【レポート】Web担当者Forumミーティング 2021 春

「買いたい」と思われるには「体験力」が重要! 成功事例に学ぶコンテンツ制作のポイント

ウェブライダーの松尾氏が解説! 商品の価値を顧客に伝えるには、商品やサービスをWebサイトのコンテンツで疑似体験してもらうことが重要。

お客様に商品を購入してもらうには、商品やサービスの価値を伝える必要がある。価値を伝えるには、商品やサービスを体験もしくは疑似体験してもらうことが重要だ。しかし、コロナ禍においては、リアルな体験の提供は難しいのが実情である。Webマーケティングのコンサルティングを行うウェブライダーの松尾茂起氏は、こうした状況に「体験力」というキーワードを掲げ、コンテンツ制作を行っている。

その松尾氏が「Web担当者Forumミーティング 2021 春」に登壇した。ウェブライダーの成功事例をもとに、価値の疑似体験につながる「体験力」の高いコンテンツ制作のポイントを紹介した。

株式会社ウェブライダー 代表取締役 松尾茂起氏

商品やサービスの価値がお客様に伝わるのは「価値を体験・疑似体験しているとき」

松尾氏は、冒頭でウェブライダーが考える「Webマーケティングの成功法則」を示した。

Webマーケティングの成功法則は、「その商品を必要とする人たちに、商品の価値を十分に知ってもらい、納得した上で対価を支払ってもらう」ことです。特に、商品の価値を十分に知ってもらうことが重要です(松尾氏)

きちんと価値が理解されないと、商品やサービスの誤った使い方につながり、予期せぬクレームが発生したり、顧客の期待値と企業が提供する商品の価値にズレが生じて、顧客のネガティブな感情を抱いたりしてしまう。

ウェブライダーが考えるWebマーケティングの成功法則

企業は、顧客に商品の価値を感じてもらい、価値に対する報酬(対価)を受け取る。これがビジネスの原理原則だが、「価値」にはどんなものがあるだろうか。松尾氏は、以下の2つに大別できると述べた。

  • 情緒的価値
    「気に入っている」「すてき」「かわいい」など、商品やサービスを心理的にどう感じるかという価値

  • 機能的価値
    商品やサービスを使うとどう役立つのかという価値

顧客は機能的価値だけでなく、情緒的価値とセットで価値を感じ、商品やサービスを選択する。マーケターは、この2つをうまく顧客に伝えていく必要がある。どうすれば価値は顧客に伝わるのか。松尾氏は、「価値が伝わる機会は2つしかない」と話す。

1つ目は「価値を体験・疑似体験しているとき」、2つ目は「信頼する人が評価しているとき」だ。2つ目は1つ目の広義の「価値の疑似体験」に含まれる。まとめると、価値が伝わるのは価値を体験・疑似体験してもらうときしかない。では、何かの価値を体験したと感じるのはどのようなときなのか、松尾氏は次の3つに整理した。

  1. 商品やサービスを実際に利用したとき
  2. 商品やサービスを利用した気分になったとき(その商品を利用する未来やベネフィットをシミュレートできたとき)
  3. 自分が共感できる他者もしくは憧れを感じている他者がその商品やサービスを利用していたとき
何かの価値を体験したと感じる3つのとき

このうち、2と3は疑似体験にあたる。どんな商品・サービスの価値も「コンテンツを通じて体験、もしくは疑似体験してもらわないと伝わらない」と松尾氏は述べる。「体験力が高いコンテンツ」とは「価値を体験・疑似体験してもらえるコンテンツ」ということになる。

たった少しの工夫で、コンテンツの体験力は高まり、今まで伝わっていなかった商品やサービスの価値が伝わるようになります(松尾氏)

「疑似体験」を意識して価値を伝え、成果を生み出したコンテンツ事例4選

次に松尾氏は、ウェブライダーが手がけたコンテンツのなかで、疑似体験を意識して価値を伝えることに成功した事例を4つ紹介した。

1. Webコンテンツのリライトプロセスを紹介した動画

1つ目は、「ウェブライダー リライト」で検索すると検索結果で1位に表示されるYouTubeの動画(【ウェブライダーのMTG LIVE #1】内祝いに関する記事をリライト(改善)するミーティング)だ。

1本の動画をきっかけに、コンサルティングの依頼が増加

ウェブライダーはWebコンテンツ制作だけでなく、企業が作成したWebコンテンツのブラッシュアップも行っている。そのブラッシュアップのことをリライト(文章を書き直すこと)と呼んでいるという。

この動画は、コンテンツの改善プロセスを紹介した1時間11分の動画で、ひたすら、ディスカッションしながらコンテンツをリライトする過程がノンストップで公開されている。松尾氏によると、この動画をきっかけにコンテンツ改善のコンサルティングの依頼が増えたという。

