■フラット化は幻想だ!
T氏「今年は清水君、世界をいろいろ見て回っていたけど、結局のところどうだった?」
「結局のところ、フラット化は幻想だと思いました」
T氏「どういうこと?」
「去年、『フラット化する世界』(トーマス・フリードマン著、日本経済新聞社)っていう本が少し流行したんですよ。それによると、地球はもはや平らなんだ、ということが書いてある。アメリカ企業がどんどんインドに経理業務や人事業務をアウトソーシングしていると」
T氏「そういう話を結構聞いたね」
「故に世界はフラットだと言うんですけど、本当にそうなのかなと」
T氏「それで世界中巡ってみたわけ?」
「それだけが理由じゃないですけど、危機感として『フラット化』というのはありました。今年は営業の前線で実際にインドのベンダーとコンペになることもありましたし。そしたら値段では絶対勝てないですから」
T氏「それで?」
「そもそも『フラット化してる』『グローバル化してる』という言説自体が、日本人とアメリカ人の基準なんじゃないかと思いましたね。アメリカ人ってのは自分たちが世界の中心だと思ってるから、アメリカだけのプロレス団体とかに『ワールドレスリングフェデレーション』(WWF、現在のWWE)って名前を簡単に付けちゃう。そんなのは最初からなので、真面目に聞いてもしょうがない。けどそれを真に受けてるのが日本ですね。日本は言語として独立していて、文化の元ネタはアメリカからやってくる。だからアメリカ人の言ってることを素直に信じちゃう」
T氏「それは極論だと思うけれども、そういう面はあるかもしれない」
「それでヨーロッパとかに行くと、余計に強く思うんですけど、これはフラットじゃないんですよ。国が違うとなにもかも違うので」
T氏「何が一番違うと思った?」
「娯楽と食事ですね」
T氏「食事は良く言われるよね。娯楽ってのは?」
「ゲームもそうですけど、売れるコンテンツってぜんぜん違いますよね」
T氏「それは当然そういうこともあるよね」
「経済に格差があると、そもそもコンテンツそのものが通用しない国ってのが結構あると思うんです」
T氏「それはそうだね。たとえば中国なんかでは違法コピーが多過ぎるのと流通が未熟だから、いわゆるゲーム機のビジネスは成立しないし、韓国も法律の規制やなんかが絡んでいて、つい最近までゲーム機はビジネスとして立ち上がらなかったね」
「日本のマンガやアニメが海外でウケてるって良く言われているんですけど、それもまるっきり幻想に近いなと思ってですね」
T氏「あ、やっぱそうなんだ
「僕は前回、日本ではわりと有名なアニメとかイラストとかを描いている方と一緒にロンドンのマンガショップを片っ端から巡ってみたんですね。彼の本は確かにおいてあるんだけど、店主はそれを誰が描いたのか知らない、興味も無いっていう感じで」
T氏「まあ本が沢山あったらいちいち著者なんか覚えてないよ」
「でも日本のアニメ関係の本屋で彼を知らなかったらモグリですよ。ま、それはともかくとして、何が売れてるのか聞いたんですよ。片っ端から」
T氏「ほう、それで?」
「スーパーマンだと、次がバットマン、それからウォッチマン」
T氏「20年前となにも変わってないんだ」
「『萌え』系マンガとかに至っては全滅。基本的に向こうのマンガはグロい表現が好きな人が読むものみたいで、日本人からしたら正視に耐えないものも多いです」
T氏「向こうのマンガ、ときどき見るけど、すごくきついのあるね。
「だから海外で日本のマンガがウケてるというのは、日本でアメコミがウケてるっていうのと同じかなと思ったんですね。それが好きなマニアも居るよ、という程度のものかなと。ところがパリに行くと事情ががらりと変わって、マンガ自体の質も高くなるし、彼のファンにも偶然会ったんです」
T氏「芸術の都だからかねえ」
「ベトナムに行ってみると、そもそも本屋がない。正確には滅多にない」
T氏「ニーズが出版するコストに達しないのかもね」
「いまはインターネットがありますからね。情報という意味ではネットの方が多いし」
T氏「ベトナムはどうだった?」
「素晴らしい街でしたよ。と同時に、いろいろ考えさせられる場所でもありました」
■グローバル化はデストピアを生む?
