そのコンテンツ、ホントに読まれてる? ―マイクロモーメント時代のUX #1 ユーザー行動の変化をとらえる
テレビCMがスキップされるように、ネットコンテンツもスキップされているらしい。
せっかく苦労して作ったコンテンツなのに、ユーザーはしっかりと見てくれない。
「スマホ対応のデザイン? タッチしやすいようにボタン類を大きくしておけばOKですね」といわれたけど……。
このようなことを感じたり、気になったりしたことはないだろうか。いずれも「マイクロモーメント」と呼ばれる、ユーザーの検索行動の変化にかかわるトピックだ。
本連載では、コンテンツやUXを考えるWeb担当者にとって重要なこのキーワードに焦点を当て、その対応方法について解説する。今回は、「マイクロモーメント」が生まれた背景とその意味について。
そのネットコンテンツは本当に見てもらえているのか
テレビCMの効果が落ちているため、広告予算をデジタルにシフトしていきたいが、どうしたらいいか。
このような相談を受けることが最近増えてきた。
数年前から流行っている「コンテンツマーケティング」という考え方は、誤解を恐れずに言えば、テレビCMを中心としたマス広告が担ってきた「ブランド認知」を、デジタル上で実現するメソッドである。
コンテンツを作り、検索エンジンやニュースメディア経由でリーチし、ブランド体験を与え、態度変容を促すのが主なスキームだ。
ただし、ここに1つの疑問がある。
お金をかけて、がんばって作ったコンテンツは、本当に見てもらえているのか。
テレビCMの効果が低下している要因は、ターゲットリーチの問題が大きいが、録画してスキップされる、というのも要因の1つであろう。
同じように、ネットのコンテンツも、アクセスログの計測上はPV(ページビュー)としてカウントされているものの、訪問しただけで実際にはスルーされていて、ブランド認知をとれていない、ということが起きていないと、なぜ言えるのだろうか。
それはモバイルファースト?
2007年のiPhone登場以来、情報消費のデバイスはすっかりスマートフォンにシフトした。
筆者はIT業界なので、いまだにPCで情報収集することが多いが、一般の、とくに若い人たちのスマートフォン依存度はかなり高い。
モバイルファーストという言葉に代表されるように、スマートフォン中心にユーザー体験やコンテンツを考えることの重要性は、かねてから提唱されているし、今さらいうまでもない。
実際、世の中のあらゆるWebサイトは“スマートフォン対応”されているし、スマートフォンを中心に設計されるケースも少なくない。
スマートフォンは、PCと比較して画面が小さいし、クリックではなく指でタップするので、それらを考慮したUIデザインにしています。だから大丈夫なんです。
このように思っているWebサイト設計者は多い。はたして、本当にそれでいいのだろうか。いや、いいはずはない。
スマートフォンで情報検索していて、巻物のような長尺ページや、リンクだらけのページにウンザリしたり、あとで時間があるときに読もうと思って忘れてしまったり、そんなことが現実に起きているのだ。
マイクロモーメントをとらえる
次のようなカスタマージャーニーを想像してみてほしい。
お客さまとのアポがあるので、駅に向かう。
ただ、事前の準備で少し手間取り、出発が遅れたこともあって、乗りたかった時刻の電車を逃してしまう。
準備に手間取ってしまったことを後悔しつつも、悔やんでいてもしょうがないと思い返し、いつもの習慣でFacebookをスマートフォンでチェック。
そこで友達がアップしていた、スタバの新しいフラペチーノが気になったが、商品の名前がよくわからない。
しかたなく「スタバ 新商品」と検索すると、さっき友達がアップしていた商品の情報にたどり着いた。
「美味しそう。お客さまのオフィスのビルに、確かスタバがあったので、アポの後に立ち寄ろうかな」などと考えている間に、次の電車が来る。
ふと、この電車で間に合うのか不安になり、路線検索のアプリを立ち上げて、到着時間をチェックする……
スマートフォンやソーシャルメディアの普及により、ユーザー行動は劇的に変化した。
ユーザーは「何かしたい」と思った瞬間に、手元にあるデバイスで情報収集や購買を行うことができる。そして、ユーザーの欲求は移ろいやすく、次々とアクションを変えていく。
先ほどのカスタマージャーニーは、その典型的なワンシーンだ。
