初代編集長ブログ―安田英久

武雄市が公式ホームページをFacebookに全面移行……アリ? ナシ?

「意味がわからない」「すばらしい試み」賛否両論のこの動きはアリか、ナシか。
Web担のなかの人

今日は、ある地方自治体がホームページを全面的にFacebookに移行した話題を取り上げます。「意味がわからない」「すばらしい試み」賛否両論のこの動きはアリか、ナシか。

武雄市役所のホームページ、8月1日にFacebookに全面移行

佐賀県武雄市が、8月1日に市役所のホームページを全面的にFacebookページに移行しました。現在、市のURLにアクセスするとFacebookページにリダイレクトされるほか、Google検索でもFacebookページが1位に表示されています。

Google検索の1位にFacebookページが表示されている

現在、武雄市役所のFacebookページでは、ウォールやディスカッションボードでの情報発信ややりとりのほか、通常の市役所ホームページに掲載しているようなコンテンツをFacebookページ内で閲覧できます。

こうした市政情報は、データとしては本来の武雄市役所のサーバー(www.city.takeo.lg.jp)に置かれており、Facebookページ上ではiframe(ページ内インラインフレーム)を使って元のサーバー上のコンテンツを表示しています。iframe内に各種コンテンツへのナビゲーションを備えているため、他のコンテンツを探したり移動したりといったこともしやすくなっています。

通常の市役所ホームページのコンテンツを閲覧可能。iframe内にコンテンツナビゲーションを設置している

このように、通常のWebサーバーとコンテンツ管理の仕組みを利用してFacebookページを運営するのは理に適った仕組みで、最近のCMSはこうした機能をサポートするものが増えてきているようです。

データはすべてFacebookではなく市の管轄するサーバーに保存されているため、もしFacebook上で武雄市役所のアカウントが停止されたり、Facebook自体がサイトを閉鎖したりした場合には、元サイト上のHTMLを少し変えるだけで、武雄市役所のドメイン名上でページを見られるようになります。

また、Facebookというと「実名登録制」に注目されがちですが、現在のFacebookページはFacebookに登録していない人でも閲覧できます。そのため、武雄市役所のページは、Facebookアカウントがなくてもコンテンツを閲覧できます(コメント投稿などにはFacebookアカウントが必要)。

これはアリ? ナシ? 賛否両論

市役所ホームページのFacebookページへの全面移行ということで注目を集めている武雄市ですが、当然のことながらその移行に関する評価は賛否両論となっており、「すばらしい試みだ」という賞賛もあれば、「何を考えているんだ」という問題の指摘もあります。

武雄市では、そうした意見や要望に関しても、Facebookページ上でのディスカッションボードで投稿を受付、随時回答しています。

広報視点=◎、実質的な意味=これから?

では、Web担的にはこの移行はアリなのでしょうか? ナシなのでしょうか?

実験的な試みでもありますし、単に「市役所ホームページの移行」という側面だけでこの件を語るのは難しいので、少し視野を広げて考えてみましょう。

まずは広報的な観点から。地方自治体の広報活動として見ると、これは非常に成功したといえるでしょう。一般紙や各種ニュースで取り上げられており、広報的な観点からは、大きな成果を上げているといえます。

次に、「ひらかれた市政」の推進の観点。その市民へのアピールと、市長の意思を関係者に(衝撃的な形で)伝えて意識を変えさせる手段の1つとしては、効果的なのだろうと感じられます。

しかし、開かれたオープンな市政というものは、サイトをFacebookに移行すればできあがるものではありません。

情報を発信することも、情報に対するコメントを受け付けることも、ディスカッションボードでやりとりすることも、いずれもFacebookとは関係なくできるものです。ウォールでの書き込みはブログで事足りるし、コメントのやりとりも、必要ならば実名登録制でやればいい。

Facebookの利用ユーザーが今後急激に増えることを想定しているのならば、コメントなどのソーシャルプラグインを使ってオウンドメディア上で展開すればいいだけであり、無理にFacebookページに移行する必要はありません。コンテンツは市のサイト上で更新し、今のウォール相当の内容をFacebookページで更新するだけでもFacebook内の情報の拡がりは同様になるでしょう。

Facebookページに全面移行するということは、それだけ閲覧者に不要なオーバーヘッドを課すことになります。

在住者・通勤者・観光者と、年齢から職業から幅広いユーザーを対象とする地方自治体のオンラインコミュニケーションとしては、わざわざFacebookという新たなインターフェイスへの習熟を強いるのは適切なのでしょうか。私とてこうした仕事をしているのでなければ、おそらく「今自分が知らない何か新しいもの」の習得は、何らかのメリットがなければ喜んで行うことはないでしょう。本来ならば市民が平等に受けられるはずの市役所からの情報提供サービスを受けるのに、講習を受けなければわからないような仕組みを介するのは、私ならばご免被りたい。ましてや、お年寄りはそういったことを望まないでしょう。

