250万円のリニューアル費用は高いか安いか。ホームページ制作費相場を裏見
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の353
価格がもたらす信用
先日、ある企業に見積もりを提出すると「安すぎる」として、取引を見送りされました。別のホームページ制作会社が提出していた見積もりは、250万円だったといいますが、諸条件が異なるとはいえ、こちらが提示した金額が「桁違い」に安かったのです。
価格というのはおもしろいもので、高くても文句をいわれますが、その高さを「信用」と錯覚するお客もいます。長い付き合いのクライアントからの紹介を理由に、「出血特価」にしたことが裏目に出ました。
4月の年度替わりのタイミングで、サイトのリニューアルを検討する企業は少なくありません。しかし、その「費用」は果たして妥当でしょうか。今回はその昔、当サイトで伝説となった企画「ホームページ制作 相場早見表」ではなく、「価格」を裏側から見て、見積もりの妥当性を検討する方法を紹介します。
無茶振りで上下する相場
ホームページ制作料金に「相場」はありません。それは積算根拠となる「原価」がほとんど不用で、素人には評価が難しい「技術料」が大きなウエイトを占めるからです。また、同業であっても求めるゴールによって案件が大きく異なるため決まった形がなく、カスタマイズが前提となっていることも要因です。
同様に「技術料」が主となる「美容室」などは、価格が公開されていることから競争原理が働き、「相場」が形成されます。しかし、ホームページ制作業界において、価格公開そのものが進んでおらず、また、公開情報にさえ裏表があり、実際の取引価格との乖離が激しいのです。その背景には、
とれるところから取る
という商習慣がありますが、これを「ぼったくり」と呼ぶのは困難です。タブレット、スマホ、ガラケーのすべてに対応する「レスポンシブルWebデザイン」を実現すると同時にIE6にも対応しろという案件で、クライアントから、
金はいくらかかってもよい
といわれた業者が、要求のために電卓の「ゼロ」を連打することは止められません。現実的には、そのほとんどは不要あるいは緊急度の低い要件であることから見直しが図られるものですが、まれにあらわれる「金に糸目をつけない」クライアントの存在が「相場」を引き上げます。
業者の台所事情
安定した制作の相場がないとはいえ、発注主として価格が妥当なのか判断することは必要です。まずは、ニューアルで250万円の高安を述べる前に、制作業者の台所事情を考えてみます。
仮にこの制作会社の総数が5人だったとします。1か月の納期として、この月の受注案件がこれだけならば、1人あたまの売上は次のようになります。
一般的に社員を1人雇うには、給料の2倍の売上が必要といわれます。各種社会保険料の会社負担や、賞与の費用、事務所家賃や諸経費です。それを単純にあてはめるなら、社員の平均月給支給額は25万円となり、手取りなら20万円ちょっと。これで「六本木ヒルズ」に住むことは困難です。
同種との比較
次に同じデスクワークで、パソコンを使った技術職という共通項のある「プログラマ」と比較してみます。プログラマは1人が1か月間案件に従事する労力を「1人月」と呼び、単価をあてはめます。
単価は地域差や企業実績により異なり、システム設計から行程管理までできる、本来的意味のSE(システムエンジニア)や、「ベテランプログラマ」の単価は高く、新人はこの相場よりはるかに安いのですが、数人単位でプロジェクトを組む見積もりでは、人月単価は「平均化」し、私がいくつかの企業で調べたところ、60~80万円の範囲に収まるようです。ちなみにプログラマの1人月単価は、私がプログラム開発をしていた四半世紀前と同じ。これも「デフレ」の影響でしょうか。
1人月50万円ならプログラマより「安い」と見ることができますが、先の計算は人数の均等割で、5人の社員のうち、実務に携わる社員が4人なら62.5万円、3人なら83.3万円と、プログラマに近づきます。
それでは妥当なのか……。これについては、「プログラマ」という視点が、見積もりの妥当性を考えるヒントを与えてくれます。
なにを代替するのか
プログラムの目的をひとことで言えば「省力化」です。電卓は算盤から、集計ソフトは電卓の連打から人類を解放し、ワープロソフトの登場により「清書」の手間を省きました。POSレジは商品価格の暗記を不用とし、会計プログラムの普及が、税理士の仕事と年収を削りました。
「省力化」を実現するためのプログラマへの支払いは「コスト」です。つまり省力化により削減できる「コスト」と比較することで、プログラム開発費用の妥当性を評価することができます。ひるがえり、リニューアルを目指すホームページに期待する「省力化」はなんでしょう。
250万円のリニューアル対象は「企業サイト」でした。とりたてて特徴のない「カタログ」的なサイトです。そこから、リニューアルにより期待できる省力化は、ネット上の「営業マン」といったところでしょうか。ただし、
お客が訪問したときにだけ仕事をするショールームの接客担当者
だとすると、そこから250万円の妥当性が見えてきます。
客の怠慢もある
250万円あればネット上に「検索連動型広告」を出稿できます。リアルにおいても、チラシなどの地域広告を実施したり、営業代行企業に発注したりできます。先に見たように、月給25万円の社員なら5人を1か月、あるいは1人を5か月雇うことができます。果たしてこうした営業活動と比較し、ホームページのリニューアルに投じる金額として250万円が妥当かどうかということです。
250万円はあくまでリニューアルのみの価格で、その後の更新などは含まれていません。そこで、この企業の担当者に、単刀直入に伝えます。
ホームページの目的が明確でないリニューアルは失敗する
換言すれば「省力化」させる目的が明確でない状態で投じる、250万円は無駄金になる可能性が高いということです。
取引を断られたのは、安すぎる価格だけではなく、平然と説教をたれる高慢な態度が理由かも知れません。なぜなら、こうも指摘しているから。
高い見積もりに飛びつくのは客の怠慢
客に説教するのは会社員時代からの私の悪いクセ。そして次回「ホームページ屋との付き合い方(仮)」に続きます。
今回のポイント
見積もりの妥当性は目的により判断する
何を代替させるかがポイント
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