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Withコロナ社会の“新しい不満”を、CX戦略で解決する!「人間の不満」に迫れ【電通デジタルコラム】

“人々(ヒューマン)の不満”から新しい価値の種が見えてくると、電通デジタルの田川絵理氏が考察。
人々(ヒューマン)の不満に迫れば、新しい価値の種が見えてくる

※所属・役職は記事公開当時のものです。

新型コロナウイルスの影響で、多くの企業、ブランドにおいてDX(デジタルトランスフォーメーション)が急ピッチで進み、新しいCX(顧客体験)が数多く誕生しました。その契機の一つとなったのは、制限ある暮らしの中で生じた生活者の"不満"です。

多くのブランドが飽和する市場を前に、モノとしての価値の同質化が進み、"CX変革"による競合優位性確保の重要性が高まりを見せてもいる中、この不満への察知力を高めて新たな価値を創出することこそが、次なる企業支援につながるという着想から、電通デジタルでは2020年6月、「"人々(ヒューマン)の不満"に迫れば、新しい価値の種が見えてくる。」をスローガンに、Fu-man insight lab(フーマンインサイトラボ)の立ち上げに至りました[1]

人は、新たに何を欲しているの?と聞かれても、なかなか教えてはくれないものです。一方、不満や愚痴はどうでしょうか?(頼まれなくとも)愚痴や不満というのは、つい口をついて出てくるものです。われわれは、不満は欲求の一歩手前の"未満欲求"。いわば新しい欲求の前身だと考えます。Fu-man insight labは、この"不満"の探索、洞察を強化することで、新しい価値の創造につなげ、CXの変革を支援することを目指しています。

今回はFu-man insight labで行った「コロナが生んだ新不満を探索する定点Web調査」「顧客体験の事例研究活動から得た示唆・考察」を中心に、これからの生活者が求めること、企業に求められることは何なのかということを紹介します。

今、われわれが立っている地点

近代マーケティングの父であるフィリップ・コトラー教授は、4月半ばに「日経ビジネス」への緊急寄稿の中で、「今置かれている状況は、一過性の非常時ではない。コロナとの共生の仕方を探り、新たな価値観の元に成り立つ暮らしに適応していくための期間がWithコロナというフェーズで、次なるニューノーマルへの準備、移行期間なのである」と、述べています[2]

2020年4月、緊急事態宣言が発出され、感染が拡大し続ける事態に、われわれは混乱し、困惑しました。多くの人々は、これはあくまで一過性の非常時と考え、また元に戻れる日を待ちわびていたのではないでしょうか。

しかし今、われわれはコロナとの共生の仕方、新生活様式における順応方法を探りながら、新しい価値観の下に暮らしを営んでいます。まさにニューノーマル(新常態)な社会に向かう模索の期間である現在、私たちが立っている地点は「Withコロナ期」です。このフェーズは、ワクチンが商用化、普及化する時期まで続くと言われています。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

模索から新しい生活様式を受容し、定着する第3の段階。われわれが向かう先である「BEYONDコロナ期」[注1]というフェーズは、あらゆるサービス分野のデジタル化に慣れた生活者に対して、デジタルがベース与件となっていく中、企業として次なる競合優位性をどう示すか?という課題に挑むステージアップ期に突入していくと考えられます。

このステージアップ期に向けて企業がとるべき備えとは何か。そのヒントは、コロナ禍に生まれた新しいCXからも学ぶことができます。

新しい生活様式に人々の不満は満載

5月16日、39県で新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が解除されたその直後のタイミングで、Fu-man insight labでは、「"今"を生活者はどう受け止めているのか」という意識調査を実施しました。

その結果、生活者の98.8%、ほぼすべての人が新たな生活様式に不満を抱いていて、うち約4割が特に高い不満を持っていました。すでに39県で緊急事態宣言が解除されたタイミングでも、この新しい生活様式に人々の不満は、満載です。

一方で、約4割が不満への許容、受容の意識を持ち始めているということもうかがえました。不満を募らせながらも、もうコロナ以前には戻れないのだという事実を受け入れ、新しい社会に順応し始めていることも確かです。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

不満に対する許容の度合いをカテゴリーごとにも見てみました。特に不満の許容が進んでいるのは、フィットネス・運動・食事・食生活・趣味など。仕事やレジャーやエンタメはまだまだ制限が多く、不満意識の高いことがうかがえます。この許容・受容の進捗は、カテゴリーによって異なるものの、人々は時間をかけてその不満を消化し、許容側にシフトしていくということが予想されます。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