動画をみると、ウェブライダーがどのような手法でコンテンツをブラッシュアップしているか見える。臨場感あふれるウェブライダーのコンサルティングを疑似体験していることになるわけです(松尾氏)

見込客がウェブライダーのコンサルティングを動画で“疑似体験”できたため、「ウェブライダーに仕事を依頼してみよう」と成約につながったというわけだ。

2. 採用サービスの契約前、契約中、契約後の状況を疑似体験できるWebコンテンツ

2つ目は、「ビズリーチ ウェブライダー」で検索上位となる「社員数15人の会社が、たった3ヶ月で2人の優秀なプロジェクトマネージャーを採用できた話」というコンテンツだ。

「契約前→契約中→契約後」の状況を疑似体験できるようにコンテンツを制作

「プロジェクトマネージャーを採用したい」というニーズを持つウェブライダーが、どんな課題を抱え、なぜビズリーチと契約したか、サービスをどう利用したか、結果どうなったのか、といったポイントが紹介されている。読者がビズリーチの採用サービスの契約前、契約中、契約後の状況を疑似体験できるように制作しており、「同じ課題を持つ企業にとって『このように使えばいいのか』とサービスを使うメリットやベネフィットを感じてもらえるコンテンツとなった」と松尾氏は話す。

3. 自社メディアのマザーズバッグの選び方を伝えるWebコンテンツ

3つ目は、同社が運営する自社メディア「Betters(ベターズ)」だ。松尾氏によると、「公開されている記事はわずか10記事にもかかわらず、過去、月間18万PVを達成した」という。この中で、「マザーズバッグ(子どもを連れて出かけるときに使うバッグ)」というビッグワードで検索結果に上位表示されているコンテンツがある。一般的にビッグワードで検索結果に上位表示されることは難しいが、以下のポイントをおさえたことで上位表示されたのではないかと松尾氏は考察している。

  • マザーズバッグの「賢い選び方」を疑似体験できる
  • マザーズバッグの「購入後の生活」を疑似体験できる
読者が疑似体験できるように図表や写真にも工夫をしている

松尾氏は、特にマザーズバッグをまだ購入したことがない人が「購入後の生活」を疑似体験できる情報が重要だという。たとえば商品写真では、正面からの写真だけでなく、物を入れた写真や、女性が肩に背負った写真、男性が肩に背負った写真を掲載し、購入後の生活がイメージできるようにしている。

4. コーポレートサイトリニューアルのプロセスを記録したWebコンテンツ

4つ目は、「大改善!劇的Webリニューアル」だ。これは、ウェブライダーの4ヶ月にわたるコーポレートサイトのリニューアルプロセスを記録したコンテンツだ。全6話のストーリー形式で構成されている。

サイト改善のプロセスが疑似体験できる内容になっている
  • リニューアルで何に苦労するのか
  • どういう落とし穴があるのか
  • 仲間たちの意識を統一するにはどうしたらよいか
  • リニューアルによってどんな知見が得られたか

以上のような内容を読者が疑似体験できる。「自分もウェブライダーの一員となってサイト改善に携わった気になる」ことで、ウェブライダーの思考プロセスが疑似体験できるのだ。さらに、コンテンツに連動したライブ配信イベント開催し、思考の裏側を共有する取り組みも行った。

これらはすべて「体験力」を意識したコンテンツだ。松尾氏は改めて、「体験力とは、相手に価値をどれだけ、体験・疑似体験してもらえるかのポテンシャル」と述べた。

体験力の高いアプローチによって商品の価値が伝わりやすくなり、成果が上がる。では、価値を伝えるためにどうしたらいいか。価値を体験・疑似体験してもらうしかありません。コンテンツを作る際には「どんな情報をだしていくか」以上に、情報をどんなふうに体験・疑似体験してもらうかまで落とし込まないと価値は伝わりにくい。それを意識しながらアプローチを変えていくと、成果は劇的に上がります(松尾氏)

体験力の高いコンテンツを作るのに必要な18の要素

では、体験につながるアプローチはどのようなものがあるのか。松尾氏は3つの基本アプローチを示した。

  1. 体験イベントの実施
  2. 体験力の高いコンテンツの提供(記事、動画、写真、漫画、音声など)
  3. お試し版の配布

このうち、3の「お試し版の配布」は、体験イベント後に配布すればこちらが想定している使い方を伝えることができる。しかし、説明もなくお試し版を配布すると、企業が提供したい価値体験をしてくれるとは限らないため、ネガティブな印象をもたれてしまうリスクがある。そのため、「体験イベントの実施」と「体験力の高いコンテンツの提供」がおすすめだと話した。

体験力の高い3つの基本アプローチ

3つの基本アプローチのうち、松尾氏は2の「体験力の高いコンテンツの提供」について詳しく紹介した。体験力の高いコンテンツは、5つの種類に分けられるという。

  • 疑似体験につながる事例紹介コンテンツ
  • 疑似体験につながるエピソード紹介コンテンツ
  • 疑似体験ができるストーリー型コンテンツ
  • より具体的な情報が扱われ、価値体験の想像が膨らむ商品情報
  • 体験イベントのレポート