とはいうものの、そうした「新しいもののバリア」はインターネット初期にもあったこと。インターネット以前に比べれば、ネットを介した情報コミュニケーションというのは、ほとんどの人にとって「新しいよくわからないもの」でした。そういった意味では、大きな問題ではないと考えるのもアリでしょう。

いま武雄市に関する話は「Facebookページに全面移行した」というツールや場の話題が中心になっていますが、ツールや場はあくまでも手段であり、本当に重要なのはそうした手段によって「何を達成するのか」です。

本当にオープンなコミュニケーションを実現したいのならば、場ではなくその運営がポイントとなります。それは今後ずっと続くものであり、Facebookを通じて市とコミュニケーションをしようとする人が増えれば増えるほど、今よりもはるかに工数がかかる面倒なタスクになっていくはずです。

まさかFacebookページへの移行がゴールではないでしょうから、11月に実装される予定だという「誰も思いつかない、とっても便利な機能」や、今後の行政コミュニケーションの運営によって、この移行が市政や市民などステークホルダーにとってどんな意味をもつのかが見えてくるでしょう。

突っ込みどころは多々あれど

Facebookページ移行で最も大きな問題となるだろう基本的な仕様については冒頭に記載したように大筋では問題をクリアしているようですし、iframeで作るFacebookページも、実際のところなかなかよくできています(iframeコンテンツに対して普通の人はパーマリンクがわからずリンクを張れないという、SEO的には致命的な欠点がありますが)。

とはいうものの、プライバシーポリシーがFacebookページ利用を前提としていないとか、当初はSSL接続のことを何も考慮していなかったとか、Facebookへのアクセスを制限されている企業内からのアクセスではJavaScriptをオフにして(!!)元のドメイン名へアクセスしろなんて無茶を指示しているうえにその情報がFacebookでしか閲覧できないとか、Facebookページ内でのサイト内検索が実装されていないとか、仕様上の事前に詰めておくべきだった点に関する突っ込みどころは多くあります。まぁ、そのあたりは徐々に改善されていくでしょう。

また、クリックすればトップページへ行くという共通認識であるページ左上ロゴをクリックすると武雄市とぜんぜん関係ないFacebookのトップページに飛ぶ(しかも未登録ユーザーならユーザー登録画面!)とか、ページ左にメインナビゲーションがあるのはFacebookユーザーならわかるけれども、何の知識もなく最初にウォールが表示されたときに、上部にログインボックスとかアカウント登録推奨バーとかあってどこから情報を見ればいいかわからないのではないかといった、Facebookに慣れていないユーザーが情報収集をする際のユーザビリティ上の問題点も多いでしょう。いちど、想定する市民などのパネルを対象にユーザビリティテストを実施してみることをオススメします。

さらに言えば、どのコンテンツがどれくらい見られているかなんて適切にアクセス解析を使えばいいだけの話であって、そうした基本ができていないならどんな場に行っても結果は同じだろうとか、「いいね!」の数なんて実際のサイレントマジョリティの一部の声しか反映していないのでそれだけを見るのはエンタメ系以外では判断を誤る可能性があるとか、まぁ、アレな部分はいろいろとありますので、今後の運用にあたっては解析系の専門家の声も聞き入れるといいでしょう。

◇◇◇

とはいえ前述のように、武雄市としては、何か達成したいことの手段の1つの「とっかかり」としてのFacebookページ利用でしょうから、今後の動きに注目ですね。

1点だけ読者の方に強く伝えたいことは、「市役所ホームページのFacebookページへの全面移行」という表層的な事実だけをもってこの事例をとらえるのは愚かしいことだということです。ソーシャルメディアという場は今後の地方自治体にとっても重要なのは確かですが、場は場であり、大切なのは全体として達成するべきゴールとそのためのコミュニケーション設計です。地方自治体のWeb担当者さんがもし「こちらで武雄市さんのようにFacebookに全面移行を」という提案を受けても、安易にほいほいと乗ってしまわないように注意してくださいね。

用語集
HTML / JavaScript / SEO / Webサーバー / アクセス解析 / ステークホルダー / ソーシャルメディア / ドメイン名 / ナビゲーション / パーマリンク / ユーザビリティ / ユーザビリティテスト / リンク
この記事が役に立ったらシェア!
メルマガの登録はこちら Web担当者に役立つ情報をサクッとゲット!

人気記事トップ10(過去7日間)

今日の用語

リファラー
ブラウザがWebサーバーに送信する情報(アクセスログ)のひとつで、ユーザーがリン ...→用語集へ

インフォメーション

RSSフィード


Web担を応援して支えてくださっている企業さま [各サービス/製品の紹介はこちらから]