インハウス広告運用の成功と失敗を分けるポイントを事例をもとに解説
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Web広告のインハウス化は、ただ内部での運用をするだけではなかなか成功につながりづらいものです。企業が主体性を持って自走することで、こうしたインハウス化は外注よりも高い効果を生み出せます。
本記事では、2021年4月14日に株式会社Shirofuneと株式会社DAサーチ&リンクが主催したウェビナー「自社主導で『透明性』のある広告運用できていますか?」のレポートをお届けします。
※本記事はShirofuneが運営するメディア「インハウスマーケティングラボ」の記事から転載しています。
広告運用のインハウス化にあたっての期待と変化
企業はどのような効果を期待して広告運用のインハウス化に取り組むのでしょうか?
スウェーデンのBannerflow社がDigidayと共同で発表したレポート「The State Of In-housing 2020 Report」では、広告のインハウス化で期待される効果が紹介されています。レポートによると最も多いものは「透明性の向上」であり、次いで「コスト削減」「機敏性の向上」「ブランドメッセージの管理強化」「クリエイティビティの管理強化」とされています。
こうした広告のインハウス化への期待は日本国内でも同様に増えており、代理店や支援企業には、インハウス化を踏まえた相談が増えてきているそうです。
「数年前までは『どの媒体が良いのか、どうすればKPIを達成できるのかわからないからお願いしたい』といった声が多く、広告主さまはいわば依頼主として広告運用を依頼されるケースが多く、目標を効果的に達成できるかが重視されていました。しかし直近では広告主さまがマーケティング活動の主体者として動いていくために、全体の戦略を相談するパートナーを探している、といったケースが増えています」(宮本氏)
Shirofuneの竹下によれば、こうした変化は代理店だけでなくツールなどを提供する支援企業への相談にも同様の変化が起きているそうです。
「弊社への相談も数年前は『短期的なコスト削減や効果改善を目的として広告運用をサポートしてほしい』という声がほとんどでした。しかし、最近では『広告運用やデジタルマーケティングのノウハウを社内に蓄積したい』『運用がブラックボックス化しているのを改善したい』といった中長期的にデジタルマーケティングを強化するために手段・パートナーを探している、という声が増えてきています」(竹下)
また、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大によるDXの加速もWeb広告・デジタルマーケティングの活動に影響を与えています。
“3密”を避けるため、従来の対面での商談やリアルイベントの開催などができなくなりました。企業には、対面を避ける営業手法の確立とともにデジタル接点での新規アプローチ開拓が求められ、デジタルマーケティングへの比重はより一層高まっています。広告においては事業活動とリンクした広告の展開・運用が求められており、それに合わせて各種自動化ツールの採用や外部パートナーのあり方が見直されています。
これらの「広告主の主体性の向上」と「新型コロナウイルスによる変化」の2つの要因から、企業のデジタルマーケティング活動は、より自社で主導権を持った迅速な意思決定が求められるようになっています。したがって、インハウス化に期待される「透明性の向上」もこの主導権と意思決定を実現するために求められるようになっていると竹下は話します。
広告運用のインハウス化における成功事例と失敗事例
では広告運用のインハウス化を成功させるにはどうすればよいのでしょうか?
