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モーメントを攻略する戦略フレーム「3C3P」とは?【電通デジタルコラム】

ラグビーワールドカップ2019のソーシャルリスニング事例で分かった、モーメントにおけるTwitter活用を考察。
モーメントを攻略する戦略フレーム「3C3P」とは?

※所属・役職は記事公開当時のものです。

ブランディングのための有効な戦略のひとつに、「モーメントに繋がる」ことが挙げられます。モーメントとは、デジタルマーケティングにおいて、人によって異なるニュアンスで使われることが多い言葉ですが、本稿での「モーメント」は「Twitterにおけるユーザーの声が集まり、盛り上がる事象」と定義します。

本稿で定義する「モーメント」は幅広く、例えば、下記のような事象が挙げられます。

  • お正月やGW、クリスマス等の「シーズナリティ(季節性)」を持つ事象

  • 通勤やお昼休みといった一日の生活における「習慣」

  • スポーツ大会やTV番組といった企業が協賛する「イベント」

  • ある一定の期間において盛り上がりが見られるような「トレンド」

その一方で、本稿で取り上げるTwitterは、上記のようなモーメントをリアルタイムに反映する「What's Happening」を知ることのできる場として機能しています。

企業やブランドがTwitterを活用する際には、こうした日々刻々と移りゆくモーメントをキチンと捉え、Twitter上に発信されるユーザーの声に傾聴し、世の中における文脈や論調を理解した上でコミュニケーションすることが重要です。

そこで、企業やブランドがモーメントを活用するための戦略フレームとして今回提唱するのが、「3C3P」(3 Contents & 3 Points)です。

本稿では、2019年9月20日から11月2日に国内開催され、日本代表が見事ベスト8入りを果たしたことで大きな話題を生んだ「ラグビーワールドカップ2019(以下、RWC2019)」という「スポーツモーメント」を対象に、Twitterの全量データを活用した分析(=ソーシャルリスニング)を通じて振り返ります。

ブランドからの発信は、膨大なユーザーの熱狂に埋もれてしまう

「生活者はブランドの77%が消えても気にしない」――グローバルメディアエージェンシーのHavas Mediaの調査結果です[1]。消費者は私たちが期待するほどには、ブランドに関心がありません。

消費者が持つブランドに対する関心

消費者が持つブランドに対する関心

消費者が直接ブランドに関心を持たない環境下であるからこそ、企業やブランドは、Twitter上において、すでに関心事としてある「モーメント」を巧みに捕まえて「繋がり」、そこにうまく企業のメッセージを込めていくことが重要なのだと考えられます。

ここで、「RWC2019」という「スポーツモーメント」を、ソーシャルリスニングによって振り返ることで、ブランドがモーメントに繋がるためにどうすればいいかを考えていきます。

まず、開催100日前から開催59日後までの期間における、「RWC2019」に関するTwitterの動きを見ると、約630万人ものユーザーからおよそ1,700万件ものツイートが発生する、巨大なモーメントをTwitter上で形成していたことがわかりました。

RWC2019 のツイート量推移

RWC2019 のツイート量推移

RWC2019 のツイート量推移

RWC2019 のツイート量推移

また、期間内のツイート量のスパイク(波形)が、日本代表の試合当日にキレイに連動して形成されていることからも、Twitterというプラットフォームが、世の中におけるモーメントを色濃く反映する「場」であることが言えると思います。

このとき、どのようなアカウントがRWC2019というモーメントの形成に寄与していたかを分析することによってモーメントに繋がるためのヒントを探っていきます。

以下のグラフは、RWC2019に関してTwitterで拡散していた投稿を抽出し、それらの投稿の発信元であるアカウントを種類別に分類し、各アカウント種が出現する割合の変化を開催前、開催中で示したものです。

グラフを見ると、開催前では6%に過ぎなかった「ユーザー」からのツイートが、開催中は29.8%にまで増大し、フォロワー数を多く持つ「ブランド・企業」、「インフルエンサー」のツイートを大きく上回っていることがわかります。

RWC2019 のアカウント種類別の影響力推移

RWC2019 のアカウント種類別の影響力推移

ブランドの情報発信は埋もれがち

ブランドの情報発信は埋もれがち

このことから、Twitterは「ユーザーからの情報発信が非常に強いプラットフォーム」であることがわかるかと思います。

つまり、Twitterにおいて「モーメントに繋がる」ためには、企業やブランドは必ずしも自分たちからモーメントを新しく形成しようとするのではなく、こうした、すでにあるユーザーから発信される膨大な声にうまく乗じたコミュニケーションを行うことも重要なのです。

