良質なコンテンツを作るノウハウ満載。成田氏+谷口マサト氏+いちる氏が語った実践コンテンツマーケ術
良いコンテンツを作っているとの自負があるのだが、なかなかインターネット界で認知されない。
アクセスがあっても収益やブランド力の向上に結びつかない。
そんな悩みを持つ企業も多いだろう。その解決の鍵を握るのは「愛される」ことだと説くのは、コンテンツディレクターの成田幸久氏。
成田氏によるセミナーと、ShortNoteの清田いちる氏とLINEの谷口マサト氏を交えたトーク・セッションのイベント「実践的コンテンツマーケティングセミナー:良質なコンテンツを安く作る方法」が、4月12日、オプンラボの主催で行われた。
- 今の時代に企業がとるべき姿勢とは?
- 振り向いてもらうための「コンテンツの型」とは?
- オウンドメディアに掲載するコンテンツの分類とは?
- コンテンツの質をどう考える?
- 良質なコンテンツとは何か?
- コンテンツの制作と拡散はどう考えるべき?
- 企業が狙う「ギャップ萌え」とは?
- バズり具合をKPIにするやり方は、間もなく終わる?
- コンテンツに大切なのは「ストーリー」
コンテンツの経験者によってこうした情報が共有されたセミナーの様子をお届けする。
第1部デフレとテクノロジー進化の時代、勝利のキーワードは「恋愛」
イベントの第1部では「実践的コンテンツマーケティング」と題して成田氏が講演を行った。
成田氏は、インフォバーンに籍を置いたこともある気鋭のコンテンツ・クリエイター。アメリカン・エキスプレスや日本航空のPR誌や企業のオウンドメディアを手がけてきており、2月に出版された著書『ユーザーと「両想い」になるための愛されるWebコンテンツの作り方 ~実践的コンテンツマーケティング集中講座~』(マイナビ出版)は、パブリッシャー関係者から注目されている。
愛する人に振り向いてもらうのに「俺スゲーぜ」はない。ビジネスでも同じ
マーケティング戦略で重要な「3C」というものがある――「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」だ。しかし、このなかで特に重視されてきた「競合」の部分は、デフレ社会やテクノロジーの進化などで差別化が難しくなってきている。
「時代が変わりゆくなかで、企業が取るべきなのは『市場は恋愛に通じる』という認識だ
」と、成田氏は説く。
愛する人に振り向いてもらおうとする際、「俺スゲーぜ」とアピールしても効果はない。そうではなく、「どうしたら相手が喜んでくれるだろうか」と、一生懸命考えるだろう。
企業が顧客に受け入れられるかどうかの観点で大切な姿勢も、それと同じだ。
(成田氏)
恋愛を成就させるために必要な要素は、次の3つだろう。
- 相手を徹底的に知る。
- 自分も徹底的に知る。
- 恋敵と自分の差を徹底的に知る。
同じことが、市場でも言える。
ビジネスにおける顧客(Customer)は、恋愛における「相手(好きな人)」だとみなせる。愛する人に振り向いてもらいたいなら、「やさしそう」「面白そう」「頼もしそう」などと思わせねばならない。
相手にそう思ってもらうのに必要なのは、相手の性格や趣味・嗜好を把握することだ。つまり、まず必要なのは、ビジネスでいう顧客のニーズを把握することだ。
振り向いてもらうコンテンツを作るための「型」を知る
そして、その「相手」「自分」「ライバル」の理解をもとに、相手に振り向いてもらうためのコンテンツを作ればいいのだ。
と言っても、恋愛上手な人でなければ、「どうすれば振り向いてもらえるか」を考えるのはハードルが高く思えるかもしれない。
しかし、恋愛にもある程度の「型」があるのと同じで、顧客に刺さるコンテンツを作るやり方にも「型」がある。ここで活かせるのは、従来からのビジネス手法だ。
たとえば、マーケティング戦略で有名なSWOT分析だ。強み=Strengths、弱み=Weaknesses、機会=Opportunities、脅威=Threats の4因子を考察するSWOT分析を、ヒアリングや仮説を立てる形で実践し、「自分がどんなサービスを提供できるのか」を策定していくのだ。
