Web制作発注に役立つコミュニケーション能力を高める3つのステップ
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の393
発注者の問題
マクドナルドの異物混入について、元プロ野球選手が「料金を支払っているのだから、文句をいうべきだ。日本人は文句をいうのが下手だ
」とワイドショーで主張していました。米国並みの訴訟社会になることを、「世知辛い」と嘆いてもいられない時代になったということでしょうか。
しかし、訴訟社会では「発注者」にも応分の責任が求められます。1個100円のハンバーガーへの異物混入で、巨額の賠償をせしめる可能性もあれば、反対に不当な要求と裁判所が判断すれば、営業妨害として多額の賠償金を求められることもあります。どちらに転んでも儲かるのは弁護士だけとは、定番のアメリカンジョークです。
マクドナルドはともかく、Webの現場では「発注者」に問題があることも少なくありません。Webの商用利用が進んだとはいえ、Webサイトの発注経験者は少ないものです。特にWebに詳しくない「素人」は、構造的に「コミュ力(コミュニケーション能力)」に問題を抱えています。
そこで今回は、クライアントの視点から「発注者のコミュ力をアップする3つのステップ」を紹介します。裏返せばそのまま「Web屋」用です。
Web屋Aさんのケース
前回の記事で、問題のある専門家として紹介したAさんのケースをおさらいします。知人に紹介された、自称有名Web屋のAさんでしたが、新規Webサイト構築の発注から1か月、ようやく提出されたものがA4用紙に書かれた1枚のイラストでした。これを見てクライアントは激怒していましたが、私が本当に腹を立てていたのは「コミュ力」の低さです。
とはいえ、発注状況を振り返るとAさんに同情できないこともありません。それはクライアント側の「リクエスト不足」も理由の1つだからです。
チョーさんの難しさ
国際的に展開する新規事業の窓口として新規サイトを立ち上げたい。サイト運営は初めてなので、細かなアドバイスが欲しい
これを聞き出すのに要した時間は約1時間です。クライアントはひらめきで言葉をつなぐ、いわば読売巨人軍終身名誉監督「長嶋茂雄」さんのようなタイプ。用件を端的に伝える能力が不足していたといえます。
営業マン上がりの私にとっては得意なタイプでしたが、パワポの資料をもとに、要点が整理された案件しか携わったことがないWeb屋さんには荷が重すぎたことでしょう。Aさんが優秀なWebクリエイター(デザイナー)だとしても、客の希望を聞き出す「コミュ力」は別のスキルだからです。経験豊富なディレクターやプロデューサーであれば、クライアントの要望を引き出すことの難しさを、痛いほど理解していたことでしょう。
デザインだけでクビに
こうしたミスマッチは、中小零細企業の現場ではたびたび目にする光景で、Webに限ったことではありません。超有名企業で工業デザイナーとして名を馳せた人物が独立し、中小企業の仕事を請け負ったところ、「デザイン」しかできずにクビになったことがあります。企業は製品化から、販路確保までのノウハウを求めていたからです。両者の「齟齬」は「コミュ力」の不足が理由です。
もっとも、現実は妥協からはじまり、信頼関係は積み重ねで創りあげるものです。そして信頼関係さえできれば、多少のミスマッチは克服できます。そのための「コミュ力」は、発注者にも求められます。それではいよいよ本題に入ります。
伝えるべきは予算
まずは「予算」を伝えます。発注者としては「ぼられたくない」と思うものです。まして、大根やネギの値段ならともかく、Webの構築費用の相場など知りません。うっかり「100万円」と告げ、予算を食い潰されてはたまりません。しかし、「予算」は業者の誠実さと実力を測るリトマス試験紙です。予算を聞いたWeb業者が、毎月可能な追加支出の有無を確認すれば第一段階クリアです。
まともなWeb業者なら、サイトを構築して公開しただけで「成功」することは困難だと知っています。そこで「アドワーズ」のような広告費や、サイト更新(保守)といったランニングコストの必要性を説明するからです。提示した予算を「サイト構築費」にだけ使おうとする業者との契約は注意が必要です。
どうしても不安なら「0円」と告げるのも1つの方法です。Web業者(プロ)に「0円(タダ)」とは失礼な話ですが、経験を積んだWeb業者なら、サイト運営に必要な予算について教えてくれることでしょう。
次のステップは「納期」です。本サイトのWeb漫画連載「ネギリエ」でも「値切りのテクニック」として紹介されていましたが、Web屋にも繁忙期と閑散期があります。繁忙期に重なれば割高な料金となり、反対であればコストダウンを可能にします。また、短納期より、余裕のある納期の方が安くなる傾向があり、納期と予算は密接な関係にあります。
仕事であるという現実
ここまで伝えた時点で(Web業者からみれば聞き出し終えたとき)、最低限の信頼関係はできているものです。ぶっきらぼうに金額と納期だけを告げる客はほぼ皆無で、かならずその「理由(いいわけ)」を語りたくなるのが日本人だからです。むしろ、ここまでで「会話」が弾まないようなら、どちらかに致命的な「コミュ力」の欠落があるか、人間的な相性の悪さが疑われます。
最後に伝えるのが「目的」です。サイトの目的を大きく分ければ「販売チャネル」と「広報媒体」があり、両者の性格を持つこともあります。そのどちらか、あるいは両方の場合は、力を注ぐ比率を伝えます。
本来は「目的」実現のために「予算」が組まれ、適切な「納期」が設定されるものです。しかし、Webの素人が、Webの「目的」を的確に伝えるのは難事です。だから「素人」なのです。これが「コミュ力」における構造的問題なのです。そこで「お金」と「時間(納期)」を「補助線」として、不足する言葉を補う、すなわち「コミュ力アップ」につなげるという寸法です。
その結果「中止」という結論に至ることもあります。しかし、それも取引としては「成功」の1つ。遺恨と不信で終わった取引に比べれば、しっかりとコミュニケーションを取った後の「破談」はさわやかなもので、別の機会の取引につながることも少なくありません。
今回のポイント
お金の話でコミュ力アップ
信頼関係の構築が、発注を成功させる秘訣
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