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愛されるブランドを作るには、「誰に愛されるか」を決める。顧客に愛される仕事とは?

顧客に愛される仕事、コンサマトリー(それをすること自体が楽しい)な経営とはなんだろうか? 行動基軸と新規事業への取り組み方、ブランディングのテーマで、登壇者2名が独自の見解を述べた

顧客に愛される仕事のための、コンサマトリーな経営とはなにか? クラシコム青木耕平氏と、コエドブルワリー朝霧重治氏によるキーノートセッションの概要を紹介する。

最先端のCXを学び体験できるカンファレンスとして、プレイドが主催する「CX DIVE 2019 AKI」が2019年10月25日、東京 虎ノ門ヒルズで開催された。今回のテーマは「コンサマトリー(それをすること自体が楽しい)」。◎撮影:渡徳博

クラシコム代表取締役 青木耕平氏
コエドブルワリー代表取締役社長 朝霧重治氏

クラフトビールへのリブランディングと、雑貨ECがオリジナルドラマを作るまで

朝霧氏が代表を務める「コエドビール(COEDO)」は、ドイツの醸造技術を取り入れ、日本で磨きをかけ、日本オリジナルのビールとして海外でも人気を得ているクラフトビールだ。コエドは、拠点である埼玉県川越が「小江戸」と呼ばれたことに由来し、かつて地ビールとして各地で作られたお酒の1つだった。それを、2006年にリブランディングしている。なぜリブランディングしたか、朝霧氏は次のように語った。

地域経済活性化のための経済政策として出てきた“地ビール”にはネガティブな印象があり、それを払拭するために“クラフトビール”という表現に変更した。手作りで小規模で作るという世界、小さいので多様なモノづくりができるという、より自分たちの本質を表現している(朝霧氏)

最近、地ビールという言葉にネガティブな印象を持つ人は減っているとは思うが、クラフトビールという言葉の方は、飲食業界を席捲していると言ってもいい盛り上がりを見せている。

一方、青木氏の雑貨ECサイト「北欧暮らしの道具店」も、2006年スタートだ。もともとは「北欧のビンテージの食器を蚤の市で仕入れて売る」というビジネスモデルだったが、今では次の3つの事業を行っている。

  • 小売
  • オリジナルブランドの企画生産
  • メディア

メディアに取り組むようになったきっかけとしては、顧客に遊びに来てもらえる場所を作ろうと思ったからだ。

雑貨屋は買う物を決めて行く場所ではなく、たまたま立ち寄って、たまたま気に入った物を見つける場所。遊びに行くような感覚でお客さんがくる場所なので、ECも遊べる場所にしようと思った。買うものが決まっている人をAmazonと取り合っても勝てないが、買う気のないお客さんの取り合いなら大手通販にも勝てる(青木氏)

また、メディア事業は2015年からアクセス数も増え、広告事業を展開。記事コンテンツからスタートが、現在では動画やラジオ(音声コンテンツ)に力を入れているという。

たとえば、動画コンテンツとして、オリジナル連続ドラマ「青葉家のテーブル」を各種プラットフォームで配信。さらに、このドラマのアナザーストーリーを動画広告として販売している。

何を行動基軸にして楽しむか

一通り2人の仕事を振り返ったあと、行動の基軸についての話題が出た。朝霧氏は、コエドビールの活動の基本は、「自分たちが楽しいこと」が根底にあるという。

コンセプトは『Beer Beautiful=ビールって素晴らしい』というもので、新しい企画は、その表現につながっているか、自分たちがユーザーとして面白いと思うかが行動の基軸(朝霧氏)

一方、青木氏が「何かすることを楽しむ感覚」を意識するようになったのは、ここ数年だと語った。事業をスタートした当初はどうしてもやらなければいけないことがあり、その時期は、「楽しむというよりは、スタンプラリーのように順につぶしていく」フェーズだったからだ。

当初から、オリジナルブランドと広告事業を始めたいという計画があり、10年で形になった。すると、次は何をすればいいか迷うのと同時に、若干の冒険も可能になる。動画コンテンツに取り組むようになったのは、そんなタイミングだった。