また、ポジショニング・マップの作成も、自分を知るのに有効だろう。成田氏は、例として自分自身の立ち位置を次のように判定した。
これらの分析で得られた情報が、「自らが提供できるものやサービス」を割り出すベースの情報となる。
そして、「ニーズ(顧客が求めること)」と「シーズ(自分が提供できること)」が重なる部分を見つけ出した。この重複部分(接点)こそが、コンテンツを作っていくうえでの中核になるのだという。
ここがないと「出たとこ勝負」になって、振り返りが難しくなる。PDCAで適切に分析するためにも、接点の把握が必要だ。
4種類のオウンドメディアを「恋愛」で読み解く
いま企業はオウンドメディアをマーケティングに活用しようと実践を重ねている。成田氏は、オウンドメディアに掲載していくコンテンツの分類として、4つのタイプを紹介する。
課題解決型 ―― ユーザーが抱える課題や悩み、欲求を解決あるいは満足させるコンテンツ。ユーザーとのエンゲージメント向上を狙うときにもっとも効果的。
情報検索型 ―― おおよそ目的の情報が見つかる情報量の多さでメリットを生むコンテンツ集約型。日常的に利用される可能性が高く、リピート率を高める効果が高い。
ブランド訴求型 ―― 企業が訴求したいブランドイメージを伝えるコンテンツ。企業イメージがまだ定着していない、もしくは新たに企業イメージを醸成したいときに。
バイラル喚起型 ―― 主に認知獲得を目的とし、拡散することを狙うコンテンツ。広告キャンペーンに近く、エンゲージメント向上を狙う課題解決型と組み合わせることで効果を発揮する。
これ以外にも「提案」「問題解決」「トリビア納得」「魅力訴求」「問題指摘」「話題提供」などの切り口も考えられるが、大切なのは、恋愛というキーワードの観点で、そのコンテンツに触れたユーザーがどんな感情を抱くかをイメージすることだという。
こうした観点をビジネスパーソン向けになじみのある言葉で表現すると、「ユーザー中心主義」というところだろうか。
5種類の質からコンテンツを見極めよ
また成田氏は、コンテンツの「質」は5種類に分けられるとしている。
オリジナル ―― 自らで取材・執筆したコンテンツ。バイラル化しやすいがコストがかかり、企画力が求められる。
オピニオン ―― NewsPicksのピッカーのように、キャラクター性を生かし、各界のリーダーが独自の視点でニュースにコメントし人気を集めているコンテンツ。ただし、インフルエンサーであるほどコストはかかり、量産が難しい。必ずしもコンバージョンにつながるとは限らない。
キュレーション ―― 切り口の面白さやテーマ性で売る。比較的低コストで作れ、量産化と蓄積性が高いが、一方で著作権問題などクリアにすべき課題も多い。また、必ずしもエンゲージメントにつながるとは限らない。
アレンジ ―― Cの「キュレーション」を目指しながら、実際には編集者やライターの力量不足、手抜きなどで、このレベルにとどまっているメディアが少なくない。
コピペ ―― 盗用など明らかに違法行為なので論外だ。
安上がりにアクセス数を増やしたいがために、Dの「アレンジ」やEの「コピペ」レベルのコンテンツを大量生産するだけの運用に堕ちてしまっている“オウンドメディア”は少なくない。
「愛される」ためには量より質。しかし現場は「俺スゲーぜ」になりがち
しかし成田氏は「愛される」ためには量より質が重要なのだと強調する。
上記のコンテンツの質を、「そのコンテンツに触れたユーザーにとってどうか」の観点も含めて階層化すると、次のようになる。
最下層の「クリックベイター」は論外だが、「コンテンツファーム」のレベルでも「どこかで読んだ記事」だと思われ長続きせず、競合メディアとの差別化が困難だ。
そのためにも色あせない「エバーグリーンコンテンツ」を地道に積み重ねていくのが重要。その際、広告と連動させバズらせる手もあるが、優先させるべきはコンテンツ作りだ。
「愛されるためには、量より質が重要」という意識は、言われればあたり前のことだ。しかしコンテンツ制作の現場では、こうした意識は吹き飛んでしまいがちだ。
成田氏は、コンテンツの大量生産をいちがいに否定しないとしながらも「コスト安のコンテンツを大量生産したところで、愛されるまでの道のりは遠い