このようなモーメントの性質がある中にも関わらず、開催期間中にユーザーからの情報発信に埋もれずに影響力を発揮していたアカウントがあります。それは、ラグビーワールドカップ公式アカウント(以下、RWC公式アカウント)です。

ラグビーワールドカップ公式アカウント(@rugbyworldcupjp)
https://twitter.com/rugbyworldcupjp

先のグラフを見ると、RWC公式アカウントは、開催前の10.4%から開催中には38.3%にシェアを増やし、ユーザーの膨大な情報発信(29.8%)に埋もれることなく開催期間中に影響力を発揮することに成功しています。

RWC公式アカウント(@rugbyworldcupjp)の開催期間中の影響力

RWC公式アカウント(@rugbyworldcupjp)の開催期間中の影響力

また、大会開催前後のツイート量を見ても、"RWC2019"に関連した全ツイート数は約1,700万ある中で、RWC公式アカウント関連(アカウント発の投稿、及びそれらの投稿に対するリツイート)のツイート数は約200万と全体の約12%もの割合を占めており、RWC公式アカウントから発信されたツイートに対して、多くのユーザーから反応を獲得できたことが数字にも表れています。

RWC公式アカウント(@rugbyworldcupjp)関連のツイート量推移

RWC公式アカウント(@rugbyworldcupjp)関連のツイート量推移

それに伴って、RWC公式アカウントのフォロワー数を見ても、大会終了時には開催前の10万から27.3万に増大。多くのフォロワーを獲得することにも成功しています。

RWC公式アカウント(@rugbyworldcupjp)のフォロワー数推移

RWC公式アカウント(@rugbyworldcupjp)のフォロワー数推移

このことから、RWC公式アカウントがRWC2019というスポーツモーメントの盛り上がりの立役者として役割を果たしていたことが言えるでしょう。

ここで、ユーザーからの膨大な熱狂に埋もれることなく、RWC公式アカウントが、キチンとモーメントに繋がることができた成功の要因を、アカウントから発信されたコンテンツを紐解くことで探っていきます。

「モーメントに繋がる」ための3 Contents

RWC公式アカウント(@rugbyworldcupjp)から発信された投稿の中から、エンゲージメント(投稿に対するリツイート数やいいね数、コメント数などを合計したユーザーからの反応数)を多く獲得できたコンテンツを見ることで、スポーツモーメントに繋がるための重要なコンテンツ軸「3 Contents(3C)」をフレームワーク化しました。

リアルタイム

1つめのコンテンツ軸は、「リアルタイム」。Twitterというプラットフォームのリアルタイム性を活かして「今」起きていることを、「今」伝えるコンテンツです。

試合終了のわずか「4分後」に、スコアを速報。

さらに、試合終了後の「9分後」に、試合模様ハイライト動画を投稿。

ビハインドザシーン

2つめのコンテンツ軸は、「ビハインドザシーン」。ブランドや企業がユーザーとの距離が近くなるTwitterというプラットフォームであるからこそ、ユーザーが見ることのできない競技中の「舞台裏」や、競技の「脇にある瞬間」を伝えるコンテンツです。

スタジアム内でのファン同士のジャージー交換するシーン。

試合開始前に、日本代表ロッカールームの様子。

台風19号の影響で、試合中止となったカナダ代表選手たちがそのまま釜石市に残ってボランティア活動したこと。

ニュージーランド代表・オールブラックス来日の際に、柏市の子どもによる「ハカ」で歓迎したこと。

ナーチャリング

3つめのコンテンツ軸は、「ナーチャリング」。Twitterという情報の拡散性が高いプラットフォームであることを活かして、競技にまつわる「豆知識」や、登場人物の「バックストーリー」を伝えるコンテンツです。

ニュージーランド代表・オールブラックスによる試合前の「ハカ」。

他国サポーターの応援の仕方から、他国文化に関する知識を発信。

「ジャッカル」の解説。

良質なコンテンツは瞬時に生み出せるものではありません。この「3C」という軸を切り口にして、企業やブランドが持つ武器を活かしたコンテンツを設計し、モーメントに繋がるように事前に準備をしておくことが有効であると考えられます。

モーメントに繋がるための「3C」

モーメントに繋がるための「3C」

「モーメントに繋がる」ための3 Points

ここまで、RWC公式アカウントが発信しているコンテンツから「3C」というフレームワークを説明しました。続いて、ユーザーの声をソーシャルリスニングし、コンテンツを最大化するための3つのポイントを「3 Points(3P)」としてフレームワーク化しました。