T氏「考えさせられるってどのあたりが?」
「今、日本を含めた先進国って、物価に差はあったとしても倍違うということはないじゃないですか。けど、ベトナムって物価が1/5くらいなんですよ」
T氏「今はそんなもんかなあ」
「でも、彼らは別にホームレス並みに貧しい生活をしてるわでもなく、普通に生活しているわけです」
T氏「そうだろうね。単に貨幣価値の問題だからね」
「だからこれも1つの言いがかりに近いなあと思ったんですね。昔、ペリーが日本にやってきて無理矢理開国したときに、日本の小判の金の含有量目当てで明らかにおかしいレートで取引することを強要して奪って行ったわけでよね。まああれは江戸幕府がまずかったとも言える訳ですが」
T氏「岩崎弥太郎の土佐商会(今の三菱)が活躍した頃だね」
「それに近いことがただ今起きてるだけだなと。外的要因がなければエコシステムとして回っているものを、外部の力で安く使おうとしている」
T氏「フラットどころか不平等を意図的に起こしているのだと」
「意図的かどうかは解らないですが、結果として不平等を利用していることになる訳です。アメリカの会社の人事制度を、インドに委託するコストというのは、インド人の人件費がアメリカ人よりずっと安くないと成立しない。能力的には等価なものを安く調達するわけですから、これは経済的な不均衡がなければ成立しないんです。つまりフラットになってしまったら、むしろ困るのはこういう商売をしている人たちですよ」
T氏「ちょっと前はやっぱり韓国とか中国とかに工場を作ったり仕事を頼んだりしていることも多かったけど、彼らが経済的に発展してくると結局人件費が上がってきて、引き上げるところも多くなったね」
「それどころか、フラット化っていうかグローバル化ね、凄く危険だと思うんですよ」
T氏「というのは?」
「事故米騒動って日本で去年あったでしょ? あれなんか、たとえば100年前ならせいぜいその藩がお家とりつぶしになるくらいの被害で済んだ。最悪の場合でも。けど、発ガン率100%とか、どこまで本当かしらないですけど、仮にそれが真実なら、日本人全員が癌になって死ぬかもしれない訳ですよ。今の時代、あらゆるものが流通していくから、それまではせいぜい数十キロ圏内でしか流通していなかったものが、今は単に安いという理由だけ、もしくは作っていないという理由だけでガンガン流通する。流通するのはいいけど、その結果、リスクも増大していくわけです」
T氏「あああれねー、確かにしばらくご飯食べたくなくなったなー。けど、もう忘れて食べてるけどね」
「それがね、ほんと脳天気というか(笑)、まあ別にいいんですけど、本当に発ガン率100%だったら食べれば食べるほど死に近づくわけですよ。その数字自体が眉唾だと思ってますが」
T氏「だいたい日本人の死亡原因の大半は癌なんだから発ガン率100%ってもともと当たり前なんだよ」
「それは極端ですけど、まあ癌くらいで良かったよねと。これが青酸カリ混入とかヒ素混入とかで、食べてもすぐにはしなないけど半年後に死ぬ、とかそのくらい強烈なやつだと、日本人絶滅しますよ。簡単に」
T氏「たとえば?」
「たとえばコンビニで流通しているミネラルウオーターに“三年殺し”みたいな毒物がうっかり混入されてですね、2年後くらいに気がつくの。そしたらみんなパニックですね」
T氏「昔はそんなこと起こりようも無かったもんなあ
「もちろん現実にはそんな大量の毒物が“うっかり”混入することはまずないわけですが。仮面ライダーの“水源に毒を入れる”話に近い(笑)。ただ、話としては起こりうるわけです、狂牛病と一緒で」
T氏「まあカラダに悪いと知っていてタバコ吸い続ける人もいるわけだしね」
「今はすっかり下火になったセカンドライフの元ネタで、『スノウクラッシュ』(ニール・スティーブンスン著、ハヤカワ文庫)という小説があるんですがね」
T氏「セカンドライフ聞かなくなったねえ」
「その『スノウクラッシュ』の話というのは、人間の意識に作用するコンピュータウイルスの話なんです」
T氏「どういうこと?」
「この先ややネタバレになるので、未読の方には注意して欲しいですが、人間の脳ってコンピュータでしょ?」