」と強調する。
実際に、アクセス数が伸びないと悩むある出版社からウェブ・ディレクターとして手伝ってほしいと言われた時のことを例に、次のような解説した。
そのときに依頼されたのは、グーグルSEOの観点からの解析や、キュレーションメディアが取り上げそうなコンテンツの分析だった。
しかし、よく調べてみると、根本的な問題としてそもそもコンテンツ力が致命的に弱かったことがあった。
この状態でSEOやキュレーションメディアを意識しても、意味がない。既視感のあるコンテンツをいくらたくさん配信しても、ファンを育てていくのは難しい。
第2部LINE谷口マサト氏 + ShortNote清田いちる氏 + 成田氏
「愛される」とは距離感、つまり親近感だ
PVが多ければ良いのか。薄い1万人と濃い1000人のどちらか価値があるか。「愛され力」の指標は難しいが、そこをコンテンツのプロはどう考えているのか。
イベントの第2部「良質なコンテンツとは何か」では、谷口マサト氏と清田いちる氏も登壇し、成田氏を交えた3人で「愛されるコンテンツ」に関するトークを繰り広げた。
谷口氏は、ニュース記事のほかに、漫画やドラマ映像など、さまざまなタイアップを担当している。
「コンテンツ系はボツが多い」と苦笑しながらも、古くは映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」のDVDを、「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」という異色の形で宣伝。イケメンの青年が上半身裸となり、虎柄の服を着た中年女性とボートをこぐ写真が話題を集めた。
いちる氏は、ニフティやギズモード・ジャパン編集長などを歴任し、現在は「たまに書くブログ」として位置付けたエッセイ投稿サービス「ShortNote」を運営している。
新卒のときにニフティでサポートセンターやサービス部門に配属され、同社のココログのサービスの立ち上げの際に成田氏と出会ったという。「当時はブログという言葉が認知されておらず、知ってもらうことから始めた」といい、ココログでは芸能人ブログを開設するなどの動きをしていた。
谷口氏は、成田氏が提唱する「愛される」とは、距離感の近さだと理解しているという。そのために、コンテンツを作る際の注意点として、次のように語る。
今は口語体よりも、もっとくだけた会話体で広告を制作している。でないと、読んでもらえない。
(谷口氏)
いちる氏は「個人がやってうまくいっている実践例をどう企業に応用していくかが鍵
」だとする。
インスタグラムで人気のRIEHATAさんは、本業のダンスのビデオ配信だけでなく、スターバックスでの様子や子供の写真なども全部発信し、親近感を生んでいる。ファンは、そんなRIEHATAさんにますますのめりこんでいく。
(いちる氏)
そして、6年間のギズモード・ジャパン編集時代を振り返る。
心がけたのは、「親近感を出していく」こと。
最初の実践はiPhone初登場時の故スティーブ・ジョブズ氏のプレゼンテーションの配信記事。見せられた瞬間の、おもちゃを見せられた子供のような僕らの表情写真を掲載した。
また、iPhoneが発売開始された際には、はしゃいでコスプレ姿でソフトバンク表参道に乗り込んだのが面白がられ、全世界に配信された。その様子は、ジョブズ氏のドキュメンタリー映画『Steve Jobs: The Man in the Machine』にも挿入されたほどだ。
(いちる氏)
「親近感が全世界を動かした」わけだ。これにはセミナーを聞いていた人も身を乗り出してメモしていた。
「コンテンツ作り」と「コンテンツ拡散」は分けてやるべし
メディア運営やコンテンツ制作に携わる2人が一致したのは、「コンテンツの制作と拡散を分離するべき」という認識だ。「でないと作り手が疲弊する」(谷口氏)、「流入経路は、コンテンツ作成とは別に開発してほしい」(いちる氏)と指摘する。
谷口氏は次のように問題提起する。
コンテンツに力をかけすぎて、誘導や流入のための予算はゼロ。
そんな状態で、いったいどうやったら見てもらえるんだ?
