日本企業のデジタルシフトの障壁は、無料ツールなのか?
なぜ、デジタルシフトが進まないのか――。
そのようなことに悩んでいる担当者も多いのではないだろうか。清水氏いわく、無料ツールがダメということはない。しかし、本気で企業がデジタルシフトを進めていくのであれば、デジタル担当者が一人で頑張るでは限界がある。では、一体どうすればよいか。
2019年8月29日(木)に行われるデジタルマーケターズサミットの基調講演では、「無料ツールからの卒業~あなたの企業にデジタルを語れる経営層はいますか?」というテーマで奥谷氏と清水氏が講演する。彼らの直前対談をお届けする。
無料ツールからの卒業~あなたの企業にデジタルを語れる経営層はいますか?~
――8/29に行われるデジタルマーケターズサミットの基調講演では、「無料ツールからの卒業~あなたの企業にデジタルを語れる経営層はいますか?」というテーマでお話いただく予定ですが、これは一体どういうことでしょう?
清水: 「無料ツールがダメだとか、有料ツールに入れ替えなさい」といった話をしていくわけではありません。セッションでは、「企業がデジタルシフトしていくためには、『無料ツールで担当者が一人で頑張る』というやり方では限界がある」ということを伝えしながら、「どうデジタルシフトを進めていくのか」を一緒に考えていきたいと思っています。というのも、2019年3月に米国・ラスベガスで行われた「Adobe Summit(アドビサミット)」に、私も奥谷さんも参加したんですね。
奥谷: アドビサミットでは、「デジタル体験を通じて、世界を変える(Changing the World through Digital Experience)」をテーマに、3日間にわたりセッションが行われていましたね。
――アドビサミットで印象的なセッションなどありましたか?
清水: キーノートに登場した、米国の家電小売最大手の「ベスト・バイ(Best Buy)」のCEOは、「今から7年前に経営危機を迎えたが、オムニチャネル化などのCX改革を進めたことで、V字回復を達成した」という経験談を披露していました。
ベストバイでは、ネット通販などのあおりを受ける形で2013年頃、売上高が激減しました。私も2013年頃は、US在住だったため、活気のない店舗や使いづらいWebサイト、会員サービスなどが徐々に改善されていくのを目の当たりにしていました。
現在では、店舗とECのオペレーションが一体化された店舗に生まれ変わり、ネットで注文した商品が店頭で受け取れたり、倉庫ではなく店舗から商品を発送したりできるように大きく変化しました。また、購入した家電品の修理やサポートサービスがとても充実して、デジタルシフトができた好例です。
奥谷: デジタルシフトがうまくいっている企業に共通することは、「経営の中心にデジタルがある」ということですよね。日本では、そもそもCMO(チーフマーケティングオフィサー)もいなければ、CDO(チーフデジタルオフィサー)もないことが多いです。それに、それらの代わりをする役割が企業内にあったとしても、両者の距離は「遠い」ことが現状です。
清水: そうですね。「ウチでは無理」「予算があって羨ましい」と他人事にすることは簡単ですが、ベストバイほどの大手企業ですら、人と予算を投じてデジタルシフトを推進しても、成果が出るまで6~7年ほどかかっています。その事実に日本企業も目を向けるべきです。日本企業で、これから始めるという場合は、すでに7年遅れですからね。かなり出遅れている……と本来であれば危機感を抱くはずです。
奥谷: だからこそ、今回のセッションタイトルの副題が「あなたの企業にデジタルを語れる経営層はいますか?」なんですよね。清水さんの言う通り、人や予算を投じてツールを導入しても、それだけじゃ機能しないんです。アドビサミットに参加して、感じたことは、登壇する企業に日本企業がないこと、参加している日本企業も少ないことです。これには危機感を覚えます。
本気でデジタルシフトを推進していくならば、通訳を付けてでも経営層が参加するべきだと思います。キーノートに世界を代表する大手企業のCEOが登壇して、事例を生で紹介してもらえるんですよ。すごい価値があることだと思います。
また、参加することで参加者の声に触れられることにメリットがあります。海外でも「経営陣への理解はどうすれば取れるのか?」といったことを悩んでいるんですよ。ビジネスマンの悩みは、万国共有なんです。
経営者の理解を得るには?
――悩みは万国共通なんですね。「経営者の理解を得る」には具体的にどうしたらいいのでしょうか?
