『ソーシャル消費の時代』/客を知れば百戦危うからず、2015年の消費者像を分析【書評】
BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊
『ソーシャル消費の時代――2015年のビジネス・パラダイム』
評者:斉藤 彰男(編集者、システム・エンジニア)
2015年に求められるのは、「質」と「絆」を重視した「ソーシャル消費」
消費のトレンド、新商品、サービスなどを描いた“未来予想図”
リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけとした世界的な金融危機によって、消費マインドは急速に冷え込み、なかなか回復の兆しが見えてこない。統計によれば、2009年5月の全国スーパー売上高(日本チェーンストア協会発表)は、前年同月比2%減で、連続6か月も対前年割れから脱出できず、消費がいつ好転するのか見えてこない状況だ。
著者の上條典夫氏は、今日の消費は「はるか遠方に及ぶ影響を、人間、社会、環境などあらゆる側面でボーダレスにもたらしうる
」ようになり、「もはやかつてのように『個』の価値観のみに立脚し、閉じた消費者像はありえない
」として、「『量・個』ではなく『質・絆』を重視した新たな『ソーシャル消費』
」という消費行動スタイルを提唱する。
本書では、この「ソーシャル消費」の考え方に沿って、近い将来の日本の消費動向を予測。具体的には2015年にターゲットを当てて、消費のトレンド、新商品、サービスなどについて“未来予想図”を描いている。
構成は、「若者観測」「シニア観測」「ファミリー観測」「情報社会観測」「コミュニティ観測」「観光力観測」「環境社会観測」という7つのパートそれぞれについて2つから4つのテーマが取り上げられていて、総体としては、2015年の消費社会が、いわば鳥瞰図のように全体像として描かれている。
中でも、興味深いのは「若者観測」。ここでは「コミュニケーションと若者のライフスタイル」「仕事と結婚」の2つのテーマが取り上げられているが、前者では、2015年前後に社会人となる若者世代を「ケータイ・ネイティブ」と呼んで、彼らのライフスタイルが、これまでの世代と大きく異なっていることを、統計データなどを示しながら紹介している。中でも「女子高校生インタビュー」をベースに解説する彼らのケータイ活用法は、読み物としても面白い。
また、「情報化社会観測」では、「クリエイティブ・ライフ」「ネット起業」「携帯電話」「ゲーム」の4つのテーマが取り上げられているが、興味を引かれたのは「携帯電話」。世界の潮流からはずれて独自の進化を遂げ、“ガラパゴス化”していると言われる日本の携帯は、著者に言わせれば「『ガラパゴス』ではなく『浮世絵』であると信じたい
」として、「閉ざされた国の爛熟した文化が(世界に)解き放たれるとき、受け手側の価値観を変えるほどの驚き
」がもたらされることを期待する。また2015年頃には、1人3回線を持つのも夢ではないとして、通話用のケータイの他に、iPhoneのようなテレビやネットを「観る用」、A4見開きが表示できるようなブック型の「読む用」といったケータイも開発されるだろうと、著者は予測する。
「環境社会観測」も、読み飛ばせないパートだ。環境問題は、これまでの“自然を守る”といった素朴な課題から、排出権取引に見られるような経済活動と連携した課題にまで広がり、問題の本質を理解することが難しくなっている。「エコロジー」の章では、世界における動向、わが国の施策やビジョンなどが具体的に解説されている。「CO2本位制」「カーボンオフセット」「コンパクトシティ」「マイクログリッド」といった環境関連用語についても解説されていて、教養として読むにもお勧めの箇所だ。
さらに、本書では各テーマの結びとして「近未来消費シーン」が紹介されている。各シーンにはキーワードが付けられ、それを解説するスタイルだが、“目からウロコ”というものがあったり、中には思わず笑いを誘うものもあったりで、これまた結構楽しめる。
だだ、本書で描かれている未来予想図は、企業や政府の統計・調査レポート、官公庁の報道資料などがベースになっているので、「それどこかで聞いた」といったものも多く見受けられ、予測のユニークさとか新鮮さいった点では、驚きは少ない。しかし、1つの鳥瞰図としてさまざまな分野の予測がトータルにまとめられている点は、大いに評価に値する。丁寧に作られていて、著者のこの本に注ぎ込まれたパワーには、誰もが好感を覚えることだろう。
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