読者に“気づき”を与えるブラック・テキスト芸
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百参十伍
みんビズ登録後に届いた手紙
グーグルがはじめたサイト構築サービス「みんなのビジネスオンライン(みんビズ)」を登録してから一週間後、みんビズのCMSを提供するJimdoから「検索エンジン対策で訪問者アップ!」と題するメールが届きました。
熱い気持ちでみんビズに登録したものの、サイト構築で燃え尽き、真っ白い灰になった頃のアプローチに「うまい」と嬉しくなったのは、顧客フォローの苦手なWeb業者をウォッチングしていて、こうした気遣いに接することが少ないからです。
メールは訪問者アップのためにと、「SEO」を紹介するページを案内しており、そこにあった、
すばらしいレストランの存在を、誰も知らなければ客は来ない(筆者要約)
という一文に感心しました。「みんビズ」の対象である「ど素人」でも、レストランの例えならSEOをイメージしやすいことでしょう。しかし、次の文節からタグの説明など、基本的なSEOの技法の説明に終始しているのが残念でした。
SEOの説明で何が悪い?
とは、Web屋の発想。前々回紹介した「ブラック・テキスト芸」なら、別のアプローチをとります。
文章術の心得
先ほどのJimdoの説明は、SEOを知っている人にとっては、簡潔にまとめられ、必要な情報も網羅されており申し分ありません。しかし、繰り返しますが「みんビズ」のターゲットは「ど素人」。タグの説明に頭を抱える「ど素人」が目に浮かびます。
客は理論ではなく、「訪問者アップ!」を求めているのです。ならば「訪問者が増える理由」「増えることで得られるメリット」を手厚く解説し、多少の苦労を乗り越えてでもチャレンジしたい! と思わせるのがブラック・テキスト芸の目指すところです。ブラック・テキスト芸とは行動させるための文章術と換言してもよいでしょう。
実戦の基本は次の3つ。
- 流れを止めない
- 両論併記の禁止
- ネガティブ情報は換言
次から詳しく述べていき、最後に読者へ“気づき”を与える「技」を紹介します。
バラエティ番組を参考にする
ここから基本に踏み込んでいきます。1つ目は「流れは止めない」。じつは前段から「流れ」が続いていることにお気づきでしょうか。「次より」とバトンを渡し、「ここから」で受け取り、前段で箇条書きした項目をわざわざカギかっこで再掲することで、段落ごとで途切れがちな流れをつなぎます。
正しい国語表現の世界では、段落が変わることは別のテーマに突入する合図なのですが、読者の読解力は低めに設定するのがブラック・テキスト芸の基本スタンスです。バラエティ番組などが「CM」の前後で同じ内容を流すのと同じく、段落の前後で繰り返します。それは、流れを止めると「切り」が良くなり、「読みやめる」人が増えることを回避する狙いもあります。
さらにこうするとより実戦的です。
次からはレストランの存在を知らせるための“SEO”について解説します
引き渡すだけではなく、メリットを繰り返すことで読者の興味を持続させるのです。
学者議論ではない
「換言」は前々回でも触れたことですが、とても重要なことなので繰り返します。
デメリットはあえて語らない
SEOでは不確定要素が多く、対策を施したとしても結果がでないこともありますが、それにわざわざ触れる必要はありません。やっても意味がないならと思われれば意味がなくなります。これが2つ目の「両論併記の禁止」です。
そもそも両論併記は見解の相違がある事象や個体差がある事例の紹介に用いるもので、歴史や心理学などの見解ならともかく、宣伝文句に用いるものではありません。SEOが結果に正比例はしなくても、やらないよりはやった方が明白であることに異論はないでしょう。それならば、そこだけを語るのがブラック・テキスト芸です。
別角度からのアプローチ
それでは不都合な事実を放置してよいのか。もちろん、逃れられないこともあり、SEOに取り組んで、まったく結果がでなかったときのための「いいわけ」は、あれば安心でしょう。そこで3つ目の「ネガティブ情報は換言」です。
SEOが不発する理由は様々とはいえ、一番の理由は同業他社、あるいは別サイトの情報が上位にいるからです。だれも使わない言葉なら成果は別として上位を狙うのは容易です。これは逆説的に「ウェブダインZ」の回で証明しています。つまり、ライバルがいるから検索結果の上位に食い込めないのであり、SEOの不発の理由をこう述べます。
ライバル企業の努力が上回った
ライバルの取り組みが自社を上回ることがあるのは当然の話です。もちろん、こちらの取り組みが不足していたなどと口が裂けても言いません。「換言」は基礎トレーニング、繰り返し、繰り返し練習してください。
すでに散りばめている
実戦の基本を、一連の文章として繰り返すとこうです。
流れを切らすことなく、不都合なことには触れず、ネガティブな情報は換言する
Jimdoの説明では段落ごとに「流れ」が切られ、両論併記やネガティブ情報が散見します。たとえば、「被リンクを増やす」という章では有用性を説いたあと、「スパムリンク」に言及し警鐘を鳴らします。目先の効果だけでなく、正しい知識を伝えようとする姿勢がうかがえます。しかし、大切なことなので繰り返しますが「みんビズ」のターゲットは「ど素人」です。大量の被リンクを短期間で稼げるわけがなく、わざわざ明記する必要はありません……ブラック・テキスト芸的にはですが。また「ど素人」ほどネガティブ情報に過敏に反応し、萎縮することを知っていれば、触れないほうが良い結果につながることは自明です。
最後に“気づき”を与える「技」の種明かし。
メリットと繰り返し
メリットはそのままズバリですが、「繰り返し」の内容をそのまま「繰り返し」であると説明することで、「繰り返されている事実」に読者は“気づき”ます。さらに、「重要なところなので繰り返します」「大切なので繰り返します」と念を押すことで、そこが重要なのだと相手に印象づけるのがブラック・テキスト芸で、この「技」はプレゼンでも会議でもセールストークでも使えます。お試しあれ。
今回のポイント
両論併記は混乱を招くので厳禁
メリットと繰り返しは、文字通り繰り返す
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