レコメンドで「バイトル」「はたらこねっと」のCVRを大幅に向上! Adobe Targetを使った改善施策

膨大な求人の中から、ユーザーが望む仕事を見つけるために。機械学習を利用したA/Bテストなど、年間117本の施策で顧客体験を向上
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ユーザー体験(ユーザエクスペリエンス)の向上によるCVRアップは、多くの企業が取り組もうとしている課題だろう。求人広告サイト「バイトル」「バイトルNEXT」「はたらこねっと」の運営を行うディップは、顧客体験の改善施策を積み重ね、CVRを大きく向上させてきた。

多数の施策を生み出すノウハウやチーム運営の在り方の秘訣をディップの山下氏に聞いてみた。

ディップ株式会社 商品開発本部 メディアプロデュース統括部 グロースハック部 山下ロルミス氏

190万件から最適な求人を選んでもらう、KGIは「応募数」

バイトル」「バイトルNEXT」「はたらこねっと」は、ユーザー(求職者)が、最適な求人を探して応募するためのサイトだ。サイトには、労働力を求める企業からの依頼を受けて、多くの求人情報が掲載されている。たとえば「バイトル」には、ハローワークからの情報も含めて約190万件もの求人情報が掲載されている。

こうした膨大な求人情報のなかから、ユーザーが望む仕事に出会いやすくするために、フロントエンドで何ができるのかを日々考え、施策の企画を立て、A/Bテストを行っているのが山下氏の所属する“グロースハック部”だ。

この部署のKGIは、ユーザーが望みの仕事に出会えた数、つまり「応募数」である。また、主なKPIとしては、UUベースのCVRやUUあたり応募件数を設定している。

レコメンドで応募数をアップ

では具体的に、求職者はどのようにして応募したい仕事に出会うのだろうか? 主な流入元はもちろん検索だ。Google検索で「新宿 カフェ バイト」でバイトルのサイトに入ってくると、条件に合った求人情報の一覧が表示される。そのなかから、給与や勤務時間、勤務地といった条件を見て、条件に合った求人の詳細情報の閲覧に進むことになる。

一覧表示で確認できる情報の例

とはいえ、1社だけの情報を見て応募まで至るケースは少ない。そのため、閲覧している仕事と近いものをレコメンデーションすることが重要となる。

レコメンデーションは、機械学習で行動の相関情報を得てカスタマイズしています。たとえば、「Aを見てBを見た人は、次はCを見ることが多い」などを分析して表示しています(山下氏)

高い精度でミスジャッジを防ぐAdobe Target&Adobe Analytics

サイトの改善施策を行うため、2016年に商品開発本部が導入したのが、テスト&オプティマイゼーションツール「Adobe Target」だ。

以前のツールでは、A/Bテストを行っている時に、ユーザーがサイトで一覧画面を見ると、1回目はAが表示され、しばらく時間がたって再訪問したときにはBが表示されるというように、顧客体験や効果測定面で問題が発生していました。Adobe Targetであれば、A/Bテストを行っていても、同じユーザーが一度Aに当たったら、その後もずっとAに当たり続けられるようになりました(山下氏)

また、ディップでは同時期に、分析ソリューション「Adobe Analytics」も導入している。それまでも別の分析ツールは使用していたが、誤差が大きいという問題があった。分析の精度をあげ、ミスジャッジを減らすためAdobe Analyticsの導入を決めた。

グロースハック部では、アクセス解析を行う際に「職種」「雇用形態」「エリア」などで分析することも多い。例えば、「エリア」で分析するにあたって、「新宿」で何回訪問したのか、「新宿」とかけあわせた条件(たとえば渋谷)など、さまざまな切り口で、より深い分析を行いたいという希望があったのだ。

Adobe Analyticsは、他の分析ツールに比べ、多様な切り口で、より高い精度で分析することが可能だ。さらに、分析データをAdobe Targetと連携してそのまま活用できるため、ユーザーごとのミクロな分析が実現できるようになったという。

実際に高い効果があった施策3つ

グロースハック部では、Adobe TargetとAdobe Analyticsを活用し、週に1本ペースで新たな施策を打つなどハイペースで改善に取り組み続けている。その中でも特に効果が高かった施策例を順番に見ていこう。

施策例 ① レコメンドの利用率アップでCVRが109%!(※)

ディップでは毎月ユーザーにインタビューを行ったり、アンケートをとったり、仕事を探すときのこだわりを聞いている。それによると、ユーザーは「場所(エリア)」と「通勤時間」を重要視する場合が多い。

そこでディップでは、両方に深く関わる「職場の駅」に注目。Adobe Analyticsのデータによると、1人のユーザーは、1つの求人を見たら、同じ駅の別の求人情報を閲覧している割合が37%もあることから、Adobe Targetを利用して同一駅のレコメンドを加えた。