(谷口氏)
笑えない人も多いだろう。「では、どのような流入対策があるのか」との司会の質問に、谷口氏は次のように答えた。
誘導費と製作費は比例する。15秒間のCMに数千万円かけるのは、リーチするからこそ。リーチが増えるほどクリエイティブの価値が高まる。私がコンテンツを作れているのも、製作費とは別に、100万人単位にリーチする誘導費をかけてもらっているおかげだ。
ところが、現状では誘導費と製作費をごちゃ混ぜにしてライターに依頼しているケースが多い。「作ってね、さらに誘導してね」というのでは、ライターが消耗する。これでは先がない。切り分けてやっていこう。
(谷口氏)
恋愛で大事な「魅力」を忘れてしまっているパブリッシャーが多いのではないかと指摘するのは、いちる氏。自身のニフティ時代の経験が教訓になっているという。
ニフティ在籍時代、新規に開始したすべてのサービスは、認知拡大のために、@niftyのトップページに表示されることを目指していた。しかし結果は、「@niftyトップページに出た日にはアクセスが増えた」だけで、サービスの人気には繋がらなかった。
ギズモード・ジャパン時代にも常に自戒していたことがある。それは、「いかにしてYahoo!ニュースのトピックスに出るか腐心してはいけない」ということ。
他者に依存している人には魅力がないのと同じで、大きな拡散経路を意識しすぎるのはよくない。力を蓄えられなくなる。
(いちる氏)
これには成田氏も完全に賛同した。
Yahoo!ニュースやSmartNewsに取りあげられる回数を増やすのではなく、コンテンツ本体の対策をするべき。しかし、コンテンツ作りに自信があるせいか、コンテンツ自体のことではなく流入経路ばかりが優先されがちなのが、現状だ。
(成田氏)
つまり、本人(個人や法人)を、恋人(Customer)に気に入ってもらうには「本人の魅力が重要」であり、そこに注力することなく「誰かに頼って自分を見てもらう」ことばかり考えていてはいけない、ということだ。
大事な個性。「長い目で信頼を得るには一貫性」
では、具体的な実践策は何か。
谷口氏は「堅い企業イメージは、かえって強みだ。依頼を受けたら、いつも『社長はいじれますか?』とたずねる」という。社長の個性と会社のイメージとの差異が、いわゆる「ギャップ萌え」につながり、注目を浴びるからだ。
いちる氏は、広告面での効果は認めつつ、次のように指摘する。
長期的に見れば、企業・個人とも個性が一貫していることが大切。その一貫性を定期的に表明していけば、個性に見合った評判が得られる。
ただ、このやり方は時間がかかる場合があり、耐えきれず撤退してしまう企業も多い。
(いちる氏)
「どの程度バズったか」がKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)として設定されているがゆえの状況だ。これに対して谷口氏は「それで良いのか」と問いかる。
「バズり具合をKPIにするやり方は、間もなく終わる」と言い切った谷口氏は、その理由を、漫画家のかっぴーさんの作品で「バズった記事ランキング」と「好感度ランキング」に明確な違いがあった例を引き合いに出し、次のように解説した。
バズりやすいのは、「あるある系」や「共感系」の話。
好感度が高いのは、どこかに「泣き」がある話。しかし「泣き」のある話は、バズりにくい。「これ、泣けるから見てよ!」なんてシェアするのは、おっさんには痛々しくてできないからだ。
だがこれは「何をKPIとするべきか」という問題を見つめるのに良い比較だ。
とにかくツイートを集めたいのならば「あるある」「共感」「笑い」などを扱うのが良いだろう。しかし、「心に響かせたい」「態度変容をさせたい」のなら、それだけでなく、笑いと泣きのギャップをもたせるほうが絶対に良い。
(谷口氏)
あなたのつくるコンテンツは、「薄い1万人の目の前を通り過ぎる」のだろうか、それとも、「濃い1000人の心に響く=愛される」のだろうか。
