Greatな企業が備える、Goodな企業にはない6つの重要ポイント――自分の会社の現状チェック
まず前置きをさせてほしい。僕は経営管理の本とかビジネスセオリーの本、成功への道といったような「効率よく○○するための○○法」といった謳い文句の本が嫌いだ。
だけど、Jim Collins氏の書いた『Good to Great』(邦訳は『ビジョナリーカンパニー 2 飛躍の法則』、日経BP社刊)だけは、あまりにみんなが読むように勧めるものだから、断わりきれなかった。僕が本当に信頼をしている2人(GillianとAvinash Kaushik氏)が、自分も経営管理の何とかというような本は大っ嫌いだけど、この本は良かったよと話していたのが決め手となった。
この本を読み終えて、僕は毎日のようにこの本のことを考えている。
僕が感心したのは、アドバイスではなく調査の部分だ。Collins氏と彼のチームは1400社を超える企業の調査から始めて、米国の株式市場における長年の運用成績に基づき、「Greatな」(偉大な)企業11社を抽出した。そのとき、Collins氏が集めた調査チームは、基本的にGoodな(良好な)企業とGreatな企業について次の方程式が頭にあった。
Goodな企業+α=Greatな企業
この本は各章で、この「+α」の部分を具体的に解き明かそうとしている。この本に書かれている重要ポイント6つを僕がまとめてみた。
第5水準のリーダーシップ
「Greatな」企業のリーダーをみると、単に「Goodな」(あるいは、さほどGoodではない)企業のリーダーに比べたとき、それぞれが抜きん出た特質をもっている。例を挙げると、謙譲の美徳+意志の力、(個人としてではなく)企業としての野心、人を動かす謙虚さ、困難な問題にも立ち向かい断固とした決断を下す強い意志、事業が成功すれば他人を褒め失敗すれば自らを責める一貫した姿勢、といった具合だ。最初に人を、それから目標を
すばらしい人材を雇用するというのは当たり前のことに思えるかもしれないが、この本は実際のきわめてユニークなプロセスを詳しく紹介している。「Greatな」企業はどこも、「Greatな」(すばらしい)人物を特定の役割と関係なく雇い入れているようだ。つまり、ポジションを作ってそこに人を入れていくというのではなく、すばらしい人物が見つかったら、各自が自分の能力を最大限活かせるところを見つけるまで、いろんな部署で試行錯誤を繰り返してもらう。厳しい現実を直視する
「Greatな」企業も、厳しい課題や脅威に直面してきた。ただ、「Greatまでいかない」企業と比較してみると、市場の厳しい現実に対して採ったアプローチがまったく異なる。高邁な理想は確かな統計情報に取って代わられ、「たわごと」(この語を使うのは、Collinsはこの語を使いたくてたまらなかったはずだと感じるからだ)はご法度になった。マネージャーは数字を膨らませることはせず、従業員は話を誇張せず、経営陣には巨大な組織が直面する困難が常時、十分すぎるほど伝わってきた。しかし、そんな状況下でも、偉大な企業はどこも「厳しい現実」に確固とした信念をもって立ち向かった、とCollinsは指摘している。ハリネズミの概念
偉大な企業はどこも、ことによると最重要の指針であるハリネズミの概念を利用して、集中するべき領域を見つけ出しレーザー光線のような正確さで目標に向かう。他社ならまれに見る好機と捉えるようなものがあっても、そのプロジェクトが自分たちの最良のものに合わないと判断したら、平気で無視する。「Greatな」企業の中にもつまずいた経験をもつところはある。しかしどの企業も、自分たちを定義するコンピテンシーを1つ見つけ出し、時間をかけてそれを磨きあげることで、並外れた結果を残した。自律の文化
「Greatな」企業はどこも、取締役から中間管理職、新入社員に至るまで、すべての従業員が会社に献身的で、それが会社の成功につながっている。単にすばらしい人材を集めたという話ではない。自分の給与だけではなく会社全体の成功に注意を払う、動機付けられた献身的な従業員を生み出してきたのだ。「Greatな」企業と「そうでない」企業の労働者および管理職が比較されているこの章は、特筆すべき内容になっている。Greatな企業は必ず、意欲を触発する文化を形成する方法を見つけ出していて、厳格な管理体制がある場合もあくまでもそれは形式的で、従業員の誰もが通常の期待値を上回る働きをしている。弾み車