Googleはその瞬間のことを「マイクロモーメント」(Micro Moments)と名付け、それをとらえることが重要であると提唱している。
数字にも表れている、マイクロモーメント
マイクロモーメントというユーザー行動の変化は、Webサイトのアクセス傾向にもはっきりと現れている。
具体的には、直帰率増加と滞在時間減少だ。
情報が欲しいと思った瞬間に、思いつきのキーワードで検索して、期待と異なるページであれば、即離脱。なんだかよくわからないページであれば、さらっと眺めて離脱。期待どおりの情報であれば、それはそれで満足して離脱。
いつでもどこでも情報検索が可能になったことで検索機会が増え、それにより訪問数は増加しているものの、訪問したユーザーが、深くコンテンツを見ていないことを表す数字であり、現象である。
またECサイトでは、カート放棄率上昇という形で表面化している。
「何かしたい」と思った瞬間に購買できるのがスマートフォンの特徴である一方で、その短い時間の中で、何らかの理由で購買完了に至らずに離脱するケースも多い。
また、あとで買うかどうかをじっくり考えるため、とりあえずカートに入れておくといった行動も増えている。
これらの現象が、スマートフォンの普及や閲覧比率の上昇と相関していることに、多くのWeb担当者は気づいている。そして、解決すべき課題としてとらえている。
長尺やリンクだらけのページを作ってしまうワナ
ここで取りうる選択肢は次の2つだ。
- どのようにしたら直帰率上昇・滞在時間減少・カート放棄率上昇を防ぐことができるかを考える
- ユーザー行動の変化を甘んじて受け入れつつ、その中でどのようにしたら効果の高いコミュニケーションができるかを考える
これらはどちらも重要であるにもかかわらず、多くの場合、前者の対応に傾倒し、後者に対する意識や取り組みが希薄になりがちだ。
今までのユーザー行動やユーザー体験でしか発想することができず、情報を掲載すれば見てもらえ、リンクを設置すれば回遊してもらえるという幻想から抜け出せないでいる。
モバイルファーストを謳いつつも、巻物のように長く、リンクだらけのページを作ってしまう要因はそこにある。
モバイルファーストの本質的な意味
モバイルファーストの本質的な意味とは何か。
それは、スマートフォンによるユーザー行動の変化、つまりマイクロモーメントをとらえて、それに対してあるべきユーザー体験を考え、それを具現化するUIに落とし込むことだ。
ユーザー体験を変えるのであれば、サイト構造もコンテンツもすべて変える必要がある。
一方で、一般的なモバイルファーストのとらえ方は、従来のPC中心に設計されたサイト構造やコンテンツを踏襲しつつ、スマートフォンの小さな画面にどのように詰め込むか、というUI設計のみに終始しているケースが非常に多い。
マイクロモーメント時代のUX
では、マイクロモーメント時代のユーザー体験のあるべき形とはどんなものなのか。
筆者はそれを以下の3つのポイントでとらえている。
- マイクロコンテンツ
- ファーストコンタクト
- 線のコミュニケーション
ユーザー行動がマイクロモーメント化し、情報への欲求が次々と変化していく中で、ユーザーは自分の期待に合うコンテンツかどうかを一瞬で判断する。
そのために、それぞれのユーザーの期待値に合わせて、徹底的に絞り込む必要がある。
ただ、そのファーストコンタクトの瞬間だけでは、ブランド側の伝えたいメッセージをすべて伝えることはできない。
次につながるキッカケをつくりつつ、継続的なコミュニケーションをしていくことが重要だ。
具体例を交えた詳しい話は次回にて。お楽しみに!
連載「マイクロモーメント時代のUX」の第2回では、今回言及したユーザー行動の変化を踏まえつつ、それにマッチしたユーザー体験として重要な「マイクロコンテンツ」「ファーストコンタクト」「線のコミュニケーション」について解説します。
- 第1回 そのコンテンツ、ホントに読まれてる? ―マイクロモーメント時代のUX #1 ユーザー行動の変化をとらえる
- 第2回 マイクロモーメント時代のUX #2:刹那的に情報を消費するユーザーの捕まえ方
- 第3回 マイクロモーメント時代のUX #3:ナイキ、スターバックス、ゴルフダイジェスト・オンラインの成功事例に学ぶ
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