青木氏は、お客さんに感謝と伝えるCMを作りたいと思って動画コンテンツに着手したという。まずは、自身が好きなCMを作った制作会社を紹介してもらった。

いざ制作会社へ行くと、すごく気が合って話が盛り上がり、「ただお客さんに感謝を伝えるより、お客さんが求めているものをプレゼントしてあげた方がよくないですか? 連ドラとか作りましょうよ」という話に。

予算はかなり膨らむが、出せない金額でもなく、何をすればいいか迷っているときだったというのもあり、連ドラ制作に思い切ってチャレンジしたそうだ。この連ドラには、1つだけ制作会社にお願いしたことがあるという。

制作会社にお願いしたのは、『邪魔をしないから、企画やシナリオライティングから撮影、編集に至るまでのすべての工程で横にいさせてくれ』ということ(青木氏)

現場で空気に浸っていると、見積もり書では数字でしかなかったものに個人の名前がつく。さらに、雑談を通して、業界の構造や抱えている課題をだんだんと理解していく中で、楽しいな、これ続けていきたいなと思うようになったという。

しかし、遊びではないので、何らかのビジネス的背景をつけないと続けなければならない。そこで、どうしたら続けていけるかと、作りながら考えたという。その過程を経て、「エンタメ事業を作る」というマーケティングではなく、新規事業という位置づけにしているそうだ。

新規事業にGoを出すときの3つのステップ

青木氏は、新規事業にGoサインを出すときの判断基準として、3つのステップあると言う。

新規事業にGoを出すときの3つのステップ
  • STEP 1 現場の熱量
  • STEP 2 期待値を超えている
  • STEP 3 収支が合う

STEP 1 現場の熱量

現場が「ぶち上っている」し、ある程度仕事を進めているのにテンションが下がっていかないならリソースをつけていい。テンションは、時間が経つにつれて下がりがちなので、そうなっていないならGo。

STEP 2 期待値を超えている

プロトタイプを作って、顧客の期待値を超えていなかったら、それは自己満足。見せた顧客やパートナーも「上がって」くれたらGo。

STEP 3 収支が合っている

収支が合わないとどこかでテンションが下がるし、続けられない。

実は、この順番が非常に重要。自分たちも、パートナーや顧客もテンションが上がって初めて、収支について考える。「まだどうなるかわからない状態で、収支がどうのと言っても仕方がない」と青木氏は語った。

【Goサインを出す基準】
  • 自分がユーザーとして面白いと思うか(朝霧氏)
  • 「早く世に出したい、待ちきれない」というものになっているか(青木氏)

愛されるブランドを作るには「誰に愛されるか」を決める

コエドビールは、「小江戸ビール」から「COEDO」へとリブランディングに成功しているわけだが、実はリブランディングというよりも、リスタートだったと朝霧氏は言う。というのも、2006年に全商品終売、全商品新発売というドラスティックな方法をとったからだ。これは、誰も知らない新しいブランドを立ち上げたに等しい。

朝霧氏がそのときに活用したのが、「第三者のお墨付き」だ。食品業界には世界にさまざまなコンテストがあり、モンドセレクションなどは非常にネームバリューがある。そういったものに出品し、ホームビデオを持って授賞式に行ったという。

言い換えれば、第三者のお墨付きをもらうのは、「誰に最初にわかってもらうか」という取り組みとも言える。

青木氏は、ブランドを作るとき、どう愛されるかより、最初に誰を愛するか、誰を仲間にするか決めることが大事だという。

どう愛されるかより、誰を愛して支援するか決めたのがネスカフェアンバサダー。コエドビールも、最初に支援してほしい人、うならせたい人、わかっている人を仲間にしようと決めた。この人たちに好きになってもらおう、というより、自分たちはこのへんの人たちをすごく好きなれるという選び方は、うまくいっているブランドに結構あるパターンのような気がする(青木氏)

【ブランディングのポイント】
  • 第三者のお墨付きを利用する(朝霧氏)
  • どう愛されるかを議論する前に、誰を愛するかという定義をはっきりと決めると、見える景色が変わる(青木氏)
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