弾み車は、「Greatな」企業の「Greatさ」の構成要素なのだが、説明するのは難しい。次のようなアナロジーだ。「車軸に水平に装着された巨大な金属製の弾み車(中略)」を、少しずつ押し続けると速度は増していき、ついにはその勢いが大きな仕事を成し遂げる。Collinsはこれをとてもうまく記述している。...そして、そのことがわかり始めた。奇跡の瞬間などなかったのだと。外部から見ている人には一気に飛躍したように見えるかもしれないが、内部で変化を経験している人にとっては、決してそんなものではなかった。将来に最良の結果を得るためやるべきことを見極める地味で慎重なプロセスがあって、ただそのステップを確実に1つひとつ実行して、弾み車を回してきたという次第だ。
調査結果の説明も例の提示も、明らかに実際の本の方がずっと上回っているけど、とにかく基本的にはここに挙げたことが書かれている。Greatな企業へと飛躍を遂げるには、この中で言われていることを肝に銘じておかなければならない。
確かに、僕が最初にこの本を読み終えたとき、SEOmozのような会社にこの本に書かれている数多くの教訓をどう適用できるのかと考えあぐねた。SEOmozはたった7人のチームで、対象とする業界はさまざまだ。KrogerやCircuit City Stores、Wal-Mart Stores、Fannie Maeといった企業とはまったく違う。でも、そこで僕は自分がめったにやらないことをやった。本をもう一度読み返した。75日間で、どの章もおそらく最低2回は読んだと思う。そして、ついに内容が実感できてきた。僕は、この本に書かれている教訓に照らして、SEOmozはどうかという厳しい質問をぶつけてみたいと思った。
「何でもかんでも共有する」SEOmoz流のやり方にのっとって、自分が到達した考えを示しておこうと思う。企業評価はこれですべてというわけではない。でも叩き台にはなるかもしれないし、うまくいけば、みんなの仕事にも適用できることが見つかるかもしれない。
- SEOmozには第5水準のリーダーシップがあるか?
答えはノーだ。僕の母で会社の共同創設者のGillianが半分は達成していると思う。彼女は、顧客サービスから財務面の管理、戦略的方向性の決定まであらゆることに、労を惜しまず献身的に働いている。でも僕はといえば、この点では資質をほとんど欠いていて、第5水準のリーダーのまったく反対をいっている。僕はSEOmozの仕事への誇りがあまりに強く、ときに僕のパーソナリティが影を落とし会社の評判を傷つけていることがないとは言えない。これを改善するのは非常に困難で、もしかすると不可能かもしれない。将来的に、SEOmozが別のCEOを必要として、僕はエバンジェリストの地位に退くことがあるかもしれない。あるいは、こちらの未来を願いたいのだけど、Gillianが引き続き僕らを正しい方向に導いてくれて、その間に僕は第5水準のリーダーシップと正反対の部分の改善に努め、会社が必要とするリーダーになる。
- SEOmozは適材適所か?
これはおそらくできている。僕らは適材適所のために奮闘してきた。Scottが仲間に加わったときは特にそうで、彼はまぎれもなく「適材」だったのだけど、彼の「適所」を見つけるのに何か月もかかった。現在Scottは事業開発を担当していて、彼はそのために生まれてきた人物ではないかと僕はみている。時間が経てばはっきりするだろう。Rebeccaは最近自分のポジションに苦しんでいて、僕とRebeccaは彼女の理想的な役割について話し合おうとしてきた。彼女にも、できるだけ早く適所を見つけてもらいたい。Rebeccaは現在、さまざまな作業をあれやこれやとこなしているのだけど、ブログ執筆や、SEOmoz内のユーザー作成コンテンツの管理、あるいは会社の看板娘という役割を超えて、「助けて! 事態を収拾できる人が必要なんだ」という状況で駆け込む、頼りになる存在になってきている。Jane、Jeff、Mel、Gillian、そして僕は役割がもっとはっきりしていて、それぞれ役割にそこそこ満足している(と思う)。でも、僕らだって自問自答を繰り返し、何度もつまずきながら最適のポジションを見つけていくのかもしれない。
- 厳しい現実に立ち向かえているか?
そうでもない……かな? そもそも、僕らにとって「厳しい現実」とはどういうものかわかっていない。たぶん、(少なくとも現在の形になってからは)まだ本当の困難に遭遇していないのだと思う。もしかすると、検索マーケティング業界は規模に限界があり、現在の約4万7000人という会員数(登録会員、プレミアム会員ではない)が業界の限界近くに達している(故に、新規の会員に向けた新たな手段を模索しなければならない)という事実が、僕たちの過酷な現実なのだろうか。あるいはそれは競合する製品やサービスなのか(ここ数か月のうちには、少なくとも2、3の新製品/サービスがリリースされる)。検索エンジンの方針が大幅に変更になるとか、人々のウェブの使い方が変わって、われわれも方向転換を余儀なくされるとか、そういったことかもしれない。この質問は、難しすぎてちょっと僕には答えられないな。
- 僕らのハリネズミの概念は何か?
