ダメコンテンツを量産するより“ビッグコンテンツ”に挑戦するべき理由とその方法(後編)
この記事は、前後編の2回に分けてお届けしている。後編となる今回は、ビッグコンテンツがもたらすメリットと成功の鍵について見ていこう。 →前編から読む
II. ビッグコンテンツのメリット
僕が「ビッグコンテンツ」という言葉でどんなものを指し示しているかについてある程度わかってもらえたところで、実感できるメリットの話に移りたい。
ビッグコンテンツは確かにトラフィックやリンクを呼び込むが、それだけならば、ほかの成功したコンテンツも同じだ。ビッグコンテンツならではのメリットを、そして、ビッグコンテンツには量以上の価値がある理由を、みんなに理解してほしい。
II-1. ビッグコンテンツは寿命が長い
前回紹介したユーザビリティ・チェックリストを作った僕の経験からもわかるように、ビッグコンテンツには人々が戻ってくる。十分な取り組みと調査によって本当にユニークなものを作れば、公開から長い時間が経っても「常に新鮮さを失わない」のは当然と言ってもいいだろう。
そして、古びないばかりではない。ビッグコンテンツはオーディエンスを作り出す。いや、そうではなく、それを望むオーディエンスがいるとき、適切なタイミングで適切な場所にあるものなのだ。
1つ例を挙げよう。僕が深く関与したもう1つのビッグコンテンツとして、SEOmozの「グーグルのアルゴリズム変更の歴史」がある。扱っている範囲もビッグなのだが、公開後もどんどん更新されていて、歴史を扱った記事の中でもちょっと変わったものになった。僕はこれを「生きている」ドキュメントにしようと意図したんだ。
人気の落ちない「アルゴリズムの歴史」だが、出だしは普通のコンテンツと大して変わらなかった。まず最初のピークがあり、それから落ち着いていく。最初の2カ月はこうだ。
公開直後のピークはまずまずだった(ページビュー数は9000を少し超えるくらい)。初日に盛り上がって数日で横ばいになるというのは、SEOmozのブログ記事ではかなり典型的パターンだ。「アルゴリズムの歴史」へのアクセスがその後も続いたのは確かだが、2011年中は低い数字で安定していた(1日あたりのページビュー数は200~400)。2011年全体のトラフィックは、ユニークなページビュー数が6万3000だった。
2012年になっても最初の数か月はこれが続いた。穏やかな増加はあったが驚くようなものはなかった。そして、4月がやってきた。
4月25日にページへのトラフィックが急増した。この日がどんな日だったかわかるだろうか? ペンギン・アップデートの翌日、つまり、グーグルのアルゴリズムに新たな関心が向けられるようになった日だ。
驚くべきことに、この関心は途絶えることなく、最初のペンギン・アップデートから何か月経っても続いている。2012年1月から9月までのユニークページビュー数は20万に到達した。
要するに、「アルゴリズムの歴史」は「常に新鮮さを失わない」だけではなく、森を丸ごと1つ生み出したのだ。業界が変わるとき、ビッグコンテンツはいつでもそこに待ち構えている。時宜を得ればすぐに力を発揮する信頼とオーソリティを備えて。
2. ビッグコンテンツは参入障壁となる
手軽なコンテンツは競争上の優位をもたらさない、と説明したのを覚えているだろうか?
簡単なものが真似しやすいのに対し、ビッグコンテンツは障壁となる。「アルゴリズムの歴史」のようなものはこれまでにもあったので、さらにビッグですぐれたものにしなければならないことはわかっていた。それを成し遂げた時、僕らは後に続く人たちが越えるべきハードルを引き上げたんだ。
このテーマについてほかの人がもう決して書くことはできないだとか、もっとうまくやる人が出てくることはないなどと考えるほどうぬぼれてはいないが、期待される水準が上がり、それにしたがって競争相手がなすべきことの難易度も上がった。
検索において、こうした障壁は自らの増築まで始める。リンクやソーシャルメディアにおける言及を獲得したビッグコンテンツは、検索順位を上げ、その結果さらにリンクを獲得し、それが繰り返される。
ビッグコンテンツは、トラフィックを増やし、ブランドを強化し、手軽なコンテンツにこだわる人々には決して登れない壁を構築するんだ。
3. ビッグコンテンツはビッグなアイデアを生み出す
手軽なコンテンツは流れ作業のようなプロセスだ。それは同じものをより多く生み出すことであり、突き詰めると数の勝負ということになる。
これに対して、ビッグコンテンツはイノベーションを育む。そして、プロセスそのものが変わってしまうこともある。
「アルゴリズムの歴史」のための調査をしていて、僕らはグーグルのアルゴリズムについてよくわかっていないのではないかという感覚がずっとあった。そして僕は、グーグルの日々の変化について測定する方法を考え始めた。数か月後、SEOmozの新しいサービスとしてMozCastが誕生した。
しかし、それもまだ始まりにすぎなかった。MozCastは単なるビッグコンテンツではなかったんだ。それは、あまり前例のないデータを生成し分析するエンジンだった。
そして8月、僕はSEOmozに一番乗りをさせた(と思う)。僕らは大手のニュースサイトを出し抜き、検索結果ページの7件表示が始まったことを見抜いた。それだけではない。7件表示の検索結果がどれくらい広がっているのかを示すことができた。
僕の記事やデータは、Search Engine Land、Search Engine Roundtable、さらにはあのThe Guardianにも取り上げられた。それ以降、MozCastのデータは、SEOmozブログの多くの人気記事を支えてきた。
ごめん、自分のしてきたことをまたぞろ繰り返すつもりはないんだけど、大事なポイントを強調しておきたい。1つのビッグコンテンツ(「アルゴリズムの歴史」)から始まったものが、新しいツール(と公開されたウェブサイト)になり、新しいデータセットになり、たくさんのコンテンツになった。そして、僕にとってまったく新しい指針となった。
僕が作ったコンテンツは実のところ、データを生むものであり、そのデータはさらに新たなコンテンツを生むものだった。簡単に言うと、僕のコンテンツがコンテンツを生み出していた。自分で言うのはなんだが、これはかなりすごいことだ。
III. リスクとコストを管理する
君たちが考えていることはわかる。
もちろん、SEOmozは1800万ドル相当の資金調達をしたんだからね。でも、そうじゃない僕らはどうなんだ?
