[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

パーパスに沿ったコミュニケーションを目指す! ZOZO×花王、“elove”と“エマール”の取組みとは?

マーケターによるリレーコラム、今回は花王の辻本光貴氏。今回は、企業やブランドのパーパスを、商品やサービス、コミュニケーションにどのように具現化するか、事例を通して考察します。

こんにちは。花王株式会社の辻本です。

事業を進めていくにあたって、企業やブランドのパーパスをどのように具現化するかは、なかなか難しい問題です。そこで今回は、株式会社ZOZOのサステナビリティ推進ブロックの方々に取材をしました。同社が運営するZOZOTOWNのサイト内にある常設コンテンツ「 elove(えらぶ) by ZOZO 」と、私の担当商品「エマール」での取組みを紹介します。

サステナビリティ活動について、株式会社ZOZOのサステナビリティ推進ブロックの方々に取材した。左から、著者の辻本光貴氏、コミュニケーションデザイン部 サステナビリティ推進ブロック ブロック長 改正菜摘氏、同 小山梨織氏

「elove by ZOZO」とは?

「elove by ZOZO」はZOZOTOWNのサイト内にある常設コンテンツです。ここでは、「ファッションのお買い物をアップデートすること」を目指し、ZOZOTOWN出店ブランドや関連団体、サステナビリティに意識が高い著名な方々へのインタビューなどを通じて、環境問題や社会問題を絡めながら、日常生活やお買い物に役立つサステナビリティ情報を紹介しています。

ちなみに「elove by ZOZO」の中心メンバーは3名。編集会議には他部署のメンバーも参加するそうですが、基本は3名で運用していると伺って驚きました。メンバーが限られていることもあり、ライティングは外部のライターが担っていますが、記事のブラッシュアップや商品選定、SNS運営などは社員が担い、“今”届けたい情報を月に5本程度発信しています。

また、記事に取り上げる企業の選定は編集会議で検討しますが、サステナビリティの観点で気になるブランドを会議メンバーから募集したり、ZOZOTOWN出店ブランドに実施するアンケートを通じて取組みを調査したりして決めているそうです。

サステナビリティステートメント実現における「elove by ZOZO」のミッション

さて、「elove by ZOZO」のミッションは何でしょうか?

ZOZOの企業理念は「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」です。そして、サステナビリティステートメントとして「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」を掲げています。

2022年には社内外のステークホルダーとともにマテリアリティを策定し、2024年にマテリアリティと4つの重点的な取組みの見直しを行いました。そして、サステナビリティステートメント「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」の実現に向けて策定したマテリアリティ19項目の解決を目指し、4つの重点的な取組みとそれぞれに対応するKPIを定め、具体的なアクションを推進しています。

「elove by ZOZO」が関わる重点的な取組みは、「取引先と共につくる、サステナブルでナナメウエなサービスの提供」で、KPIは次の3つです。

  1. 販売商品にサステナビリティ情報を表示
  2. 販売商品のトレーサビリティの実現
  3. 生産支援プラットフォームを活用した受注生産販売の拡大

このKPIを達成するために、「elove by ZOZO」は「ファッションのサステナビリティに関する情報やブランドの取組みを紹介することで、お客様の興味関心を高め、ZOZOTOWNでのサステナブルなファッションの取り扱い数を増やす」ことを実行しているそうです。

ちなみに、重点的な取組み「取引先と共につくる、サステナブルでナナメウエなサービスの提供」に関連する「ZOZOUSED」や「Made by ZOZO」の紹介も記事内で行うことで、各種サービスを活用してもらうきっかけづくりをしています。

つまり「elove by ZOZO」は、ZOZOが掲げるパーパスやサステナビリティステートメントを実現するために、ファッションという大きな括りのなかで、自然に生活者のサステナビリティ意識を高めながら、各種サービスを利用してもらえるような窓口になっていると考えられます。

パーパスの実現をしながら、売上に貢献する

さて、ここで気になるのが「elove by ZOZO」そのものに関するKPIです。伺ったところ、主にPV数やサイト流入状況、商品購入状況、ブランドの取組みを〇本制作するなど、複数の指標を置いているそうです。

皆さんのなかには、オウンドメディアやSNSの運用の際に、「良い活動をしているけれど売上にどのくらい貢献しているの?」と社内の人から聞かれたことはありませんか? 私も、「ヘルシア緑茶のSNS運用」という過去の取組みで、同じようなことを聞かれたことがあります。

