"ビジネスを動かす"データ分析レポートの書き方例【施策や売上報告に】
ウェブアナリストの価値は、分析することでも、レポートを作ることでも、改善提案することでもない。分析した結果を元に、意思決定を促し、人を動かすこと。
6月15日に開催された「ウェブ解析士会議 2019」(主催:ウェブ解析士協会)に登壇した、HAPPY ANALYTICSの小川卓氏は、複数の会社でCAOの任に着いているウェブアナリストである。小川氏が実践している「人を動かすためのレポートを作る3つのポイント」を紹介した。撮影:イイダマサユキ
ポイント① サマリーシート
現状と次の打ち手を短時間で知ることが可能に
せっかくレポートを書いてもクライアントが動いてくれない、サイト改善に活かしてもらえないという話は珍しくない。小川氏は、「分析者の価値とは、人を動かすことができるかどうか。つまり、気付きを発見し、方法を提示することで、社内やクライアントを動かし、施策を実行することでサイトを使っているお客さんを動かす」ことだと言う。
社内を動かすためには、「意思決定者に意思決定をしてもらう」必要がある。そして意思決定してもらうためには、意思決定できる情報を提供する必要がある。そのための手法のひとつが、「サマリーシート」だ。「サマリーシートとは、レポート報告時に利用する、1枚3分で説明できる、結果と次のアクションを表したもの」と小川氏は説明する。
たとえば、よくあるレポートは、表やグラフ、数値の並んだ下図のようなものではないだろうか。しかし、これを見てもたいていは、「結局、何が言いたいの? どうすればいいの?」と意思決定にはつながりづらい。
一方で、サマリーシートとは、たとえば以下のようなもので、意思決定に必要な情報にしぼって記載している。
記載されているのは「3大ポイント」「ゴールとKPI」「やるべきこと」の3つで、重要なのは“3分で説明できる”という点だ。もし取締役会での持ち時間が10分なら、何十枚もある資料を作っても説明できない。しかしサマリーシートであれば、印刷して机の上に配ればいいだけだ(数十枚のレポートを人数分印刷したら、おそらく怒られるだろうし、そもそも読んでもらえない)。
- 全員に同じ内容を正しく伝えられる
- 意思決定に必要な情報のみを伝えられる
- 短時間で情報共有が可能
- 共有と拡散が行いやすい
小川氏は、「レポートは説明することが目的ではなく、その後の議論が大事。これがやりたい、予算が欲しい、人が欲しい、それがあって初めて施策が実行できる」と言う。そのため、「なるべく短い時間で共有するということを意識する」必要がある。
また、サマリーシートを一度自分で手書きしてみると、1枚に収めるために本当に重要な情報は何かと考えることになる。たとえば、自分のウェブサイトの情報をA4一枚で説明するなら、どのような情報をどのように見せるかと考え、次のアクションも入れておく。これを読んで理解してもらえば、サイトに対する共通理解が生まれる。
ポイント② 数値×施策レポート
施策が数値に与えている影響を把握可能に
また小川氏は、「数値だけでは、判断や意思決定はできない」と言う。たとえば、以下のグラフではどのような気付きが得られるだろうか。
「気付きは特にない」という人が大半だろう。強いて言えば「あまり変わっていない」という程度しかわからない。なぜなら、数字に影響を与える要素が書いていないからだ。
この図であれば、「キャンペーンをしたのに数字が変わらなかった」ので大問題である。同様に、数字が変わらなかったことが問題というケースはたくさんある。しかし、数字だけのレポートを見ていると、それに気付くことができない。
多くの企業で、数字だけのレポート以外に、施策一覧や施策管理レポートをそれぞれの部署や担当者が持っている。小川氏は、「大切なのは、施策と数字のレポートをひとつにまとめる」ことだと言う。たとえば、以下の図のようなものである。
この図では、上に表などのいつもの情報を載せ、下にKPIごとに色分けした施策が書いてある。これを見れば、「この日にこのようなキャンペーンを行ったのに、KPIには反映されていない」「来週コンバージョン率が上がるための施策を行うようなので、ここは細かくチェックしよう」といったことがわかる。今月どのような施策が予定されているのかを把握でき、目標値もわかるので、目標を達成したかどうかも判断できるようになる。
- 施策の適切な振り返りができる
- 今後の施策がわかる
- 見るべき数値や達成度を判断できる
「数値×施策シートがあれば、皆さんこのシートだけを見る」と小川氏は言う。また、必ずしも日単位である必要はなく、週や月単位でもいい。重要なのは、「今何が起きているのか、今後何が起きるのか、数字がどうなっているか」を中心に据えて、社内あるいはお客さんとコミュニケーションすることだ。
ポイント③ 改善施策の提案方法
意思決定者をサポートして巻き込むことが可能に
意思決定のための情報を用意できたところで、お客さんや上司にどのようにコミュニケーションすれば施策を実行してもらえるのだろうか。たとえば、「施策を行うと、売上がどれくらい上がるの?」と聞かれた時に、どう答えればいいのだろうか。
この時、その質問をしているのは「意思決定をしたことの説明責任があるから」だということに気付かなければならない。小川氏は「内心面倒だと思うかもしれないが、その人もその施策を通したいと思っている味方」だと言う。
つまり、効果予測を聞くのは「誰かに聞かれた時に、私がどう答えたらいいか教えてくれ」という意味だ。ということは、精度を求めているわけではなく、必要なのはロジックということになる。ロジックがあれば、その内容を周囲に説明できるからだ。
良くない例
ここで、ロジックがない良くない回答例を挙げると次のようなものだろう。
「お問い合わせが、10件増えます」→「なぜ?」と聞かれても答えられない
「やってみないとわかりません」→会話が終了
良い例
良い例は、たとえば以下のようなものである。
「ランディングページのクリック率が、過去御社でやった施策の平均値である4.5%に改善すると、月5万円の売上増になります」
この時、可能な限り売上換算することがお勧めだという。
また、「意思決定において選んでもらうというプロセスは欠かせない」と小川氏は言う。提案がひとつだけだと、不安になって「他にはないのか」と聞かれる。そこで、複数の選択肢を用意する。場合によっては、捨てプラン(「さすがに無理かな」というプラン)を用意すれば、本命プランが通りやすくなる。
- 必要なのは精度ではなくロジック
- 複数の選択肢から選んでもらう
最後に小川氏は、以下のようにセッションをまとめた。
人を動かすための3つの方法
- サマリーシート:現状と次の打ち手を短時間で知ることが可能に
- 数値×施策レポート:施策が数値に与えている影響を把握可能に
- 改善施策の提案方法:意思決定者をサポートして巻き込むことが可能に
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