コロナが生んだCXの3類型

そのような許容意識へのシフトを後押しするブースターにもなったのが、コロナが生み落としたさまざまな分野での新しいCXです。そこで私たちFu-man insight labでは、数多くのCX開発事例を収集し、どのような目的や課題を解消するために生まれたのか、戦略視点で分析・研究し、大きく3つのタイプに類型化しました。

タイプ1は、オフラインや店頭の既存サービスを、急ピッチでオンライン化したものです。

タイプ2は、非常時のピンチを救済する事業者間の支援ソリューションです。たとえば、余剰となった食材を抱える生産者を救済する、あるいは、買い物難民となってしまった消費者を救うといったものです。

われわれが着目したいのは、タイプ3、新たな生活様式への適応を後押しする新サービス。行動に制約の多い暮らしの中で、人々に生じた新しい不満を解消するために開発されたものです。

ここでは、タイプ3に分類した中から、コロナの影響を受けて非常にスピーディーな対応をした事例として、レシピサイト事業で有名なA社の生鮮食品ネットスーパーと、宿泊施設・民宿の予約サイトを運営するB社をご紹介します。

大型マンションに冷蔵庫型の宅配ボックスを無償配置

A社の既存事業である生鮮食品ネットスーパーは、生鮮食品専用のECプラットフォームです。アプリ上のお店から野菜・お肉・果物といった生鮮食品を選び、指定した場所で受け取るという非常にシンプルな仕組みです。

このコロナ禍でテレワークに移行した生活者には「毎日3食を作るための食材調達が大変だが、スーパーは混雑していて不安」という、新たな不満が生じました。A社はこの不満を捉えて、大型マンションに冷蔵庫型の宅配ボックスを無償配置しました。生活者の不満を的確に捉えスピーディーに対応したところに、スタディポイントがあります。

人々のつながりを体感できる有料コンテンツを提供

宿泊施設・民宿の予約サイトを運営するB社は、旅行を楽しめずにストレスをためている生活者の不満に対応し、家にいながらにして旅行気分を味わえる有料コンテンツの提供を始めました。

たとえば、世界各地の郷土料理を作る体験や、ヨガやダンスなど体を動かすような体験、オリンピック選手による指導や、日本の禅寺での瞑想などがあります。ゲストは体験料を支払うことで自宅にいながら旅行体験ができ、ホストは継続的な収入を得ることができます。

自社のコアバリューを、単なる旅行や民泊サービス業ではなく、「人々のつながり創出業」であると早急に再定義しました。事業の本質を問い返すことで、有事にも強くCXの拡張・創造ができるフレキシブルさを備えた事例です。

この2事例から学ぶべきポイントは3つあります。

①社会・生活者の"不"(不安/不満/不快/不便)への早急な察知
②自分たちがすべきことの再規定(ミッションの再認識)
③自社資産を柔軟に解釈しながら、この"不"を解消し得る価値を開発

こうした企業のアシストがあって、生活者はこの有事、新しい生活様式に対する不満や不安から解放され、徐々に許容や受容しつつあるのだと思います。

6タイプの"Fu-manさん"に見る新・不満意識

では、企業は生活者のどんな不満を察知して、次なる競争優位を作っていくべきなのでしょうか。Fu-man insight labの調査によると、具体的不満としてもっとも多かったのは、「人や友人と会えない」といった、人とのつながりの希薄化に関する不満でした。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

これら調査で浮かび上がってきた具体的な不満内容を踏まえて、これからの社会で予想される不満傾向を6タイプの"新Fu-manさん"としてカテゴライズしました。

①日々の"ミドル級ご褒美"枯渇Fu-manさん

タイプ1は「日々の"ミドル級ご褒美"枯渇Fu-manさん」です。仕事後の飲み会、ウィンドウショッピング、有名店のスイーツ、家族での外食機会が一気に奪われてしまって、スーパーやコンビニのスイーツといった手近なご褒美だけでは、どこか満たされません。「ちょっと一杯やっていきたいのだけれども、宅飲みだと今日の自分の頑張りには釣り合わない」と、不満を募らせているFu-manさんです。比較的全世代に生息しています。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

②アガる非日常希求Fu-manさん

タイプ2は「アガる非日常希求Fu-manさん」です。今後も旅行や観光などが制約される見通しの中、日常から大きく離れるという選択肢が持てないことにうっぷんがたまっています。「人生モノクロだ」と、空っぽのスーツケースを前に、リセットする何かで気分を上げたいと、非日常に対する羨望が肥大化しているような状況です。20代のOLやサラリーマンに多く生息していました。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

