東日本大震災で廃業寸前、ピンチをチャンスに変えた加工品会社の復興ストーリー
この記事は、姉妹サイトネットショップ担当者フォーラムで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。
東日本大震災直後、廃業寸前に追い込まれたある加工食品会社が新たな一歩を4月に踏み出そうとしている。岩手県大船渡市に本社を置く水産加工会社「及川冷蔵」。従業員を全員解雇し廃業を覚悟したあのときから6年がたった。「けっぱれ岩手」――こうした言葉に後押しされ事業再生にまい進、ネット販売などを通じて事業再生を成し遂げた「及川冷蔵」の復興ストーリーに迫る。 ※楽天さんの紹介を受け、楽天カンファレンス仙台で取材し、記事にしました。
「楽天市場」のお客さまから、励ましの手紙やメールをいくつも貰ったんですよ。わざわざ会社まで足を運んで激励してくださった方までいて。うちの店のことをそこまで思ってくれる方がいるなら、再開しなくてはいけないと思いました。
津波で工場は全壊し、販売するものがなくなった。廃業を覚悟した。だが、震災後、楽天市場で常連客だった方たちから励ましの声がいくつも届いた。だから事業を再開した――こう振り返るのは、海産物の加工と販売を手がける及川冷蔵の及川廣章社長。
文化2年(西暦1805年)の創業。主力事業は、イクラやサンマなど海産物を一次加工して全国の食品会社への卸売り。直販を始めたのは2000年3月。「楽天市場」に出店し、「及川屋」の屋号で海産物の加工品のECをスタートした。
当時はインターネットで食品を買う消費者は少なかった。だが、EC市場拡大の時流に乗って売上高は右肩上がりで伸びた。震災前、EC事業の年商は最高で約1億6000万円に達していた。
2棟の自社工場が全壊し廃業も覚悟
EC事業が順調に成長していた2011年3月11日、東日本大震災と直後の津波で2棟の自社工場がほぼ全壊した。ECを含む全ての事業が休業に追い込まれた。及川社長は、3月末に約50人いた従業員全員を解雇する決断を下した。
震災後、地元の漁港での水揚げの見通しが立たたない状況が続く。廃業を決断する水産加工業者も増えていった。「廃業が頭をよぎった」(及川社長)。
自社工場の全壊、従業員の解雇。事業を再開できる状況ではない。だが、廃業の決断を下すことはなかった。
長年培ってきた及川冷蔵の伝統と歴史に誇りがありますし、お客さまや従業員のためにも、なんとしても再開したいという想いがありました。
こうした想いが及川社長を突き動かし、「震災後1年以内に事業を再開する」と決心した。
そして、震災から半年後の2011年9月。工場などの設備がなくても製造できる商品として、サンマやイワシ、イカなどの天日干しを作り、卸売を再開。解雇した従業員約15人を呼び戻した。
商売人魂でEC再開を決意
震災から3年が経過した2014年。工場の再建と従業員の再雇用が徐々に進む。卸売事業は回復の兆しが見え始めていた。だが、経営課題は山積みの状態。ECを再開するメドは立たなかったという。
こうした状況下、EC再開の決断を後押ししたのは、震災後に顧客から届いた激励の手紙やメールだった。
手紙やメールをくださった方々は、「楽天市場」店で普通に買い物をしてくださっていたお客さま。個人的にやり取りしていたわけではありません。それなのに手紙をくれたり、会社まで足を運んでくださったりした。
「パソコンがないと再開できないでしょ」というメッセージとともに、パソコンやプリンターが送られてきたこともありました。本当に嬉しかったですし、なんとしても再開しなくてはいけないと思いました。
リピーターだった顧客からは、及川屋の商品が買えなくなることを惜しむ声が寄せられた。こうした顧客からの声が、会社復興に向かって全身全霊を注ぐ及川社長の原動力となった。
この地域は定期的に大きな津波がきます。1896年の「明治三陸大津波」のとき、私の先祖は曾祖父を除いて皆、亡くなった。そのときも、曾祖父はお客さまに支えられて事業を再開したと聞いています。
うちの商品を美味しいと言ってくれる方が1人でもいるなら、どんなことがあっても続けていくのが商売人だろうと思っています。
顧客からの励ましの声を力に変え、及川屋は2015年11月に「楽天市場」店を再開した。
震災後、地域復興を第一優先とするため、ごく一部を除き取扱商品は地元漁港で水揚げされた魚介類に限定した。仕入れできる食材の範囲は狭まる。他の地域から仕入れる方が安いケースもある。だが、他の地域からの仕入れには頼らない。
「地元の食材を最も美味しい旬の時期に、新鮮なまま加工することで差別化できる」(及川社長)。ピンチをチャンスにする逆転の発想。地域商材に限定することによるメリットに商機を見出した。
2017年4月にリアル店舗をオープン
今では、工場の生産体制が震災前の約8割まで戻り、従業員の多くを呼び戻した。
及川屋は2017年4月、大船渡市内に新しくできる商店街に直営店をオープンする。「ここからギアチェンジをしたい」(及川社長)。これまでは卸事業が主体だったが、リアル店舗と通販の小売事業を本格的に展開する決断を下した。
ネットショップはお客さまと対面こそしませんが、商品の魅力をしっかり伝え、丁寧に接客することが大切だという点ではリアル店舗の商売と本質的には変わらないと思っています。
ネットかリアルかを問わず、これからもお客さまとしっかり向き合っていきたいです。
オリジナル記事はこちら:東日本大震災で廃業寸前、ピンチをチャンスに変えた加工品会社の復興ストーリー(2017/03/10)
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