もっと「売れる」文章とデザインは? 男性と女性で異なる購買心理を理解する
もっと「売る」見せ方にするには、相手の購買心理を理解することが欠かせない。
6月15日に開催された「ウェブ解析士会議 2019」(主催:ウェブ解析士協会)では、『ネットで「女性」に売る』『プリンセス・マーケティング』などの著者で知られる谷本氏が登壇し、購買決定の8割を担うとも言われている女性の購買心理にフォーカスしながら、男性と女性の傾向の違いを解説。もっと「売る」ための文章とデザインのコツを紹介した。撮影:イイダマサユキ
男性と女性ではモチベーションや意思決定プロセスが違う
「もっと『売れる』見せ方にするには、これまで見落とされがちだった男女における購買心理の傾向の違いを知る必要がある」と谷本氏は言う。
対面接客であればお客さんは目の前で迷ってくれるため、追加情報を柔軟に提供できる。しかし、Webサイトや広告などの非対面接客の場合は、相手の反応に応じてリアルタイムに情報提供することが難しい。そのため、あらかじめ先回りして、相手がどんな情報が欲しいのか、悩んでいることは何か、といったことを理解した上で、情報を提供していかなければならない。
谷本氏自身がユーザーインタビューをした結果、以下のような点で男女に傾向の違いがあるとわかったという(もちろん、あくまで傾向であって性別によって分断する意図はない)。
さらに、購買決定権の8割は女性が握っていると言われている。これは、デパートの売り場面積を見てもわかるだろう。その上、家や車といった大きなものを買う時の拒否権をもっている場合も多い。つまり、女性への見せ方を知らないだけで損をするかもしれないし、逆に男女の違いがわかっていれば、コミュニケーションミスも防げる。
セッションでは、男女の違いを次の3つの観点で解説した。
- モチベーション
- 何を信頼するか
- 文章の読み方
1. 男女で現状認識が違うため、何にモチベーションを感じるかが異なる
谷本氏は、男女の違いの1つは「感情が動くスイッチ」が異なることにあると言及。その根本原因を、シンデレラの絵で説明した。継母と2人のお姉さんがお城の舞踏会に行ってしまって、自分にも招待状が来ていたのに「お掃除していなさい」と連れて行ってもらえなかったというシーンだ。
まず、男女で現状認識が違うという。
- 現実(リアル)は「掃除している自分」で、お城は「理想や夢」であると認識する。
- 現実(リアル)は「お城の舞踏会に参加しているはずの自分」で、掃除しているのは「仮の姿」であると認識する。
谷本氏によれば、「多くの女性は、シンデレラのように『今の姿は、仮の姿。何かが間違っている』と認識し、欠乏感を抱いて生きている」という。このため、どこかでその欠乏感を満たしてくれるものに出会うと、「これさえあれば、本来の自分に戻れるかも」と、買わざるを得ない気持ちになる。これが、衝動買いの正体だ。
現状認識が異なれば、当然、感情が動くスイッチも異なり、ストーリー展開も違ってくる。
- がんばってレベルを上げ、お城へ行こう(乗っ取ろう)=ヒーローズジャーニー
- 目の前に登らなければならない階段がある、これを効率よくやりたい(近道、チート)
- 欲しいのは変身ベルト
- これは仮の姿に過ぎない、いつか呪いが解けて本来の自分を取り戻す
- 今の状態は現実ではないから、解決すべき悩みはない
- 欲しいのは一瞬で元に戻る魔法
女性の場合は、ヒーローズジャーニーが成立しない。なぜなら、ゴールが延長線上にはないからだ。また、現状はフィクションにすぎないので、悩む必要もない。つまり、悩み訴求も通用しない。というわけで、女性の場合は「本来の自分」「取り戻す」がキーワードになるという。たとえば、化粧品のキャッチコピーは、このセオリーに則っている。
「目覚める」=元々持っているものが目覚める。新しいものを獲得するわけではない。
「運命を、変えよう」=今乗っているレールの先に欲しい未来がない。新しい道で本来の自分を取り戻す。
ただし、「わかった気で作るのが一番危険」で、以下のようなポイントでミスをしがちだという。
訴求が異なる――男女それぞれの物語に合わせた訴求を
男性と女性では、欲しいと思っている感情が違う。
- モテたい
- 客観的な評価
- 外向きの感情
- 満たされたい
- 主観的な満足
- 内向きの感情
このため、たとえば、英会話教材を売りたいなら、以下のように異なる訴求が必要だ。
あるいは、ゴルフであれば以下のようになる。
ポイントは、女性の場合はあくまで自分のため。「本来の自分を取り戻す」を、自己満足の文脈で使わなければ意味がないという。男女でストーリーが違うのだから、「それぞれの物語に合わせた訴求が必要」ということだ。
