この記事では、「顧客とのコミュニケーションの質を高める」ためのCRMの実践に必要な、正しい顧客データの活用方法について基本を解説する。
その顧客データでは十分な分析はできない? 成果を出すための正しい顧客データ管理4つの基本/第1回
- 第1回:成果を出すための正しい顧客データ管理4つの基本(今回の記事)
- 第2回:売上効果をアップさせる正しい顧客セグメンテーション方法
- 第3回:CV数を最大化する顧客視点の流入経路の評価方法
何年も蓄積した顧客データが分析に使えない!?
社内の顧客データが蓄積してきたので、顧客分析を強化したい。
過去の経験や思いつきのアイデアだけではなく、データに基づいてより科学的に施策をプランニングしたい。
長年蓄積してきた顧客データをより戦略的に活用したいと、CRMについて企業から依頼をされることがある。しかし、実際にデータを確認してみると、経験的に5割ほどの企業ではデータが適切に蓄積・管理されておらず、分析に十分に使えないという状況だ。受注発注などの業務上は、現在のデータ管理で十分なのかもしれないが、分析のための「顧客データ管理(データマネジメント)」がされていないことは多い。
会員データが何十万人、購買データが何百万件蓄積していたとしても、データの「量」だけでは不十分で、分析のためには「質」、つまり正しく蓄積することが必要不可欠なのだ。逆に数万件のデータでも正しく蓄積された「質」の良いデータであれば、十分に分析できることもある。
あなたは自社の顧客データがどのように管理されているのか知っているだろうか。もし、データ管理自体が目的となっているのであれば要注意。貴重な顧客データを無駄にしないためには、運用を前提にデータ管理方法を考えておかなくてはならない。
顧客データ管理4つのチェックポイント
データマネジメントといっても、それはコストが多くかかることでも、ましてや複雑な設計が必要なことでもない場合が多い。初期導入の際に、分析を意識して設計を工夫するだけで、実現できることが多くある。言いかえると、少しの工夫、少しの意識で、顧客データを正しく蓄積することができ、それは極めて有用な資産になるということだ。数年間、せっかくデータを蓄積してきたのに、あるいは蓄積するチャンスがあったのにもかかわらず、みすみす捨ててしまっているとしたら……。
後から「こうしておけばよかったのに……」とならないように、顧客データという資産が適切に管理されているか、チェックポイントをもとに今すぐ確認しよう。
チェックポイント 1
行動データは顧客IDにひもづいて管理されているか
顧客の購買履歴やアクセスログ(広告測定、メールクリック含む)などの行動データは、顧客を深く理解するために非常に貴重なデータだ。購買行動履歴データは、顧客(会員)IDとひも付いていて管理されていることと思うが、Webサイトへのアクセスログに関してはどうだろうか。Webサイトのアクセスデータにおいて重要なことは、PV数やクリック率などの集計データではなく、「だれが」「いつ」「どこに」アクセス・クリックしたかという、一連の行動データが顧客単位でわかるかどうかだ。
アクセスログ解析ツールによっては、上記データの抽出が困難な場合や、別途有料の場合もあるので注意が必要だ。また、抽出できたとしても顧客IDとひも付いていないこともある。当然ながら顧客IDは顧客管理システムと同一のIDでなければならない。一度、次の図のようにデータを抽出できるか確認しておこう。
上図のような改善を実現するためには、当然ながらアクセス解析ツールの機能として、顧客IDをひも付けたUU(ユニークユーザー)分析ができるというだけではなく、アクセスログデータ(集計データではない)をエクスポートできるツールを選定する必要がある。また、何らかの設定が必要な場合もあり、Googleアナリティクスであれば、ユーザーレベルのカスタム変数を設定することで実現できることもある。しかし、ツールによって対応できることは限られているため、目的に応じて機能を確認する必要がある。
アクセス解析ツールの役割はデータを分析することではなく、その先の改善につなげることだ。取得したデータをどのようにビジネス戦略に生かすのか、マーケティング活動全体のPDCAを設計したうえで、導入を検討したい。
チェックポイント 2