モーメントに繋がるための「3P」

モーメントに繋がるための「3P」

キーワード

モーメントに繋がるための1つめのポイントは、「キーワード」。

Twitterを活用したコミュニケーションを最大化する際、例えば、RWC2019における"ノーサイド"や"ワンチーム"、"ジャッカル"のような、ユーザー間で自走しやすく、トレンドになりやすいキーワードに着目することが有効だと考えられます。

RWC2019におけるゲームタイムのツイート推移を見てみると、通常、得点シーンや前・後半戦の開始や終了のタイミングでツイートが盛り上がる傾向が見られます。しかし、第3戦のサモア戦では、姫野和樹選手による"ジャッカル"のシーンが、得点シーンと同規模の盛り上がりを見せていました。

第3戦(対サモア)のゲームタイムにおけるツイート推移

第3戦(対サモア)のゲームタイムにおけるツイート推移

このシーンの盛り上がりを紐解いていくと、RWC公式アカウントとは別の立役者の存在が見えてきました。

それが、TBSから放送されたドラマ『ノーサイドゲーム』です。

あるモーメントが盛り上がるためには、そのモーメントが「ローンチ」される前の準備期間、「ティザー」が重要です。RWC2019というスポーツモーメントにおいても、仮に、開催100日前から開催前日までを「ティザー」とすると、その期間におけるTwitterの盛り上がりが、「ローンチ」に向かってキチンと右肩上がりに増えていることがわかります。

開催前100日間のRWC2019のツイート推移

開催前100日間のRWC2019のツイート推移

これら「ティザー」のRWC2019に関するツイートの内、約19%は『ノーサイドゲーム』に関連したツイートであることがわかりました。また、RWC2019に関するツイートの内『ノーサイドゲーム』に関連するツイートの日別推移を見ると、RWC2019への盛り上がりのスパイク(波形)が、ドラマの放送日にキチンと連動していることも見られます。

つまり、ドラマ『ノーサイドゲーム』は、まさにこのRWC2019の「ティザー」における大きな立役者であることがTwitterのデータから言えるでしょう。

開催前のツイートにおける「ノーサイドゲーム」の効果

開催前のツイートにおける「ノーサイドゲーム」の効果

また、前述の第3戦における姫野和樹選手の"ジャッカル"のシーンで、リアルタイムに観戦しながらツイートしていたユーザーからも、"ジャッカルはノーサイドゲームで見たからわかる!"といった内容のツイートも生まれていることがわかりました。

このことから、『ノーサイドゲーム』というドラマが、"ジャッカル"という競技知識を事前に提供する役割となって、得点シーン以外での盛り上がりを形成できたのではないかと考えられます。

このように、「ティザー」の段階で競技に関する予備知識を提供することで「ローンチ」を最大化させる、その中でも、トレンドになりやすいキーワードに着目してコミュニケーションを展開する、というフレームワークはスポーツイベントに限らず有効であると考えられます。

そのためには、ソーシャルリスニングなどを活用して、事前にユーザー間でコミュニケーションワードとなりうるキーワードを洗っておき、そのキーワードをフックにモーメントに繋がることが必要です。

タイミング

モーメントに繋がるための2つめのポイントは、「タイミング」です。

たとえ良質なコミュニケーションを実施したとしても、そのタイミングが悪ければ意味がありません。特にTwitterはリアルタイム性の高いプラットフォームという特性があるだけに、最適なタイミングでコミュニケーションを仕掛けることは非常に重要です。

スポーツモーメントにおいては、それぞれの競技ごとに、モーメントの盛り上がりのタイミングは異なります。

例えば、ラグビーなどの得点型競技の場合は、得点シーンやハーフタイム前後、さらには試合終了時のタイミング。また、フィギュアスケートなどの採点型競技の場合には、人気のあるスター選手の演技終了直後のタイミング、さらに、水泳や陸上競技などのタイム型競技の場合はメダル獲得のタイミングに盛り上がりやすいことがわかっています。

競技ごとで異なるモーメントの盛り上がり

競技ごとで異なるモーメントの盛り上がり

こうした、競技ごとで異なるモーメントの「型」を把握し、それぞれの盛り上がるタイミングをあらかじめ把握することが重要です。

なお、このようなモーメントの「型」は、スポーツだけでなく、例えば、下記のようなシーズナリティ(季節性)を持つモーメントにも適用できる考え方です。

モーメントの「型」

モーメントの「型」

感情

モーメントに繋がるための3つめのポイントは、「感情」です。

ヒトの行動の裏側には、必ず何かしらの感情があります。すなわち、Twitter上に発生するモーメントの裏側にも感情の波があるはずで、そうしたモーメントにうごめくヒトの感情の波を把握したコミュニケーションを仕掛けることが、モーメントに繋がる上で重要なポイントであると考えられます。