③ぼっち不安高まりFu-manさん

タイプ3は「ぼっち不安高まりFu-manさん」。友人と会ってたわいもないおしゃべりができない、新たな出会いも減ってしまったなど、暮らしの楽しみが半減してしまい、孤独化していく日々に不満を募らせるFu-manさんです。若年女性や新米ママ、また子どもが巣立った女性に多く生息しています。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

④リフレッシュメント迷子Fu-manさん

タイプ4は「リフレッシュメント迷子Fu-manさん」です。カフェでの休憩や散歩など、気分転換となっていたルーティンが奪われてしまいました。しかし、代わりになるような新しい気分転換がまだうまく見つけられていなくて、心身ともに疲れがたまっている状態です。女性に多くて、こちらもほぼ全世代に生息しています。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

⑤わが家の新・ルール順応疲れFu-manさん

タイプ5は「わが家の新・ルール順応疲れFu-manさん」です。コロナによって家族全員のライフスタイルが急変してしまい、食事や掃除、洗濯、教育など、これまで築いてきたわが家のルールが崩壊。わが家の新しいルールを確立していくことに不満を抱え、心身の疲れを募らせています。30代、40代の専業主婦に多く生息しています。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

⑥自由なMYインターバル不足Fu-manさん

タイプ6は「自由なMYインターバル不足Fu-manさん」です。家族と共に過ごす時間が増えたため、自由に羽を伸ばせる時間が消滅してしまって、ひとりの時間が恋しいとイライラも爆発寸前という状態です。30代、40代のママに多く生息しています。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

紹介した6つのタイプの中でもっともボリュームを占めているのが、タイプ1「日々の"ミドル級ご褒美"が枯渇しているFu-manさん」でした。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

ご覧いただいたFu-manさんたちの不満、これは強く希求する欲求の裏返しだと見ることができます。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

こうした未充足な欲求には、次のマーケティングチャンスが存在しています。不満に対して、代替価値を提案し、いかに鮮やかに、スピーディーに解決できるかというところに、企業としての勝ち道があるのではないかと考えます。

これからの企業に求められること

これからチャレンジするステージアップ期に企業が優位性を示していくには、何をするべきでしょうか。

新型コロナウイルスが今後の社会に及ぼす影響について、GoogleのCEOであるスンダー・ピチャイ氏もまた、「緊急事態が終わっても、世界は以前と同じような姿ではないだろう。デジタル化が急速に進む契機になる」との考えを示しました[3]

これからの企業に求められるのは、コロナ以前の社会への復旧作業ではなく、新価値観へのポジティブな上書きのサポートです。

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンド/キーワード

そのために重要なことは、Withコロナ社会で新たに生まれてきた不満への理解向上と、不満に対して三方良しの精神で解決のあり方を探ることであると、われわれは捉えています。具体的には以下の3つにまとめられます。

①社会そして生活者の"不"(不安/不満/不快/不便)を早急に察知
②自分たちがすべきことの再規定・再認識
③自社の資産を柔軟に解釈しながら、"不"を解消し得る価値を開発

"人々(ヒューマン)の不満"に迫れば、新しい価値の種が見えてきます。Fu-man insight labでは、ご紹介しました6タイプのFu-manさんの他、食生活周りの不満にもフィーチャーし、調査いたしました。今後は、さらにカテゴリーを拡げ、美容やレジャーに関する不満も探索・ストックし、生活者インサイトタンクとしての機能をより強化していく予定です。今後も日々変化をする社会において「不満を起点に生活者が何を感じ、求めているか」を敏感に捉えた情報を発信し、企業の皆さまの新しいCX変革の支援・サポートしてまいります。

(本記事は、2020年6月18日、19日に開催されたオンラインセミナー「CXトランスフォーメーションセミナー ~近未来思考で挑む顧客体験起点のDX~」で発表された内容を再構成したものです。)

脚注

注釈
1. ^ 電通デジタルでは、この変化をより中期的なもの・不可逆的なもの、かつ、乗り越えて糧にすべきチャンスとも捉え「BEYONDコロナ」と名づけている。

出典
2. ^ "コトラー教授緊急寄稿「新型コロナ、ニューノーマルつくる契機に」". 日経ビジネス.(2020年4月16日) 2020年7月2日閲覧。
3. ^ "コロナ契機「デジタル化、急速に進む」 米グーグルCEOが見解". 朝日新聞デジタル.(2020年4月30日)2020年7月5日閲覧。

「電通デジタル トピックス」掲載のオリジナル版はこちら人々(ヒューマン)の不満に迫れば、新しい価値の種が見えてくる

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