見せ方が異なる――余計なものを見せると魔法から覚める
よく言われることだが、女性の方が現実主義である。このため、一貫性を持ったメッセージを組み立てることが重要で、少しでも不要なもの(醜い、面倒、など)を見せると、魔法は簡単に解けてしまう。たとえば、以下の例などがそれに当たる。
多くの女性は、ズボンのボタンに手をかけている写真を見るだけでも「最近お腹が……」と気付くので、不本意な現実に直面させないほうがいいそうだ。
しかし、何を見れば自分のお客様が「本来の自分」らしいと思うのかは、なかなか難しい。たとえば、以下の図では、男性のデザイナーであれば右の写真を選ぶことが多い。
しかし、女性にはこの2枚の写真の「表情の違い」が重要になる。男性にとっては、両方とも「笑顔」の写真にすぎず「同じ表情」に思えるかもしれないが、女性たちは、明らかに「異なるメッセージ」を受け取っていることが多い。
右の写真の女性の笑顔は、「男性に媚びている、他の人の評価を気にしているイヤな女」と映る。左の女性の笑顔からは「堂々と自信を持って輝いている」と映るため、左の女性の「表情」の方を「本来の自分らしい」と思うというのだ。もし、自分には見分けがつかないなと思ったなら、周囲の女性に聞いてみるのがお勧めだ。
2. 男女で信頼の源泉が異なる、女性は主観情報を信頼する
男性と女性では、「何が信頼に繋がるのかが違う」という。
- 成分やスペックで性能を証明する、「客観情報=信頼」
- 最終の意思決定は自分でしたいので、売り手の主観の入った情報はいらない
- 意思決定に必要な材料を客観的に集めて整理してくれていると、誠実で親切だと感じる
- 統計データや表、グラフは他人事に思える「結局、何がいいの?」
- 内容成分をいくら詳しく知っても魔法の効力は分からない
- それよりも、誰が作った魔法なのかという実績や、お客様の声が証拠になる
- 結果の疑似体験、私がどうなるのかのイメージしやすさ(シーン・場面)が書かれている方が親切と感じる
女性に響く主観情報とは、たとえば、以下のようなものだ。
- 典型的なあるある場面:「この人に効果があったなら、きっと私はもっと……」
- 作り手の想い:家族の悩みを解決するために作ったなど、人に関するストーリー
- 擬音語・擬態語:多くの男性は読み飛ばすことが多い部分だが、むしろ女性は好んで読んでいる
多くの女性が、客観的な比較検討をせずに購入するというのは不思議に思うかもしれないが、谷本氏によれば「運命の出会いを楽しんで、とりあえず試してみる。それが女性にとってのお買い物」であって、購入が決定ではないという。このため、女性向け商材を扱っているのであれば、お試しができると売れ行きが変わる。
また、主観的な情報といっても、立場の客観性は精査する。第三者的な立場から客観的な意見を述べる人を見つけ、その人の言うことなら信じるということだ。「他社はこうですが、うちはこうです」という他社比較が入っていると、女性はほとんど検索をせずに購入することも多いという。
3. 文章の読み方が異なる、文章は「飛ばしやすく作る」
文章の読み方も、男女で異なるという。
- 左上から論理を追って、順番に読むことは少ない(ざっくり全体を把握するのが先)
- 良さそうとピンッとくる、その後で直感が正しいかだけを確認(飛ばし読み、拾い読み)
- 違和感がなければどんどんスクロール、わかりにくい箇所で止まる(ヒートマップの見方に注意)
文章は「飛ばしやすく作る」のがポイントで、たとえば、以下のような方法がある。
- 見出しをつける、ラインを引く
- 読まなくても写真でイメージできる
「女性は興味があるところだけ読む」ということを意識して作ることが重要だと、谷本氏は言う。また、女性が飛ばし読みするなら、間を男性向けに必要な情報で埋めれば、ハイブリッド型の文章にできる。
以上のように、購買心理は男女で違う。さらに、男女差とは関係なく、意思決定には個々人で癖がある。自分の考えとお客さんの気持ちは意外と違うのだと意識して、しっかり理解しなければ、本当の意味で「伝える」ことはできない。そのためにはリサーチが必要だが、お金をかける必要はなく、身近な人に2択で聞いてみるだけでも理解は深まる。
谷本氏は、「ライティングはテクニックではない。下手な文章でも、イケてないデザインでも、売れる時は売れる。お客さんの気持ちになれているかどうかが大事」とまとめた。
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