居酒屋明日のモバイルほろ酔い語り

黒船襲来! 日の丸モバイルの明日はあるか? - shi3zの明日のモバイルほろ酔い語り

居酒屋明日のモバイルほろ酔い語り

ここは、東京下町のとある居酒屋。板だけ載せた酒瓶ケースの上に、ずらりと焼鳥やもつ煮を並べ、路上で立ち飲みが基本の店だ。気さくなおかみさんが、手作りの肴を振る舞ってくれ、深夜までずっと賑わっている。

そんな気取らない店に、IT系勤務のホットなやつらが夜な夜なつどって業界の噂話に花を咲かせ、ときには激高しときには愚痴をこぼし、ときには成功を喜び合う……。店内では、聞き逃せないような最新情報、そしてモバイルの未来に関わるような貴重なアイデアが飛び交っているのだ。

今日も、おもしろそうな会話が耳に飛び込んできたようだ。

文、写真:清水亮(ユビキタスエンターテインメント)

昭和の香り濃厚な新宿ゴールデン街。つねに古くて新しい横町から飛び出したモバイル話は「日の丸ケータイ」。“ガラパゴス携帯”に開国を迫るのは、ペリーならぬ○○○○だろうか?

登場人物

筆者

筆者=さすらいの零細企業経営者。モバイルコンテンツ管理システム(CMS)の開発・販売を手がける。最近はiPhone関連の事業に力を入れる32歳。
N氏=筆者の飲み友だち。モバイルについての造詣も深い。

黒船襲来!日の丸モバイルの明日はあるか?

黒船といえば…○○○○だろ!

ゴールデン街
筆者

筆者「いま、我々の世界で黒船といったら、あれですかね?」

N氏「なにが?」

筆者

筆者「早過ぎるなあ…」

N氏「だから、なにが?」

筆者

筆者「リア・ディゾンの結婚」

N氏「そっちか!グラビア界の黒船!」

筆者

筆者「ま、それはさておき」

N氏「さておいちゃうの?」

筆者

筆者「我々の世界で黒船といったらあれですよ。グーグルのAndroid」

N氏「それとiPhoneもね」

筆者

筆者「技術ということなら日本も負けてないと思うんだけど、なんだろうか。この危機感

N氏「おもしろ味がなくなって来てるよね。和製端末は」

筆者

筆者「Androidはともかく、アップルが凄いなと思ったのは、世界でアップルにしかできないやり方で文字どおりケータイを再発明したってことですね」

N氏「タッチスクリーンの携帯電話もキーパッドなしの携帯電話も、日本ではかなり昔にあったんだよね。流行らなかったけど」

筆者

筆者「それを敢えてやってね、あの完成度まで持ってくのは凄い。ハードやソフトじゃなくてコンセプトの完成度がね」

日の丸ケータイは“完成”した?

N氏「日の丸ケータイはいきつくところまでいった感じがするよね。去年の905のキャッチフレーズが『全部入り』なんだもん」

筆者

筆者「やっぱり、じゃんがらラーメンの影響かね。全部入りってあたりは」

N氏「それはしらないけど(笑)」

筆者

筆者「良くも悪くも、ハードウェア的にカメラ、テレビ、3G、SDカードにお財布ケータイと、入りそうなものは全部入っちゃった。足りないものが思いつかないくらい」

N氏「まあ強いて言えば、爪楊枝、ハサミ、虫眼鏡、ノコギリくらいかな」

筆者

筆者「アーミーナイフじゃないんだから」

N氏「まあそれは冗談として、確かに付け足すものが思いつかないよね」

筆者

筆者「とはいえもちろんまだ不満はある。たとえば、FlashはいまだにLiteだし。本当はFlashの実行環境だけでiアプリ並のこともできるはず。両方ともバーチャルマシンなんだから。でも、iアプリとFlashは完全に分けられているよね」

N氏「それはいずれ融合していくんだと思う。とはいえ、そうした不満というのは、ハードウェアの問題ではなくてソフトウェアの問題が圧倒的に多い。問題というか、ソフトウェアには改良の余地がある」

筆者

筆者「当然だよ。人間の想像力は無限大なんだから。ソフトウェアの可能性もまた無限大なのさ

N氏「でもハード的には完成と言って良い気がするね。700シリーズと900シリーズの差もついになくなった感があるし」

筆者

筆者「あとはソフトウェアがひたすら進化していくだけかねえ」

N氏「もちろんハードウェア的にも、今後、たとえばBluetoothがもっと活用されるようになったりとか、いろいろと進化の余地はあるけどね」

筆者

筆者「拡張現実感用のヘッドマウントディスプレイ(HMD)とか」

N氏「まあそこまでいくとまだ早いかなあ」

フルブラウザとケータイのUI

自身もバリバリのプログラマであるオーナーのリチャード氏
筆者

筆者「Androidもね、iPhoneも、基本がフルブラウザじゃない? だから最近一番多く受ける相談は、『モバイルコンテンツはこれからどうなるのか』ってことなんだよ」

N氏「変わらないだろうね。この業界はなんのかんのであと10年は続くと思う。最近景気が悪くみえるのは、モバイルベンチャーの大手がみんな上場しちゃって軒並み規模が拡大して伸び悩んでいるだけであって、実際にはコンテンツ単体は儲かっているよ」

筆者

筆者「インターネット大手も少し前に同じような状況があったけど、インターネット業界が無くなってはいないしね」

N氏「モバイルの場合、コンテンツにお金を払うというプロセスがスムーズだから、ニッチなコンテンツもきちんとやれば利益を出せる。PCの世界だとニッチなコンテンツは広告収入もあんまり見込めないからね」

