「続きはWebで」と誘導して生まれる不信を99%回避する方法
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百弐十七
続、勝手に診断!
わたしは「チラシ」と「ホームページ」は互いを補完すると考えています。速報性においては、朝に仕入れたトマトを、その日の特売品として告知できるホームページに軍配が上がりますし、動画やリアルタイムの双方向性といった拡張性でもホームページの圧勝です。しかし、毎日ネットを見ない人は今でも少なくはありません。一方、チラシを利用している人は多く、博報堂DYメディアパートナーズは今年の秋から、新聞を定期購読していない世帯にチラシだけ宅配する「とどくる」というサービスを開始します。
Web業界風にいえば
コンシューマのレイヤーによりリーチが異なる
のです。つまり、チラシかホームページかという二者択一の議論はナンセンスで、ターゲットによって使い分け、予算と状況が許せば「両方」取り組めばよいのです。ところが、意外と難しいのが「チラシとネットの融合」です。前回も引用した「葬儀社」を例に見ていきます。
SEOにこだわることはない
葬儀社のホームページは、すっきりとまとめられ好感のもてる仕上がりです。SEOがまったく施されていないのは残念ですが、葬儀社の客の99%は地元の住民で、チラシの他にも電柱、バス、地域誌などにも広告を打っており、そこから集客できるのならSEOにこだわる必要はありません。SEOは集客のための「手段」であり「目的」ではないからです。
それではチラシとサイトを見比べます。一般的なチラシは「Z」の筆順で見られるため、最初に目を向ける「左の上(左肩)」にメイン商材(目玉商品)を置きます。ここには「問い合わせナンバーワン」とキャプションがあり、「家族・親族葬42万円プラン」が掲載されています。前回も述べたように、チラシのクオリティは高く、セオリーは踏襲されています。ところがサイトに目を移すと、トップページに大きく掲載されているのは「家族葬30万円プラン」です。
ナンバーワンにまつわる疑惑
情報の不一致は客の混乱を招き、不信を生むきっかけになります。チラシの目玉商品はホームページでも目玉にするのがベターです。「チラシ特価」や「Web限定商品」なら、かならずその旨を明記して客の混乱を回避します。しかし、葬儀社のチラシに「チラシ限定プラン」という記載はありません。
ホームページ上のプランで、「家族・親族葬42万円プラン」に最も料金が近いのは「密葬45万円プラン」でした。知人の葬儀社に聞いた話では、密葬に厳密な定義はなく、家族や親族だけで行う葬儀のことで「密葬=家族・親族葬」です。しかし、そのことを知っている素人は少ないでしょう。だいいち値段が違います。つまり、客にとっては名前も値段も異なる「別のサービス」ということで、チラシに謳われた「問い合わせナンバーワン」をホームページで見つけることはできません。そこから「問い合わせナンバーワン」というキャプションに、客が疑問を持つのは自然な流れです。
2つのプランを見比べると、火葬場送迎用の「マイクロバス」がチラシには含まれておらず、その分、安くしたのだろうと推測できますが、だったら、ホームページも更新しなければなりません。
次々とほころびが
チラシで次に目立つのが「家族葬B30万円プラン」。キャプションには「新プラン」とあります。これはホームページのトップページで大きく扱われていた「家族葬30万円プラン」と同じです。「B」の有無はわずかとはいえ、客の混乱を招くので好ましくありません。なにより「新プラン」がホームページに掲載されているのに、すでに実績があるはずの「問い合わせナンバーワン」がホームページでは未掲載であることに、客の不信感はより高まることでしょう。
情報不一致はまだまだありました。チラシにあってWebにないものを列記すれば、随時開催しているという「事前相談会」に十箇条からなる「ポリシー」に、「ご葬儀説明会」と「定期開催セミナー」、小冊子プレゼント規格の「葬儀Q&A」、テレビ出演の実績や施設案内もありません。加えて、「訴求企画」である「葬儀の内訳」も見つかりません。さらにチラシでは写真付きで紹介されている、お料理や返礼品、生花や棺がホームページでは文字だけの掲載となっています。
差分をチェックする客心理
チラシには社名が入力された風の「検索窓」と「検索」をクリックする矢印が描かれており「続きはWebへ」と演出しています。ところが、もっと詳しい情報を知りたいとホームページを訪れると、チラシの方が詳しい情報が掲載されています。これでは本末転倒です。
チラシとホームページを見比べる人はいないと反論があるかもしれません。実はチラシを頻繁に配布している会社は、こうした情報の不一致を客から指摘される経験をしており、店頭で「ホームページ間違っていたわよ」とお得意様からお叱りを受けています。情報の確認と、より良い情報を求める客心理がそうさせるのです。これはパンフレットやDMでも同じです。経験則ですのでデータとして提示できませんが断言します。チラシを見た後、ホームページで確認する客は少なくありません。
リアルでリンクする
一方、ホームページ以外の広告宣伝を、たまにしかしない、まったくしたことがない企業は情報の不一致に気がつきません。客の大半は「サイレントカスタマー」で、不満や疑問に声を発することなく、静かに立ち去るだけで、間違いを指摘されないままホームページは公開され続けます。
チラシとWebを連動させる方法はとても簡単です。チラシの打ち合わせにWeb制作会社も同席させてしまいます。その場でチラシの企画にWebをアジャスト(調整)させれば情報の不一致はおこりません。また、いろいろな事情から、Webに細かく手を加えることが難しい場合は、チラシを画像やPDFで掲載して「チラシ限定」と注意書きをいれればよいでしょう。情報不一致で不信を買うぐらいなら、不便なサイトの方がはるかにマシなのです。不信とは商売でもっとも大切な「信用」を揺るがしますので。
今回のポイント
情報の不一致は不信感のもと
チラシとWebは必ず連動させる
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
- 企業ホームページ運営の心得の電子書籍
「営業・マーケティング編」「コンテンツ制作・ツール編」発売中! - 『完全! ネット選挙マニュアル』
現場の心得コラムの宮脇氏が執筆した電子書籍がキンドルで2013年6月12日発売! - 『食べログ化する政治』ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある(2013年8月1日発売)
ソーシャルもやってます!