でも、これは僕が払拭したい迷信の第1位なんだ。ビッグコンテンツは労力を必要とするが、大金が必要なわけではなく、リスクを管理する方法もある。次に挙げる3つの戦術は、僕にとって大きな効果があり、そのおかげで僕のビッグコンテンツは産声を上げることができた。
III-1. MVP(検証のために必要な最低限の機能だけを持つ製品、Minimum Viable Product)を作る
時には、うまく行くかどうかはやってみないとわからないということがある。
MozCastの始まりは、コンセプト、いくつかの方程式、そしてキーワード50個の(PHPとMySQLで書いた)クローラーだった。僕はバックエンドを自分で作った(この点は現行のバージョンも同じだ)し、チームのみんなに加わってもらったのは、このデータが興味深いということを自分にもチームにも示せるようになってからだ。
これで、リスクも投資額もとても小さくなった。作るだけの価値があるものを僕がついに準備したときには、チームは喜んで参加してくれた。
もちろん何事にもリスクはあるわけだが、まず最低限の形を作る「MVP(Minimum Viable Product)」という考え方は、製品だけに留まるものではない。大作のブログ記事はまずアウトラインから書く、動画はまずストーリーボード作る、インフォグラフィックスはナプキンの裏にスケッチを描く、そういうことから始められる。
人に見せて実行に移せるくらいアイデアができたら、そこにきちんと命が宿っているかどうかを確かめる。もしイエスなら、すでに何がしかを手にしたようなものだ。たとえノーだとしても、まだ時間やお金に余裕はある。
III-2. 1つのアイデアにすべてを賭けることはしない
満足できるMVPができれば、失敗に対してより穏やかな気持ちでいられる。というのも、もはや失敗しても最悪の事態を招くことはないからだ。
たとえば僕の場合、コンテンツの多くはデータで成り立っていて、常に2~3個の実験を進行させている。言い換えると、2~3個のアイデアのためにデータの収集を進めている。そして、だいたい3個のうち2個は、うまく行かなかったりおもしろいものにならなかったりする。
しかし、気にすることはない。1つがうまく行けば、たいていは失敗を埋め合わせるのに十分過ぎるほどだ。本当のリスクは、アイデアの1つがうまく行かないことではない。本当のリスクとは、アイデアの持ち合わせが1つしかないことだ。
III-3. ビッグなエバンジェリストを見つける
ビッグコンテンツのカギは、それを自分の持ち物のように大切に世話をする人が必要になるということだ。時間、組織、そして実行力が求められるだろう。しかし、大きな代理店や、業界の第一人者などは必要ない。やる気のある人材がいればいいんだ。
最初の頃に僕の目を引いたビッグコンテンツとして、Distilledによるリンクベイトの壮大なガイドがある。オリジナルのコンテンツや精選されたコンテンツなど、大きな苦労が見てとれる情報が満載のものだ。
しかし、意外な事実がある。このプロジェクトは、当時わずか16歳だったエド・フライという少年が2週間のインターン期間の内に築いたものだということだ。
チームの協力があったことは明らかだし、エドがありふれたインターンだったと言うつもりもない。将来を嘱望される頭のいい人物だ。しかし、熟練した業界のベテランではないし、広告業界の中心地であるマディソン街にオフィスを構えているわけでもない。彼には、ビッグプロジェクトを最後までやり遂げようというモチベーションがあり、Distilledは賢明にもその情熱を活かしたんだ。
時として、「ビッグ」とはやり切る意欲をもった人物を探すことに尽きるというわけだ。
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