退会休止会員などのデータをすべて削除破棄していないか
個人情報保護法に則り、退会休止会員の個人情報などは削除する運用が推奨される。しかし、すべてのデータを削除するのは早計だ。氏名やメールアドレスなどの個人情報をきちんと取り除いたうえで、顧客IDや退会日などの個人情報ではないデータを蓄積することは、顧客分析のために必要不可欠だ。
たとえば、リピート会員の特徴は、離脱会員と比較することでより明確に把握できるだろう。また、離脱や解約の傾向分析は、重要な示唆を得ることが多い。退会休止会員のデータを個人情報以外も含めて削除破棄してしまうと、これらを確認する術を失うことになる。
もし、ボタン1つで個人情報以外のデータもまとめて削除しているようなら、退会時のデータ削除方法を再度見直し、活用できるデータを蓄積できる運用かどうか確認してほしい。クラウドの場合は、比較的データベースの変更が難しくないかもしれないが、システムの変更が難しい場合は、エクセルなどで保存しておくことも1つの方法だ。
チェックポイント 3
顧客アンケートは顧客IDとひも付いているか
せっかく顧客向けのアンケートを実施していても、「いつ」「どこで」「どんなやりとりをしたのか」といった、顧客の姿がわからないようでは、顧客理解のための分析の幅が狭まってしまう。こうした場合、顧客管理システムとアンケートシステム、さらにメールシステムが統合されていれば、アンケート回答時に自動的に顧客IDをひも付けることも容易だ。
顧客データが企業内で一元管理されていると、分析の幅は一気に広がる。しかし、現実には別々のシステムとして運用されており、統合IDがないことも多い。氏名や住所などの個人情報でマッチングするにしても、作業は難航する場合がほとんどだ。
アンケートが別システムになると、回答時のID認証などの問題(回答者にIDを入力してもらうという手間が発生する)もあり、エクセルまみれの作業に陥るなど、その運営管理は非常に複雑になってしまう。
チェックポイント 4
購入商品の商品カテゴリが管理されているか
ECのような物販であれば、購買データに商品IDや商品名はあると思うが、分析のための商品カテゴリ(分類)がされているだろうか。何百種類もの商品がある場合は、商品カテゴリがないと分析は難しい。「商品IDの上2ケタ」などで分類している企業もあるが、例外の商品などがあることも多い。ECサイトでは、商品カテゴリ別に検索できるが、そのカテゴリデータをEC商品マスタに保有していないケースも少なくない。
ECサイト上で分類している商品カテゴリは、商品を分類するうえで効果的な構造となっているはずだ。それは商品検索をする顧客にとっても意味のあるものであり、そのカテゴリごとに商品分析がすぐにできないのはもったいない。商品カテゴリが社内にあったとしても、マーケティング分析のために分類データを再度作成しなければならない、といった状況では無駄な工数が発生してしまう。
また、単品通販だからといって安心してはならない。単品通販の場合に多いのは、キャンペーンごとに商品IDを変更していることだ。そうすると、単品といえども、定期購入、お徳用パックやキャンペーンなどのバリエーションごとに商品IDが分かれてしまい、商品別分析が思うように進まない。
ECシステムの商品マスタを変更することは容易ではないかもしれない。やはりシステムの導入・更新時などに綿密に設計しておくことが理想だ。どうしてもシステム変更が難しい場合は、ECシステム外だとしても商品IDとカテゴリを整理し管理していくことが重要である。
顧客データは磨けば光る原石
以上、4つのチェックポイントを紹介したが、あなたの会社の現状はどうだろうか。
実際に、上記ポイントを実現している企業では、そのデータを活用し業績向上に成功している。顧客データを正しく蓄積・管理し、それを活用すれば、売上向上は見込める。今すぐ、自社の顧客管理をチェックしてほしい。
当然ながら、たとえ正しい方法でも蓄積していても、それはデータの塊でしかない。しかし、それらは磨けば光る原石であることは間違いなく、正しいデータ管理はそのための第一歩だ。どのように磨くかというデータ活用の方法は、次回以降にいくつか紹介していこう。
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