リピーターを呼び込む「究極の集客方法」。ストーリーライティングとは?
究極の集客方法とは「思い出してもらうこと」。日々、膨大に増え続けるWebコンテンツの中で思い出してもらえる、コンテンツを作ることは至難の業ともいえる。しかしもし、あなたのコンテンツが思い出してもらいやすいのであれば、あらゆる集客手法を越えたトラフィックを獲得できるだろう。
2019年11月23日に開催された「ウェブ解析士会議 2019 in 大阪」(主催:ウェブ解析士協会)では、株式会社ウェブライダーの松尾茂起氏が登壇し、「あなたのコンテンツ、思い出してもらえますか?リピーターを呼び込む「ストーリーライティング」実践講座」と題したセッションを行った。松尾氏の著書『沈黙のWebライティング』『沈黙のWebマーケティング』を事例に挙げて、実践的なストーリーライティングのセッションを行った。Photo by Takenori Okashita (GOUTEN)
沈黙シリーズはなぜ成功したのか
沈黙シリーズは、先述の通り松尾氏の著書である。Webライティング、Webマーケティングに関わる人なら、手に取ったことがある人も多いだろう。漫画仕立てで、さまざまなキャラクターが登場する本書は、ストーリーとともにマーケティングやライティングで重要なノウハウが書かれている。
Amazonでは、この2冊とも発売以降、130件以上のレビューが寄せられている。『沈黙のWebマーケティング』は2015年1月、『沈黙のWebライティング』は2016年11月に出版以降、Amazon書籍ランキングの上位を獲得し続けている。
※以下、沈黙シリーズのネタばれとなる情報が入っているため、ご注意ください。
沈黙シリーズが成功した7つの理由
松尾氏は、沈黙シリーズが成功した理由を、次のように分析した。
- 得られるベネフィットがわかりやすい
- 本質的なノウハウを取り上げているため、賞味期限が長い(この要素が売れ続けている大きな理由)
- 誰にでも読みやすいストーリー
- 記憶に残りやすい(脳内のフォルダに格納しやすい)
- 他の書籍とかぶることがないため、一緒に紹介しやすい(敵を作りたくないのがポリシー)
- 口コミが自然発生している
- (著者が書籍で書かれている内容で、実績をあげている)
これら7つの理由のなかでも「ストーリーの力を意識することが大事なポイントである」と松尾氏は述べ、本セッションでは、ストーリーの重要性を中心に解説を行った。
単なる説明ではなく、ストーリーを意識しよう
「ノウハウや情報は似てしまうことがあるが、ストーリーで差別化ができる。商品情報、サービス紹介などを制作するとき、単なる説明ではなく、少しだけストーリーを意識してみよう」と松尾氏は言う。
本記事では、この7つの理由のうち、特に重要なもの(スライドの水色部分)を4つ紹介する。
感情を乗せやすく、共感による記憶の定着が期待できる
よく「共感できるコンテンツをつくりましょう」と言われるが、では「共感」とは何なのだろうか。
松尾氏は、「共感」のことを“人の感情を自分事にすること”と説く。つまり、感情が宿っていないものに「共感」はしにくい。
では、普通の企業が顧客から「共感」を得るためには、どのようにすればいいだろうか。松尾氏は、次のように説明する。
企業の商品説明に、感情は乗せにくいだろう。だから、感情を乗せることができるストーリーを別に用意し、感情を入れて、そこに共感をしてもらう必要がある(松尾氏)
実は、沈黙シリーズもここを意識している。
普通ならノウハウ本として、教えるための単なる説明を書くだろうが、それでは記憶が定着しにくい。それをストーリー仕立てにすることで感情を揺り動かすことができる。人は、必要な感情は覚えているものだ。
人は、辛く苦しい経験をしたことは、しっかり覚えているのではないだろうか。一方で、今まで自分が見聞きしてきた情報は、必要な情報以外バッサリと忘れてしまっているだろう。それが感情の強さによる記憶の定着だ。だからこそ、沈黙シリーズには感情の揺れ動くタイミングを多く入れた、と松尾氏は言う。