それぞれ広告運用のインハウス化に成功した企業と失敗した企業の事例が紹介されました。
成功事例:株式会社BEADさま
まずは竹下から、成功事例としてタイヤの購入と交換予約がセットできる「TIREHOOD」というサービスを運営する株式会社BEADさまの事例が紹介されました。
もともと、代理店に広告運用を委託していたため、広告パフォーマンスは最終的な結果しかチェックせず、具体的な施策等はほとんど代理店にまかせていました。しかし、タイヤというニッチな業界であるため、商材理解の差による施策の精度やスピードに課題を感じており、運用のインハウス化に踏み切りました。
インハウス化にあたっては「チームでいつでもわかりやすく数字を見れること」「チームでいつでもわかりやすく変更できること」の2点をポイントとして、Shirofuneをパートナーとしてインハウス化を進めました。
結果として獲得数は130%アップ、獲得効率が30%削減となり、担当者変更後も継続してインハウス化を行っています。
成功事例:ECオンラインショップを運営するA社
次に宮本氏からの成功事例としては、ECオンラインショップを運営するA社の事例が紹介されました。
A社も代理店に運営を委託しており、広告パフォーマンスの確認は送付されるレポートのみとでした。そのため運用のディテールが見えづらく、次の打ち手を起案や、媒体特性に合わせたPDCAの適正判断ができない状況にありました。また、将来的にインハウス化を検討していたため、今のままでは広告運用のノウハウが蓄積されないことも課題となっており、DAサーチ&リンクへ運用を委託しました。
DAサーチ&リンクとは週次での定例ミーティングを行い、週次の数値情報の確認や運用のPDCAロジックや判断指標、媒体特性などの必要なノウハウ情報を都度整理してA社がインハウス化を実現できるためのインプットを進めました。
改善成果としては、目標CPAの半減とROASの2倍を実現し、クリエイティブ開発や社内調整に注力できる環境の余裕が担当者には生まれました。
失敗事例:大手BtoBサービス企業
続けて竹下より、インハウス化の失敗事例として大手BtoBサービスを提供するXX社(仮名)の事例が紹介されました。
XX社も先ほど紹介したBEADさまと同様にもともと代理店に運用を委託していたために、パフォーマンスは最終的な結果のみをチェックしている体制だったそうです。代理店の担当者の変更が多く、その度に広告効果が乱高下してしまうことが課題となり、インハウス化を進めたそうです。
広告運用は未経験であったため、Shirofuneに広告運用ツールとサポートを導入してインハウス化を進めました。開始直後は毎日ログインをして改善をしていたものの徐々にその頻度が下がり、最終的にはツールの自動化機能に任せっきりとなりました。
結果も同様で、インハウス化の直後は広告効果が改善されましたが、その後は現状維持の状態が続き、最終的には社内の体制変更によって再び代理店へ運用を委託することとなりました。
その結果CPAは80%削減され、獲得CVが増加したことでROASは2倍を維持するパフォーマンスとなりました。
失敗事例:化粧品メーカーのB社
続けて宮本氏から失敗事例として化粧品メーカーのB社の取り組みが紹介されました。
B社はデジタル広告でトップラインの底上げを狙っていましたが、何から初めて良いかわからず、現状把握もできていないので次の打ち手の起案、媒体特性に合わせたPDCAの適正判断ができていませんでした。B社も将来的には広告運用のインハウス化を検討していたため、商材ごとに代理店を分けてパートナーとし、Web広告の強化を進めました。
結果、CV数は増加したものの商材ごとに分けていた複数の代理店を比較してしまい、CPA見合いで効率が悪くなってしまいました。担当者も各代理店の評価と実売の差を判断できず、結果として代理店を統合することとなりました。
成功と失敗を分けたキーワードは「主体性」と「自走」
竹下いわく、紹介した事例にて成功と失敗を分けた鍵は「主体性」であると言います。
BEADさま、XX社どちらの事例も、もともと運用を外部に委託しており、施策展開や結果の確認が外部に依存していることが課題であったため、パートナーを採用してインハウス化を進めた点は共通していました。
チーム全員が主体性を持って数字を把握し、施策を展開した株式会社BEADさまは見事インハウス化に成功し、数字のパフォーマンスだけでなく体制変更後も内製の維持できました。しかし、徐々に外部のツール・パートナーへ依存する体制となってしまったXX社は初速のみの改善で再び代理店への委託となってしまっていました。
一方で宮本氏は、インハウス化の成功の鍵は「自走」であると話します。