そこで私は、事業部の販売活動に貢献するために、タニタさんとの協業によって露出効果を高め、コラボ商品も展開しました。なお、この事例に関しては、過去記事“Twitter中の人は、企業同士をつなぐ交渉人 花王ヘルシア「中の人」が教える「やってはいけない3つのこと」”をご覧ください。

ZOZOさんも、「elove by ZOZO」で売上に直接結びつけることのできるサービスの紹介や、動線設計を構築することによって、間接的に貢献しているそうです。

パーパス実現の一環として「elove by ZOZO」と共同取組みを行ったエマール

ここからは、私の担当商品エマールが、「elove by ZOZO」とどのような取組みをしたか、説明します。

エマールはおしゃれ着用洗剤で、洗うたびに衣類のシワやカタチが回復し、お気に入り服が長持ちする商品です。2025年4月に改良し、発売以降初めて、「1枚のTシャツをヘビロテで着る」という視点から魅力を伝える訴求(ヘビロテTシャツ訴求)に取組みました。

また、花王のパーパス「豊かな共生社会の実現」に立脚して、エマールはお気に入りの服を長持ちさせる商品開発をすると共に、1着を長く大切に着るという点において、サステナブルファッションを心がけたコミュニケーションを行っています。

そこで最近では、「#エマールでたいせつをずっと」という中長期コミュニケーションテーマを定めて、積極的に異業種との共同取組みを進めています。「elove by ZOZO」との繋がりは2024年からで、これまで複数の共同施策を実施してきました。

その1つが「elove by ZOZO」での共同記事コンテンツ制作です。2025年4月に公開された記事では、花王のオウンドメディア「 MyKao」でのアンケート結果をもとに、長年愛用している服に関する悩みに焦点を当てながら、“ヘビロテTシャツ訴求”をしています。そして、さらに「ZOZOのマルチサイズ」と「生まれ変わったTシャツ訴求のエマール」の紹介をしました。

この記事は、単純に楽しそうだからという理由で企画したのではなく、両社のパーパスを紹介しあったときに、「こういうゴールを描くと良いよね」という理想を描いて取り組んでいます。その理想というのは、「互いのノウハウやリソースを組み合わせることで、服の一生を延ばして次に繋げる」という考えです。

服は、探索、購入、着用、洗濯、手放すという段階に分かれており、エマールとしては着用と洗濯段階では貢献できますが、ほかの領域では現状貢献できません。一方ZOZOさんは、着用と洗濯以外の領域の多くを網羅しています。両社が協力して情報発信をすることで、服の一生に関する情報提供が行えることになります。

つまり、それぞれの商品やサービスを組み合わせることで、サステナブルファッションの1つである「お気に入りの服を長く大切に着ることで、衣類の廃棄量を減らす」ことに貢献できます。こうした狙いがあって、共同取組みを実施しています。

この記事は、かなり読まれているようです(「MyKao」からも送客を実施しました)。こうした活動を続けていくことで、互いの商品やサービスについて知っていただく機会が増えていくと嬉しいです。また、今回の取材の際には、サステナビリティ推進ブロックのお二方から下記のようなコメントをいただけたことも、エマールの担当として嬉しかったです。

洗濯といえば花王さんのイメージがありました。服を洗うという行為はZOZOとも密接に関わり合いますし、それぞれの知見を活かし合える取組みができればと以前から思っていたので、ご一緒できて大変にありがたく思っています。
最近ではマシンウォッシャブルといった機能性が、服の購買動機になっているので、より丁寧に扱う、ものを大切にする気持ちを、共同取組みで醸成しながら、購買動機につながっていくようにしたいです(改正氏)

1回目の企画で取材に伺った際に教えていただいた洗濯方法を、私も実践しています。今まで服を着用した後の啓発はあまりできていなかったので、今後も花王さんと一緒に取組みを続けていけたらと思います(小山氏)

共同で取り組んだコンテンツ制作について、笑顔で語り合う辻本氏、小山氏、改正氏

京成、デイトナ・インターナショナル、ZOZOの3社でパーパスを共有し、イベントを共同開催

パーパスを実現するための取組みとして、特に紹介したいのは、サステナビリティイベント「Green Connect Day 〜みんなとつながるみどりの日〜」です。ZOZOさんが本社屋を構える千葉市稲毛区緑町で、5月4日みどりの日に実施したこのイベントは、セレクトショップ「FREAK'S STORE」を運営する株式会社デイトナ・インターナショナルと共同で行われました。

ZOZOさんと「FREAK'S STORE」は、2024年10月に、地域社会と次世代へさまざまなアクションを通してファッションのサステナビリティを楽しく伝えていくことを目的とした「コネクトプロジェクト」を立ち上げたそうです。

