企業ホームページ運営の心得

ネット選挙という思考実験。日本でCHANGEは実現するか

今だ選挙期間中のネット活動が禁止されている日本。ネット選挙解禁で日本のオバマはうまれるのか
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百参十弐

子ども手当という昭和の経済政策

昭和時代、選挙が近づくと「バラマキ政策」が語られたものです。これは「定額給付金」のようなもので、公共工事に補助金、助成金と様々な形があります。当時から批判されていましたが、今振り返るに理にかなっていたのだと感心します。バブル崩壊までの戦後日本はお金の価値が少しずつ下がっていく「インフレ経済」で、選挙のたびにお金をばらまく約束をして「お札」を印刷して増やせば自然と価値は下落します。「財源」を気にするのは野暮というモノ。政府にとってお札は「印刷物」なのですから。ジョークですよ、たぶん。

選挙が近づくとこちらも話題となるのが「ネット選挙解禁論」。我が国ではいまだに選挙期間中のホームページ更新が認められておらず、局所的に話題沸騰中の「Twitter(ツイッター)」も利用できません。これらを理由に梅田望夫さんは7月27日の産経新聞で「時代錯誤」と評しています。それでは選挙活動でネット利用が解禁となれば劇的に変わるのでしょうか。

ネットによる動員! の先に

まず「規制論」をみてみます。ネットリテラシーによる情報格差「ネットデバイド(デジタルデバイド)」ですが、これはナンセンスな話です。そもそも「ネットだけ見ている人」はまれで、新聞雑誌、テレビ、クチコミと情報源は多様で、選挙活動でいえば街頭演説やチラシ配布、テレビの政見放送などに「ネット」というチャンネルが増えるに過ぎません。

また、アルファブロガーなどネット界で影響力を持つものの発言へと偏ることを危惧する声もありますが、それは1つの政治活動ですから問題視する方がおかしいのはないでしょうか。思想と表現の自由に属する話ですし、事実無根の誹謗中傷と同列で論じるのは腐敗物と発酵食品を混同するようなモノです。第一、選挙は地域単位で行われるので、全国的な「ネット世論(せろん)」が地域の「民意」にスライドされると考えるのはファンタジーです。また「全国区」でみても「非ネット世論」のほうが多数派です。

Twitter議員は誕生するのか

次に「解禁派」の主張です。選挙期間中のブログの頻繁な更新で「ライブ感」は増し、「Twitter」がリアルタイムな情報共有を実現し政治への参加意識の高まりが期待できます。しかし、24時間更新できるブログが候補者を苦しめます。「いつ書くのか?」ということです。立候補者の選挙期間中のスケジュールは殺人的で、僅かな時を惜しみ有権者と握手します。有権者を待たせて携帯電話でブログを更新できるでしょうか。一般的な大人ならこうした所作を「無礼」と評します。その場にいる他人様を気にせずケータイを操作する「世代」を票田とする立候補者ならば、ネット選挙解禁は有利になるでしょうが、その票田に実る稲穂はまだマイノリティの可能性が高いです。

選挙カーでの移動時にも手を振り、スーツのまま田んぼに踏み入り泥だらけになり握手をする日本型選挙に「Twitter」で呟く時間はありません。それでは「ゴーストライター」に書かせたとします。するとエントリーとリアルの活動を時系列で並べて矛盾を指摘する暇な「ネットの住民」の餌食となります。

米国の法律と文化の違い

また、選挙は「安価」になりません。従来の「チャンネル」が不要になるわけではなく、ネットという新しい「チャンネル」が増えるのですから、従来の選挙費用に「上乗せ」されることでしょう。駅前や街頭で政策を訴えることを「辻立ち」といいます。選挙期間以外の「ネット更新自由」のときでも彼らが辻立ちするのはそちらの方が効果が高いからです。「リアルでの接点」をもてるのは「狭い日本」ならではです。「広い米国」ではそれを補うために「ネット」が活用されます。

そして私の結論は「それほど変わらない」です。解禁されればおもしろいとは思いますが、リアルの現場から見て、劇的に変わるとは考えにくいのです。

解禁派は「オバマ大統領がネット献金により巨額の資金を集めた」ことをあげますがこれはフェアな論拠ではありません。米国にはもともと「個人献金」の文化があり、そこにネットが「手軽さ」を提供したという前提が抜け落ちているからです。

オバマの事例を持ち出されても

「Facebook」や「MySpace」でオバマコミュニティを作り横のつながりで選挙を盛り上げ、そこから小口ながら超多数の募金を集め潤沢な選挙資金を手にし、「YouTube」で自分のメッセージを動画で流しました。こうしたネットサービスの活用が米国オバマ大統領の「神話」となりつつあります。そしてある記事にこうありました。

「オバマはネット初の大統領」

何をもって「初」とするかで議論がわかれるでしょうが「時系列」でみれば、先日亡くなった「盧武鉉」前韓国大統領が最初です。それにオバマ神話は「結果論」によるところが大きく、彼に負けたヒラリーや、何より共和党の失政が強く、松浦静山の言葉を思い出します。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」

負ける側には必ず理由があるということです。

ネット世論が国論となる日は……

「ネット選挙」が解禁されたとしても現時点では日本から「オバマ」が誕生することはないでしょう。国民性と政治的土壌が違いすぎるのです。たとえば、トム・ハンクス、ジョージ・クルーニー、ロバート・デ・ニーロ、ハル・ベリーなどの著名人は早くからオバマ支持を表明しました。米国の各メディアが共和党、民主党の「どちら側」であるかはデイリースポーツが阪神タイガースをひいきするぐらいの常識です。

ひるがえって日本ではどうでしょうか。ネット選挙を論じる「識者」ですら自分の支持政党を表明しません。政治活動、政治参加に対しての「ネット外」の土壌が違いすぎ、ネット解禁によって「新しい風」を期待するのは「ネットユートピア論」と重なる幻想です。いつも呟くことですが、ネットはツールに過ぎず、ツールだけで政治(リアル)は変えられません。

ちなみに識者ではありませんが、私は「消去法的自民党支持」です。国防と教育において、各党を消去していくとここしか残りませんでした。

♪今回のポイント

ネット選挙のまえに国民の意識。

狭い国土が生んだどぶ板選挙。

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