運営者は「ストーリーの時代」。危機管理にも応用を
いちる氏は「これからはストーリーの時代が深まる」という。
ストーリーに込められたミステリーやサスペンスが、次の1行を読ませたり次の1秒を見せたりすることへとつながっていく。人は謎を知りたがるからだ。
(いちる氏)
そしていちる氏は、これは危機管理にもつながるのだという。
企業がオウンドメディアやソーシャルメディアを運営するときに恐れるものの1つとして「炎上」がある。場合によっては大きなダメージにつながりかねない「炎上」を回避するために重要な要素が、「謎を消す」ことなのだという。
炎上を避けたければ、1秒でも早く全情報を公開するべき。さもなくば、お客さんの脳裏に「本当は何か隠しているのでは」というミステリーが生まれ、ストーリーができてしまう。
炎上を避けるには、情報を公開すること。脳裏に浮かぶミステリーの要素を消して、ストーリーにならなくしてしまうのが大前提だ。森友学園や東芝は、その正反対の悪例だ。
(いちる氏)
そして「ストーリー性」は、今後のコンテンツフォーマットを考える際にも重視されるという。
これからは、スマートフォンで見ることができるドラマ性の高い動画ドラマが流行るのではないかと思う。尺(長さ)は問わない。
5年~10年内にはバーチャル・リアリティやホロレンズなどでも視聴できる時代が来る。そのために動画スキルを磨いておかないと。
(いちる氏)
この話題に関して司会から「ストーリー性の重視や動画が増えていくなかで、制作費やスキルの問題はどうなるのだろう」と質問したところ、谷口氏は次のように語った。
スマホ向けのコンテンツは、テレビクオリティで作ると採算があわない。スマホクオリティの動画制作と予算感を見極めていきたい。
かつてテレビの草創期に、映画産業の株価が上がった。「コンテンツ作りの需要が高まる」と考えられたからだ。実際にコンテンツ作りの需要は高まりコンテンツ作りが進められたのだが、それらの試みはすべて失敗した。
失敗した理由は、1時間のテレビ番組に3億円といった映画並みの巨費を投じたことだ。しかし、その1割の価格でやると提案した若い会社が出てきて、テレビ業界はどんどん伸びていった。
それと同様のことが、ネットでも今後起こるだろう。
(谷口氏)
ストーリー性のあるコンテンツ作りのポイントとして谷口氏は、「ひねり」も重要だという。
松本人志さんによると、今のお笑いで大事なのは「2度ボケ」だという。観客が「こうボケるだろう」と予測しているので、そこからさらにボケていかねばならないということだ。これは、ストーリー作りでも同じ。
(谷口氏)
これに対し、いちる氏は、集英社のウェブコミック配信サイト「少年ジャンプ+」で連載中の「ファイアパンチ」(藤本タツキ氏)の言葉を挙げる。
人気の漫画なのだが、作者の藤本タツキ氏は次のように言っている。
ストーリーが展開していくなかで、ジャンルを4回変える。
そのぐらい転換しないと注目されないほど、今の我々は一般的なストーリーに慣れ切っているのだ。
弱いディレクターよ、信じよう、そしてユーモアを脳裏に
ひしひしとコンテンツ運用の難しさを語る3人だが、「ディレクターが確固たるコンセプトを持っていないといけないのだろう」との司会からの指摘に対して、いちる氏は次のように語る。
確固たるコンセプトがあるのは強いディレクター。しっかりしたビジョンを持ち、コンセプトをライターなどと共有し、他人による仕事を監督できるのが理想だ。
そうではない弱いディレクターは、「この企業にはDNAがある」と信じるしかない。「自分が意識しなくても、ある程度コンセプトは保たれ、そのDNAが溢れ出るから、そこから外れたことはできないはずだ」と信用していかない限りは、頓挫してしまう。
(いちる氏)