ユーザーが閲覧している求人と同じ駅に限定し、閲覧相関の高い求人をレコメンドした

その結果、レコメンド利用率が174%、そこから求人詳細を見てもらえるようになったことで、求人詳細の閲覧数が108%、応募率(CVR)が109%となった。

  • レコメンド利用率:174%
  • 求人詳細の閲覧数:108%
  • 応募率:109%

※:「%」は、元々の仕様とテストパターンとのCVR比(以降すべて同義)

さらに、Adobe Targetは、機械学習によって各訪問者に最適化されたコンテンツを提供する「Auto Target」機能を備えている。ディップではこの機能を利用し、同一駅だけでなく、求職者のこだわりに合わせたレコメンドを自動で行うようにした。

例えば、通勤時間を重視しているユーザーには通勤時間に寄せたレコメンドを、給与を重視しているユーザーには給与に寄せたレコメンドを行うといった具合だ。その結果、応募率はさらに107%に向上したという。

施策例 ② 応募入力フォームからのフロー変更でCVRが103%!

A/Bテストによってサイトデザインを変更した事例は多いが、フロー変更の例は少ない。しかしディップでは、応募入力フォームの最適化を図るEFO(Entry Form Optimization)の一環として、フロー変更を実施した。

ユーザーが求人情報を見て応募入力フォームに遷移したあと、ログイン状態と非ログイン状態のときで、応募入力フォームから確認画面への遷移率を比較すると、ログイン状態の時のほうが遷移率が26%高かった。ログイン状態の時なら応募入力フォームにはすでに会員情報が入っており、入力の手間が省けるからだ。しかし、ログイン状態のときでもすべてのユーザーが確認画面まで行くわけではなく、応募入力フォームで離脱しているケースも存在した。

そこでディップでは、Adobe Targetを使って、ログイン時には応募入力画面をカットして、いきなり応募確認画面に行くようにフローを変更した。

ログイン時は応募入力画面を省略し、いきなり確認画面に遷移することで手間がかかる印象を少なくし、ユーザー体験の向上をはかった

これによって、入力フォームから確認画面への遷移率は114%改善し、入力フォームから完了までの遷移率(応募率)は103%へ向上した。

「とはいえ、入力フォームからいきなり確認画面になることで、ユーザーが応募を急かされているように感じ、嫌悪感を抱かないかも心配だった」(山下氏)。そこで、その後のサイト再訪問回数もあわせて確認したところ、再訪問回数は101%という結果であり、むしろ改善していることがわかった。

  • 入力から確認の遷移率:114%
  • 入力から完了(応募)の遷移率:103%
  • 再訪問回数:101%

施策例 ③ スコアリングによるUI変更でCVRが106%!

「バイトル」は、どちらかというと学生などの若者向けのイメージで知られているが、実は主婦(夫)層も重要な労働力であり、求職者も多いため、サイトには「主婦(夫)・パート」タブ(以下、主婦タブ)が設置されている。

学生と主婦では、希望職種も異なれば働き方も違うはずだ。そこでディップでは、主婦タブを利用しているユーザーを対象に、「職種の検索数」「応募UU数」「掲載求人数」を指標として、ユーザーのニーズを洗い出し、各指標の重みを加えてスコアリング。その結果を元に、主婦が職種を探しやすくなるよう、業種の表示順を変更した。

主婦タブ利用ユーザーの「職種の検索数」「応募UU数」「掲載求人数」を基に表示順を変更

結果、職種を利用した検索率は118%、求人詳細の閲覧率は106%、応募率は106%となった。この施策は最初に「バイトル」で実施されたが、その後、「はたらこねっと」など他のサイトにも横展開している。

  • 職種を利用した検索率:118%
  • 求人詳細の閲覧率:106%
  • 応募率:106%

運用の成功の秘訣は、開発部をまきこんだ体制づくり

「Adobe Target」と「Adobe Analytics」はともに、できることの多い高機能な製品だ。それだけに使いこなすには工夫が必要だ。まず重要となるのは、熱意を持ってこのソリューションを社内に浸透させようと努力するキーマンの存在である。ディップでは山下氏がその1人だった。

導入当初、Adobe Targetの構築は外注で行っていた。そこから山下氏は、充分にパフォーマンスを出すために、上長と協力して社内のシステム開発部を巻き込んで開発体制づくりを行っていった。システム開発部、そして経営層と会話をしながら、ツールを活用できる体制を社内に作り上げたのだ。

Adobe Targetそのものの構築は、システム開発部内に専用の開発チームを用意してもらい、スピード感を持って行ってもらっています。設計や実装指示書を作るのはグロースハック部ですが、実装は開発チームで行っています。そして実装後には、グロースハック部がリリースしてA/Bテストを行います(山下氏)