また、ウェブライダーでは、体験力の高いコンテンツを作る際に18の要素を意識しているという。松尾氏は「自分事化」「類似性」「共感性」「没入性」などの18の要素を示した。

体験力の担保に必要な18の要素
18の要素の詳細

体験力の高いコンテンツを作るためには、これら18の要素を「解像度高く分解し、コンテンツ施策に落とし込む」ことが重要だ。具体的には、文章、写真、図表、動画、構成、SNSアカウントなど、すべての要素を「体験力が高いか」を軸に見直すことである。

「体験力軸」で考える

具体的な事例として、松尾氏はコンテンツの写真を例に挙げた。

低い解像度と高い解像度の写真、どちらの写真がリアルに感じるかというと、解像度の高い方がリアルに感じます。すべての要素を解像度高く分解していくことによって体験力は上がります(松尾氏)

ウェブライダーの「体験力の高い」3つのアプローチ事例

具体的に「体験力の高い」コンテンツとはどのようなものなのだろうか。松尾氏は、ウェブライダーの事例の中から「体験力の高い」アプローチ事例を3つ紹介した。

1つ目は、同社が運営するギフト紹介メディア「素敵なギフト」にある「女の子ママが喜ぶ出産祝い32選! おしゃれでかわいい人気のプレゼント」という記事だ。この記事では文中に要約のスライドを入れているため、記事をすべて読まなくても理解できるようになっている。ちなみにウェブライダーでは、要約されたコンテンツを「サマライズコンテンツ」と呼んでいる。

要約されたコンテンツをスライドとして入れる

要約されたコンテンツを入れることでコンテンツが二層構造になります。普通の記事であれば、上から下まで読む必要がありますが、要約のスライドを入れると、記事の内容がパッと理解できます。また、要約スライドを流し読みした後で、詳細に知りたい部分を詳しく読むといったことも可能です(松尾氏)

読者が価値体験の方法を選べるようにコンテンツを作ることも体験力の高いコンテンツにおいては重要なポイントだ。

2つ目は同社が運営するワイン情報メディア「美味しいワイン」のワインの紹介文だ。

ワインの説明を読めば、実際にワインを飲んだ疑似体験ができるように工夫してあります。具体的には、口に含んだ瞬間どんな香りが広がり、味がするのか、飲んだあとはどのような余韻がやってくるのか、情報を「時間軸」で切り取ることによって体験力を高める内容を記載しています(松尾氏)

商品を使ったときのプロセスを具体的に感じてもらえるようにすることが、体験力を高める重要なポイントだ。

3つ目は松尾氏が執筆した2つの書籍『沈黙のWebマーケティング』『沈黙のWebライティング』だ。それぞれWebマーケティング、Webライティングの教本という内容だが、ストーリー仕立てでたくさんの人物が登場する。たとえば、『沈黙のWebマーケティング』では、ヒロインの松岡めぐみはWebマーケティングの初心者、Webデザイナーの高橋裕太はWebマーケに詳しいが実は本質をわかっていない、広報の吉田守はアメリカ帰りで最新情報に詳しいなど。「それぞれの登場人物に役割を与えることによって、読者がいろいろな登場人物の感情を自分事にして、より本書の内容を深く理解できるようにしている」と松尾氏。

『沈黙のWebマーケティング』の登場人物相関図

また体験力において「問い」が重要だと松尾氏。

本の中では主人公から登場人物へ問いが投げかけられます。質問は登場人物だけでなく、読者に対しても呼びかけています。質問が投げかけられた瞬間、読者は考えます。『考えなければ』となった瞬間にストーリーの世界に読者が入っていくわけです。ある種、強制的に体験・疑似体験してもらうためのアプローチとして『問い』を使っています(松尾氏)

このほか、ウェブライダーのオフィシャルサイトの「事例一覧」に掲載されるコンテンツも、「体験力」を意識しているそうだ。また、YouTubeなどでのライブ配信コンテンツ(【ウェブライダーのMTG LIVE #3】文賢のLP改善ミーティング)も価値を体験してもらいやすいという。ライブ配信のメリットは、「視聴者と同じ時間、同じ疑似空間を共有し、双方向のコミュニケーションがある」点だ。

松尾氏は、「体験力の高いアプローチにより商品の価値が伝わりやすくなり、成果につながりやすくなる」と総括した。

マーケターは、単にサイトやコンテンツを作るのではなく「価値体験の機会を作る」ことを考えてください(松尾氏)

そして、体験力の高いアプローチを意識して、コンテンツの文章や写真、動画などを見直して欲しいと松尾氏は述べ、セッションを締めくくった。

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