一方、「俺スゲーぜ」の正反対を行き注目された事例をあげたのは、谷口氏。田端信太郎氏によるライブドア事件の記事がそうだという。
ライブドアニュース上でライブドア事件を特集させたのが田端さんだった。考えてみればおかしな話だが、自己批判がいちばんおいしい。
これは強い人でないと無理。「うちの会社スゲー」では誰も読まない。
(谷口氏)
成田氏が冒頭に掲げた「愛されない」に通じる指摘だろう。
そしていちる氏は「常にユーモアの感覚を頭の片隅に置いておこう」と、聴衆に語り掛けた。
「笑わせる」というのではなく、「心の余裕」という意味だ。
人は、余裕ある人が好きなもの。愛されるというのは、ふわっとユーモアの雰囲気を漂わせている人。それが笑いでもよいし、センスがあって美しい写真が撮れるなどでもよい。
そういった心の余裕のを持ってサイトを運営していけば、結果が得られるのではないか。
(いちる氏)
また「バズる、面白いコンテンツを作る人たちは一部のクリエイターに集中しており、属人的な側面が強い」とするのは成田氏。こういったバズコンテンツのノウハウは企業として蓄積していけるのかと尋ねられた谷口氏は、次のように答える。
ネットでの距離感は、居酒屋の席でメディアとユーザーが隣に並んでいるぐらい近い。そこでうざいと思われず、どう展開してくれるかが鍵だ。それには、「いかに気配を消していくか」が大事だろう。
(谷口氏)
このような心構えや把握は、運営者の指針となるだろう。
ヒントはインターネット以前の古典にも、そしてSFにもある
第1部の成田氏のプレゼンテーションでは、次のようなスライドが示されていた。
しかし、このような言葉はインターネット以前から言われていることだ。良いコンテンツを作りユーザーを惹きつけていくには、激変する時代にも変わらない「何か」に留意していくことが重要なのだろう。
谷口氏も、ハリウッドや日本でのストーリー展開で参考にできるものが「禅の十牛図」にあると指摘する。
先日、京都で「地元らしい話を」と依頼を受けたので、こんな話をした。
禅の悟りに至る道筋を絵で描いた十牛図が、ハリウッドよりも進んでいる。
牛を失った牧童が牛を取り戻して家に帰る前半まではハリウッドの王道ストーリーとよく似ている。
しかし十牛図にはその先がある。まず牛が消え、次に主人公が消えていく。
自分が変わっていく・消えていくという展開は、今後のコンテンツ作りのヒントになる。
(谷口氏)
一方いちる氏は、参考にするといい文献として、海外SFノヴェルズの『アッチェレランド』(チャールズ・ストロス著)を激賞した。フリーミアムで暮らす主人公が、ザリガニの神経構造を移植され、膨大な情報に接している人工知能から「自分の人格を守ってくれ」との依頼を受けるという展開。
将来、人間がネットと融合するかもしれない。その際、本人の人格や考え、権利はどこに属するのか。データに人権が生じ、それを守っていかねばならないとの考えがある。
「ただのプログラムに過ぎない自分が、どう扱われていくのか」と不安がる人工知能と重なり、シンギュラリティなど予見的な小説となっている。
全業界人の必読書だろう。
(いちる氏)
ヒントは古典にもSFにもあるということだ。
考えてみれば、「愛用」「ご愛顧」などの言葉は、インターネットの出現以前からある。ロングセラーとなっている商品やサービスは「愛用」され「ご愛顧」があるからこそ、生きながらえてきたわけだ。「愛される」というのは、それほどビジネスにとって大事なのだ。
強制されて人を愛することは不可能なように、商品やサービスを愛してくれと強制することはできない。できるのは「愛してもらう」ことだけ。それが、ロングセラー化や企業の持続性の第一歩につながる。
今回のセッションでは、それを学んだ。「親近感から愛用へとつなげていく工夫」を考えさせられる、正に濃厚な2時間となった。
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