション戦略を伺った。
マーケソリューションの鍵になる顧客データ分析技術を求めた
●編集部 NTTコミュニケーションズは、これまでどのような形でWeb関係のサービスやコンサルティングを行ってきたのでしょうか。
●塚本 NTTコミュニケーションズのWeb系のサービスは、ポータルサイトの「goo」(NTTレゾナント運営)やISPの「OCN」などに代表されるように、コンシューマー向けのサービスが中心です。法人向けには、SI(システムインテグレーション)ソリューションという形で、お客様のご要望に合わせて構築してきているため、ネットワーク、サーバーオペレーション、セキュリティ、CMSをはじめとするアプリケーションなどとともに、必要に応じてWeb回りのサービスやコンサルティングを行ってきました。法人向けとして、自社のプロダクトやサービスを持っていたわけではなく、要望にあわせてカスタマイズするSIサービスを行っています。
●編集部 今回のデジタルフォレストとの業務提携および資本提携には、法人向けにNTTコミュニケーションズ独自のプロダクトを提供する狙いもあるということでしょうか。
●塚本 そうですね。法人向けの領域に深く広く入っていくために、これまでのSIソリューションを提供するとともに、自らのプロダクトサービスも提供していくことになると思います。
●編集部 提携によって「企業向けマーケティングソリューション分野への本格参入」ということを打ち出していますが、新たなプロダクトやサービスを提供するにあたって、マーケティングソリューション分野に目を向けた理由を教えてください。
●塚本 これまでのマーケティングは、クリエイティブやアートの世界が強く、システム化が難しい分野でした。既存の顧客だけでなく、膨大な数の潜在顧客に向けてマーケティングを行わなければならず、デジタル化やデータ化を行うこともできません。その流れを変えてきたのが“ネットマーケティング”です。ネットマーケティングによってネット内での顧客の行動をデジタル化し、データベース化していくことで、システムにつなげていくことができるようになってきました。このような新しい流れがインターネットの浸透によって生まれてきています。
NTTコミュニケーションズとしても、これまでさまざまなSIソリューションを提供してきた中でネットマーケティングに関するソリューションもシステム化して提供できるようになってきましたし、ネットマーケティングの市場も広がってきています。その際に核となるのは、“顧客データの分析”です。顧客データベースを構築し、顧客情報をしっかりと解析してマーケティングソリューションとして提供できる技術とノウハウ、つまりは“アクセス解析”の技術を持ったパートナーを必要としていたのです。
アクセス解析を核に総合的なソリューションを提供
●編集部 アクセス解析のベンダーは数社ありますが、最終的にデジタルフォレストとの提携に至った経緯を教えてください。
●塚本 アクセス解析ツールを開発する技術を持っているだけでなく、顧客データを分析してマーケティングソリューションとして提供できる技術、ノウハウを持っていることが、提携に至った最大の理由の1つにあげられます。アクセス解析の領域にはさまざまな会社がありますが、デジタルフォレストのアクセス解析の技術とアクセス解析を中心としたコンサルティングのノウハウは非常に高いものでした。NTTコミュニケーションズとしては、アクセス解析のプロダクトを単体で販売するよりも、アクセス解析を核として総合的なマーケティングソリューションを提供したいと考えていたので、自社で技術を持っていて、私たちの技術と連携させられることが必須条件でした。これらの条件を考えて、自社ですべての技術を開発し、プロダクトの商標も持っているデジタルフォレストと組むことになりました。
●編集部 国内のベンチャーであるということも提携しやすさにつながったのでしょうか。
●塚本 国内企業であったということは、それほど重要ではありません。ただし、デジタルフォレストがネット系で独自の技術を持っている数少ない国内企業であることは非常に高く評価しています。ネット系の高い技術を持った企業は米国に多いので、NTTグループとしても、日本市場の活性化にとっても、デジタルフォレストのような企業を大事にして、一緒に育っていきたいと思いますね。
●編集部 両社の技術を連携させていく中で、これまでベンチャーとして技術を培ってきたデジタルフォレストとの間で技術者の人事交流なども行っていく予定なのでしょうか。