成功したECショップ運営企業のA社は運用代行を選択したことで、担当者が自ら施策について議論し、社内調整や施策への対応といったクリエイティビティな活動へシフトできたことで、インハウス化へ向けてノウハウを蓄積しながら成果を出せました。
一方の化粧品メーカーのB社は、成果の最大化のみに比重をおいてしまい、広告のパフォーマンスが悪化した際の対応が後手になってしまいました。また、複数代理店を選択したことで、各代理店をどう統括するかも場当たりの対応となり、大きな成果には繋げられませんでした。
「主体性」と「自走」を意識したインハウスマーケティングにより意思決定スピードが向上
広告運用のインハウス化の鍵として紹介した「主体性」と「自走」。これらの2つの要素を意識したインハウスマーケティングにより、意思決定のスピードが向上すると宮本氏は話します。
企業が自ら戦略や体制を考え、その実現に必要なノウハウやツールを選択することで、自社の状況にマッチした自社主導の体制が構築でき、外部への委託では実現しづらい迅速な意思決定を実現できます。
宮本氏はこの自社主導のマーケティング体制を実現するにあたって4つの検討ポイントを紹介しました。
まず1つ目が「全体戦略」です。自社のマーケティング戦略においてデジタルがどういった役割で、どのような期待がされているのかを把握することが重要です。そのうえで強化していく領域の社内理解とコミットメントを得ることも重要であると述べています。
2つ目に「体制」です。日々の管理などのオペレーション業務を効率化する手段と仕組み、役割を整えることが自社主導のマーケティングには不可欠です。
3つ目に「パートナー」も検討すべきポイントとして挙げられています。設計・実行の段階で相談できるライトパートナーを選択することで、ノウハウの蓄積やパフォーマンスの向上につながると話します。
最後に「データ」です。関係者がいつでもすぐに数字を確認できるダッシュボード環境が自社内にあることで、施策や判断の選択肢が広がると言います。
インハウスマーケティングに欠かせない「透明性」を向上するための3ステップ
自社主導のマーケティングの実現に向けて、鍵となるのが前述の「透明性の向上」です。広告運用の透明性が向上することで、自社内でのマーケティング活動がよりスムーズとなります。
この透明性向上に向けては3つのステップを竹下氏は紹介しています。
1つ目は前述の「自社主導でのマーケティング体制の検討」です。特にデジタル広告においては「運用代行」と「ノウハウの蓄積」は切り分けて考えることが重要であると話します。
2つ目は「運用の体制」についてです。広告の実運用は予算規模や体制に応じてアウトソースでもインハウスでも問題はなく、アカウントが自社内にあることで柔軟性が担保できるといいます。
3つ目は「自社にとって必要なノウハウは何かを認識してその取得方法の検討」です。広告運用に関するノウハウといっても、言葉の定義等の基礎知識や、メディアや業界の情報、ソリューションの評価など様々です。何が自社にとって必要な情報で、その情報はどのようにすれば手に入るのかを考えることが必要であると話します。
自社主導のマーケティングを実現することで迅速な意思決定スピードを強化でき、スムーズなマーケティング活動ができます。そしてその際のキーポイントが透明性の向上です。しかしインハウス化を進めたとしても、主体性を持って自走する体制を構築できなければ、運用は上手くいかず、透明性の向上やその結果としてのマーケティング活動の活性化には繋がりません。
必要なノウハウやツール、パートナーを適切に判断し、自社主導でのマーケティング活動を行うことが成功への鍵だと言えるでしょう。
登壇者プロフィール
宮本祐子 株式会社DAサーチ&リンク カスタマーサクセス グループマネージャー
同志社大学卒業後、事業会社のマーケティング担当を経て、DAリサーチ&リンクへ入社。入社以来、運用コンサルタントとしてダイレクトレスポンス案件に携わる。
2020年、事業会社側の経験を元に、カスタマーサクセスのチームを立ち上げ、クライアントと直接向き合う体制を強化。現在、デジタルスタートアップを支援するサービスを構築中。
竹下智視 株式会社Shirofune 取締役
大学時代の卒論でリスティング広告を研究。大手ネット広告代理店に新卒で2007年に入社し、約10年間一貫してリスティング広告運用の業務に従事。
広告運用における社内育成の仕組みづくりや、初期構築専門の部署の設立、運用ルール・オペレーションにおける社内ルールの設計、組織づくり等を行う。
株式会社Shirofuneでは、主にアカウントの構築・改善施策部分の独自アルゴリズムの研究・開発、およびカスタマーサクセス領域を担当。
<編集=株式会社才流 中島 孝輔>
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