それはプレミアムコンテンツだろう。まじめな話をすると、僕らはガイドを作成して、質問に答え、価値あるツールを構築して、リソースを提供し、検索マーケティング担当者の仕事がうまくいくお手伝いをしたいと考えている。そしてこれからも、当面はこれらの仕事にエネルギーの95%を費やしていくつもりでいる。このニッチ市場を見つけるのにはずいぶん長い時間がかかった(Gillianが初めてマーケティングの会社を興したのが1981年で、SEOmozが正式に発足したのが2003年ごろ)。でも、僕らはついに正しい道を見つけた、僕はそう信じているよ。
- 自律の文化を作れているか?
できていると思う。SEOmozで働く人々は、夜遅くでも互いにメールでやりとりし、スパムは見つけしだいブログから削除し、内容とブランドに情熱をもつ文化を共有し、社外的には会社をよく代表し、期待値を上回る働きをしてくれている(Rebeccaがより給料の良いよそからの誘いを断り続けていることが、すべてを物語っている)。おそらく、やれることはもっとあるのだろうけど、SEOmozは根気よくやっていきたい。この献身と情熱を続けられれば、これから先もずっと好調を維持していけると思う。
- 弾み車を回しているか?
もちろん回している。僕らは毎週または隔週で、プレミアムコンテンツとして新しいものをリリースしている。それは他社と提携契約を結んだブレミアム会員向けの値引きだったり、価値の高いリンクソースのリストだったり、新しいツールやサービスだったりする。「飛躍」の時というのは訪れていなくて、これからもありそうにない、と思っているけどね。僕らはただ、毎日少しずつ会員を増やし、毎月少しずつ新サービスを投入して成長し続けていく、それだけだ。ひょっとすると遠い遠い将来、会員数が5000人とか1万人とかになった時に、過去の出来事(資金調達など)を振り返って「あれが飛躍だった」と外部の人間が言うのかもしれない。でも、僕ら中にいる人間にとっては、単に自分たちの仕事をしているという感覚でしかないんだ。コンテンツやツールやサービスををコツコツ作って、製品をより良いものにしていくだけさ。
こうして見ると、飛躍の法則(Good to Great)の成績をつけるとすれば、僕らはだいたいCかC+というところだろうか。でも、僕らはまだ規模も小さくてすばやく動ける。ようやく時流が僕らのほうに流れてきて、検索マーケティング全般が成長してその強力な後押しを受けているところだ。少なくとも、エンジンに火が入り始めている。
さて、僕らはこんな感じだったのだけど、検索業界の他の人たちはどうなんだろう。僕と同じこと、つまり会社について、自分たちがCollinsの飛躍の法則にどれくらい当てはまっているのか話をする、ということをやってみてはどうだろう。僕が特に話を聞いてみたいのは次の人たち。
pepperjamSEARCHのKristopher Jones氏
EpiarのKen Jurina氏
Bruce ClayのBruce Clay氏
RustyBrickのBarry Schwartz氏(彼はもうやってるね!)
BroncoのDave Naylor氏
ほか、時間と労力を割いてくれる業界の人ならだれでも(もちろん、報告を書いてくれたら絶対にリンクを張らせてもらから)。
厚かましいお願いなのは明らかなのだけど、うまくいけば、コミュニティ全体(と僕の強い好奇心)にとっても当人にとっても有益だと思うんだよね。ところで、Collins氏は、会社が飛躍の法則に従っているか確かめる(PDF書類)すばらしい診断書を自身のサイトで公開していて、誰もが試すことができる(ただPDFなのがね)。
最後に1つ。異なる意見(すばらしい批判)にリンクを張るのをよく忘れていることについて指摘を、最近Andy Beard氏から受けた。『飛躍の法則』とその中に書かれたアイデアについて、僕と比べるとはるかに否定的な見方(でも、よく書けていて興味をそそる)を読んでみたい人は、BUSINESSPUNDITに掲載されている「Why "Good to Great" Isn't Very Good」(『飛躍の法則』があまり評価できない理由、)をどうぞ。
ところで、検索業界で1つ、この方法論でフル回転していて、結果としてすごい収益を得ている企業が思いついたんだけど……わかるかな。
更新情報:OK。僕が言ってたのはGoogleのことだってみんなわかったよね。Googleには(少なくとも外から見れば)第5水準のリーダーシップに近いものがあって、Greatな人たちを連れてきてはあちこち回らせて適所を見つけている。Googleは成長の初期段階には売上モデルが確立できていない厳しい現実を直視し、それに立ち向かった。Googleは比較的強力なハリネズミの概念をもち(検索のこと。ただ「20%タイム」などのプロジェクトは、Googleがここで間違いを犯していることを示している)、見事な自律の文化を確立している(従業員の献身は恐ろしいほどで、アップデートごとに確実に弾み車を回している)。Googleは検索のユーザー体験を改善し、四半期ごとにほぼ確実に市場シェアを拡大している。
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