●塚本 具体的な人事交流は決まっていませんが、NTTグループとしてうまく連携して文化を培っていけるように常勤の取締役はデジタルフォレストに出しています。技術者の出向は行っていませんが、Visionalistの販売の主管となっているプラットフォームサービス部の技術陣とデジタルフォレストの技術陣とは頻繁に話をし、議論を活性化させていますね。ベンチャーとして良い技術を作り上げてきたデジタルフォレストと、信頼性と安定性の高い技術を提供してきた私達が融合することで、上位レイヤにも信頼性の高いソリューションを提供できるようになると考えています。また、システムコンサルを行ってきた私たちの社員とデジタルフォレストのマーケティングコンサルの社員がチームを組んでいくことも想定しています。
良くも悪くも、NTTグループには自分で技術開発をして市場に出していくという文化があります。ですから、自らの技術で作り上げてリリースをしていくという、職人魂のようなところが似ている文化の会社だと思います。その点、一緒にいろいろ検討するのがとてもやりやすかったですね。
中小規模にはVisionalistのASPを、大規模サイトにはSIソリューションを
●編集部 今後展開していくマーケティングソリューションは、どのような企業をターゲットにしようと考えられているのでしょうか。
●塚本 中小規模のサイトに対しては、従来のVisionalistのASPサービスで網羅できる範囲だと考えています。NTTコミュニケーションズとしては、月間1,000万PV以上の大規模サイトをターゲットとして、ASPサービス単体ではなくSIソリューションとして提供していく予定です。アクセス解析やコンサルティングをベースにして、サイト全体のSIを提供するような展開を考えていますね。具体的には、フルカスタマイズできるエンタープライズ版と比較的安価に利用できるアプライアンス版を提供する予定です。
アクセス解析を入れて、サイト全体に対するコンサルティングから入って、ソリューションを提供する。しかも、ECをやっているので顧客データ、基幹データ、在庫データとつながないといけないとなると、何億円という予算規模のSIの世界になっていきますが、そういった大規模サイトのソリューションにも対応していくことができます。
NTTコミュニケーションズはこれまで、多くの大企業のお客様の信頼をいただいていますが、Web回りのマーケティングが重要になってきている中で、これまでのSIソリューションにプラスして、上位レイヤのWeb系を強化したソリューションを提供していかなければならないと考えています。
両社の技術連携によって新たなマーケティングサービスを作る
●編集部 両社の技術を連携できることが提携の条件にありましたが、従来のSIソリューションにVisionalistの技術を活かすだけでなく、技術を連携させた新たなサービスを提供することも考えられているのでしょうか。
●塚本 今回の提携には2本の柱があり、1つ目は先ほどお話した「法人向けマーケティングソリューションの共同提供」で、2つ目が「アクセス解析と連携するネットマーケティングサービスの共同開発」になります。
たとえば、NTTコミュニケーションズのIAC(先端IPアーキテクチャセンタ)では、レコメンデーション技術の商用テストなどを行っています。また、NTTレゾナントでは、検索連動型広告などの技術を持っています。これまで、これらの技術は単体として存在していたのですが、今回アクセス解析を中心にこれらの技術を自動的に連携させることによって、ネットマーケティングサービスを構築しようと考えています。具体的には、サイトにタグを複数埋め込むのではなく、1つ埋め込むだけで必要なネットマーケティングサービスを利用できるというイメージですね。システムに手を入れることなく、さまざまなラインアップのサービスを選択できるようにしていきたいと考えています。さらに進化していけば、アクセス解析から顧客の興味のありそうな商品を分析してコールセンターに伝え、コールセンターからプッシュの電話を入れるといったこともできるようになってきます。できるだけ早く、サイト上だけでなくコールセンターやCRMを使ったマーケティングに活用できるようにしたいですね。
●編集部 具体的なサービス構築計画は出ているのでしょうか。
●塚本 第一弾として、レコメンデーションエンジンとアクセス解析の連携を2009年夏ぐらいからテスト参加してくださる企業様に対してご提供していく予定で、早い段階での商用化を目指しています。その他の技術との連携も順次行っていく予定ですが、レコメンデーション技術を最初に手がけるのは、それがNTTコミュニケーションズ内でもすでに商用利用されており、OCNやgooでも利用して高い成果を得られている技術だからです。レコメンデーションは、市場のニーズも高いですから。
