「縦型短尺動画SNS」はマーケティングに活用できる? 企業が乗り越えるべき“3つの壁”とは
オーガニック運用・広告配信・危機管理など、企業のSNS活用のポイント、最新情報を、SNSマネージャー養成講座の講師陣「チーフSNSマネージャー」のメンバーが、それぞれの得意分野を中心に解説します。
今回は、エスファクトリー 代表取締役のイミトモさんが回答します。
TikTokやInstagramなど縦型短尺動画系のSNSで、視聴時間が増えていると聞きました。実際、企業の取り組みも見かけるようになったと思います。企業の認知向上のために短尺動画を使うのは、実際のところオススメでしょうか?
おっしゃる通り、縦型短尺動画は若年層のみならず、中年層も含めて利用時間が伸びています。マーケティング担当者にとって、魅力的なチャネルですね。
しかしながら、企業マーケ担当者にとって「効果的な一手」にするには、いくつかのポイントをおさえておく必要があります。さもなければ、動画を作る手間をかけたのに、全然見てもらえなかったという悲惨な結果になってしまいかねません……。
そこで本記事では、縦型短尺動画の特徴、企業がマーケティング活用するうえでおさえておきたいポイント、その際にぶつかるであろう“3つの壁”を紹介します。
この記事を読むことで企業の縦型短尺動画の活用について考えが深まり、自身の意見を堂々と伝えられるようになれば幸いです。
インターネットの利用状況
まず前提となるインターネットの利用状況ですが、総務省の「令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」(2023年6月発表)によると、年代・性別による差こそあれ、「動画投稿・共有サービスを見る」と「ソーシャルメディアを見る・書く」が長い時間利用されています。ここには多くの「縦型短尺動画の視聴」が含まれています。
総務省|情報通信政策研究所|情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査
https://www.soumu.go.jp/iicp/research/results/media_usage-time.html
縦型短尺動画の利点・代表的プラットフォーム
すきま時間で動画を楽しめることが利点
私はふだん外出するときに小田急線を利用するんですが、電車のなかで座っている人はYouTubeやVODなどの動画配信サービスを利用している方が多いんですよね。そして電車に乗る前後、駅のホームやエスカレーターで立っているときに縦型短尺動画を見ている人の多いこと!
縦型短尺動画の利点は、短尺ゆえに短時間で楽しめることです。自宅のリラックスタイムはもちろん、外出先のちょっとしたすきま時間にも楽しまれています。
縦型短尺動画のプラットフォーム
縦型短尺動画の3強プラットフォームは、「TikTok」「Instagramリール」「YouTube Shorts」です。それぞれに特徴がありますが、なかでもTikTokは縦型短尺動画に特化し、縦型短尺動画の人気を牽引しています。
短尺動画の長さ
ところで「短尺動画」とはどのぐらいの長さまでを指すのでしょう? 各プラットフォームで制限や傾向に違いはありますが、現在は15秒~3分までを「短尺動画」と呼ぶことが一般的です。明確な定義はありません。各プラットフォームによりアップロードできる動画の最長時間は以下のとおりです。
【各サービスのアップロードできる動画最長時間(2023年9月現在)】
TikTok | 15秒/60秒/10分 |
---|---|
Instagramリール | 15秒/30秒/60秒/90秒 |
YouTube Shorts | 15秒/60秒 |
余談になりますが、2013年には最大6秒の動画をアップロードできるVineというサービスがあり、6秒を短尺と読んでいた時期もありました(Vineは2017年にサービス終了)。
縦型短尺動画で乗り越えるべき“3つの壁”
企業が縦型短尺動画を活用するにあたっては、ハードルとなる“3つの壁”があります。この壁の存在をあらかじめ知っておくことで、戦略的にプロジェクトを進められるようになるでしょう。
(1)動画冒頭の0.5秒で心をつかめ
短尺動画は、ユーザーが指をさっと動かすだけで次の動画にスキップできます。ユーザーにとっては、自身に合った動画を見つけやすいのが最大の特徴です。逆に、動画を用意する側(クリエイター側)にとっては、冒頭でスキップされてしまう可能性が増え、必ずしも望ましいとは言えません。
アップロードする動画のクオリティはとても重要です。ユーザーは冒頭の0.5秒で視聴するかスキップするかを判断しています。動画の冒頭でユーザーの心をわしづかみできる動画が伸びます。
(2)広告は嫌われる
どんなSNSでも、広告を見るために使っているユーザーはいません。自分が楽しむため、情報を入手するため、自分らしさを発揮するために使っている方が多いのではないでしょうか。特に短尺動画のプラットフォームでは、広告色が強い投稿はネガティブな反応がつく傾向があります。広告だけではない投稿を心がけてください。
「広告でなければ、何をアップロードすればいいの?」とお悩みの方も多いかと思いますので、3つのヒントをお伝えしましょう。
- トレンド・チャレンジ系
- おもしろ系
- 共感系
これら3つのいずれか、もしくは複数を持ち合わせた動画は、SNSユーザーに大きなインパクトを与えます。チャレンジ系の動画は視聴者の興味を引きつけ、おもしろ系の動画はシェアを促進し、共感できる動画はブランドへの信頼を築きます。