奥谷: まず、ロードマップを作ることですね。ベストバイもそうですが、デジタルシフトで成果が出ている企業は、それを推進していく前に、ビジョンと戦略を考えるところから始めています。
ビジョンを掲げた後は、まず自分たちが持っているはデータはなにか、どんなテクノロジーパートナーと組んで、どんなプラットフォームを作って、コンテンツ作成して、お客さんにアプローチして…という全体設計をします。それが完成した後にようやく、デジタル部門やオムニチャネル部門といった組織が形成されるのです。
――そもそもそういう全体設計をできる人が少ないということは考えられませんか?
清水: 少ないとは思います。ただ、「できる人がいない」は禁句ですよね。それを言った瞬間、思考停止状態ですから。奥谷さんが言うように、やったことがなくても、見よう見まねで、「ロードマップを考える」ことはできると思います。まずそれを作ってみると良いですね。日本の企業は即効性を求めすぎる、だからできる人がいないという状況になるんですね。
奥谷: 無印良品時代に、MUJI passportを作った後に、チラシの出稿をやめたことがあります。ロードマップなり、全体戦略がないと決断できないことですよね。よく、「アプリを作りたい」「CRMを再構築したい」といった話をよく聞きますが、それらは、全体戦略における施策の一つでしかありません。それに、アプリでもCRMでも最終的に、データをどう連携していくか、分析のためにBIが必要だ……という話になってきます。だからこそ、ある程度最初からそういったことを想定して、設計しておく必要があるんです。
デジタルシフトは一日にしてならず
奥谷: アドビサミットでは、米国の大手食品スーパーの「アルバートソンズ」の事例も紹介されていました。同社は、業務提携や買収などを繰り返した結果、20くらいのスーパーブランドが混在した、いわゆる寄せ集め企業となっていました。
そこで、「アルバートソンズ」という統一されたブランドを構築し、顧客に一貫した体験を提供するために、課題解決をする横断チームを作りました。そのチームで、課題の洗い出しをしたところ20ほどの課題が挙がったそうです。その中から、着手する課題を下記3つに絞り、全体設計を持ちながら、改善活動を続けていったそうです。
- インストアのロイヤルティ向上
- ECショップのUI/UX向上
- リアルとデジタル一体のUX
推進するときは、「我々は簡単でないことをやっている。痛みがないことなんてない。たとえ失敗しても結果をみんなで称賛して、進めていく」というルールを設けて、チームメンバーをモチベートしながら遂行したそうです。
清水: 米国だから進んでもわけでも、人が優れているわけでもない。覚悟して地道な努力を続けているから、大きな成功を掴んでいるんですよね。
ツールの話に少し戻すと、結果的にたった一人の担当者が、無料ツールなどを使ってデータを取得して、分析するところから始めざるを得ないことはあると思います。ただ、企業が本気でデジタルシフトしていくのであれば、予算を取って、仲間を巻き込んで、横断的に進めていかなければなりません。ロードマップをもとに、正しい仕事に正しいツールが使えるようになるべきですね。
―――なぜ日本企業のデジタルシフトは遅れをとっていると感じるのでしょうか?
清水: 理由はいくつか考えられますが、ベンダーがツールを売ることに終始していることも原因の一つだと思います。導入しただけでプレスリリースを打つ企業が多いですが、考えものです。ツールを入れたって、成果が出なければ意味がありませんからね。
ただ、アドビなどの最先端ツールは、それを使う米国の企業のニーズによって、各種機能が備わっているのです。ですから、機能ができたグローバル企業の考え方が透けて見えると思うんです。
奥谷: それを逆手にとって、無料ツールでもいいので、同じような問題解決のアプローチをすることは大いに手法としてありだと思います。だからこそアドビサミットなどに参加することで参考になる。ベンダーが主催するイベントは、そのように使ってみるのもいいですね。
――ありがとうございました。8/29のデジタルマーケターズサミットでの登壇、よろしくお願いいたします!
デジタルマーケターズサミット 2019 Summer
奥谷さんと清水さんセッションを聞いてみたい方は、ぜひ8/29(木)10:00~11:00に行われるセッションにご参加ください。それ以外にも、キャリアをテーマにした講演など全26セッションあります。
本セミナーは、事前登録制の参加無料です。ただし、代理店やベンダー企業の方は参加不可です。
本セッションは事前に質問を受け付けています。
また、事前に質問を受け付けています。当日、セッション内で奥谷さんと清水さんが質問に答えてくれるかもしれません。
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https://twitter.com/webtanforum/status/1163209297192341504
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