また、レコメンデーションを行うと、在庫管理のデータベースと連携しなければならないなどの基幹系システムとの連携が必要となってくるので、大型のSI案件の受注にもつながると考えています。
●編集部 大規模なSI案件だけでなく、中小規模のサイトに向けたASPサービスのVisionalistでも、レコメンデーション機能や他の機能との連携が提供されるようになるのでしょうか。
●塚本 はい、その予定で考えています。ASPサービスで機能を提供するというのは、1つのトレンドでもあるので、積極的に取り組んでいこうと考えています。
企業の基幹システムの一部としてWebシステムが捉えられるようになってきた
●編集部 御社はこれまで、社内システムや基幹系システムの構築がSI事業の柱となっており、企業の情報システム部門をターゲットにしてきたと思われますが、今後はマーケティングが新たな柱となり、マーケティング分野の部門もターゲットにしていくということでしょうか。
●塚本 これまでは、基幹系システムは情報システム部門が扱っており、マーケティングは営業部門やマーケティング部門が扱っていたり、個々の部門が単独でWebを立ち上げたりしていました。しかし、最近では社内のネットマーケティングの比重が大きくなってきたため、各部門別のWebを統合するといった作業を情報システム部門が請け負うようになってきています。Webシステムも基幹系システムの一部として捉えられるようになってきたため、情報システム部門が私達の営業部隊の窓口となることも多くなると思います。もちろん、マーケティング部門などの新たなターゲットも開拓していかなければならないと思いますが、ネットマーケティングは、これまでと同じ情報システム部門が窓口となっていくような重要な領域になってきていると思います。マーケティングとテクノロジーの融合がまさに今始まろうとしている流れの中で、マーケティング面での開発を強化するためにデジタルフォレストと提携したということですね。
●編集部 そういった意味では、ターゲットとなる企業形態も変わってくるということになるのでしょうか。
●塚本 これまでNTTコミュニケーションズは、B2Cのサービスも行ってきましたし、SIソリューションなどでB2Bのサービスも提供してきました。これまではB2B2Cという形でサービスを出してきていないのですが、今回の提携をよい材料として、事業範囲が広がる可能性は持っていると思います。
●編集部 今後のサービス開始時期や、提携後の売上目標を教えてください。
●塚本 SIソリューションとして提供する法人向けマーケティングソリューションは、2009年5月頃から開始する予定です。レコメンデーションエンジンとの連携については、テスト提供の結果次第ですが、2009年度内の商用化を目指し、その他の機能との連携も随時商用化していきます。売上目標としては、デジタルフォレストを含めたマーケティングソリューション全体で2011年に50億円の売り上げを目指しています。3か年計画で、2009年は仕込みを十分に行い、2010年から本格的に事業化していく予定です。
●編集部 最後に、読者へのメッセージをお願いします。
●塚本 テクノロジーを使ったマーケティング展開やマーケティングソリューションは、これからどんどん登場してくると思います。その分野において最先端のサービスをよい形で提供していきたいと考えていますので、積極的に活用していただければと思います。また、私たちが気づかないニーズがあれば、ご要望次第でサービスそのものも作り込んでいきたいと思っています。
●編集部 ありがとうございます。
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
- 所在地 ● 東京都千代田区内幸町1丁目1番6号
- 代表取締役社長 ● 和才 博美
- 営業開始日 ● 1999年7月1日
- URL ● http://www.ntt.com/
- 事業内容 ● 国内、国際電話サービスを始めとした電気通信事業など。法人向けに企業の経営課題を解決するさまざまなソリューションの提供を行うほか、個人向けISPサービスやコンテンツ配信サービスなどを行う。
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