企業が投稿するときは、「自社のことを知って」という本音をストレートに伝えるのではなく、ユーザーがエンタメを楽しむ延長戦上で動画を楽しめるようなコンセプトにすることが大切です。ただし内容によっては利用規約で禁止されている事項もありますので、利用規約は事前に目を通しましょう。
(3)新しいものを生み出し続ける努力が必要
どんなSNSでもそうですが、投稿を始めると、新しいものを生み出し続ける必要があります。動画の場合は、画像や文字だけの投稿よりも制作負荷が高くなりがちです。実際に1本の動画投稿をするには、以下の作業を進めていく流れになります。動画運用を外注に頼ることも選択肢の1つでしょう。
- 調査
- コンセプト
- 台本作り
- 事前準備
- 撮影
- 動画編集
- 公開、SNSでシェア
- 振り返り
縦型短尺動画の運用企画のポイント
企業が縦型短尺動画を始める際は運用企画を練るとよいでしょう。4つのポイントを紹介します。SNSにおけるブランドパーソナリティ確立のために、自社のブランドをよく理解したうえで進めましょう。
(1)目標の明確化
まずは目的を明確にしておくことが重要です。縦型短尺動画ではブランド認知拡大や接触回数増加などが挙げられます。
(2)オーディエンスの理解
どんなユーザー層を対象としているのかを明確にし、その層の興味・趣向に合わせた動画を作成します。
特に動画で共感を生むのを目指す場合は、オーディエンスをなるべく高解像度で理解しておきたいですね。
(3)KPI(Key Performance Indicator)の設定
動画の効果測定のために、KPIを設定しましょう。たとえば、視聴回数、いいね数、シェア数、コメント数などをKPIとして設定することで、動画運用の成果を数値で把握できます。
(4)継続的な投稿
縦型短尺動画は、一発でバズることもあれば、時間をかけてフォロワーを増やすこともあるため、継続的な投稿が重要です。
インフルエンサーとのコラボレーション
特定のターゲット層に効果的にアプローチしたい場合、その層に影響力を持つインフルエンサーとのコラボレーションも一考に値します。
TikTokが起こしたイノベーション
2020年には女子高生の認知度が10割近いというデータが出たTikTok。TikTokのおかげで現在の縦型短尺動画の盛況があるといっても過言ではありません。ここからはTikTokが起こしたイノベーションについて紹介します。このターニングポイントを学ぶことで、縦型短尺動画をより深く理解できるでしょう。
TikTokが出てきた当時、日本国内・海外ともにソーシャルメディアは「Facebook」「Instagram」「Twitter」といった強豪がひしめいている状態でした。そんななか、後発のTikTokが縦型短尺動画では三強の一角になりました。その経緯を解説します。
TikTok台頭前は<チャネル登録者数が少ない=厳しい戦い>だった
TikTokがシェアを獲得する以前、動画シェアサービスといえばYouTubeでした。
YouTubeはチャネル登録者数が多いアカウントが有利にできています。クリエイターが新しい動画を公開すれば、チャネル登録者など熱心なファンによって再生回数が伸びていきます。
しかしながらこの仕組みはこれからYouTubeを始めるクリエイターにとっては不利で厳しい戦いを意味しています。そこに風穴を開けたのがTikTokでした。
TikTokでは<1本目からバズる>もあり得る!
TikTokのアプリを開いたことはありますか? アプリを開くと、まず「おすすめ」という画面が開きます。このために、TikTokでよく見られる動画は、ユーザーがフォローしているアカウントの動画よりも、TikTokがおすすめする動画になります。
TikTokの「おすすめ」機能には、高いパーソナライゼーション技術が使われており、そのユーザーに適した動画を表示してくれます。この機能は、動画の視聴状況(ユーザーがその動画を見てどんなアクションをしたのか)やユーザーの視聴行動(どんな動画をどれくらい見たのか?)などのデータをAIが利用して実現しています。そのため、初めて公開した動画であっても、「おすすめ」で掲載される可能性があるのです。
現在ではInstagram、YouTube Shortsともに類似のパーソナライゼーションがされていますが、TikTokによって「短尺縦型動画といえばおすすめされる動画を楽しむもの」という文化が形成されたのです。
まとめ
縦型短尺動画SNSの特徴について紹介しました。ユーザーによる動画サービス利用時間が増えていることを踏まえると、縦型短尺動画SNSは企業の認知拡大の武器になりますが、広告っぽいものが嫌われるなど、使い方のコツがありひとひねりが必要になります。これこそ、マーケターの腕の見せどころではないでしょうか。
ぜひチャレンジして感想もお聞かせいただけると幸いです。なお初級SNSマネージャー養成講座では、縦型短尺動画をTikTokの章で事例を交えて紹介しています。最後までお読みいただきましてありがとうございました。
2020年より私たちは、「SNSマネージャー養成講座」という資格試験をスタートしました。SNSマネージャーの上位資格である上級講座では、実際に運用しているアカウントをサンプルにして、徹底的に運用目的とKPIなどの必要項目を掘り下げて企画書を作成するワークを実施しています。
この記事を読んで「理屈はわかったけど、実際自社のアカウントに当てはめるとピンと来ない。さてどうしたものか……」とお悩みのあなた。ぜひチャレンジを。
タイトルデザイン、タイトルイラスト:995(Twitterアカウント)
三度の飯より猫が好きなイラストレーター。ゆるくてかわいいイラストが得意です。
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