顧客に向くため、組織のカルチャーとマインドセットを変えよう!【パナソニック 山口有希子氏】 ― 第33回WABフォーラムレポート(3)
「マーケターは“変革のドライバー”になってほしい」――顧客体験のためにパナソニックで組織変革に取り組んでいる山口有希子氏が「日本の企業が変革していくためには大切なこと」「3階層でのトランスフォーメーション」「デジタル時代にマーケティングが果たす役割」といったポイントを解説した。
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会(以下、Web広告研究会)は3月25日に、第33回WABフォーラムを開催。2019年のWAB宣言「Web/デジタルの枠を超えて、顧客の期待を超える体験を」に続くセッションの第2部では、パナソニックの山口有希子氏が登壇し、「Customer Experience at Center(顧客体験を中心に)」を実現するための組織作りについて語った。
■マーケティングが複雑化した時代に、日本企業は今後どうあるべきか
山口氏はまず、カスタマーエクスペリエンスを実現していくにあたって、そもそもそれを実現できる“組織”とは何かについて考察するべきではないかと問う。
「私はこれまで、シスコ、オーバーチュア、IBM、パナソニックなど、さまざまな会社でBtoBマーケティングの経験をしてきた。そのうえで感じているのは、以前に比べてマーケティングが複雑になり難しくなってきた ということ」と、まず現状を振り返った。
「昔だったら、イベント開催、テレビ、雑誌・新聞などの広告、プレスリリースを出して……とシンプルだった。そこにWebの要素が入ってきて、スマホアプリが出てきて、プログラマティックが出てきて、いろいろな手法が増えていった。その結果、“マーケティングが知らなければいけないこと”が本当に多岐にわたるようになっている 」(山口氏)
そうした時代的な変化をおさえつつ、現在チャレンジしているテーマが「日本の企業をトランスフォーメーションするため、そして事業をドライブするために、マーケティング組織はどうあるべきか 」というものだと説明する。
■理念を踏まえてマーケティングの意味を考える
「マーケティングを行ううえでもっとも重要なことはパーパス(目的)。そもそも企業はなんのために世の中に存在するのか 、なにを実現していくのか、その理念 を意識するところに立ち戻るべきではないか」と山口氏は問いかける。
たとえば、同氏が現在所属するパナソニックでは、創業者である松下幸之助氏の理念「企業は“社会の公器”である」を、従業員が強く意識しているという。
そのうえで、「実は一番大事なのは、組織が“自社の理念やスローガンに合わせた行動をとるため、カルチャーを創れているのか ”ということ。そこが出来ている会社と出来ていない会社では、成長率が4倍は違うと言われている」と、“理念 を踏まえた実践 の重要性”を山口氏は説いた。
■顧客体験のために組織変革に取り組む
では、“マーケティング”が組織のなかで果たす役割はなにか。山口氏は、
・Strategy(事業方針)
・IT(技術)
・Sales(販売)
・Mktg(マーケティング)
が連携する概念図を示しながら、「デジタル時代には、テクノロジーを使わないとマーケティングができない。今やマーケティングは、事業方針・IT技術・セールスのいずれとも緊密に連携していなければならない」と指摘。「MarTech(マーケティング+技術を表す造語)」と呼ばれるテクノロジー潮流なども踏まえ、デジタルテクノロジーを活用したマーケティングを実践するには、各部門が本質的に結び付くことが必要だとの見解を示した。
「“顧客体験”を考えると、組織がお客様にどう向きあうかということも大切になる。パナソニックは、ビジネストランスフォーメーションに挑戦している段階」として、同社の「3階層の取り組み」を紹介。同社では現在、以下のようなレイヤーで改革を進めているのだという(1階層目をふまえたうえで2階層目に取り組み、2階層目をふまえて3階層目に取り組むという関係)。
・3階層目【事業立地改革】選択と集中の実践(商品×地域×業界)
・2階層目【Bizモデル改革】ソリューションシフト/レイヤーアップ
・1階層目【風土改革】カルチャー&マインド
たとえばBizモデル改革について山口氏は次のように解説する。
「パナソニックは製造業が基本なので、“良い物を作って売る”というのがビジネスだった。多くの日本企業も同じように考えている。しかし、あらゆる製品のコモディティ化が激しい現在、その考え方だけでは厳しい。
ではどうすればいいのか。提供する価値を“モノ”から“ソリューション”へとレイヤーアップしていかなければならない」
そして組織をドライブする最大の要素そのものも時代とともに変わってきているという。
「戦略はもちろん大切だが、これだけ世の中の変化が激しくなっている中では、カルチャーが企業をドライブする最大の要因になる」
というのも、どのような顧客体験を実現できるかは、企業カルチャーがどうあるかによって大きく左右されるし、なにができるかにも大きく紐付いているからだ。“戦略”も引き続き重要であることに変わりはないが、顧客体験の重要性が高まるとともに“企業カルチャー”が重要度を増してきているというわけだ。
そうしたことを背景に、パナソニックでの企業変革3階層の取り組みでは、とくに1階層目の「風土改革」における「カルチャー&マインドの改革」に強く取り組んでいるとした。
■マーケターはこの変革の時代にどう動いていけばいいのか
一方で、日本企業には固有の課題が多数存在する。たとえば、
・危機感の薄さ(ガラパゴス化)
・構造改革の遅れ
・社内での人材難
といったものだ。
パナソニック自身もこうした点の改革に取り組んでいるとする山口氏は、その改革の背景にある重要なポイントとして「“お客様に近づき お客様に寄り添う”企業カルチャーを作ること」を挙げた。
「お客様の声を迅速に拾えるカルチャーを作り、松下幸之助が掲げていた“下意上達”を実現する。お客様にフォーカスしたカルチャーというのは当たり前のことだが、その実現は本当に難しい。いままさにチャレンジしている」(山口氏)。
ただでさえマーケティング機能が複雑化しているうえに、顧客体験を良くしていくためには組織をアップデートし改革していかなければいけない。こうした難しい状況にマーケターはどう挑戦していけばいいのか。「いまメンバーとともに組織を再構築している最中だが、やはり重要なのがデジタルの部分 」という山口氏は、「顧客体験を始点にすることを、ちゃんと全社レベルで考えられるか 」と考察する。
パナソニックが全社的なプロジェクトとして現在進行形で取り組んでいる動きには、次のようなものがあるという:
・変革を進められる人材をどう作っていくか
・社内のさまざまな立場や役割の人と人をどうつなぐか
・そういうことができる組織にどう変えていくか
「大変なチャレンジだ」と山口氏はその苦労を吐露しつつも、「顧客のためにはそれが不可欠 」だと断言し、部門横断のプロジェクトチームをつくり、お客様のニーズに合わせたコンテンツを提供できるようにしていると話す。
山口氏は次のようなメッセージでセミナーを締めくくった。
「リーダーは、あるべき姿(To be Model)を定義し、人・組織を動かし変更を進めなくてはならない。しかし、リーダーだけでそれは実現できない。組織の中にその変革をドライブする人(文化の媒介者)が必要。マーケターは“変革のドライバー”になってほしい」
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Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:
顧客に向くため、組織のカルチャーとマインドセットを変えよう!【パナソニック 山口有希子氏】3月25日(月)第33回WABフォーラムレポート(3)(2019/05/23)
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