JALとJR九州の取り組みから考える顧客データの活用とレコメンドの未来とは
データドリブンマーケティングやデータ活用を行うには、どのような形でデータを活用すべきかという本質を見抜く課題解決のアプローチが重要だ。JALとJR九州の事例を聞くことで、データ活用の本質を知ることができる。
Rtoasterのユーザー会レポートの2本目となる今回は、日本航空の渋谷氏と九州旅客鉄道の相良氏が「旅客系事業におけるデータ活用」について語った。モデレータを務めたのはブレインパッドの近藤氏。
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JALとJR九州のビジネスモデルとデータ活用の違い
最初にブレインパッドの近藤氏が、JALとJR九州のビジネスモデルについて説明した。両社のビジネスモデルの類似点は、移動に伴ってビジネスが発生し、旅客事業を中心に複数事業を展開している点だ。その一方で、JR九州の相良氏が「飛行機のチケットではお客さまの名前を登録するのに対し、鉄道では大人と子供、指定席と自由席しかお客さまの区別がないため、顧客理解が難しい」と話すように、取得できるデータの特徴やデータ活用のアプローチは異なっているという。
近藤氏は、JALは「深く知る(深掘)」、JR九州は「つなげる(統合)」がキーワードとなると説明する。
深掘と統合という違いはあっても、いかにデータを活用してパーソナライズに取り組むかがポイントとなってくる点に違いはない。早速、両社の取り組みを見ていこう。
JALとJR九州のデータ活用の取り組み
JALでは、「商品オリエンテッド」の発想から「顧客オリエンテッド」の発想へと変換してきていると説明する。渋谷氏は、「パリ線が売れてないからパリ線をレコメンドしよう」ではなく「顧客それぞれで異なるニーズを満たす商品をレコメンドする」ことが重要だと話す。
そのための施策の1つがデフォルトバナーの高度化だ。これまでは売りたい商品のレコメンドバナーの近くに全員同じ内容のデフォルトバナーを出していたが、レコメンドバナーとデフォルトバナーの間に、クラスタ化による出し分けを行ったバナーを出す3階層にしたという。
1to1アプローチには、「アプローチの即時性」と「アプローチの細かさ」の2つの軸があり、4つの段階を経て究極の1to1になると説明を続ける渋谷氏は、「現状はStep 1の段階で、一部の顧客に対してニーズに合わせたレコメンドを出している状況。今後は、より多くの顧客に対してもっとリアルタイムにニーズをつかめるようにしていきたい」と話す。なお同社ではデータ分析は行っているが、個人を特定するような情報は使用していない。
一方、相良氏は、JR九州が2017年7月7日にこれまで事業ごとに発行していたポイントサービスを「JRキューポ」に統合したと説明し、電子マネーなどへのチャージ、駅ビルでの買い物、旅行券、提携ポイントへの交換に利用できるようにしていると話す。
このポイント統合は、顧客の利便性を向上させるだけでなく、JR九州のCRM基盤を実現するという目的がある。前述のように乗客の細かな情報を把握できない鉄道では、顧客を理解するために何らかの仕組みが必要なのだ。JRキューポで顧客を可視化し、データ統合による洞察でグループの課題を洗い出し、段階的構想でマーケティングアクションを計画できるようにすることが将来の目標だという。
また、鉄道のネット予約、JR九州のクレジットカード、交通ICカードの3つのサービスを使っている人と、2つまたは1つしかサービスを使っていない人を比較すると、3つのサービスを使っている人のほうがロイヤリティが高いという結果が出ており、このようなJR九州に近い顧客をJRキューポで増やすことが関係性の向上につながると相良氏は考えている。
JRキューポを軸とした統合マーケティング基盤では、顧客データや購買データをブレインパッドのプライベートDMP「Rtoaster」やマーケティングオートメーション「Probance」と連携させ、顧客ごとにシナリオメールの出し分けを始めたところだという。
データ活用の4つのステップと高度なクラスタリング
Rtoasterを10年間使っているという渋谷氏は、これまでを振り返り、前述の1to1アプローチのための4つの段階とは別に、データ活用にはIPアドレス(位置情報)、閲覧履歴、属性情報、予測分析の4つのステップがあると解説する。
最近は、より顧客理解を深めるために、クラスタリングを高度化するようにしているという。これまでは、1対1で顧客がどれか1つのクラスタに分類されるように「ハードクラスタリング」を行っていたのに対し、顧客ごとに各クラスタへの所属確率を算出する「ソフトクラスタリング」によって多面的に顧客を理解できるようにしている。また、社内データだけでなく、社外データも積極的に利用するようにし、飛行機に乗る目的も考えたレコメンドを行うようにしている。
近藤氏は、両社が実施していきたいことについて次のようにまとめ、相良氏と渋谷氏にコメントを求めている。
相良当然われわれとしては、お客さまとJR九州グループとの関係性を強化したいと考えている。また、マーケティング室をJR九州や会員だけでなく、グループ全体のお客さまの問題を解決できる組織としていかなければならない。
渋谷構想中のものや研究中のものがあるが、1つあげるとすれば、企業間でのマーケティングデータの連携も情報管理という観点で乗り越えるべきハードルはあるが、取り組んでみたい。規制などもあると思うし、まだ話し合ったりはしていないが、たとえば、JR九州と同じRtoasterを使っているなかで、お互いに有用なデータをひも付けて何かするといった可能性も広がってくるのではないかと考えている。
「Rtoasterを活用することで企業間に何らかのコラボレーションが生まれるということは、われわれが考えている今後の方向性の1つ」と話す近藤氏は、最後にRtoasterやブレインパッドへの期待を両氏に聞いた。
相良まだRtoasterを使い始めたばかりだが、ブレインパッドのサポートの機動力の高さに驚いている。データを活用したアプローチをこれからやっていかなければならないなかで、RtoasterやProbanceをフル活用できるようにしていきたい。
渋谷Rtoasterを使い続けて思うのは、国産メーカーとしてわれわれの要望を受け入れて対応してくれること。開発チームの皆さんがわれわれのニーズを聞いてくれて、真剣に考えてくれて、バージョンアップするときに改善を行ってくれる。ツールを使っている以上、それの制約を受けるのは仕方ないのだが、そもそもツールのためにマーケティングするのではなく、マーケティングを行うためにツールを使うので、柔軟に改善を行ってくれるブレインパッドは非常にありがたいと思う。
データ活用はまだ試行錯誤の段階だ。ディスカッションで語られていたように、たとえば旅客業界でデータを共有するなど企業の枠を超えたデータ連携が始まると、実現できることの幅も大きく広がるだろう。
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