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競合ひしめくスタートラインで勝ち抜くには/書評『フラット化する世界』増補改訂版

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『フラット化する世界――経済の大転換と人間の未来』増補改訂版(上下巻)

評者:斉藤 彰男(編集者、システム・エンジニア)

グローバリゼーションは世界をどのように変貌させたか
フラット化する世界で、私たちはどう生き抜くべきか

  • トーマス・フリードマン 著 伏見 威蕃 訳
  • ISBN:978-4-532-31377-7 上巻
  • ISBN:978-4-532-31378-4 下巻
  • 定価:2,000円+税(上下巻とも)
  • 日本経済新聞出版社

本書は、著者トーマス・フリードマンが2004年2月にインドを訪れたときに感じた「世界は平らなんだ」という閃きに端を発している。かつて新大陸を発見したコロンブスは、スペイン国王と女王に「世界は丸い」と報告したと伝えられているが、21世紀にバンガロールのインフォシス・テクノロジーズ社を訪れた著者は、「いまだかつてなく多くの人々がリアルタイムで共同作業をし、あるいは競争をしている。地域的にもいままでよりずっと広い範囲の人々が、従来よりも多種多様な作業を行っている。しかもコンピュータ、電子メール、光ファイバー・ネットワーク、テレビ会議、機能的な新ソフトウェアを利用することにより、これまでの歴史には見られなかったような平等な立場でそうした作業を行っている」ことに気づき、本書を執筆することを思いついた。

第一部「世界がいかにフラット化したか」では、世界のフラット化が始まった原因について解説している。第1章「われわれが眠っているあいだに」では、グローバリゼーションが「国のグローバル化」(=1.0)「企業のグローバル化」(=2.0)を経て、「個人のグローバル化」(=3.0)という段階に到達したと分析。また第2章「世界をフラット化した10の力」では、ベルリンの壁の崩壊からグーグルが1日に10億件の検索を処理する現在に至るまでの、フラット化の要因を分析している。さらに第3章「三重の結束」では、それらの要因が何によって結びつき、フラット化をゆるぎないものとしたかを分析。いまやフラット化は「臨界点に達した」と著者は語る。この第一部は、とくにWeb担当者は熟読すべきところだ。

次の上巻から下巻にまたがる第二部「アメリカとフラット化する世界」では、フラット化によって米国の社会にどのような変化が起こり、また更なるフラット化が進むこれからの米国には何が求められるか、などについて解説されている。フォーカスは、これまでのテクノロジーから政治、経済、産業、教育といった人間をとりまく環境に移される。

続いて同じフォーカスを継承しながら、第四部「企業とフラット化する世界」、第五部「あなたとフラット化する世界」、第六部「地政学とフラット化する世界」へと展開。エピローグにあたる結論「イマジネーション」では、世界のフラット化が“諸刃の剣”であることを、「11.9」(=創造的イマジネーション)と「9.11」(=破壊的イマジネーション)を対比しながら解説し、繁栄するには「正しいイマジネーションと正しいモチベーションがなければならない」と締めくくる。

本書は、ニューヨーク・タイムズ紙の外交問題コラムニストでもある著者が、世界各国でインタビューした多くの著名人の言葉を盛り込みながら、テーマの本質をジャーナリスト的なグローバルな視点に立って分析しており、その内容には読者を問題の核心へとパワフルに導いてゆく、圧倒的な説得力がある。

ただ、ここに紹介した構成からも読み取れるように、本書は“米国人”であるトーマス・フリードマンが、世界のフラット化によって米国の社会構造が大きく変貌しつつあることの警鐘を発し、先進国である米国の人々は何をすべきか、また子供たちの時代に急速に発展しつつあるインドや中国との競争に勝ち抜くためには何が必要か、といった「いつの時代も世界をリードするのは米国」であってほしいという思いに支えられて書かれていることに、評者は何ともいえない違和感を覚えた。

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