エピソード単位での記憶の定着が期待できる
次に、エピソード記憶の重要性を解説した。エピソード記憶は、長期記憶に紐づくと言われている。
たとえば、こんなエピソードを聞いたことはないだろうか。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)では、一時経営が低迷したが、ある仕掛けがきっかけとなりV字回復した。その仕掛けとは「ジェットコースターを逆向きに走らせる」ことだった。
逆向きに走らせるということが、人々のワクワク感を喚起し、エポックメイキングであったことから、USJに多くの人が集まるようになった。という逸話が今も伝説として語り継がれている。
USJがいったいどのくらい数値的にV字回復したのかなどは頭には入っていないが、このエピソードが強烈に頭の中に入っている。
これが、エピソード記憶というものである。
実は私たちは「語りたい」「色んな人生を疑似体験したい」という潜在心理がある。ストーリーを日本語に置き換えると「物語」である。つまり、語りたいという心理があり、情報以上に物語を求めている。だからこそ、物語がきちんと相手に伝わるように演出することが必要である。
さらにいうと、「物語」は「口で語る」ことが多い。つまり、口コミが起こりやすいという側面がある。だからこそ「語れるストーリーをつくる」ことが、口コミ効果、マーケティングに好影響となると説明した。
登場人物の成長を描くことで「疑似体験」してもらえる
沈黙シリーズで意識したことは、登場人物の成長を描くことで、疑似体験してもらうことだ。
たとえば、沈黙のWebライティングでは、以下のような人物が登場する。
さらに、各登場人物にはさまざまな立場の読者から共感ができる、いわば「読者の代弁者」となる役割が設定されている。
読者は、いろいろなポジションの人の「価値観や感情」を得ることができるように作られているので、いつ読んでも学びがあるというわけだ。これは、企業でいうと「お客様の声」とよく似ている。さまざまなセグメントのお客様の声を掲載することで、疑似体験してもらうことができる。
先述したが、「人は潜在心理でたくさんの人生を疑似体験したい」と思っている。お客様の声では、自分と同じようなセグメントの内容だけではおもしろ味がないため、新たな人生を疑似体験できるような、新鮮なものがあると良い、と松尾氏は言う。
伝えたい主張を、長い時間をかけてじっくり伝えられる
ストーリーは、「伝えたい主張を長い時間をかけてじっくり伝えられるメリットがある」と松尾氏は解説する。
沈黙シリーズは、それぞれ496ページ、632ページと非常にページ数が多く、ボリュームの大きいコンテンツである。1冊読み終えるまでに5~6時間かかるが、Webサイトの記事で5~6時間読み続けてもらうことは難しいことが多いだろう。しかし「本」となり、そこに「ストーリー」が加わると読めてしまうのである。
さらにストーリーがあることで、読者は「読み終えた!」という達成感や、どこまで読んだのかを記録するために、Twitterやブログなどに投稿するようになるのだ。
「これがストーリーのおもしろさだ」と松尾氏は語った。
ストーリーをつくってみよう
ストーリーを作るうえで大切な7つの要素から、松尾氏はいくつか選んで解説した。
1. STARTとGOALを決める
松尾氏はストーリーを作るときに、「スタート」と「ゴール」を意識しているという。
たとえば、ゲームをイメージしてみてほしい。スタートからゴールまで平坦な道のりで何の障害物もなく、敵もいなければ、おもしろくない。人はある程度、困難にぶち当たり、ワクワクしたい、と思っている。そこを意識して、ストーリーにも障壁を作って入れてみよう。
「最初から何の苦難もなく成功しました」というエピソードでは、おもしろ味がない。疑似体験で考えると、その人が「どんなことに悩んで、どんな苦労をして、どうやってたどり着いたか」をきちんと書く。それを、お客様の声や会社設立のエピソード、創業者の想い、などに反映していくことが重要ではないかと松尾氏は語った。