T氏「そうかどうかはわからないけど、似たような原理で動いているって言うよね」
「人間の脳がコンピュータだとすると、コンピュータウィルスというのもあり得る訳です」
T氏「ああ」
「今、人間が知っているウイルスっていうのは、インフルエンザとか天然痘がメジャーですけど、そういう、生物学的に伝搬していくウイルスがほとんどですよね。エイズみたいなレトロウイルスもありますが」
T氏「そうね」
「それってコンピュータでいえばハードウェアにこびりつくカビみたいなものでね。直接の接触がない限り伝染はしないわけです」
T氏「それはそやね」
「でもコンピュータウィルスっていうのは、単なる情報だから、インターネットを経由して爆発的なスピードで伝染していく」
T氏「うんうん」
「人間の意識も一種のコンピュータの活動というか、ソフトウェア的なものであれば、人間に作用するコンピュータウィルスもあり得るのではないか、というのがスノウクラッシュのテーマなんですね」
T氏「ああなるほどね。それでその話が出てきたのか。
「スノウクラッシュの世界では、ある記号列を人間に読ませると、その人はコンピュータ経由だろうが紙だろうが、頭が真っ白になって意識を喪う。コンピュータでいえばフリーズするわけです。人間なのでリセットできないし」
T氏「ネット経由でどんどん伝わって行く訳だ。なるほど」
「ウイルスではないけど、コピーされて害があるという意味では、違法コピーの存在なんかもそうですよね」
T氏「あれはしかも劣化しないしね」
■シンク・グローバル、アクト・ローカル
「要するにフラット化、グローバル化っていいことばかりじゃないよというのが今夜のテーマだったわけですが」
T氏「なるほどね、とはいっても現実にはゲーム業界の売上げの7,8割は海外のものだから馬鹿にできないしね
「どちらにせよ避けられない現実なので、グローバル化を無視することはできないわけですが、グローバルとローカルというのは密接なつながりがあるので、なんでもかんでもインターネットでできるというのは甘かったかなと思いますね」
T氏「iPhoneとかどうなの?」
「なんでもかんでもネットでできるかと思ったんですけど、最後の最後では、やはりローカルというか人間同士のつながりに頼らなければならないことも出てきて、もちろんネット以前では絶対できなかったことだし、アナログな部分に頼らなくても平気な恵まれてる人もいるのですが、僕らはとりあえずそれを必要としましたね。それが今年の1つ大きな発見でした」
T氏「たとえば?」
「広告とか宣伝とかとってもそうですけど、やっぱり無名のワケ解んない奴なんか相手にしてくれない。僕が雑誌の編集部でバイトしてた頃も、確かにそうだったよな、と思った訳です」
T氏「イイ女は正面から恋をするっていう話、あったな」
「中谷彰宏ですね」
T氏「後ろから話しかけたらダメだ。正面から行けと」
「だから正面から行く訳ですよ。どんな人間も突然産まれることはないので、それはもう素直にこれまで日本で行きてきて作ってきた人脈をフル活用してね。シンク・グローバル、アクト・ローカルって感じで。シンプルな言葉だけど、重みがあるなーと」
T氏「年末はどうするの?」
「来年(2009年)の元旦は砂漠で迎えようと思ってます。ロスからクルマでラスベガスへ」
T氏「えらい時間かかるじゃない」
「ええ。でもやっぱり原点を確認したくて。今年の僕は砂漠から始まってますからね。また砂漠に立ち戻って、それからいろいろと考えたい」
T氏「そうか。なんか居酒屋じゃないみたいだな」
「はっはっは。そうかもしれませんね」
T氏「ま、来年も頑張ろうよ、お互い」
「はい」
その六! フラット化、グローバル化という言葉に踊らされず、
自分の感性で考えろ!
筆者のお気に入り居酒屋情報
「地酒 あさま」
住所:東京都新宿区四谷3丁目7(地図)
電話:03-3355-2977
「本当に美味しい地酒」を飲ませてくれる店。本当に客が好きなお酒はどれなのか、親子2代でお店を切り盛りしている親父さんと息子が、お客さんのために探してくれる。
ソーシャルもやってます!