CMSがコンテンツだけを管理する時代は終わった。データ連携と最適化のマーケ統合の時代へ/アドビ システムズ
今やWebサイトの構築にCMS(コンテンツ管理システム)は欠かせない。しかしそのCMSも次の世代へと進化しているのをご存じだろうか。
一部の高機能CMSは、単にコンテンツをデータベースで管理してサイトのページを表示するだけでなく、さらにデータを元にして訪問者ごとに最適な体験を自動的に提供するような、マーケティング統合型のシステムを実現している。
CMS + マーケティング機能 = 次世代マーケティング統合CMS
CMS + アクセス解析・テスト・パーソナライズ・ソーシャル対応……
この記事では、そうした次世代のマーケティング統合型CMSの1つである、アドビ システムズ社の「Adobe CQ(シーキュー)」の担当ディレクターであるスティーブ・ハモンド氏と、アドビ システムズ株式会社の代表取締役社長であるクレイグ・ティーゲル氏のインタビューをお届けする。
CQはサイト上で最善の体験を提供する
「Web Experience Management」のシステム
●アドビではCQのことを「CMS」ではなく「WEM」だとしていますが、そもそもCQどういったものなのでしょうか。
●ハモンド氏 Adobe CQは、いわゆるコンテンツ管理のためのウェブCMSに、アクセス解析やA/Bテストなどのデータを自動連携させることで、Webサイトの訪問者に対して最善のカスタマージャーニーを提供するためのシステムです。
「コンテンツ」を管理するだけでなく、サイト上での訪問者の「体験(エクスペリエンス)」を管理することから、アドビでは「CMS」ではなく「WEM(Web Experience Management)」システムと呼んでいます。
そもそもCQはスイスのDay Softwareという企業(2010年にアドビが買収)が提供していた大規模サイト向けのコンテンツ管理システムですから、いわゆるCMSが備えている機能は備えています。テンプレート(フレームワーク)を設計し、コンテンツをデータベースで管理し、サイト上でページを生成することや、ユーザーやサイト更新のワークフローを管理したりといったことですね。もちろんWeb担当者は、ブラウザを使ってサイトのコンテンツ(画像やページ)を追加したり更新したりできます。
また、デジタルアセット管理もできるため、企業がもっている数百万もの画像、ビデオ、HTMLなどの素材をマーケターが使いやすい状態でCQが管理しておけば、マーケターにも便利なはずです。素材を探したり手配したりといった手間が省けますからね。
さらにCQは、マーケティング機能を統合しているのが特徴です。たとえば、訪問者の属性や状態に合わせて異なるコンテンツをサイトに表示するパーソナライゼーションや、異なるコンテンツをテストするA/Bテストや多変量テストなども、同じインターフェイスからマーケターが自由に設定できるのです。
「サイト上での体験」を最善のものにするためのデータとしては、訪問者ごとのサイト上での行動データを利用したり、CRMデータと連携したりできますし、アドビの他のマーケティングツールとも統合されていますので、そのデータを利用することも可能です。たとえばSiteCatalystのアクセス解析データをパーソナライズに利用したり、Scene7と連携してデジタル画像ライブラリ内の画像を引っ張ってきたりバナーの画像データ内のレイヤーごとに表示する内容を変えたりといったことも実現できます。
整理すると、CQは、
- Webコンテンツ管理
- デジタルアセット管理
- マーケティングキャンペーン管理
といったWebエクスペリエンス管理に求められる3つの要素を統合しているもので、さらにソーシャルコミュニティ管理やマルチチャンネル管理などの機能も含んでいる次世代のマーケティング統合CMSなのです。
マーケターが開発者の手を借りずに「簡単に」「シンプルに」改善を
●CQのフィロソフィーは? つまり、どんな機能があるかではなく、だれが、なにを達成するためのシステムとして作られているのでしょうか?