グロースハック部では、波はあるものの、平均すると週に1回程度は新たな施策を行っている。このスピード感こそ、他社ではなかなか真似ができない、ディップの強みの1つだ。この施策展開のハイペースさは、前述した分業体制に支えられているというわけだ。

とはいえ、安全・安定を重視する情報システム部と売上拡大を目的とするマーケティング側では、一般的に考え方にギャップが出ることが多い。しかし、ディップの実装チームはもともとフロントエンドエンジニアの集団ということから、なぜこうした施策を打ちたいのか、ユーザーの傾向や施策の目的までしっかり伝えることでそのギャップを埋めている。

例えば、「ここにアニメーションを入れたい」と言うと、開発側からは、「手間がかかるのになぜ?」と言われがちですよね。でも、「こういう目的があって、ユーザーはこう感じるだろうから、このアニメーションがあった方がわかりやすいんです」というように、「ユーザーにこういう体験をしてほしい」「こういう目的でこれを行いたい」と意図を詳細に伝えることで、逆に開発側から「それならこういう手段があるよ」と提案をしてもらうこともあるんです(山下氏)

全員で積極的に提案を行うチーム運営

ディップのグロースハック部には約20名が所属しているが、その全員がユーザー行動を分析し、改善提案を行っている。提案採用のポイントは、「目的や意図が明確ならやってみるといい」というスタンスと「否定しない」こと。ただし、施策を実施する優先順位はインパクトに応じて決めているという。

また、Adobe Targetを使うにあたって気を付けていることは、“目的を具現化する手段としてツールがある”ということを共通認識にし、スキル向上を図ることだ。社内でも勉強会を行うなどして、その前提がブレないように気を付けている。

ちょっとしたセグメントのミスで違う数値が出てしまうこともある。「セグメントが合っているかどうかには細心の注意をはらい、結果の数値が仮説と比べてどう出ているかもよく見るようにしています」(山下氏)という。

このように、他部署を巻き込みながら改善に取り組んできた結果、グロースハック部のKPIである応募率は、直近1年半で、「バイトル」「バイトルNEXT」「はたらこねっと」ともにトータルで130%に向上、「充分に導入コストを大幅に上回る成果を生んでいる」と山下氏は胸を張る(※)

※ 編集部注:ディップのIRを確認すると、ここ数年広告宣伝比率が低下し収益性の向上が見て取れた。UXの向上により利用者のCVRやロイヤリティが高まり、有料集客のウェイトが下がった事が推察される。

アドビから見た、ディップ社の成功の秘訣

アドビ システムズ株式会社 アドビ カスタマー ソリューション統括本部 シニア コンサルタント 橋本翔氏

アドビから見て、ディップが成果をあげている要因はどこにあるのだろうか。コンサルタントの橋本氏が考える成功の要因は下記の3点だ。

① マネジメント層を含めたデータドリブンの文化

ディップは、Adobe Targetの導入前からA/Bテストや分析を実施しており、データドリブンの文化が継続的な取り組みによって培われてきた。

② 匿名ユーザーが多い

ディップの求人サイトは会員登録なしで利用できるサービスのため、匿名ユーザーの訪問が多い。匿名ユーザーに対するレコメンドの出し分けは機械学習を利用したAdobe Targetの得意分野だ。

③ 企画チームと開発チームの連携で完全な内製化を実現している

企画と開発が社内でつながり、サイトへの実装を内製化することで、週1での施策というハイペースなスケジュールだけでなく、品質の担保も実現できた。

さらに、山下様のようなUXとデジタル双方の視点を持ち合わせたスペシャリストが社内にいらっしゃることで、勉強会の実施などにより、全体的なスキルの底上げをされていることも成功の大きな要因だと思います(橋本氏)

究極の理想のユーザー体験は、探すのではなく選ぶこと

今後、山下氏はグロースハック部として主に下記の3点に取り組んでいく。

  • サイト内だけでなく、広告など外部チャネルの改善につなげる
  • 基盤データとの連携
  • AI活用のナレッジを蓄積し、機械学習の精度を上げることで、より高いパーソナライズを実現する

山下氏が考える“究極の求人サイト”とは、「ユーザーがサイトを訪問しただけで、ユーザーが望む求人が選べる状態にある」というもの。

「“探す”ではなく、“選ぶ”体験にしていくというのは、当社の経営ボードが最も重視するUXですが、日々ユーザーの声を聴き、データを分析している我々もユーザーにとって非常に価値が高いと考えています。直接、顧客(求人企業)へ働きかける事ができる直販営業の強みを生かし、企画、開発部門で一体となって、これを実現していきたい」と山下氏は語る。

ディップはこれからも、Adobe TargetとAdobe Analyticsを活用し、さらなるユーザー体験の改善に取り組んでいく。

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