特にRWC2019等のスポーツモーメントにおいては、試合を重ねるごとにユーザーに感情の変化が起きることが分かっています。

以下のグラフは、電通グループが開発したオリジナルのテキストマイニングツール「mindlook」による、RWC2019の日本代表戦の各ゲームタイムにおけるツイートから感情を分析したものです。

ゲームタイムにおける感情の変化

ゲームタイムにおける感情の変化

この「mindlook」は、高度な自然言語処理に基づいて、Twitterに限らず多様なテキストデータを対象に、81種類の「感情」や、約800種類の「トピック」、「ファネル」といった情報を分析することができる、電通グループオリジナルのテキストマイニングツールです。この感情の分布は、mindookで抽出された81種類の感情の中から、特徴的な感情に絞り込んだもとでの構成比を示しています。

それを見ると、試合ごとを重ねるたびにさまざまな感情の変化が起きていることがわかります。

例えば、初戦(対ロシア戦)では、日本代表が初勝利を遂げたことに伴って「期待」という感情が膨れ上がり、その後の第2戦(対アイルランド)では、日本代表が連勝したことによって「吉報」という感情が増大しています。

ゲームタイムにおける「期待」という感情(初戦)

ゲームタイムにおける「期待」という感情(初戦)

ゲームタイムにおける「吉報」という感情の変化

ゲームタイムにおける「吉報」という感情の変化

とりわけ、「感謝」という感情に着目してデータを見ると、グループリーグを突破した第4戦以降から大きく増えていることがわかります。

最終戦(対南アフリカ)では、敗れてしまったものの、ゲームタイムにおけるユーザーの感情は「感謝」が大きい割合となっていることが見受けられ、このことから、代表選手への「感謝」を表すツイートが多かったことがわかります。

ゲームタイムにおける「感謝」という感情の変化

ゲームタイムにおける「感謝」という感情の変化

さらに、この感情の構成比に、各試合のツイート量をプロットしたものを重ねると、第4戦における選手への「感謝」という感情が大きくなると同時に、RWC2019というモーメント自体も盛り上がっていることがわかります。

モーメントの盛り上がりと感情の関係性

モーメントの盛り上がりと感情の関係性

Twitterにおけるユーザーのツイートに対して「mindlook」を活用することで、このようなユーザーの感情の変化というものを細かく捉えることができます。

こうした優れた自然言語処理技術によって、モーメントにおける感情のうねりを捉えることが可能になる、ということは、企業やブランドが実施した施策がユーザーにとってどのような感情を生むことができたか、といったコミュニケーションの効果反響を調査することにも有効であることが考えられます。

さらには、そういった感情の推移がある程度定型化されるものであれば、その傾向を事前に把握して、その感情の盛り上がりに対して適切なコミュニケーションをプランニングすることもできると考えられます。

例えば、選手への「感謝」という感情が高まることがスポーツモーメントに共通する成功パターンとして事前に予測できるのであれば、そうしたユーザーの「選手への感謝」という感情を最大化させるコミュニケーション戦略を設計するというアプローチが考えられます。

まとめ:最適なポイントをおさえ、最適なコンテンツを発信することで、モーメントに繋がることができる

RWC2019の事例から、企業やブランドがモーメントに繋がるための戦略フレームとして、「3C3P」(3 Contents & 3 Points)をご紹介しました。

モーメント攻略フレーム「3C3P」

モーメント攻略フレーム「3C3P」

SNSが消費者の生活に普及され誰もが情報発信をできるようになり、企業やブランド側からの一方的なコミュニケーションが消費者に伝わりづらい、かつ、消費者側からの情報発信が購買に影響を与えやすい環境下で、消費者の関心事として顕在化される「モーメント」と繋がり、コミュニケーションすることが企業やブランドにとって今後より一層重要になってくるかと思います。

本稿の「3C3P」が、Twitter等を単なる情報発信の「場」とするのではなく、ソーシャルリスニングを活用しながら、そこに発生する「モーメント」をキチンと捉え、その裏側にある消費者の文脈や感情に寄り添う適切なコミュニケーション設計へのヒントとなれば幸いです。

※本稿は、2020年2月12日に電通ホールで行われた「#T4D Twitter for Dentsu」で発表された「ソーシャルリスニングから見たモーメントにおけるTwitter活用」をベースに再構成したものです。

脚注

出典

1. ^ "Meaningful Brands powered by Havas". MEANINGFUL BRANDS. 2020年4月2日閲覧。

※「mindlook」について
2020年8月24日発表資料「電通デジタルと電通、テキスト解析プラットフォーム「mindlook®」の提供を開始

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