●ハモンド氏 まず、誰のためのシステムかでいうと、Web担当者やマーケ担当者と、情報システム部のようなシステム系の担当者という大きな2つのくくりがあります。
Web担当者やマーケター向けには、システム担当者の手を煩わせることなく、サイト訪問者(つまり顧客)のための改善を自分で行えるシステムとして提供しています。
多くのWeb担当者は、サイトの仕組みに変更を加えたりテストしたりするのに、システム担当者の都合で2週間~4週間ほど待たされることがあるのではないでしょうか。そうしたことがなく、マーケターの希望を「簡単に」「シンプルに」テストして実行できるようにすることが、CQのフィロソフィーなのです。
システム系の人たちにとっては、サイトの規模が大きくなっても問題なく対応できるスケーラビリティをもち、時代の流れに応じて対象が増え続けているマルチデバイス(スマホやタブレットやアプリなどを含む)に対応できるシステムとして提供しています。
実際のサイト作成や管理のシーンでは、マーケターが何をしたいのかの目標を明確に示し、それを実現するための柔軟なフレームワークをシステム担当者がCQに作ることになります。
ですから、マーケターに大切なのは、顧客が何を求めているのか、ビジネスがどう顧客に価値を与えようとしているのかを理解していることです。
いっぽうシステム担当者としては、マーケターの考えていることを理解していて、どんなデータをどこから引っ張ってくればいいのか(CRMや会計システムなど)を押さえられていることが大切です。そうすることで、適切なフレームワークをCQ上に実現できます。
そうすれば、あとはマーケターがCQ上ではドラッグ&ドロップで条件を変えたりしてテストしていけるのです。
クリエイティブ製品群との連携に強み
●CMSとマーケティング機能を併せ持つ「統合マーケティングスイート」としては、ほかにオートノミー、サイトコア、オラクルなどが提供しているものがありますが、それらの製品との違いは?
●ハモンド氏 CQの中核となる強みは、「データ・コンテンツ・最適化」の3つをもっていて組み合わせられること。
また、もともとアドビが得意としてきたクリエイティブ製品群との連携も強みです。特にAdobe Creative Cloudを使うことで、制作会社とのコラボレーションが非常にスムーズになります。外部のデザイナーが仕上げたクリエイティブが自動的にCQの中にデータ同期され、デジタルアセットとして管理できるようになりますから。
また、クリエイティブ製品群との連携でコスト削減というメリットも出てきます。
たとえば、データに応じてバナーに表示するメッセージや写真を自動的に変えるという場合を考えてみてください。通常ならば、10パターンなり20パターンなりのバナーを事前に準備しておく必要があります。しかしCQをScene7と連携することで、画像データの特定のレイヤーだけを自動的に差し替えて画像を生成できますので、事前に大量のクリエイティブを完成品として作っておく必要がなくなります。
さらにCQはDay Software時代から、Javaにおけるコンテンツの管理とアクセスに関する標準仕様「JCR(Java Content Repository)」に準拠しており、拡張性に優れている点も特徴です。たとえばアプリや他のサービスなどからCQのデータを利用する際にも、標準仕様に則って柔軟なデータアクセスができるのです。
Touch Clarityの高度な自動ターゲティングも
●CQではペルソナを設定してパーソナライズできますが、その柔軟性は? 他社の製品では、事前に設定した条件に厳密に合致しなくても、いくつかの傾向のうちどのセグメントに近いかを判断して自動的にセグメントを割り当ててくれる機能がありますが。
●ハモンド氏 CQの「One to One Behavioral Targeting」の機能は、もっと楽で簡単に利用できる機能だと思います。
オムニチュアが2007年に買収したTouch Clarity社の行動ターゲティング技術をベースとしているのですが、高度なモデリングによって自動的にターゲティングを指定してくれるという機能です。
さまざまなデータを利用してターゲティングを行えるため、SiteCatalystなどのAdobe Digital Marketing Suite(DMS)のデータや、他のCRMなどのデータを利用できます。
また、そこに予測型マーケティングを加えることで、さらに強力になります。予測型マーケティングはかなり成熟してきている技術ですが、アドビは予測分析に関してはこれまでも積極的に投資をしており、機能拡張していますから。
自動ターゲティングや予測型マーケティングを統合していることで、どのトレンドを見ていくのが良いのか、どのセグメントを見るべきかを、大量のデータからマーケターが個別に分析していかなくても成果を向上させることができるようになっていくのです。
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