さらに、このイベントではZOZOさんと同じ千葉県の企業である京成電鉄の「持続可能な地域づくりに取組みたい」という想いが重なり、3社でのコラボレーションが実現しています。

京成電鉄の成田スカイアクセス線開業時に空港アクセスをイメージしてデザインされた座席シートを活用し、千葉大学縫製技術研究会の学生による服飾作品の展示。また、FREAK’S STOREによるアップサイクル商品の展示、京成電鉄による「3050形オリジナルシートクッション」の販売などが実施されています。

これも、各社の地域社会に貢献する共同目標を掲げて実行に移しており、パーパスをヒアリングして重なる部分を目指して具現化するという方針のもとに進められました。

また、さまざまな方にこの活動を知ってもらうために広報チームと連携し、メディアを通じた訴求を積極的に行ったことで、当日は行列ができるほど、多くの方でにぎわったそうです。複数のテレビでも放送され、イベントを通じてサステナブルについて考えるきっかけを広く届けることができたそうです。

企業のパーパスに沿ってKPIを定め、実務に落とし込むことはとても難しいです。特にサステナビリティは売上に直接紐づけにくい分、その難易度はさらに高まります。そうしたなかで、先進的な取組みができているZOZOさんに、社内でのサステナビリティへの意識について伺ったところ、「まだまだ社内でも意識を高めていく必要がある」という返答がありました。

先ほども触れたように、サステナビリティ意識にはさまざまな壁があります。世間一般でもありがちな「売上と繋がりにくい印象」や「CSRとの混同」など、まだ向上できる要素があります。ZOZOさんでは、アパレルブランド各社や生活者の意識の高まりなどの“外からの風”を感じてもらえるように、広報活動を社内に向けても進めていきたいというコメントでした。

先進的なZOZOさんでもそうならば、私たちも気を引き締めてサステナビリティの取組みに注力せねば、と思いました。ZOZOさんに今後の展望についてお聞きしたところ、改正氏から次のような回答がありました。

プラットフォームを生業としているからこそ、ブランド様や自社の強みを掛け合わせて、小さなことからでも一緒に協業して取り組んでいきたいです。
ZOZOTOWNをご利用いただいているお客様には、エマールのように “お気に入りの服を長く着る”というテーマをはじめ、アパレルブランドの生産背景、服の繊維がどう作られているのかといったストーリーを伝えることで、服1着への愛着を育み、長く大切に着続けてもらえるような“服との出合い”を提供できるようにしたいです(改正氏)

最後に、読者のなかにはサイト運営に悩む人がいるかもしれないと考え、「普段どのように企画立案をしているのか? 新入社員が入ってきたら「elove by ZOZO」を運営するにあたってどのようなアドバイスをするか?」を聞いてみました。

普段情報収集する際には、客観的な視点も得られるよう、ビジネスパーソン向けのYouTubeチャンネルを見ています。(新入社員へのアドバイスは)あえてサステナビリティにとらわれすぎないこと、いろんな視点でインプットすることが大事だと伝えています。
どこかで「elove by ZOZO」とつながる部分もありますし、視野を広くもって情報を収集することで、それが思わぬひらめきにつながるからです(小山氏)

サステナビリティとかエシカルに興味がある人のSNS等を日頃から見るようにしていますし、アースデーのようなイベントに足を運んで、現場の空気を感じながら情報収集をしています。(新入社員へのアドバイスは)なぜZOZOがこのテーマをやるのか、ZOZOとして伝えたいことは何か、をしっかり考えたうえで記事を作るということが大事だと伝えています(改正氏)

まとめ

企業が商品やサービスを提供する際は、企業・ブランドのパーパスに沿ったコミュニケーションが重要になります。さらに、パーパスブランディングは、利益をみこんだ成長も実現しなければなりません。

その際には、直接的な売上に結びつけることが難しいにしても、「事業のどの部分に貢献できるのか?」「どのような指標で貢献度を示すのか?」といった定義づけが必要です。さらに、共同取組みの企画立案では、関連企業のパーパスが重なり合う部分がどこかを明示して、win-winになるような設計をしていくと効果的です。

サイトやSNS運用担当者にとって、今回の記事が一助になると幸いです。ZOZOさんとの取組みは、社内のESG部門でも注目をされ、花王のサステナビリティレポートにも掲載されることになりました。ご興味のある方はぜひこちらもご覧ください。

用語集
CSR / KPI / PV / SNS / オウンドメディア / サステナブル / ステークホルダー / ブランディング
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