筆者

筆者「あとね、PCはUIが多様過ぎて一貫性がないんだよね。デザイナーは嬉しいんだけど、使う側からしたらサイトごとにインターフェイスが違うって、実は凄く困る」

N氏「で、結局どこのサイトも似たようなデザインに落ち着いていくんだよね」

筆者

筆者「でも微妙に違う。どこが押せるのかさえわからないこともある」

N氏「その点モバイルは上下移動と決定しかないからなあ」

筆者

筆者「UIを作る立場からいったらね、UIがいいなんて思われたら敗北ですよ」

N氏「え!? なんで?」

筆者

筆者「“いいUI”ってのは存在すら意識させないものだからね。ズボンの履き方がわからない人はいないわけ。サルですら、ドアノブを見ただけで開けられる」

N氏「ケータイのアプリで、UIが悪いと思うことはたまにあるけど、サイトはないなあ。確かに」

筆者

筆者「ケータイのサイトのUIなんて話題にすら上らない。昔、ジョブズだったかな。自分のお母さんでも使えるパソコンを目指したとかなんとか。でもうちのお袋はMac使えない。けどケータイのメールはできるんだよ」

N氏「おもしろいのはさ、いまだにケータイサイト開発の専門誌ってないんだよね。みんなPC用の書籍で代用してる」

筆者

筆者「作り手向けのメディアを作っている人、まあWeb担当者Forumもそうだけど、そういう人達がモバイル全般に疎いよね」

N氏「書籍のほうは最近出てきたけど、やっぱ出版の人って、総じてモバイルの重要性を軽視してる気がするよ」

1兆円のモバイルコンテンツ産業の今後

店内の様子
筆者

筆者「そんなに冷遇されてるのに、いまや1兆円産業だもんね」

N氏「その1兆円産業が黒船の来襲でどうなるかってことだよね。清水さんはどう思う?」

筆者

筆者「僕はまあ仕事柄、いろいろ情報が集ってくるんだけど、結論からいえばあんまり変わらないかもなって思ってる。人間は習慣に従う生き物だからね」

N氏「と言うと?」

筆者

筆者「キャプテンシステムってのが昔出たとき、ニューメディアの旗手としてさんざん持ち上げられた。けど実際にはまったく流行らなかった」

N氏「あったねえ。電電公社の」

筆者

筆者「あればあったなりに便利だと思うけど、便利だっていうだけじゃ人は買わないんだよね。キャプテンシステムは便利だったけど、それだけだった。フルブラウザも同じじゃないかな」

N氏「でも清水さんもiモード向けに『サイトスニーカー』とか作ってたじゃん」

筆者

筆者「便利かなと思ったんだよ。確かにないよりは便利なんだけど、普段から使いたいとはあんまり思わなかったんだ。やっぱり普通のブラウザをメインにしちゃう」

N氏「まあ今は端末にフルブラウザ内蔵されてるけど使わないもんね」

筆者

筆者「それに、iPhone持ち歩くようになって思ったけど、別にそんなに見るサイトってないんだよね。だからiPhoneはもっぱらメモるため専用」

N氏「ZeptoPadね」

筆者

筆者「ZeptoPadはアイデアを書くときだね。原稿や長いメールは最近開発したZeptoLinerで書いてるよ」

N氏「それはAndroidでも変わらないの?」

筆者

筆者「よく比較されてるんだけど、実際、AndroidとiPhoneはまったく違うレイヤーのものだから、単純に比較できないんだよね。Windows Mobileなんかに近いよ」

N氏「ああ、そうかもね。色んなメーカーから端末出るし」

筆者

筆者「だからまあ、“違うもの”だとは思うわけ。ただ、Andoroidのプログラムも書いてるからね、うちは。その上で思うのは、いまのAndroidはまだ未完成だなってこと」

N氏「開発者向けの製品は出てるようだけど?」

筆者

筆者「たぶん、キャリアの方針によって、いかようにも変わっていく可能性があるのがAndroidの強味だと思う。逆に、キャリアの方針と無関係なのがiPhone」

N氏「ま、個人的にはキャリアがいまと同じ課金回収代行をしてくれるならば、何の問題もなくコンテンツはやっていけると思うけど、ケータイコミックやら着メロやらを、そういう新しいプラットフォームに持っていくのは相当時間がかかるだろうね」

筆者

筆者「そういう意味でiPhoneは絶対に主流になれないかもね。キャリアの回収代行に乗れなそうだし」

N氏「だとすると、やっぱり1つだけ言えることは、モバイルでやるべきは“おもしろいコンテンツを作る”ってことかなあ」

筆者

筆者「地道かもしれないけど、プラットフォームが変わっても日本人が変わってしまうわけがないから、いつもどおり、頭を抱えておもしろいアイデアをひねり出すしかないね」

※写真はイメージです。

その五! AndroidもiPhoneもガラパゴス携帯も、コンテンツがすべて! おもしろいコンテンツを作るべし!

筆者のお気に入り居酒屋情報
亜楽(あらく)

亜楽(あらく)
住所:東京都新宿区歌舞伎町1-1-9 ゴールデン街 G2 2階(地図
電話:03-5272-1651

Newtonの頃からモバイルプログラミングをしていた、モバイルハッカーのリチャード・ノースコット氏がオーナーのお店。オーストラリア・ビールを初めとするさまざまなカクテルが気楽かつ安価に楽しめる。ハッカーの店らしく、WiFiが使える(不調のこともある)のも嬉しい。名物はカンガルーバーガーとベジマイト・トースト。

用語集
Web 2.0 / キャリア / ケータイ / マンガ / マーケティング / モバイル / 拡張現実 / 漫画
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