2. 誰にでもわかる平易な言葉を使う
ストーリーを書くときは、誰にでもわかる平易な言葉を使うことにも意識しているという。
沈黙シリーズでは、たとえば以下のように翻訳して、誰にでもわかりやすい言葉を選んで使っている。
× コンバージョンが上がった → 〇 注文が増えた、商品が売れた
3. 感情が揺れ動くタイミングをたくさん入れる
たとえば、「お客様の声」というコンテンツを作るときには、無理に話を盛らなくても、感情の機微を丁寧に描いてほしい、と松尾氏は言う。感情の機微を描くには、自分自身の中に生まれた感情の機微を言語化する習慣をつけることが、トレーニングにもつながると説いた。
4. カッコ悪いことも語る
なぜ、「カッコ悪いことを語ることが良いか」というと、自分がカッコ悪いと思っていることのほうが、感情の機微が入るからだ。自分が恥ずかしいと思っていることは、他人にとってはどうでもよいことが多いもの。
この時、自分が恥ずかしいと思ったことでも、逆に他の人にとっては「恥ずかしいと思える状況からどう変わっていったのかに興味がある」という場合も多い。自分をさらけ出す勇気を持つことで、良いストーリーができあがっていくのではないか。
たとえば、ショップを運営している人は、自分のショップに都合の悪いことも書いたほうが、閲覧者は「誠実」な印象を受ける。「きれいごと」ばかりではないことは、世の中もわかっている。自分のやってきたことに自信があるのならば、自社の見せていないことも、見せる勇気を持つことでそれがストーリーになる、と松尾氏は語った。
プロセスをストーリー化する
最近、コンサルティングを行うなかでお客様に伝えているのが、「プロセスを積極的に見せていくことだ」と松尾氏は言う。
以下は、ウェブライダーが運営する「美味しいワイン」というワインのWebメディアに掲載した画像である。この画像は、これだけの量のワインを実際に飲んできたという証拠であり、プロセスを見える化したもの。これを見せることで、私たちが「しっかりと飲んだ上でコンテンツを作っている」という証明ができる。
他にも、サイトを立ち上げるときに、どんな風に企画をして作りあげていったかを動画で販売しているとのこと。それも「きちんと考えて作っている」ことの証明になるという。
プロセスのなかにこそ、信頼を得るための情報が詰まっており、プロセス内の情報の時間軸を細かくすればするほど、情報の信頼度や解像度が上がる。
編集されていない「生の情報」にこそ信頼性が宿る
またプロセスを見せることにより、編集されていない「生の情報」が伝えられる。この「生の情報」にこそ、信頼性が宿るという。
ちなみに、松尾氏は自信のセミナー動画を収録するとき、一切編集なしで一発で収録する。これが3時間のセミナー動画であれば、「この人はこのテーマについて3時間、淀みなく話をできる人だ」ということの証明になる。そのために、200回を超えるほどのテイクの撮り直しをおこなっており、NG集をYoutubeで配信しているという。
編集することのメリットももちろんあるが、周囲から信頼を得られていない場合には、プロセスをできるだけ見せることが有効だという。「プロセスの中には、多くの情報や感情があるため信頼、そして共感されやすいコンテンツを作ることができる」と松尾氏は語った。
まとめ
「単なる説明ではなく、ストーリーを意識してみよう。ストーリーになれば、自分の伝えたいことがより伝わるようになる。そのために最も簡単なのは、プロセスを積極的に開示してストーリーに進化させようということ。
日常、感じる苦悩や考えなどは、全てストーリーになる。それを紡いで見せるだけでも信頼につながるうえに、顧客も安心して注文ができるのではないだろうか」と述べ、松尾氏はセッションを締めくくった。
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